ペルー:ナポ・ティグレ保護区における未接触民族を守る戦い

ペルーとエクアドルの国境地帯にあるロレト県にいる未接触部族コミュニティの画像が、先住民オリエンテ地域組織(Organización Regional de los Pueblos Indígenas del Oriente:ORPIO)とサバイバル・インターナショナル(Survival International )によって初めて公開された。画像はペルーのアマゾンに住む未接触民族の共同住宅「マロカ(malocas)」を撮影したもので、ナポ・ティグレ(Napo Tigre)保護区で自主的に孤立している先住民のひとつが住んでいると、専門家は考えている。この画像は2019年11月下旬に行われた緊急自然モニタリング特別上空飛行で、ORPIOのフィールドワーカーが撮影したものだ。

https://twitter.com/survivalesp/status/1556681040063782918

 

ナポ・ティグレの未接触先住民は、石油や木材活動のために彼らの領土を開発しようとする企業によって脅かされている。サバイバル・インターナショナルによると、アングロ・フレンチの多国籍石油会社ペレンコ・ペトロリアム(Perenco Perú Petroleum Limited)は文化省に対しナポティグレ先住民保護区設立の資格を取り消すよう申し立てている。

同社はこの地域で掘削活動を続け利益を得ることと引き換えに、そこに住む未接触部族を極めて危険な状態に置くことができるようにしたいと考えている。ペレンコ・ペトロリアムは、この地域が油田区画39と67と重複しているとしても、保護区設定プロセスを停止するよう要求している。先住民保護区が設置されればこれらの地域には先住民以外の集落を作ることはできず、天然資源を利用する権利も与えられない。ペレンコ・ペトロリアムはロレト地方当局や大手石油・ガス企業とともに、先住民保護区の創設と保護に反対するパブリックキャンペーンにも参加するとともに、4月にも政府に対し「孤立した先住民の保護に関する国家法」(ペルーではPIACI法として知られている法律第28736号)の廃止を求め、これら接触していない民族の存在を常に否定し、8月初旬には現ロレト県知事のエリスバン・オチョア・ソサ(Elisbán Ochoa Sosa)も政府に「PIACIプロセス全体の中止」を求めるとともにこれらの集団の存在を証明するものはないという誤った噂も広めた。ロレトの発展のための調整委員会(Coordinadora por el Desarrollo de Loreto)もソーシャルネットワークを通じて、先住民保護区の創設について疑問を投げかけている。道路の建設、光ファイバーの設置、産業のための資源開発などによる経済発展を認めないのは「アマゾンに対する攻撃だ」というのが彼らの主張だ。同団体は、地域の設立を承認する多部門委員会が、省庁などの国家機関の代表で構成されていることを指摘し、「彼らはロレトの現実を知らない」と述べてもいる。ロレト開発調整委員会は、商工会議所をはじめとする地域の経済界、専門家団体、先住民団体、地方自治体などの機関を代表する市民組織として、今年4月に結成された。その主な目的は、このアマゾン地方の資源開発を通じて「地域の産業と経済の発展」のために戦うことだ。これら未接触民族の人権を侵害し危険を及ぼす存在に対しサバイバル・インターナショナルは「ORPIO、ペルー熱帯雨林開発のための民族間協会(Asociación Interétnica de Desarrollo de la Selva Peruana:AIDESEP)、サバイバル・インターナショナルという組織は、これらの攻撃に対して深い懸念を示している」と語っている。

https://twitter.com/amazonwatch/status/1566905274719506432

 

PIACIでは保護区認定に6つの行政手続きが必要としている。その実行にはおよそ1年半かかるとされているが、2005年にナポ、ティグレ、支流の先住民保護区の設立を申請して以来、14年以上認定のための予備調査は進んでいない。「この深刻な遅れは、PIACI保護法を尊重せず、遵守しなかったペルー政府と文化省の責任である」とORPIOは非難している。

彼らの生活や領土に対する圧力は、この10年間でますます高まっている。2008年、スペインの石油会社レプソルが、ノルウェー財務省の倫理評議会から、この地域の未接触先住民への影響の可能性について懸念を示され、合意から離脱しているものの、2013年にもペルー・ペトロが、ナポ、ティグレ、支流の先住民保護区の認定と分類のプロセスを開始するための好ましい技術的資格を与えた文化省の決定に対し、好ましい技術的資格は「信頼できる科学的に厳密な証拠によって支えられていない」として不服を申し立てている。2015年、より強力な証拠とともに、再び有利な技術的資格が認められるものの、要求された先住民保護区の予備偵察調査(PRS)の技術チームは、まだ招集されていない。

保護区化が遅れているのはナポ・ティグレのみではない。32の先住民族が暮らすロレト地方にはそれ以外にも、1999年以来、PIACIのための先住民族保護区の5つの提案(Kakataibo North and South Indigenous Reserve, Yavarí Trapiche, Sierra del Divisor Occidental, Atacuari, Yavirí Mirim)が保留されていた。このうち、2021年に誕生したのは最初の2つだけだ。

ナポ・ティグレ先住民保護区と支流のケースは、2003年にペルーの熱帯雨林開発のための民族間協会(Aidesep)が保護区の設立を初めて要請したことから始まった。2006年にはPIACI法が制定され、先住民の保護区を作るには、まず異文化省副省に申請することから始める必要がある。そして、この法律に従って、領土内に孤立した民族が存在することを証明するための技術的な調査が承認され、最終的にPIACIが住む地域の境界が決められる。PIACIを専門とする人類学者ベアトリス・ウエルタス・カスティージョ(Beatriz Huertas Castillo)は、先住民の保護区は無形であり、法律により「先住民の先祖代々の用途と習慣以外の活動を行うことは禁止されている」と説明する。また彼によるとペルーは2006年以来、民族の法的存在を認めているにもかかわらず、未接触の民族の存在が再び議論されていることに疑問を呈した。専門家は、自身が参加した最近の調査で、目撃情報、マロカ、ピアチ族と密接に接触した先住民の証言など、孤立した先住民の存在を示す確かな証拠が292件確認されたと述べている。

 

なおこの117鉱区においては石油会社と先住民族組織との対立が盛んだった。先住民族は協議を受けていないこと、ゲピ保護区、ナポ・ティグレ保護区、及び設立予定のナポ・クラライ保護区とも重複するとしてペルーの人権事務所にも記録されていた。人権事務所によると、対話すらなされておらず、係争中だった。なお本鉱区は国際石油開発帝石(現INPEX)も利権を取得している。

未接触部族のほとんどはアマゾンの熱帯雨林に住んでいる。彼らは地球上で最も弱い立場にある人々であり、人類、そして生物の多様性に不可欠な存在だ。彼らの縄張りは、地球上で最も生物多様性の高い場所を構成しており、その保護が森林破壊に対する最善の障壁であることは議論の余地はない。サバイバル・インターナショナルは、「彼らの土地が保護されない限り、彼らは破滅に直面する」と言う。彼らを守るためにも今回提示された画像や証言はナポ・ティグレ先住民保護区の設立に向けた前進となる。292点の証拠は先住民が孤立して存在していることを疑う余地のないものにするからだ。なおここに住む民族はアエワ(Aewa)、タウシロ(Taushiro)、タガエリ(Tagaeri)、タロメナネ(Taromenane)、サパロ(Zaparo)の文化系であることが立証された。

 

この保護区には、エクアドルとの国境に近い場所に鉱区67がある。ここには少なくとも2億バレルの石油が埋蔵されている。そこで採掘を続けようとするペレンコによると「最小限のフットプリントで」200基近くの油井を掘削している。地元の政治家から強い支持を得ているペレンコは自然保護に関する情報を提供するMongabayによると、環境への影響はアマゾンで活動する石油会社の中で最悪の部類に入る。ペレンコの創業者ユベール・ペロド(Hubert Perrodo)は自社のウェブサイトで自身を「征服者であり開拓者」と表現している。この一族はフランスの富豪の一つである。この会社の広報担当者は「ペレンコは、2008年からオペレーターとしてペルーに進出しており、ペルー政府が国家的重要性を宣言したプロジェクトであり、エネルギー自立の達成という同国の戦略的目標の一部を成すブロック67の開発に成功し、その一翼を担えたことを誇りに思っている」。また、「私たちは、この地域に住むアラベラ族のコミュニティと密接に連携し、彼らの生活向上のためにさまざまな支援(インフラプロジェクト、交通、健康、雇用など)を行っており、人権と環境への責任を極めて真剣に受け止め、すべての国際的な規制を遵守している」と語っている。

アマゾン流域では先住民の権利がますます注目されており米州人権裁判所でも8月23日に公開審理が始まる。この裁判はヤスニ公園地域におけるエクアドル政府による権利侵害の疑惑に焦点を当てたものだ。ヤスニにも自主的に孤立して暮らすタガエリ(Tagaeri)族とタロメナネ(Taromenane)族がおり(詳細はこちら)、石油プロジェクトによる領土の縮小と劣化、そして多くの命を奪った土地をめぐる紛争によって、大きな影響を受けている。エクアドル先住民族連合(Confederation of Indigenous Nationalities of Ecuador:CONAIE)のリーダーであるアリシア・カウイヤ(Alicia Cahuiya)は「政府は、私たちの領土と権利を石油会社に売り渡すことを続けることはできない。タガエリ族やタロメナン族と共有している私たちの森は、私たちのスーパーマーケット、病院、薬局、金物店、学校であり、墓地、家でもある。もし彼らが道路や井戸、チェーンソー、石油フレアなどで森を破壊し続ければ、私たちも殺されてしまうだろう。熱帯雨林は私たちの命であり、家であり、先祖代々の土地である。そして未来の世代の希望なのだ」と述べている。

 

5月にナポ・ティグレ保護区計画に対する政府の予備的承認を提供する法律の廃止を求める差止命令を申請しているが、同時に今後の保護区の承認手続きに組み込むよう求めている。本事案に関する最初の審問は9月7日に始まる。

 

参考資料:

1. La reserva de Napo Tigre un poco más cerca tras imágenes de indígenas no contactados en la Amazonía peruana
2. Poder Judicial evaluará demanda que busca frenar creación de reserva Napo-Tigre
3. ペルーの117鉱区開発に対する反対の声
4. Anglo-French oil firm threatens Amazon reserve for isolated Indigenous people
5. New images of uncontacted indigenous people in the Peruvian Amazon released
6. PRÓXIMOS PASOS PARA LAS COMUNIDADES DEL TIGRE Y EL NAPO – CEDIA
7. Indígenas en aislamiento: primer informe regional ofrece un panorama en siete países de Sudamérica

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