(Photo : Simon Wohlfahrt/AFP/Getty Images)
国際刑事裁判所(International Criminal Court:ICC)をめぐり、米国が同裁判所の関係者に対する制裁を相次いで強化している。米国は18日、国際刑事裁判所(ICC)の所長である赤根智子(Tomoko Akane)と、上級公判担当検察官であるアブドゥライ・セイエ(Abdoulaye Sy)に新たな制裁を科した。
赤根智子は日本国籍、アブドゥライ・セイエはセネガル国籍である。今回の制裁によって、両氏が米国の管轄下に保有する資産、または米国の金融システムに接触する資産が凍結される。
米国のマルコ・ルビオ(Marco Rubio)国務長官は18日、赤根智子とアブドゥライ・セイエについて、国際刑事裁判所(ICC)の管轄権に同意していない政府の当局者を捜査、逮捕、拘束、または訴追する取り組みに直接関与したと述べた。
米国は、国際刑事裁判所(ICC)が米国やイスラエルなど、同裁判所の加盟国ではない国の軍人や当局者を捜査、訴追しようとしていることを問題視している。ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領政権は、国際刑事裁判所(ICC)が権限を逸脱し、米国の主権を脅かしていると主張している。
マルコ・ルビオは国際刑事裁判所(ICC)について、「腐敗し、致命的なほど政治化された超国家的裁判所」と呼び、その権限を悪意をもって乱用し、権限を逸脱していると批判した。また、米国は国家主権に対する攻撃を容認しないと述べた。
ICC、制裁を司法の独立性への「露骨な攻撃」と非難
国際刑事裁判所(ICC)は19日、米国による新たな制裁を「公平な司法機関の独立性に対する露骨な攻撃」だと非難し、強く拒否すると表明した。その上で、世界各地で起きる残虐行為について正義を追求し続けるとした。
国際刑事裁判所(ICC)は、法を適用した司法関係者が脅威にさらされるとき、危険にさらされるのは国際的な法秩序そのものであると述べた。また、独立性と公平性をもって使命を完全に遂行し続けると表明した。
国際刑事裁判所(ICC)の監督機関である締約国会議(Assembly of States Parties:ASP)の議長府も、米国政府が国際刑事裁判所(ICC)の所長および検察局に勤務する裁判担当弁護士を対象とする新たな措置を発表したことについて、深い遺憾の意を表明した。
締約国会議(ASP)の議長府は、これまでに国際刑事裁判所(ICC)検察局の指導部および同裁判所の裁判官8人が指定対象となっていることを指摘した。その上で、これらの措置について、人類に知られる最も重大な犯罪に関する事件を捜査、裁判するという国際刑事裁判所(ICC)とその職員の委任された職務を妨げようとする試みだとした。
さらに、米国政権による裁判所関係者や職員への制裁措置の拡大について、現在進行中の捜査を損なうリスクがあると指摘した。また、国際社会全体が懸念する最も重大な犯罪について責任を追及し、被害者に司法をもたらすことを目指す世界的な取り組みを妨げる可能性があるとした。
締約国会議(ASP)の議長府は、こうした制裁が法の支配、免責との闘い、ルールに基づく国際秩序の維持に対する共有された取り組みを損なうものだと表明した。
米国による制裁対象が拡大
国際刑事裁判所(ICC)によると、ドナルド・トランプ米大統領政権はこれまでに、同裁判所の裁判官18人のうち9人、2人いる副検察官の全員、元主任検察官、検察局職員1人にも制裁を科している。
今回の措置は、米国が国際刑事裁判所(ICC)に対して進めている一連の対応の最新のものとなる。ドナルド・トランプ米大統領政権は、米国やイスラエルを対象とする国際刑事裁判所(ICC)の捜査などを問題視し、同裁判所を「解体」することを目指している。
ドナルド・トランプ米大統領政権は、国際刑事裁判所(ICC)を「組織的に機能停止させる」ための「政府全体を挙げた」取り組みを進めると表明している。
マルコ・ルビオは数週間前、米国の主権に対する国際刑事裁判所(ICC)の脅威を解体するため、「包括的なキャンペーン」を開始すると発表した。国際刑事裁判所(ICC)に加盟する125カ国に対して同裁判所から脱退するよう圧力をかけるほか、国際刑事裁判所(ICC)と協力する組織に制裁を科し、同裁判所職員の米国への渡航を禁止すると述べていた。
米国、イスラエルやアフガニスタンをめぐる捜査を問題視
ホワイトハウスと米国務省は、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相に対して国際刑事裁判所(ICC)が発行した戦争犯罪容疑に基づく逮捕状を、米国の対応の動機の一つとして挙げている。この逮捕状は、イスラエルによるガザでのジェノサイド的な戦争に関連するものである。
また、国際刑事裁判所(ICC)がアフガニスタンにおける米軍兵士や情報機関員を含む外国勢力の行動を捜査していることも、米国が理由として挙げている。
ドナルド・トランプは、このキャンペーンはベンヤミン・ネタニヤフと同盟国の当局者を守るためのものだと主張した。
人権団体、米国の措置を「違法な攻撃」と批判
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch:HRW)の中東・北アフリカ局長バルキース・ジャラー(Balkees Jarrah)は、今回の制裁について、国際法に対するドナルド・トランプ米大統領政権の軽視を示す最新の例であり、重大な犯罪に関与した米国およびイスラエルの当局者を司法から守ろうとする試みだと述べた。
ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)と他の3団体は先週、国際刑事裁判所(ICC)に対するドナルド・トランプ米大統領政権のキャンペーンに異議を申し立てるため、同政権を提訴した。
ニューヨーク南部地区に提出された訴状では、ドナルド・トランプ米大統領が昨年、ハーグに拠点を置く国際刑事裁判所(ICC)を標的として発出した大統領令と、国連の人権専門家および3つのパレスチナ人権団体に対して米国が科した制裁について、「国際司法に対するあからさまに違法な攻撃であり、無効にされるべきだ」と主張した。
制裁はICC職員の日常生活にも影響
米国による制裁は、国際刑事裁判所(ICC)職員の日常生活にも影響を及ぼす可能性がある。国際刑事裁判所(ICC)職員とその家族は米国への入国を禁じられ、基本的な金融サービスも利用できなくなるため、食料品店に行くことさえ困難になる可能性がある。
昨年制裁を受けたカナダ人裁判官のキンバリー・プロスト(Kimberly Prost)は、クレジットカードを利用できなくなり、AmazonのAlexaも反応しなくなった。キンバリー・プロストは制裁対象となった後、AP通信に「あなたの世界全体が制限される」と述べた。
日本も米国の措置を批判
日本も米国の措置を批判した。日本の外務省報道官の北村俊博(Toshihiro Kitamura)は19日の声明で、「発表された措置は非常に遺憾である」と述べた。
北村俊博は、日本はこれまで一貫して、国際社会が重大な関心を寄せる最も深刻な犯罪を訴追、処罰し、法の支配を維持する国際刑事裁判所(ICC)の取り組みを支持してきたと述べた。その上で、関係国との意思疎通を維持しながら、国際社会における法の支配を強化することに引き続き取り組んでいくと表明した。
主任検察官をめぐる問題も重なる
米国による国際刑事裁判所(ICC)への圧力は、同裁判所の主任検察官カリム・カーン(Karim Khan)が性的 misconduct の疑惑をめぐって職を離れることになった時期とも重なっている。
こうした状況をめぐり、国際刑事裁判所(ICC)の体制が圧力に耐えられるかどうかについての疑念が深まっている。
チャド、ICCからの脱退を発表
国際刑事裁判所(ICC)への米国の圧力が続く中、チャドは7月27日、同裁判所からの脱退を発表した。チャドは、国際刑事裁判所(ICC)の実績には偏りがあり、アフリカに不利になっていると主張した。
チャドは、当時国際刑事裁判所(ICC)が拘束していた7人の容疑者のうち6人がアフリカに関連する事件の対象者であることを指摘した。
チャド政府は、国際刑事裁判所(ICC)への加盟を再考するよう求める米国の高官から直接電話を受けたことが、脱退決定の背景にあると述べた。
ベネズエラも脱退方針を表明
ベネズエラも国際刑事裁判所(ICC)からの脱退方針を示した。ベネズエラのフェリックス・プラセンシア(Felix Plasencia)外相は国連に対し、暫定大統領デルシー・ロドリゲス(Delcy Rodriguez)の命令による脱退決定について、「確固たるものであり、撤回できない」と述べた。
フェリックス・プラセンシアは、国際刑事裁判所(ICC)がアフリカとラテンアメリカに対して地理的な偏りを示していると非難した。
米国は、デルシー・ロドリゲスとベネズエラが国際刑事裁判所(ICC)から脱退する決定を下したことを歓迎した。また、新たなベネズエラ政府が、米国主導による国際刑事裁判所(ICC)を解体する取り組みに協力することを歓迎するとした。
米国は、国際刑事裁判所(ICC)が2018年からニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)を捜査しているものの、何の結果も出していないと主張している。その一方で、国際刑事裁判所(ICC)が十分な能力と独立性を備え、同裁判所の管轄権に一度も服していない国々の人物を捜査、起訴するために資源を浪費しているとして、権限逸脱、政治的偏向、選択的な法執行だと批判している。
<h2>脱退には1年、進行中の事件は停止せず</h2>
国際刑事裁判所(ICC)設立の根拠となるローマ規程(Rome Statute)では、脱退が正式に登録されるまでには1年を要する。また、加盟国である間は脱退によって義務が消滅することはなく、すでに進行中の事件が停止することもない。
そのため、国際刑事裁判所(ICC)によるベネズエラに対する長期的な捜査は、同国が脱退を決定した後も継続できる。
チャドとベネズエラは、昨年国際刑事裁判所(ICC)からの脱退を発表したブルキナファソ、マリ、ニジェールに加わることになる。これにより、過去1年間に国際刑事裁判所(ICC)から脱退する方針を示した国は5カ国となった。
締約国会議、ICCへの支持を表明
締約国会議(ASP)は、国際刑事裁判所(ICC)、その職員、司法上の使命の遂行に貢献するすべての関係者への全面的な支持を改めて表明した。
その上で、ローマ規程制度(Rome Statute system)に関係するすべての締約国および関係者に対し、国際司法の原則を守る取り組みを堅持し、国際刑事裁判所(ICC)とローマ規程に盛り込まれた価値を支持するために結束するよう呼びかけた。
締約国会議(ASP)は、国際刑事裁判所(ICC)の管理、監督、立法を担う機関であり、ローマ規程を批准または加入した国の代表者によって構成される。
締約国会議(ASP)の議長府は現在、議長を務めるフィンランドのパイヴィ・カウコランタ(Päivi Kaukoranta)と、副議長を務めるシエラレオネのマイケル・イムラン・カヌ(Michael Imran Kanu)、ポーランドのマルガレタ・カサンガナ(Margareta Kassangana)で構成されている。
締約国会議(ASP)は、チャドとベネズエラに対し、国際刑事裁判所(ICC)からの脱退方針を撤回し、加盟国としての関与を続けるよう要請した。また、問題がある場合には、完全に脱退するのではなく、締約国会議(ASP)内で対話を通じて不満を提起するよう促した。
参考資料:
1. Presidency of the Assembly of States Parties expresses deep regret at the extension of US sanctions targeting the ICC President and a staff member
2. ICC decries latest US sanctions as ‘flagrant attack’ on court’s independence
3. US sanctions ICC president and senior prosecutor amid campaign to dismantle the international court
4. Venezuela Withdraws from the ICC
5. ICC body urges Chad and Venezuela to reverse course on withdrawal

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