エクアドル:元大統領モレノをめぐるシノハイドロ事件 公判終了、裁判所が判決検討へ

(Photo:EL UNIVERSO)

エクアドルの元大統領レニン・モレノ(Lenín Moreno)をめぐる汚職疑惑「シノハイドロ事件(Caso Sinohydro)」の公判は、2026年7月10日に最終弁論を終えて終了した。現在、エクアドル国家司法裁判所(Corte Nacional de Justicia:CNJ)の裁判官らは評議に入り、提出された証拠や検察側、弁護側双方の主張を踏まえて判決を検討している。判決の具体的な言い渡し期限は設定されていない。

シノハイドロ事件は、中国企業シノハイドロ(Sinohydro)が、エクアドル最大級の水力発電所の一つであるコカ・コド・シンクレア水力発電所(Coca Codo Sinclair)の建設契約を獲得する過程で、賄賂が支払われたとされる贈収賄事件である。エクアドル検察庁(Fiscalía General del Estado)は、2008年から2018年にかけて、公務員や民間関係者による汚職組織が形成され、シノハイドロに契約上の利益を与える見返りとして違法資金が流れたと主張している。検察によると、賄賂の総額は7600万米ドルを超え、モレノ元大統領とその家族が資金の受益者だったとして起訴された。一方、モレノ元大統領側は疑惑を全面的に否定している。弁護側は、モレノ元大統領には同発電所建設契約の締結や資金調達を行う権限がなく、契約手続きにも関与していなかったと主張している。

 

2026年5月11日、公判開始

シノハイドロ事件の公判は、2026年5月11日にキトのエクアドル国家司法裁判所(CNJ)で始まった。モレノ元大統領は2017年から2021年までエクアドル大統領を務めた人物である。今回の事件では、ラファエル・コレア(Rafael Correa)政権(2007~2017年)で副大統領を務めていた時期に発生したとされる犯罪について起訴されている。なお、モレノ元大統領は大統領就任後、コレア元大統領との関係を断絶していた。

公判初日には、モレノ元大統領と妻ロシオ・ゴンサレス(Rocío González)がキトのエクアドル国家司法裁判所(CNJ)に出廷した。モレノ元大統領は、パラグアイで5年間生活した後、裁判に出席するためエクアドルへ戻った。記者からパラグアイへ戻る予定について質問された際には、「私はここに残る」と述べた。また、自身への告発については「コレア元大統領による復讐」であると主張したが、その理由や詳細については説明しなかった。

公判では、検察側と弁護側双方の主張、証拠調べ、最終弁論が順次行われ、31日間にわたる審理が続いた。

 

コカ・コド・シンクレア水力発電所をめぐる疑惑

シノハイドロ事件の舞台となったコカ・コド・シンクレア水力発電所は、ラファエル・コレア政権の主要事業の一つとして進められた。シノハイドロは2010年に同発電所の建設を開始した。事業費は約20億米ドルで、発電所は2016年に完成した。一方で、発電所は稼働開始当初から構造上の問題が指摘されていた。

検察は、シノハイドロが建設契約を獲得するため、工事費の4%に相当する金額を支払ったと主張している。その総額は7600万米ドルを超えるとしている。検察によると、2008年から2018年にかけて形成された汚職組織は、シノハイドロに利益を与える見返りとして違法資金を受け取り、国内外で資金移動を行っていた。事件全体では21人が関与したとされている。

検察は、モレノ元大統領が契約交付に影響力を行使したとして、事件の直接実行者の一人に位置付けている。また、モレノ元大統領の妻、娘、2人の兄弟、義理の兄弟については、利益を受け取り、支払いの隠蔽に協力したとして共犯者に位置付けている。

 

「契約締結や資金調達に関与する権限はなかった」

レニン・モレノ元大統領の弁護側は、シノハイドロ事件における検察の主張を否定し、モレノ元大統領がコカ・コド・シンクレア水力発電所の建設契約に関与していなかったと主張している。弁護士ダビド・メサ(David Meza)は、モレノ元大統領には同発電所建設に関する契約締結や資金調達を行う権限がなかったと説明した。メサは、モレノ元大統領がラファエル・コレア政権で担当していたのは社会開発分野であり、エネルギー部門やコカ・コド・シンクレア水力発電所の建設事業とは関係がなかったと主張した。また、モレノ元大統領は契約書に署名しておらず、資金調達を求める立場にもなかったとしている。さらに、国営電力会社(Corporación Eléctrica del Ecuador:Celec)を管轄していなかったため、同社職員の任命や事業運営にも関与できなかったと説明した。弁護側は、モレノ元大統領がコカ・コド・シンクレア水力発電所の契約手続きにおいて、いかなる段階でも積極的な関与をしていなかったと改めて主張している。

弁護側は、元エネルギー相アレクシー・モスケラ(Alecksey Mosquera)の証言にも言及した。メサは、モスケラ元エネルギー相が、資金調達を求めたのはラファエル・コレア元大統領だったと述べていると主張した。弁護側は、この証言がモレノ元大統領とコカ・コド・シンクレア水力発電所事業との関係を否定する材料になるとしている。また、上述の通りモレノ元大統領には国営電力会社(Celec)を管理する権限がなく、同社の人事や事業運営にも影響力を持っていなかったと説明した。

モレノ元大統領は、自身と家族に対する疑惑を否定している。その上で、汚職に関する責任は、自身の後任の副大統領であるホルヘ・グラス(Jorge Glas)元副大統領(2013~2017年)にあると主張している。モレノ元大統領は、グラス元副大統領がラファエル・コレア政権時代に戦略分野を担当していたとしている。なお、グラス元副大統領は、別の汚職事件に関する2件の有罪判決により服役中である。

 

最終段階へ進んだ公判

シノハイドロ事件では、モレノ元大統領がコカ・コド・シンクレア水力発電所の契約獲得にどの程度関与したかが主な争点となった。検察は、モレノ元大統領が大統領または政権内での影響力を利用し、シノハイドロに契約上の利益を与えたと主張している。これに対し、弁護側は、モレノ元大統領には契約手続きに介入する法的権限がなく、契約書への署名や資金調達への関与もなかったとしている。双方の主張は、モレノ元大統領が同事業に対して実際にどの程度の影響力を持っていたかという点で対立している。

2026年5月11日に始まったシノハイドロ事件の公判では、検察側の冒頭陳述に続き、被告側の主張、証拠調べが進められ、同年7月9日、第30回公判では最終弁論が行われた。この日の審理はキトのエクアドル国家司法裁判所(CNJ)で行われ、モレノ元大統領は妻ロシオ・ゴンサレスおよび弁護団とともに出席した。

午前の審理では、モレノ元大統領の弁護士ダビド・メサが検察の主張を否定し、モレノ元大統領、その妻、娘について無罪が認められるべきだと主張した。メサは、検察の主張について「論理的な誤りが明らかになった」と述べ、改めてモレノ元大統領が契約手続きに関与する立場ではなかったと説明した。

審理途中には休止が入り、公判は14時45分に再開された。その後、弁護側は最終弁論を継続した。モレノ元大統領側以外の被告の弁護団も最終弁論を行い、検察の主張に反論した。弁護側は、裁判所が提出された証拠を十分に分析した上で判断を示すよう求めた。

 

検察は懲役6年6か月を求刑、追加制裁も要求

7月10日、エクアドル検察庁は、シノハイドロ事件の被告らに対して懲役6年6か月を求刑した。さらに、カルロス・アラルコン(Carlos Alarcón)検事総長代行は、最終弁論で贈収賄罪の直接実行者7人について同じ刑を求めた。

対象者には、レニン・モレノ元大統領のほか、実業家コンテ・パティニョ(Conto Patiño)、元駐エクアドル中国大使蔡栄国(Cai Runguo)、コカシンクレアEP(CocaSinclair EP)の元管理責任者ルチアノ・セペダ(Luciano Cepeda)とエンリ・ガラルサ(Henry Galarza)、シノハイドロ幹部ヤン・ホイジュ(Yan Huiju)、ソン・ドンション(Song Dongsheng)が含まれる。

検察は、これらの人物がコカ・コド・シンクレア水力発電所の建設契約をめぐる贈収賄行為の直接実行者であると主張している。また、モレノ元大統領やコンテ・パティニョの家族など、共犯者とされる人物については、直接実行者に科される刑の3分の1または2分の1に相当する刑を適用するよう求めた。

賠償、罰金、公職資格停止などを要求

検察は、禁錮刑に加えて複数の制裁措置を裁判所に求めている。その一つが国家への賠償である。検察は、賄賂総額とされる7600万米ドル超を基準として、国家への完全な賠償を行うよう求めた。賠償額については、有罪判決を受けた者の間で分担させる案を示した。

また、エクアドル包括刑法典(Código Orgánico Integral Penal:COIP)に基づき、5784米ドルから9640米ドルの罰金を科すよう求めた。

さらに、公務員である被告については、国家公職に就く資格の停止を求めた。この資格停止は、禁錮刑の終了後に適用されるとしている。加えて、すべての被告について政治参加権の停止も求めた。

検察はそのほか、被告らによる公式謝罪と、コカ・コド・シンクレア水力発電所施設内への反汚職銘板の設置も提案した。

 

公判終了、裁判官が評議へ

7月10日、シノハイドロ事件の最終弁論が終了し、エクアドル国家司法裁判所(CNJ)で行われていた公判は終了した。裁判官らはその後、評議に入り、提出された証拠や検察側、弁護側双方の主張を検討している。なお、裁判所は判決を示す具体的な期限を設定していない。

今回の裁判では、2026年5月11日の公判開始以降、検察による事件の説明、被告側の反論、証拠の審査、最終弁論が行われた。審理期間は31日間に及び、シノハイドロがコカ・コド・シンクレア水力発電所の建設契約を獲得する過程で贈収賄行為が存在したかどうかが争点となった。

検察は、2008年から2018年にかけて、シノハイドロに契約上の利益を与えるための汚職組織が存在したと主張している。検察によると、その過程で契約額の4%に相当する7600万米ドル超の資金が賄賂として支払われ、公務員や民間関係者に分配されたとしている。また、検察はモレノ元大統領とその家族が、この資金の受益者だったと主張している。

一方、弁護側は、モレノ元大統領には事業契約を決定する権限がなく、契約締結や資金調達にも関与していなかったとして無罪を求めている。裁判所は今後、検察側が提示した証拠や主張、被告側による反論を検討した上で判断を示すことになる。

 

検察、有罪判決を支える証拠を提出

7月15日、エクアドル検察庁のカルロス・アラルコン検事は、31日間に及んだ公判で有罪判決を支えるための十分な証拠を提出したと主張した。アラルコンは同日、ラジオEXAのインタビューで、予備捜査および検察捜査で収集した証拠を裁判所に提出したと説明した。

アラルコンによると、起訴対象には贈収賄罪の直接実行者および共犯者として20人が含まれている。ただし、実業家コンテ・パティニョの孫娘プリシラ・ブルネオ(Priscila Burneo)は対象から除外された。

アラルコンは、モレノ元大統領が契約書そのものには署名していないことを認めた上で、副大統領在任中にコカ・コド・シンクレア水力発電所の建設に関連し、中国政府関係者との初期段階の接触に関与したと主張した。また、検察が提出した証拠として、証言資料、パナマからの国際刑事共助によって取得した資料、賄賂資金が流れたとされる口座情報、公務員と民間人の間で行われた贈収賄に関する資料を挙げた。アラルコンは、シノハイドロ事件では「能動的贈収賄」と「受動的贈収賄」の双方が存在すると説明した。

さらに、エクアドル憲法第233条について、公務員だけでなく、行政に対する犯罪に関与した第三者も責任を問われる可能性があると説明した。その上で、公務員である「内部関係者(intraneus)」と、犯罪構造に関与した民間人である「外部関係者(extraneus)」の双方が対象になると述べた。

検察が提出した証拠

アラルコンによると、検察は公判で以下の証拠を提出した。

  • 少なくとも29件の技術鑑定
  • 20件から30件の証言
  • 疑われる汚職構造を示す約90件の文書

また、約7400万米ドルが複数の口座を通じて移動したとされる資金追跡についても説明した。

検察は、資金の流れについて、入金記録、関連企業、金融取引の履歴などを分析したとしている。証拠の一部は、パナマや米国などに要請した国際刑事共助によって取得されたものであり、検察は裁判手続きにおける証拠価値を持つと主張した。アラルコンは、被告らが贈収賄罪の直接実行者または共犯者として起訴されていると説明し、刑事裁判所による判断を期待すると述べた。

 

アラルコン、脅迫を受けたと説明

アラルコンは、自身や法務部門の職員が、シノハイドロ事件の審理終了後に脅迫や威圧行為を受けたと述べた。同氏は、国内外の電話番号から届いたメッセージを保有しており、すでに告発を提出したと説明した。また、ある州検察官についても、シノハイドロ事件を捜査していることを理由に脅迫の電話を受けたと述べた。

アラルコンは、シノハイドロ事件以外の進行中の事件についても言及した。その中には、2026年7月18日と19日に公判が再開される予定のトリプルA事件(Caso Triple A)や、公判開始準備段階にあるゴレアダ事件(Caso Goleada)が含まれる。また、現大統領ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)率いる国民民主行動(Acción Democrática Nacional:ADN)の市議会議員候補フェルナンド・ビジャロエル(Fernando Villarroel)が、グアヤキル市長アキレス・アルバレス(Aquiles Álvarez)を批判するパロディ動画をエクアドル検察庁(Fiscalía General del Estado)のXアカウントから共有した問題についても説明した。

アラルコンは、検察庁のXアカウントへアクセスして動画をリポストした人物の特定を進めていると述べた。同氏は、アクセス元のIPアドレスを確認しており、内部関係者か外部者かを問わず、責任者を特定すると説明した。

Photo:Fiscalía General del Estado.

 

エクアドルで続く元大統領をめぐる汚職事件

エクアドルでは、汚職事件に関与したとされる元大統領はモレノ元大統領だけではない。

ラファエル・コレア元大統領は、ブラジル建設大手オデブレヒト(Odebrecht)をめぐる贈賄事件「オデブレヒト事件(Caso Odebrecht)」で、2018年に収賄罪により懲役8年の判決を受けた。コレア元大統領は現在も有罪判決を受けた状態で、ベルギーに居住している。

また、1998年から2000年まで大統領を務めたハミル・マワド(Jamil Mahuad)元大統領は、公金の不正使用で有罪判決を受け、現在は米国に居住している。

さらに、1996年から1997年まで大統領を務めたアブダラ・ブカラム(Abdalá Bucaram)元大統領も、公金に関する疑惑をめぐり司法手続きの対象となった。ブカラム元大統領は10年以上にわたりパナマで亡命生活を送った後、司法手続きの時効成立によりエクアドルへ帰国した。

#JorgeGlas #LenínMoreno #CocaCodoSinclair

 

参考資料:

1. Inicia juicio contra expresidente ecuatoriano Lenín Moreno por presunta corrupción
2. Lenín Moreno llegó a la Corte Nacional de Justicia para juicio del caso Sinohydro
3. Caso Sinohydro: juicio entra en su fase final y defensa de Moreno insiste en que el expresidente “no firmó ningún contrato”
4. Fiscalía solicita seis años y medio de cárcel para Lenín Moreno por el delito de cohecho
5. Defensa de Lenín Moreno desestima acusación de Fiscalía en Caso Sinohydro
6. Caso Sinohydro: Fiscal habla de “pruebas contundentes” contra Lenín Moreno en juicio por cohecho

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