(Photo:Rodrigo Abd y Martín Mejía / AP)
ペルーでは6月7日に実施される大統領選挙決選投票を前に、保守派のケイコ・フジモリ(Keiko Fujimori)と左派のロベルト・サンチェス(Roberto Sánchez)がそれぞれ最後の選挙活動を行っている。
両候補は当初、経済運営の方針において対極に位置していたが、選挙戦終盤にかけて政策姿勢を調整する動きが報告されている。
フジモリは民間投資を基盤とした持続的成長を重視し、父であるアルベルト・フジモリ(Alberto Fujimori)元大統領(1990年〜2000年)の政策実績を強調している。インフレ抑制や国際経済との関係正常化を進めた経済運営を評価する立場である。
一方、サンチェスは元来の左派的立場からより穏健な政策姿勢へと調整し、中道層の支持獲得を意識した発言を増やしている。
両候補とも教育支援、年金、補助金、公共事業などの拡充策を掲げており、選挙戦では多様な給付政策が公約として提示されている。
主要な政策対立点
両者の主な相違点は、投資環境の扱い、大企業への課税方針、国営石油企業ペトロペルー(Petroperú)の将来方針に集中している。
フジモリは市場経済の枠組み維持を重視する姿勢を示している一方、サンチェスは国家の関与強化を重視する立場を維持している。
今回の選挙戦では、経済政策の対立軸が縮小しつつある一方で、政治運営や国家介入の範囲をめぐる調整が進んでいる状況である。
フジモリの経済運営方針
フジモリは民間投資を基盤とした成長戦略を掲げている。経済財政政策の方向性としてルイス・カランサ(Luis Carranza)を経済財務相に起用する方針を示し、成長率6%の達成目標を掲げている。
また、民間投資の拡大、民間契約の尊重、ペルー中央準備銀行(Banco Central de Reserva del Perú)の独立性維持、国内総生産(GDP)比1%の財政赤字管理を重視する立場である。
インフラ政策では、リマで4路線の地下鉄建設を進めるほか、アレキパ(Arequipa)、トルヒージョ(Trujillo)、ピウラ(Piura)でも3路線の整備を計画している。さらに主要港湾の約70%の近代化を進め、鉱業プロジェクトの少なくとも80%を陸上および港湾の物流回廊に接続する方針を示している。
また農産品輸出企業への税制優遇措置の維持を支持している。アスパラガス、ブルーベリー、ブドウなどの輸出産業は約43万人の雇用を支えているとされる。
サンチェスの経済運営方針
サンチェスは新自由主義経済に対して批判的立場を維持し、「市場の神聖化」と表現して経済構造の転換を主張している。資源管理の強化や貿易協定および投資契約の見直しを含む憲法改正のための制憲議会設置を提案している。
経済チームにはペドロ・フランケ(Pedro Francke)元閣僚が参加しており、選挙戦終盤にかけてメッセージの調整が進められている。陣営は民間財産権および契約の尊重を明言しつつ、企業活動における社会的責任および環境配慮を重視する姿勢を示している。
最低賃金については現行の月額1130ソルから1500ソルへの引き上げを提案している。また大企業への税制改革を掲げ、農産品輸出企業への税制優遇措置について年間最大200億ソル規模の税収機会が失われたと主張している。
燃料政策では燃料価格安定化基金(Fondo de Estabilización de Precios de los Combustibles)の活用を提案しているが、財政負担の増加が懸念されている。
中央銀行政策
ペルー中央準備銀行(Banco Central de Reserva del Perú)総裁フリオ・ベラルデ(Julio Velarde)の続投をめぐる議論も焦点となっている。
ベラルデ総裁は2006年以降在任し、複数政権下で低インフレ維持に寄与したと評価されている。
フジモリは続投支持を明確にしている。一方、サンチェスは当初交代に言及していたが、その後の討論会で続投支持へと姿勢を修正した。ただし中央銀行の独立性は尊重する立場を維持している。
ドル上昇、株式市場は約5%下落
Bloomberg Líneaを通じてカルロス・ロドリゲス・サルセド(Carlos Rodríguez Salcedo)は2026年6月5日15時15分、ペルーの金融市場で大きな変動が発生していると報じた。ペルーでは大統領選挙決選投票を目前に控え、外国為替市場および株式市場で大きな変動が発生した。米ドルは上昇し、ペルーの株式市場は約5%下落した。
米ドルは対ペルー・ソルで1.82%上昇し、1ドル=3.47ソルとなった。これは約1か月ぶりの高値水準である。一方、ペルー株式市場は4月以来最大の下落幅を記録した。
今回の動きは米国の雇用統計を受けたドル高の流れとも連動している。米国では5月の雇用者数が17万2000人増加し、市場予想の8万5000人を上回った。これにより米ドル指数(U.S. Dollar Index:DXY)は100ポイントに達し、3月以来の高水準となった。
市場関係者は、米国経済の堅調さがドル需要を押し上げていると分析している。また、世界的な商品価格の下落も重なり、ドル高圧力が強まっていると指摘されている。
一方、投資家の焦点はペルー国内の政治情勢にも向けられている。外国為替戦略部門であるBBVA FXストラテジー(BBVA FX Strategy)は、今回の選挙を契機にペルー資産が二極化した反応を示す可能性があると分析している。
市場ではケイコ・フジモリが経済政策の現状維持に近い候補とみなされている一方、ロベルト・サンチェスは政策の不確実性を高める可能性がある候補として評価されている。
証券会社Renta4のアナリストであるセサル・ウイマン(César Huiman)は、直近数週間でフジモリの勝利確率が市場で織り込まれてきたと指摘している。その影響によりペルー・ソルは緩やかに上昇し、資産市場も改善していたという。
しかし選挙が接近する中で不確実性が高まり、投資家はポジション調整を進めているとされる。また、選挙結果の確定に時間がかかる可能性も市場心理を悪化させている。
ウイマンは、次週の為替レートについて1ドル=3.38〜3.50ソルの範囲で推移する可能性があると予測している。さらにフジモリが勝利した場合、ソルは下限に近づく可能性があると分析している。
一方、サンチェスが勝利した場合には短期的に慎重な反応となり、為替は3.48〜3.50ソル付近へ向かう可能性があるとされている。
BBVA FXストラテジーも同様に、為替は3.30〜3.70ソルのレンジで変動し得るとし、急変動時には中央銀行が介入する可能性があると指摘している。
最終集会
ペルーでは6月7日に実施される大統領選挙決選投票を前に、保守派のケイコ・フジモリ(Keiko Fujimori)と左派のロベルト・サンチェス(Roberto Sánchez)が首都リマでそれぞれ最終集会を開き、支持を訴えた。選挙戦は治安悪化と政治不安定を主要争点とし、犯罪増加と政治的混乱への不満を背景に接戦となっている。
治安問題は今回の選挙の最大の争点となっている。複数の世論調査では、殺人や恐喝などの犯罪増加が有権者の最も重要な関心事項とされる。専門家は、アンデス地域およびアマゾン地域における違法金採掘が組織犯罪の資金源となり、2025年には違法金輸出が約100トンに達し、合法輸出と同水準に拡大していると指摘している。
こうした治安悪化を背景に、支持構造にも明確な分断が生じている。ケイコ・フジモリをアルベルト・フジモリ(Alberto Fujimori)元大統領の統治路線を継承する存在とみる見方がある一方で、国家機関の弱体化や犯罪組織拡大への対応をめぐり評価は分かれている。
アルベルト・フジモリ元大統領は1990年から2000年まで政権を担い、左翼武装勢力の掃討や経済安定化で評価される一方、人権侵害および汚職により有罪判決を受けている。
ケイコ・フジモリは集会で「この選挙は国家の進路を選ぶものである」と述べ、国民に対し「団結に向かうのか、それとも憎悪や侮辱、復讐にとどまるのかが問われている」と強調した。その上で、自身の陣営を「進歩と和解を代表する勢力」と位置づけ、対立候補を分断をもたらす存在であると批判した。
さらに政治的対立の長期化に言及し、「過去数十年、国は傷の中にとどまってきた」と述べた上で、対話と合意形成の重要性を訴えた。有権者に対しては差異を超えた判断を求め、「国家の未来のための決断」であると位置づけた。
一方、ロベルト・サンチェスはリマ中心部のカンポ・デ・マルテ(Campo de Marte)で集会を開き、当選した場合には権力の均衡回復を進める方針を示した。2016年以降に相次いだ大統領罷免による政治不安定を批判し、「混乱」と「民主主義の崩壊」を招いたと主張した。
また前大統領ペドロ・カスティジョ(Pedro Castillo)の支持を明確にし、制憲議会の設置を通じた国家構造の再編を提案した。その上で「主権を持つ国民国家」の確立と「混乱の終結」を訴えた。
さらにサンチェスは、ケイコ・フジモリが秩序の象徴として自己を提示していると指摘しつつ、その政党である国民勢力党(Fuerza Popular)が治安悪化につながる制度運営や特定企業への税制優遇を進めてきたと批判した。集会では「フジモリ主義と腐敗に反対する」と述べ、「貧しくても腐敗していない国家」を掲げた。
サンチェスはさらに、貧困層および地方の有権者を重視し、既存のエリート層と議会構造が政治不安の要因であると批判した上で、「混乱、殺人、腐敗、免責の終結」を訴えた。
サンチェスは複数の元大統領候補からの支持を受けており、選挙終盤に向けて中道層および未決定票の取り込みを図っている。
世論調査
6月7日の決選投票直前においても、今回選挙が事実上の拮抗状態にあるとされている。選挙戦は治安悪化と政治的不安定を主要争点として進んでおり、世論調査でも極めて接戦の構図が示されている。
投票1週間前から世論調査の公表が禁止される中、調査会社イプソス(Ipsos)が顧客向けに実施した調査では、サンチェスの支持率は43.8%、フジモリは43.2%で、その差は0.6ポイントにとどまった。この差は誤差範囲内(2.5%)に収まっており、統計的には「技術的同率(empate técnico)」とされる。
さらに無効票は6.4%、未定票は6.6%となっており、有効票換算ではサンチェス50.3%、フジモリ49.7%と、ほぼ同水準の競り合いが続いている。
今回の選挙は、過去2回の大統領選と同様に僅差で決着する可能性が指摘されている。2016年にはペドロ・パブロ・クチンスキ(Pedro Pablo Kuczynski)が、2021年にはペドロ・カスティジョがいずれもフジモリ陣営をわずか約4万票差で破った経緯がある。
また今回の選挙では、選挙管理体制そのものへの信頼も課題となっている。第1回投票では投票物資の配送遅延や一部地域での投票日再調整が発生し、集計の遅延や不正疑惑の主張も見られた。このため当局は投票用紙配送の新規委託やリスク管理委員会の設置など、対策を強化している。
選挙管理を担う国家選挙プロセス事務所(Oficina Nacional de Procesos Electorales:ONPE)は暫定集計を行うものの、最終結果の確定には約1か月を要する可能性があるとされる。国家選挙審議会(Jurado Nacional de Elecciones:JNE)のロベルト・ブルネオ(Roberto Burneo)議長も、異議申し立てや集計作業量によって確定時期が変動し得ると説明している。
ペルーは政治的不安定や治安悪化にもかかわらず、経済面では比較的安定が維持されている。ペルー経済省によれば、犯罪による経済損失は年間約50億ドルに達すると推計されている一方、同国は世界第2位の銅生産国として2024年および2025年に3%超の成長を維持している。
経済政策では両候補の方向性は対照的である。フジモリは民間投資と財産権保護を重視する新自由主義的な路線を基軸とし、米国との関係強化や対米投資の誘致を掲げている。
一方サンチェスは既存契約の尊重を前提としつつも、鉱業契約の見直し、最低賃金の引き上げ、憲法改正を提案している。また中国と米国双方との関係維持を前提にしながら、資源収益の再分配や環境保護の強化を重視する姿勢を示している。
外交面でも、フジモリが対米関係強化を軸とするのに対し、サンチェスは多極的な関係維持を志向している。
選挙終盤では未定票が約2割を占めており、どちらの候補も支持の上積みが勝敗を左右する状況となっている。第1回投票で多数の候補が乱立したことは、政治不信の強さを反映する結果となった。
ペルーでは過去10年で8人の大統領が交代しており、今回の選挙も深刻な政治的分断の中で実施される。約2700万人の有権者が参加する決選投票は、僅差の結果と長期化する集計プロセスが重なる可能性がある。
#ペルー大統領選挙2026 #KeikoFujimori #RobertoSánchez
参考資料:
1. El dólar subió con fuerza y la bolsa de Perú cayó casi 5% en la antesala de elecciones
2. Peru Presidential candidates make final pitch in tight, crime-driven race
3. Fujimori y Sánchez, de las antípodas en economía a aproximarse para ganar elección en Perú
4. Fujimori y Sánchez cierran sus campañas mientras Perú se dirige a un balotaje con posible empate técnico





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