ベネズエラ:国連防災機関、6月24日発生地震による被害推計を公表

(Photo:Frederico Parra / AFP, Getty Images)

国連防災機関(United Nations Office for Disaster Risk Reduction:UNDRR)は、2026年6月24日にベネズエラで発生した地震による直接的な物的被害について、解析モデルを用いた初期推計をまとめた報告書を公表した。

報告書は、国連防災機関(UNDRR)のマリオ・サルガド=ガルベス(Mario Salgado-Gálvez)、インヘニアルCAD/CAE社(Ingeniar CAD/CAE Ltda.)のガブリエル・ベルナル(Gabriel Bernal)およびオマール・ダリオ・カルドナ(Omar Darío Cardona)、自然災害リスク評価機関(Evaluación de Riesgos Naturales:ERN)のオスバルド・ガライ(Osvaldo Garay)およびマリオ・オルダス(Mario Ordaz)が作成したものであり、国連防災機関(UNDRR)による報告としてまとめられている。

報告書では、建築物およびインフラへの影響について、技術的根拠に基づく被害規模の概算を迅速に示すことを目的として、解析モデルによる初期評価を実施した。評価対象は地震による直接的な物的被害であり、被害額の最終的な確定を目的とするものではない。災害による被害状況は、新たな情報の蓄積に伴って継続的に更新されるため、本評価は災害発生後の初期段階における技術的診断として位置付けられている。今後、現地調査、衛星画像解析、政府機関の報告書、高解像度モデルなどの情報を反映することで、評価結果はさらに精緻化される予定である。

報告書の作成において、自然災害リスク評価機関(ERN)は地震・自然災害リスク評価分野の技術機関として、地震ハザード解析、被害推計モデルの構築、リスク評価技術の提供を担当した。具体的には、断層破壊モデルや地震動計算を用いて各地域の揺れの分布や強さを推定したほか、建築物やインフラの資産データ、脆弱性モデルを組み合わせ、地震による被害額の推計を支援した。また、解析システムやリスク評価プラットフォームを用いた計算を実施し、国連防災機関(UNDRR)やインヘニアルCAD/CAE社と連携して災害被害の定量評価を行った。

今回の報告書では、国連防災機関(UNDRR)が全体調整を担い、自然災害リスク評価機関(ERN)はインヘニアルCAD/CAE社とともに、地震ハザード解析、被害推計モデルおよびリスク評価技術の分野で協力した位置付けである。

 

地震の概要

2026年6月24日、ベネズエラ北部でモーメントマグニチュード(Moment Magnitude:MW)7.2およびMW7.5の浅発地震が39秒の間隔で発生した。特に大きな影響を受けた地域は、ラ・グアイラ州(La Guaira State)、首都地区(Capital District)、アラグア州(Aragua State)、ヤラクイ州(Yaracuy State)およびファルコン州(Falcón State)である。

今回の地震は、2つの大きな地震が短時間の間隔で発生する「ダブレット地震(Doublet Earthquake)」に分類される。2回目の地震は1回目の地震によって誘発されたものだが、余震ではない。

最初に発生した地震はボコノ断層系(Boconó Fault System)に関連し、2回目の地震はサン・セバスティアン断層(San Sebastián Fault)に関連している。破壊が差し迫った隣接断層が、最初の断層破壊によって誘発され、連続的に破壊したと考えられている。

 

被害の初期推計

国連防災機関(UNDRR)は、インヘニアルCAD/CAE社および自然災害リスク評価機関(ERN)の支援を受け、2つの地震による建築物およびインフラの直接的な物的被害について、初期的な定量評価を実施した。推計では、地震ハザード、資産分布および物理的脆弱性に関する定量データを用いて、建築物およびインフラへの影響を解析した。

解析結果によると、住宅、商業施設、教育施設、医療施設、公共施設および工業施設を含む建築物の被害額は、対象資産総額の約3%に相当する約240億米ドルと推計された。一方、水道・衛生、通信、道路、鉄道、エネルギー、港湾、空港、石油・ガス施設を含むインフラの被害額は、対象資産総額の約4%に相当する約130億米ドルと推計された。建築物およびインフラの直接的な物的被害額は、合計約370億米ドルに達すると見込まれる。

推計対象に含まれる範囲

本評価で算定した被害額には、建築物およびインフラの直接的な物的被害のみが含まれている。一方で、以下の項目は推計対象には含まれていない。

  • 間接的な経済損失
  • 生産活動や各種サービスの停止による影響
  • 緊急対応に要する費用
  • サプライチェーンへの影響
  • 社会、環境およびマクロ経済への影響
  • 包括的な復旧費用
  • 耐震補強費用
  • 再建に必要な費用

そのため、本災害による経済的影響の総額は、本資料で推計した直接的な物的被害額を上回る見込みである。

 

ベネズエラの地震リスク背景

ベネズエラは、カリブ海プレートと南アメリカプレートの境界に位置し、地震活動が活発な地域である。同国では、過去にも1812年、1967年、1997年に大規模地震による被害が発生している。

国連防災機関(UNDRR)のために開発された地球規模マルチハザードリスクモデル(Global Multihazard Risk Model)では、カルドナら(2023)の評価に基づき、ベネズエラにおける建築物およびインフラの年間期待損失額は約12億米ドルと推定されている。

 

地震ハザード・資産分布・脆弱性を基に評価

国連防災機関(United Nations Office for Disaster Risk Reduction:UNDRR)の報告書では、2026年6月24日にベネズエラで発生した地震による被害推計について、地震ハザード、エクスポージャー(資産分布)および物理的脆弱性に関する定量データを用いた解析が行われている。

解析には、中南米・カリブ地域地震ハザードモデル(Latin America and the Caribbean Seismic Hazard Model:ASLAC2)、世界災害リスク評価2015(Global Assessment Report 2015:GAR15)、気候災害リスク指標(Climate Disaster Resilience Index:CDRI)の世界モデルが組み合わせて使用された。

被害推計では、2026年6月24日に発生した2つの地震を同一の災害事象として評価し、複数の地震による影響を統合するため、オルダス(Ordaz)(2016)が提案した集約手法が適用された。

地震ハザードをモデル化、地盤条件による揺れの増幅も考慮

報告書では、2026年6月24日に発生した2つの地震について、断層破壊の状況をモデル化し、地震動の評価を実施している。

断層破壊のモデル化には、地震ハザード解析プログラムであるR-CRISISプログラム(R-CRISIS Program)、カリブ海災害リスク保険ファシリティ(Caribbean Catastrophe Risk Insurance Facility:CCRIF SPC)が運用する確率論的ハザード評価・リスク評価システムであるSPHERA(System for Probabilistic Hazard Evaluation and Risk Assessment)、および自然災害リスク評価機関(ERN)の解析システムが使用された。なお、R-CRISISプログラムは、地震発生時の揺れの分布を評価するための地震ハザード解析プログラムである。一方のSPHERAは、災害によるリスクを確率論的に評価するためのシステムであり、地震などの自然災害による損失評価に利用されている。

断層面の選定には、米国地質調査所(United States Geological Survey:USGS)が公表したモーメントテンソル解に基づく震源メカニズム情報が使用された。また、中南米・カリブ地域地震ハザードモデル(ASLAC2)を入力データとして、地震動の評価が行われた。

地震動の算定では、Vs30パラメータ(地表から深さ30メートルまでの地盤の平均せん断波速度)に基づく地盤増幅係数が適用された。これにより、軟弱地盤による地震動の増幅効果が考慮された。

図1では、MW7.2地震およびMW7.5地震について、それぞれ最大地表加速度(Peak Ground Acceleration:PGA)の分布が示されている。

UNDRR

建築物とインフラの資産分布をモデル化

報告書では、建築物およびインフラの被害評価にあたり、全国規模で整備された2種類のエクスポージャーモデルが使用された。

1つ目は、デ・ボノ(De Bono)およびシャトヌー(Chatenoux)(2015)が、世界災害リスク評価2015(GAR15)のために開発した建築物エクスポージャーモデルである。このモデルでは、住宅、商業施設、教育施設、医療施設、公共施設および工業施設について、資産の分布と特性が表現されている。

2つ目は、インヘニアルCAD/CAE社と国連環境計画グリッド(UNEP-GRID)が、気候災害に対する強靱なインフラ連合(Coalition for Disaster Resilient Infrastructure:CDRI)の世界インフラリスクモデル・レジリエンス指標(Global Infrastructure Risk Model and Resilience Index:GIRI)で使用するために開発したインフラエクスポージャーモデルである。このモデルでは、空港、港湾、道路、鉄道などの交通インフラ、水処理施設、上水道・下水道施設、発電・送配電設備などの公共インフラ、さらに石油・ガス生産施設について、資産の分布と特性が表現されている。

これらのモデルによると、ベネズエラ国内の建築物およびインフラの総資産額は約1兆800億米ドルと推定される。内訳は、建築物が約70%、インフラが約30%を占める。

建築物の評価には、世界災害リスク評価2015(GAR15)の世界資産モデルが使用された。このモデルは、5キロメートル四方のグリッドで構成され、6万9,000を超えるノードによって全国の建築資産分布を表現している。また、用途、構造材料、建物高さ、建設時の耐震基準などを考慮し、380を超える建築物類型の組み合わせを設定している。

一方、インフラエクスポージャーモデルでは、各施設または道路区間などの位置情報を反映し、資産特性に基づいて50種類を超えるインフラ類型が設定されている。

図2では、ベネズエラにおける建築物エクスポージャーの地理的分布が示されている。

UNDRR

 

脆弱性関数で建築物・インフラの損傷を評価

報告書では、物理的脆弱性について脆弱性関数を用いた評価が行われている。脆弱性関数は、各地点における地震動の強さと、建築物やインフラに発生すると想定される損傷水準との関係を示すものである。解析では、地震動の強さと被害率との関係について確率論的な評価が行われた。

建築物については35種類以上、インフラについては50種類以上の脆弱性関数が適用された。また、それぞれのインフラ類型について個別の脆弱性関数が設定され、地震動による損傷発生確率が評価された。

図3(左)では、代表的な建築物類型に適用した脆弱性関数の例が示されている。

UNDRR

 

インフラ分野別の被害額

インフラ分野別の推計被害額は以下のとおりである。

分野 被害額(10億米ドル)
水道・衛生 1.6
通信 5.0
道路・鉄道 2.1
エネルギー 3.1
港湾・空港 0.3
石油・ガス 1.0

 

通信分野の被害額は約50億米ドルで最も大きく、次いでエネルギー分野が約31億米ドル、道路・鉄道分野が約21億米ドル、水道・衛生分野が約16億米ドル、石油・ガス分野が約10億米ドル、港湾・空港分野が約3億米ドルと推計された。

図5は、建築物およびインフラの推計被害額を自治体単位で集計した結果を示しており、ベネズエラ北部に被害が集中していることを示している。

UNDRR

 

 

方法論上の留意点と限界

国連防災機関(UNDRR)の報告書では、今回の推計結果について、使用したモデルやデータの特性を踏まえて解釈する必要があるとしている。

本評価は、2026年6月24日にベネズエラで発生したMW7.2およびMW7.5の地震による建築物とインフラの直接的な物的被害を迅速に把握するための初期推計であり、地域ごとの被害分布や個々の施設の被害状況を正確に再現することを目的としたものではない。

エクスポージャーモデルの制約

報告書では、建築物の評価に用いた世界災害リスク評価2015(GAR15)のエクスポージャーモデルは、全国および地域規模で建築資産の分布を一貫した手法で表現する一方、個々の建築物の正確な位置を再現するものではないとしている。そのため、推計結果は集計レベルで解釈する必要があり、特定地点における個別の被害状況を示すものではない。

また、建築物およびインフラの資産価値は、資本ストック、生産資本および各種国際データを用いた世界共通のエクスポージャーモデルに基づいて推計されており、各国の実際の資産台帳と完全に一致するものではない可能性がある。

地震ハザード評価の制約

報告書では、地震動の評価において、Vs30パラメータから推定した地盤増幅係数を用い、軟弱地盤や地形条件による地震動の増幅効果を近似的に考慮したとしている。

一方で、地盤の液状化現象は解析に明示的に組み込まれておらず、カラカス(Caracas)で整備されている詳細な地震マイクロゾーニングの結果についても評価には反映していない。

 

推計結果の位置付け

今回公表された国連防災機関(UNDRR)の報告書では、約370億米ドルと推計された被害額は、建築物およびインフラの直接的な物的被害のみを対象とした初期推計値として位置付けている。

この推計には、間接的な経済損失、生産活動や各種サービスの停止による影響、緊急対応費用、サプライチェーンへの影響、社会・環境・マクロ経済への影響、さらに復旧、耐震補強および再建に必要な費用は含まれていない。そのため、地震による経済的影響の総額は、今回推計された約370億米ドルを上回る可能性があるとしている。

また、報告書では、今回示した被害額や被害率は、災害発生直後の状況把握を目的とした初期被害評価の指標として活用されることを想定している。

#UNDRR

 

参考資料:

1. Analytical Estimate of Damages Caused by the June 24, 2026 Earthquakes in Venezuela 

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