キト・サンフランシスコ大学(Universidad San Francisco de Quito:USFQ)の政治学博士レジス・ダンドワ(Regis Dandoy)は、エクアドルの民主主義について、選挙プロセスに影響を及ぼし得る外部からの影響から選挙を保護するための十分な仕組みが整備されていないと指摘した。ダンドワは、民主的秩序を維持し、選挙に対する市民の信頼を強化するためには、法律が公平かつ中立的に適用されることを確保する必要があると述べた。また、選挙参加に関する規則の不正な運用や突然の変更は、選出された当局者の正統性を損なう要因になると警告した。
同氏は、国際的な学術報告書である選挙公正性プロジェクト(Electoral Integrity Project:EIP)に言及した。同報告書は、専門家への調査を基に、エクアドルの選挙公正性が2012年以降で最も低い水準にあると評価している。報告書では、政治資金の透明性、ジャーナリストへの嫌がらせ、選挙管理機関の独立性に加え、外部からの圧力から選挙プロセスを保護する制度的能力について課題があると指摘している。また、候補者の恣意的な排除や、行政権および司法権を含む国家権力による介入の疑いなどを背景に、民主主義の質が低下していると分析した。さらに、選挙参加に関する規則の突然の変更は、選出された当局者の正統性を損ない、民主的な競争環境にも影響を与える要因になるとしている。
制度への信頼低下と民主主義をめぐる懸念
エクアドルでは、政治制度と社会との距離が広がり、制度の機能低下や衰退が進んでいるとの指摘がある。制度への信頼低下や政治と市民との乖離が進む中、民主主義を強化するための改革の必要性が提起されている。民主主義は、市民の自由と尊厳を尊重し、保障するための手段として位置付けられている。その役割を果たさなければ、民主主義の意義は失われるとされる。
長年にわたり、社会の多くの人々は、不公正で不平等な制度の中に置かれていると認識してきた。その中では、政治家や権力集団などの「第一級の市民」と、それ以外の「第二級の市民」が存在していると捉えられている。「第一級の市民」とされる政治家や権力集団は、「第二級の市民」とされる人々の負担によって支えられながら、自らの特権や免責、優遇措置、出張、給与などを決定しているとされる。
こうした状況については、国家や法律が個人的利益を実現するための権力の手段へと変化しているとの批判がある。その結果、法の下の平等や実質的な三権分立が損なわれ、意思決定を行う側と、その結果を受ける市民との間に断絶が生じていると指摘されている。また、現在の制度は、諸制度への信頼を低下させ、本来は国民に奉仕すべき制度が、政党の政策推進や権力拡大のために利用されているとの見方も示されている。
エクアドルにおける民主主義制度と選挙管理機構の形成
エクアドルにおける民主主義は、権利として認識されるとともに、政治的多元主義の実践と市民の自由な参加を可能にする制度として位置付けられている。同国の選挙制度を支える機関として、1945年8月18日に選挙法に基づき最高選挙裁判所(Tribunal Supremo Electoral:TSE)が設立された。同機関は、後の国民選挙評議会(Consejo Nacional Electoral:CNE)につながるものであり、県選挙機関を設置するとともに、選挙法規の適用手続きや選挙期間中に発生する紛争の解決を担った。また、最高選挙裁判所(TSE)は、政府から独立していない省庁に依存することなく、選挙手続きを運営する役割を担っていた。
その後、2008年の制憲議会の結果、最高選挙裁判所は置き換えられ、新たに選挙機能(Función Electoral)が創設された。選挙機能は、行政的役割を担う国民選挙評議会(CNE)と、司法的役割を担う選挙紛争裁判所(Tribunal Contencioso Electoral:TCE)によって構成されている。
これらの機関は、エクアドル共和国選挙および政党組織基本法(Ley Orgánica Electoral y de Organizaciones Políticas de la República del Ecuador)、通称「民主主義法典(Código de la Democracia)」を適用し、市民の参加権を保障することを目的として設置された。
エクアドルにおける政治的不安定と政権運営の課題
エクアドルは歴史を通じて政治的不安定を経験してきた。特に近年数十年間では、不安定な政局、政権交代、統治危機が繰り返される中で、国家運営が行われてきた。一方で、同国では民主的な政権交代の原則が実践され、左派・右派双方の複数の政治勢力が国家運営を担ってきた。この過程は、特定の集団による権力の長期的な集中を防ぎ、新たな政治的主体や政策理念の登場を促すとともに、市民が憲法で保障された参加権を行使する機会につながってきた。
また、進歩主義的な思想と新自由主義的な思想は、それぞれの時期において発展への道筋を示す統治モデルの導入を試みてきた。エクアドルは悪政や汚職の影響を受けてきたものの、市民の権利を保障するための法的枠組みを有してきた。そのため、基本法の規定に基づき、これまで複数の選挙プロセスが実施され、市民参加を促進しながら国家の継続的な発展を支えてきた。これらの選挙は、国家主権が国民に存在することを示す制度的な基盤となっている。
最近のエクアドル政治の変化と統治をめぐる課題
エクアドル政治は、2005年以降に進んだ政治的不安定と分極化によって大きな変化を経験してきた。政権の転覆や議会解散による政権交代が発生する一方、政党間の対立や内部の分裂も進んだ。その結果、長い歴史や知名度を持つ政治運動の内部でも継続的な分裂が生じ、多くの政治組織が選挙規定に基づき登録を取り消される事態に至った。
エクアドルは1979年に民主主義へ復帰して以降、複数の政権交代を経験している。「15人がカロンデレ(Carondelet)の大統領府の座に就き、そのうち複数人は任期を終えることなく退任した後に権力を握った」とされている(Loaiza 2023)。
国民の意思によって選出され、市民を代表して政権を担う政府は、就任後に政策計画の実施を進める中で、統治能力を発揮する難しさに直面してきた。その背景には、政治権力と、その時点で国民が求める課題や必要性との間に十分な均衡が存在しないことが挙げられている。政府の政策が国民の要求に十分応えられない場合、社会の一部が政府の対応能力の不足を示すために、動員や集団的抗議行動を呼びかける状況が生じている。
こうした状況は、政府が市民の要求を効果的かつ正当に解決できないことへの批判につながり、政権の正統性にも影響を与えている。また、政府の決定が倫理や公正性に反する場合、恣意的な判断と受け止められる場合、あるいはエクアドルの法秩序に違反する場合には、市民の信頼低下を招く要因になるとされている。
政治的分極化と左右両派の政策的方向性
現在のエクアドル政治は、左派と右派の対立を中心に大きく分極化していると論じられている。左派は、国民議会(Asamblea Nacional)における法案を通じて、「良き生活(Buen Vivir)」の概念を支える公共政策の実現を求めている。これには、行政活動全般における政府の効率性と有効性を高めることを目的とした政策も含まれている。また、市民団体や政治団体は、正式な要請を通じて権利承認の仕組みを求めており、その実現の場として民主主義の実践が位置付けられている。
一方、右派は国家資源の効率的な活用を重視している。そのため、国際関係を活用して外国投資にとって魅力的な環境を形成し、国内生産性を向上させるとともに、物流の発展と計画を通じて輸出の強化を図っている。
両政治潮流は、市民の権利を保障する国家を実現するという目標を共有している。しかし、現在のエクアドルでは、政府戦略を発展させるための条件が十分に整っておらず、両者の政策的な出発点を明確に区別することは難しいとされる。その結果、不利益を受けていると感じる社会層が停止行動や抗議活動を呼びかける状況が生じ、第三者の権利侵害や政治的象徴への依存によって特徴づけられる政治的分極化につながっている。
政治的選好の分裂と民主主義への影響
エクアドルにおける政治的分極化は、単なる思想上の対立にとどまらず、選挙における政治的選好にも影響を与えている。この傾向は、大統領選挙の決選投票において顕著に表れている。通常、第1位と第2位には左派および右派を代表する大きな政治的象徴が位置し、その結果、高い経歴を持つ他の候補者が低い得票率にとどまる状況が生じている。
エクアドルの政治議論では、社会正義の概念に基づく進歩主義的政策を導入し、多くの市民から支持を得た元大統領である経済学者ラファエル・コレア(Rafael Correa)の存在が大きな位置を占めている。
一方、右派の政治的潮流は、暴力や組織犯罪への対応を中心に展開されている。この方向性は、現在のエクアドル大統領である実業家ダニエル・ノボア・アシン(Daniel Noboa Azín)が推進しており、現在の治安状況を背景に支持を集めている。
現在の政治的選好の傾向と参加権をめぐる制度
分析によれば、エクアドルにおける過去10年間の政権運営を見ると、国民選挙評議会(CNE)が公表した選挙結果から、左派へのわずかな支持傾向が確認されている。一方で、大統領候補の組み合わせや国民議会の構成を背景に、中道左派という新たな政治的概念も形成されている。
また、若者をはじめとする一部の社会層で政治参加が低調であることにより、政府だけでなく、エクアドル民主主義全体の正統性にも影響を及ぼしているとの指摘がある。
現在、民主主義法典(Código de la Democracia)第4条では、憲法上の権利行使に関して、「比例性、投票の平等、衡平性、男女間の平等な代表性および交代制」という原則を定めている。この規定は、市民の参加権を保障するとともに、今後のエクアドルにおける政治的選好の形成において重要な基盤となっている。
国家と国民が歴史的状況に応じて発展し、政治的変化の傾向を形成することは自然な過程である。そのため、法制度との関係において、エクアドル共和国選挙および政党組織基本法(Ley Orgánica Electoral y de Organizaciones Políticas de la República del Ecuador)、通称「民主主義法典(Código de la Democracia)」は、市民の参加権を保障するための基準を定める重要な役割を担っている。これは、法の下で民主主義を実践するための制度的枠組みを示すものである。同法は、少数派集団、男性、女性、任意投票権を持つ若者、障害者、確定有罪判決を受けていない拘禁者について、投票権の行使を可能にしている。また、民主主義法典に定められた条件の下で、立候補する権利も保障している。
社会動員と市民参加が形成した民主主義の基盤
エクアドルは、権利保障を重視し、市民の権利を促進する国家として位置付けられている。エクアドル共和国憲法(Constitución de la República del Ecuador)第1条では、「エクアドルは、権利と正義、社会性、民主主義、主権、独立、単一性、多文化性、多民族性および世俗性を備えた立憲国家である。共和国として組織され、分権的に統治される」と規定されている。同規定において「権利」という言葉が複数形で示されていることは、国家が市民に対して権利を承認し、人間を中心に据えた上で、権限、自由、保障を保護対象として認めていることを示している。そのため、民主主義において市民参加の権利は、国家の基本的性質を構成する重要な要素とされている。
一方で、エクアドルが現在の制度に至るまでの過程は長く、過去数十年間にわたり、社会は極端な不平等や排除の問題に直面してきた。こうした状況に対し、先住民族運動、労働者および労働組合、学生、若者など多様な社会集団が異議を唱えてきた。これらの主体は、権利の保障と尊厳を求める活動を通じて、民主主義における重要な参加主体として位置付けられるようになった。その結果、意思決定に関わる市民の範囲は広がり、社会のさまざまな集団が政治的参加の主体として認識されるようになった。このように、民主主義はすべての市民の生活に関わる制度であり、市民参加は日々の公共的意思決定の中で実践されている。
社会動員がもたらした制度的変化
エクアドルの歴史において継続的に発生してきた社会動員は、必ずしも直ちに期待された結果を得てきたわけではない。しかし、これらの動きは、社会制度や権利保障の形成における歴史的な前例となってきた。その一例として、労働者の権利の承認が挙げられる。これには、休暇、休業許可、労働者保護などの労働上の権利が含まれている。
長年にわたる社会的な議論と運動を経て、エクアドルの法制度は複数の法体系を発展させ、現在では労働法典(Código del Trabajo)が雇用者と労働者の関係を規制している。同法第2条では、労働を「権利であり、社会的義務」と位置付けている。
このことから、市民参加は、市民の権利が国家の基本原則として認識される過程において重要な役割を果たしてきたことが分かる。さらに、市民参加は民主主義を強化する手段として、国家運営における政府の基本方針にも影響を与えている。エクアドルの法制度では、市民参加の方法として、一般選挙、国民投票および住民投票、市民による立法提案、監視制度などが規定されている。
市民参加を支える制度と選挙監視の仕組み
エクアドルでは、市民参加を制度的に保障する仕組みとして、透明性および社会的統制機能(Función de Transparencia y Control Social)がエクアドル共和国憲法によって国家機能の一つとして定められている。同憲法第207条では、市民参加および社会的統制評議会(Consejo de Participación Ciudadana y Control Social:CPCCS)が規定されている。同評議会は、この機能に属する独立機関として、市民参加に関する権利の行使を促進・奨励するとともに、公共的関心事項における社会的統制の仕組みを推進・確立し、憲法および法律に基づいて担当する当局者を任命する役割を担っている。また、同評議会は、市民が公共的事項に参加するためのプロセスを指導・規制する責任を有している。
さらに、市民参加および社会的統制評議会組織基本法(Ley Orgánica del Consejo de Participación Ciudadana y Control Social)は、国内外にいるエクアドル国民による市民参加の取り組みを促進し、権利の行使および良き生活の保障につながる活動を推進することを定めている。
同評議会は、このほかにも憲法および法律に基づく複数の権限を有している。
国際的な監視に開かれた選挙制度
エクアドルは、歴史的に国際機関との協力関係を構築してきた国である。同国は現在に至るまで、国際連合(United Nations:UN)およびその専門機関、世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)、アンデス共同体(Comunidad Andina:CAN)など、多数の国際機関に参加している。また、過去には南米諸国連合(Unión de Naciones Suramericanas:UNASUR)にも加盟していた。こうした国際的な関係を背景として、エクアドルは民主的プロセスの一環として、正式に規定された選挙監視(Observación Electoral)制度を導入している。
選挙監視制度は、投票所における国民の意思を尊重し、選挙結果に反映させるための仕組みである。そのため、エクアドルでは、認定された国内外の公的機関や民間機関が、選挙プロセスの各段階において追跡や同行を通じて参加することが認められている。その具体例として、欧州連合(European Union:EU)選挙監視団(Misión de Observación Electoral de la Unión Europea)が挙げられる。
同監視団は、2025年総選挙における2回の投票過程に参加した。これは、欧州連合(EU)が世界各地の民主主義を支援することを外交政策の一部として位置付けているためである。その背景には、「機能する民主主義だけが、市民のニーズに対応し、要求を満たし、願望を実現できる」という考え方が示されている。
欧州連合選挙監視団による評価
「民主主義」という概念は、語源的に「人民の力」を意味する。ギリシャ語では、「デモス(demos)」が「人民」、「クラトス(kratos)」が「力」を表している。この考え方に基づき、欧州連合(EU)選挙監視団は、国民が投票を通じて自らの意思を示す権利が実際に保障されているかを確認し、国家主権を尊重した上で評価を行う目的で活動している。同監視団は、選挙プロセスの各段階において、公平な機会、平等な条件、権利の保障が確保された選挙競争が行われているかを監視する役割を担っている。
2025年エクアドル選挙における欧州連合(EU)選挙監視団の分析では、選挙準備、選挙運動に関する規制、男女平等な政治参加などについて評価が行われた。一方で、政治におけるジェンダーに基づく暴力や、選挙違反に対する制裁の不十分さについては課題として指摘された。
参考資料:
1. Experto advierte que la democracia ecuatoriana no está protegida frente a influencias externas
2. Crisis de la democracia en Ecuador: el desafío de recuperar la confianza ciudadana
3. La tendencia política en Ecuador y su influencia en la democracia como un nuevo punto de partida

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