(Photo:Tony KARUMBA / AFP)
2024年から2026年にかけて、ケニアを中心に、生きたアリを中国や欧州へ不正に持ち出そうとする事件が相次いで摘発されている。対象となっているのは数百匹から数千匹規模のアリで、その多くは高値で取引される女王アリだった。
密輸には、ベルギー人、ベトナム人、ケニア人、中国人などが関与しており、国際的な密輸組織の存在も指摘されている。空港では、注射器、試験管、特殊カートリッジ、紙束、ティッシュロールなどを利用した隠匿手法が確認されている。
女王アリは「高級ペット」
背景にあるのは、中国、アメリカ、欧州で拡大する「ペットアリ」需要である。
愛好家たちは透明なケース内でコロニー形成を観察し、女王アリを中心に繁殖を楽しむ。こうした市場では、女王アリ1匹が最大220ドル(約3万5000円)で取引される場合もあり、「ほぼコカイン並みの価値」と表現されることもある。
特に高値で取引される種として、メッサー・セファロテス(Messor cephalotes)や収穫アリが挙げられている。
2025年 ベルギー人少年2人が有罪
2025年5月7日、ケニアでベルギー人の若者2人が野生生物保護法違反で有罪判決を受けた。
2人は約5000匹の生きたアリを国外へ持ち出そうとしていた。アリは小型ケースに入れられていたという。
裁判所は7700ドル(約120万円)の罰金、または懲役1年を言い渡した。
同時期には、約400匹のアリを所持していたとして、ベトナム人男性とケニア人男性も裁判にかけられた。ベトナム人男性は「アリを集めるためにケニアへ派遣された」と説明したと報じられている。
イギリス紙「インディペンデント(The Independent)」は、ケニア検察当局が押収されたアフリカオオアリの女王アリについて、約120万ケニアシリング(約80万円)の価値があると推定したと報道した。
一方、ロイター通信(Reuters)は、種類と数量によっては、欧州到着時の価値が100万ドル(約1億5000万円)に達する可能性があると伝えている。
2026年 中国人男性が2200匹密輸未遂
2026年4月15日、ケニア・ナイロビの裁判所は、中国人男性の張克群(Zhang Kequn)被告に対し、アリ約2200匹を密輸しようとした罪で有罪判決を下した。
張被告は、ナイロビのジョモ・ケニヤッタ国際空港で逮捕された。荷物からは2200匹以上のアリが発見され、そのうち1948匹は高値で取引されるメッサー・セファロテスだった。
アリは特殊カートリッジや試験管に入れられていたほか、約300匹はティッシュペーパー3ロールの中に隠されていた。
ケニア当局によれば、アリは中国へ送られる予定だった。
張被告は当初、無許可の野生動物取引と共謀の罪でも起訴されていた。この罪では最大7年の拘禁刑が科される可能性があったが、後に取り下げられたため、有罪を認めた。
判事は、張被告について「反省の色がなく、完全に誠実な人物とは言えない」と指摘した。
裁判所は7700ドル(約122万円)の罰金を命じ、2週間の控訴期間後に1年の拘禁刑に処すとした。出所後は中国へ送還される予定となっている。
ケニア野生生物局(Kenya Wildlife Service)は、張被告が2025年5月の密輸未遂事件にも関与していた可能性があるとみている。また、別のパスポートを使用して国外へ逃亡した疑いも調査対象となっている。
中国市場での需要拡大
香港紙「サウスチャイナ・モーニング・ポスト(South China Morning Post)」によれば、2025年だけでケニア当局は少なくとも5件の類似事件を摘発した。
同紙は、ケニア裁判所の記録を引用し、収穫アリが中国などの国際市場で1匹約100ドル(約1万6000円)で取引されていると報じている。
イギリスのアングリア・ラスキン大学(Anglia Ruskin University)のアンガス・ナース(Angus Nurse)教授は、次のように指摘した。
「厳格な法執行で他の魅力的な種の密輸が難しくなり、危険負担は小さいながらも収益が良い昆虫に移っている」
さらに同教授は、関係当局による強力な取り締まりの必要性を強調した。
中国では、アリが伝統医学に利用される側面もある。ヒアリは関節痛、心脳血管疾患、気管支炎などに効果があると考えられており、中国国内で需要が集中する背景の一つとされている。
生態系への影響
ケニア当局が問題視しているのは、密輸そのものだけではない。
アリは土壌を耕し、種子を運び、栄養循環を支え、害虫数を抑制するなど、生態系において重要な役割を担っている。
ケニア野生生物局は、ライオンやゾウのような大型動物だけでなく、昆虫類の保護も重要だとしている。
当局は、ナイロビ以外の都市も密輸ルートとして利用されている可能性があるとみており、国内全域で密輸組織の摘発を進める方針を示した。
熱帯地域でのアリ観
一方で、アリに対する地域住民の認識は大きく異なる。
熱帯地域では、アリは砂糖、米、牛乳、タンパク質食品などに群がる害虫として嫌われている。泥棒アリ、砂糖アリ、大型アリなどが生活空間へ侵入し、人々は日常的に駆除を試みている。
木の上に巣を作るアカアリは強い痛みを伴う刺傷を与えることで知られる。また、大型の黒アリは鋏状の大顎で強く噛みつくという。
一部地域では、ハキリアリの巣や葉の巣を専門に採取する者もおり、森や林に残る巣を徹底的に採集している。環境への影響を考慮せず採集が続けば、一部種の絶滅につながる可能性も指摘されている。
アリ研究と未知の能力
アリの行動研究も進められている。
ゴーストアリ(Ghost Ant)、ファラオアリ(Pharaoh Ant)、泥棒アリ、砂糖アリなどは、冬に備えて食料を蓄える習性を持つ。
また、洪水接近を人間より早く察知すると考えられているほか、地震の前兆を感知できると主張する研究者もいる。
小さな昆虫でありながら、高い組織性や環境感知能力を持つ点が注目されている。
参考資料:
1. Smuggling of ants and strange human hobbies
2. ケニアから高額取引のアリ2200匹を密輸、中国人男に有罪判決

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