(Photo:Radio Pichincha)
エクアドルの新聞ディアリオ・エクスプレソ(Diario Expreso)のブランド売却をめぐり、ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領の側近とされる人物が買い手として浮上している。売却先とされるのは、コミュニケーション会社ゴッドフィルムズ(Godfilms S. A.)を所有するアンドレス・マンリケ(Andrés Manrique)である。
エクスプレソは、ノボア政権に批判的な報道を続けてきた新聞である。53年間続いた紙媒体の発行は2026年10月9日をもって終了したが、発行元のグラフィコス・ナシオナレス(Gráficos Nacionales S. A.:Granasa)は、事業再編を進めるなかで新聞ブランドの売却にも乗り出した。
エクスプレソと新聞エクストラ(Extra)を発行するGranasaは、10月13日に臨時株主総会を開き、保有するブランドの売却を決議した。エクスプレソの関係者がラジオ・ピチンチャ(Radio Pichincha)に明らかにしたところによると、買い手はマンリケとされる。決議後も数日間にわたり交渉が続いた。
マンリケが所有するゴッドフィルムズについては、政府に批判的な勢力への中傷キャンペーンを担っているとの指摘がある。ジャーナリストのアンドレス・ドゥラン(Andrés Durán)によると、同社はエクアドル政府から170万米ドルの契約を受注し、ボットファーム(大量のSNSアカウントを組織的に運用する仕組み)やトロールセンター(複数の担当者が組織的にSNSアカウントを操作し、特定の意見の拡散や批判対象への攻撃を行う拠点)の運営に関与したとされる。契約には、ソーシャルメディア上での中傷キャンペーンや政府反対派への攻撃も含まれていたという。
Andrés Alberto Manrique Pareja y su esposa, María Soledad Romero Allu serían los responsables de las campañas de difusión de mentiras y bulos en contra de la oposición al régimen de ADN. Manrique presentó a Irene Vélez y al difunto Michelle Sensi Contugi una propuesta superior a USD 1.7 millones para intensificar los ataques. Mañana, 18hrs, no te lo pierdas.
— Andrés Durán, El Chochólogo (@AndresDuranEc) September 6, 2026
さらに、キャンペーンの調整やマンリケへの支払いは、大統領府広報総局のイレーネ・ベレス(Irene Vélez)を通じて直接行われているとみられる。ゴッドフィルムズは、デジタルアカウント「Pilitics EC」も運営しているとされる。同アカウントでは、政府を支持する一方、政府反対派を批判する投稿が発信されている。
ブランドの売却方法は、個別売却と一括売却の両方が検討されている。ただし、エクスプレソだけが対象なのか、Granasaが発行するもう一つの新聞エクストラのブランドも含まれるのかは、現時点で明らかになっていない。
不動産9物件の売却と従業員への退職金支払いを協議
Granasaは10月13日の臨時株主総会で、新聞ブランドの売却に加え、保有する不動産9物件の売却や従業員への退職金の支払い、退職手続きについても協議した。
売却対象の不動産は、キト(Quito)、グアヤキル(Guayaquil)、ドゥラン(Durán)、サンタ・エレナ(Santa Elena)に所在する。最低売却価格の合計は1,735万米ドルで、グアヤキルのカルロス・フリオ・アロセメナ通り(Avenida Carlos Julio Arosemena)にあるエクスプレソの本社も含まれている。
Granasaは10月2日、同月13日午前11時に臨時株主総会を開催すると発表していた。議題には会社の財務状況の確認と、4都市にある土地や不動産の売却に関する決議が盛り込まれていた。こうした方針は10月2日に従業員にも伝えられた。メディアのエクアビサ(Ecuavisa)が把握したところによると、発表を受けた従業員の間には驚きと困惑が広がったという。
53年間続いた紙媒体の発行を終了、デジタル版も一時休止
エクスプレソは1973年7月25日、グアヤキルでガロ・マルティネス・メルチャン(Galo Martínez Merchán)によって創刊された。以来53年間にわたり、休刊することなく発行を続けてきたが、2026年10月9日、紙媒体の最終号を発行した。
同紙は10月5日、紙媒体の発行終了を正式に発表した。発行元のGranasaは、決定の理由について「会社の財務状況の見直しプロセス」によるものと説明した。発表時点では、エクスプレソはデジタル版で発行を続け、同じグループが発行するエクストラも、紙媒体とデジタル版の両方で刊行を継続する方針だった。
発行終了を伝える記事では、米州新聞協会(Sociedad Interamericana de Prensa:SIP)が、エクアドル政府に対し、政府に批判的なメディアやジャーナリストへの「国家による嫌がらせ」をやめるよう求めたことにも触れていた。
10月9日の最終号は、政府による圧力を強く訴える内容となった。一面には「国家による嫌がらせに追い込まれ、エクスプレソは紙媒体を終了する」との見出しを掲げ、「紙媒体の時代の終わり」と題した記事で、創刊からの53年間と、最後の1年間に続いた抵抗を振り返った。印刷所で従業員が紙面を確認する写真には「最後の印刷」と説明を添えたほか、これまで報じてきた重要な出来事や、汚職を明らかにした調査報道を振り返る特集も掲載した。
編集長のカルロス・マルティネス(Carlos Martínez)は、新聞の歴史の中で「この1年間が最も厳しかった」と語った。多くの広告主が同紙への広告出稿をやめるよう圧力を受け、契約を打ち切ったほか、新聞や雑誌を路上で販売する人々も嫌がらせを受けたという。さらに、同紙は監査や告発、司法手続きへの対応を迫られ、本来は報道活動に充てるべき資金を弁護費用に回さざるを得なかったと説明した。
それでも、紙媒体の発行終了は、会社の持続可能性と関係者全員の状況を考慮し、冷静に判断した結果だとマルティネスは述べた。取引先への支払いや従業員への退職金の支払い、債務の履行には不動産の売却が必要だとも説明した。また、会社監督庁に対してGranasaへの管理介入を解除するよう求め、当局に全面的に協力する用意があると表明した。
マルティネスは、1973年に「グアヤキルに地元独自の新聞を届ける」という目的でエクスプレソを創刊した祖父のガロ・マルティネス・メルチャンと、数十年にわたり仕事と信念を持って新聞を支えてきた父のガロ・マルティネス・レイスケル(Galo Martínez Leisker)らに感謝を示した。
今後の運営については、マルティネス自身が10月10日からデジタルプラットフォームを率いると明らかにした。人員を減らし、少人数のチームで運営することになるものの、デジタル版での発行は続けるとしていた。同紙は、民主主義、表現の自由、エクアドル国民が情報を得る権利を信じてきたと強調し、これらの価値観は今後も活動の指針であり続けると表明した。
しかし、デジタル版も10月19日から記事の掲載を一時停止した。同日以降、ウェブサイトには「再編プロセスを開始しました。記事の掲載を短期間休止し、まもなく再開します」とのメッセージが掲載されている。
ジャーナリストらの解雇と人員削減
Granasaでは事業再編に伴う人員削減が進み、ジャーナリストやカメラマン、紙面レイアウト担当者、管理部門の職員が対象となっている。すでに一部の従業員には解雇が通知されている。
ジャーナリストのリナ・サンブラノ(Lina Zambrano)もその一人である。同氏はソーシャルメディアへの投稿で、Granasaに15年間勤務した後、解雇されたことを明らかにした。
10月13日の臨時株主総会では、従業員への退職金の支払いや退職手続きについても協議された。Granasaはブランドや不動産の売却を通じて資金を確保し、従業員への支払いを含む会社の債務や義務に対応する方針である。
ノボア政権による広告主への圧力を告発
エクスプレソの経営陣は、紙媒体の発行終了に至った大きな要因として、ノボア政権による広告主への圧力を挙げている。同紙は過去1年間、政権から「迫害」や「攻撃」を受けてきたと繰り返し訴えていた。
Granasaの最高経営責任者(CEO)、ガロ・マルティネス・レイスケルは、政府機関による広告主への圧力や脅迫によって、民間企業からの広告収入の70%を失ったと明らかにした。圧力をかけた機関として、内国歳入庁(Servicio de Rentas Internas:SRI)や金融経済分析局(Unidad de Análisis Financiero y Económico:UAFE)などを挙げている。
エクスプレソ自身も、内国歳入庁(SRI)や検察庁による調査を受けていた。調査では、税務上の不正や資金洗浄の疑いが取り上げられていた。
AFP通信の取材に対し、編集長のカルロス・マルティネスは、広告主が当局から税務調査や資金洗浄に関する調査を持ち出して脅されたと訴えていたと説明した。広告主を標的とする政府の嫌がらせが続き、広告収入が大幅に減少したことが、紙媒体の発行終了につながったと述べた。
マルティネス・レイスケルも同年4月、米州新聞協会(SIP)の会合で、政府による別の形の嫌がらせについて説明していた。同氏によると、Granasa傘下の新聞に広告を出している企業や顧客が標的となっていた。同氏はその際、会社があとどれほどの期間、こうした状況に耐えられるか分からないとも述べていた。
会社監督庁の管理介入と株式をめぐる対立
Granasaは2026年2月、会社監督庁(Superintendencia de Compañías)による管理介入を受けた。同庁は、Granasaの経済・財務運営を監督し、確認された不正の是正を促すことが介入の目的だと説明している。
介入は、公共部門不動産管理技術局(Secretaría Técnica de Gestión Inmobiliaria del Sector Público:Inmobiliar)の要請を受けて実施された。同機関は当時、大統領府の管轄下にあり、Granasaの株式の2.56%を保有していると説明していた。
これに対しGranasaは、会社監督庁が同社株式の40%を取得しようとしていると主張した。同庁は、6年前に行われた株式譲渡に不正があった疑いを指摘していた。Granasaは一連の動きを、エクアドルに残された数少ない政府批判の声の一つを政府の支配下に置こうとする試みだと批判している。
エクアドル大統領府は、Granasaの株式6万4,000米ドル相当を保有している。この株式はもともと公共部門不動産管理技術局(Inmobiliar)が保有していた。ノボア大統領の決定によって同機関が行政総局(Secretaría General de la Administración)に統合されたことに伴い、株式の保有主体も変更された。
エクスプレソは2026年2月18日、公共部門不動産管理技術局(Inmobiliar)の要請を受け、会社監督庁がGranasaを管理下に置いたと報じた。同庁は、同社に企業統治上の不正があった疑いを介入の理由としていた。
Granasaは、不動産9物件の売却が、株式の支配権をめぐって会社監督庁との間で続いている法的紛争と関係しているかどうかについて、明らかにしていない。
米州新聞協会がエクアドル政府に圧力の停止を要求
エクスプレソが政府による圧力を訴えるなか、米州新聞協会(SIP)はエクアドル政府に対し、政府に批判的なメディアやジャーナリストへの「国家による嫌がらせ」をやめるよう求めた。
SIP会長のピエール・マニゴー(Pierre Manigault)は、ソーシャルメディアのXへの投稿で、「Granasaを取り巻いてきた継続的な圧力という状況を無視することはできない」と述べた。
エクスプレソの紙媒体発行終了に対しては、エクアドルの人権擁護団体や報道の自由を守る団体からも批判の声が上がっている。
一方、Granasaは新聞ブランドや不動産の売却を進め、従業員への退職金支払いや人員削減を含む事業再編に取り組んでいる。ブランドの買い手として名前が挙がっているのは、上述の通りノボア大統領の側近とされるマンリケである。マンリケが所有するゴッドフィルムズは、政府との契約や政府反対派への中傷キャンペーンへの関与を指摘されている。
😂😂😂 ¿Tan mal les fue con el informe a la nación?🤷🏻♂️ Andrés Manrique, uno de los hombres del maletín de Noboa, es quien maneja esta cuenta. Están desesperados😉 #NosGobiernanSinverguenzas
— Rafael Correa (@MashiRafael) May 26, 2026
売却対象にエクストラのブランドが含まれるかどうかや、売却後の新聞ブランドがどのように運営されるかは、まだ明らかになっていない。エクスプレソについても、デジタル版の掲載再開時期や今後の運営体制は確定していない。
参考資料:
1. ¿Diario Expreso vendió la marca a un allegado de Noboa?
2. Diario Expreso de Ecuador cierra su edición impresa
3. ¿Por qué el diario ‘Expreso’ dejó de circular en papel en Ecuador después de 53 años?




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