エクアドルで、先住民運動指導者に対する国家規模の監視活動、潜入工作、司法化の実態が明らかになった。今回明らかになったのは、エクアドル先住民族連盟(Confederación de Nacionalidades Indígenas del Ecuador:CONAIE)の元代表レオニダス・イサ(Leonidas Iza)を対象とした組織的監視、さらには公的資金によって運営される情報機関ネットワークの存在、社会運動内部への潜入、さらには抗議運動指導者に対する刑事訴追の構図である。
不審車両の追跡から始まった事件
事件の発端は、2025年8月18日にエクアドル中部コトパクシ県(Cotopaxi)のサン・イグナシオ(San Ignacio)コミュニティで発生した不審車両事件であった(詳細はこちら)。
同日午後、レオニダス・イサは自宅で作業をしていた際、自宅前を白色のダブルキャブ車両が繰り返し通行し、車内から撮影が行われていることに気付いた。車両は周辺を何度も巡回しており、住宅へカメラを向ける様子も確認されていた。
不審に思ったイサが車両へ近づき事情を問いただそうとしたところ、車両は突然加速して逃走を試みた。地域住民の証言によれば、車内では「彼をひいてしまえ」という声も上がっていたとされ、イサは危うく車にはねられそうになったという。
車両は午後2時30分頃にサン・イグナシオの道路上で停止したことから、周辺住民らが現場へ集まった。住民らが「なぜ撮影していたのか」「何をしに来たのか」と問いただしたところ、乗員3人は当初、「道に迷った」「家畜盗難の調査中だった」「観光で訪れていた」などと説明した。
しかし、説明内容が二転三転したため、コミュニティ側は3人の拘束を継続した。携帯電話の提出を求めた際には3人は拒否したが、もみ合いの中で隠し持っていた複数の端末が発見された。その後、コミュニティは道路を封鎖し、外部への逃走を防いだ。
住民による身元確認の結果、3人はエクアドル国家警察(Policía Nacional del Ecuador:PNE)の情報部門関係者であることが判明した。運転手は当初、アンバト(Ambato)からの配車業務中だったと説明していたが、この説明も後に虚偽であったことが確認された。
翌8月19日、エクアドル国家検察庁(Fiscalía General del Estado:FGE)は声明を発表し、拘束された3人が警察関係者であり、「特定の捜査活動」に関連して現地で行動していたことを認めた。ただし、任務の具体的内容やイサとの関係については明らかにしなかった。
携帯電話解析で判明した監視ネットワーク
先住民司法(Justicia Indígena Comunitaria)の調査手続きの一環として、コミュニティ側は押収した携帯電話の解析を進めた。
その結果、3000件から5000件以上に及ぶWhatsAppおよびSignalのチャット、写真、動画、文書データが発見され、少なくとも2025年8月15日以降、イサに対する継続的監視が行われていたことが明らかになった。さらに、より以前からの監視記録も確認されている。
押収データには、イサを「cuy(モルモット)」という暗号名で呼ぶ記録や、「Asaderos de Cuy(モルモット焼き)」という名称のチャットグループが含まれていた。また、「消す」「失踪させる」など、脅迫的内容を示唆する表現も確認されている。
携帯電話内には、イサの自宅座標、写真、動画、移動経路、会合場所、生活パターン、家族情報なども保存されていた。さらに、他の社会運動指導者、土地権利活動家、環境活動家、学生組織関係者に関する詳細なプロフィールも含まれていた。
警察関係者らは説明を何度も変更している。当初は「イサを保護するため」と主張し、その後は「生命の危険を警告するため」と説明した。最終的には、コミュニティの抗議活動や社会運動の組織化状況を監視していたことを認めたとされる。
社会運動とメディアへの潜入工作
調査では、監視活動が尾行や撮影だけではなく、社会運動やメディア内部への潜入工作にまで及んでいたことも明らかになった。
コミュニティメディアを名乗っていた「ウィラルRTV(Willar RTV)」は、実際には警察による潜入活動の隠れ蓑として利用されていたとされる。
📻 #Entrevistas || Según el dirigente indígena y expresidente de la @CONAIE_Ecuador, @LeonidasIzaEc, se han evidenciado tres tipos de infiltraciones en el movimiento indígena. “De manera directa, en el caso de los medios de comunicación como Wilar RTV, también por la afinidad de… pic.twitter.com/7yVrXj7btg
— Radio Pichincha (@radio_pichincha) August 25, 2025
ホルヘ・グスマン(Jorge Guzmán)は約10年間ジャーナリストを装って活動していたが、実際には警察官であった。また、ホルヘ・メディナ(Jordi Medina)、ルイス・ティグシレマ(Luis Tigsilema)、マシエル・メレンデス(Massiel Meléndez)も、メディア関係者を装った潜入要員であったとされる。
さらに、エクアドル国民議会(Asamblea Nacional del Ecuador)でも、報道関係者として活動していた警察関係者の存在が確認された。ケビン・バレラ(Kevin Barrera)およびフェルナンド・バジェ(Fernando Valle)の名前が挙げられている。
押収されたチャット記録では、社会運動や学生組織、労働組合、反鉱業運動に対する監視も確認された。監視対象には、パスタサのキチュアネーション(Pastaza Kikin Kichwa Runakuna:PAKKIRU)、プロレタリア・ブロック(Bloque Proletario)、クエンカ学生連盟(FEUE-Cuenca)、キト学生連盟(FEUE-Quito)、エクアドル自由労働組織連盟(Confederación Ecuatoriana de Organizaciones Sindicales Libres:CEOLS)、人民権力プラットフォーム(Plataforma por el Poder Popular)、反鉱業全国戦線(Frente Nacional Antiminero)などが含まれていた。
また、チャットには複数の作戦名も記録されていた。「Gran Maito」作戦では、パスタサのキチュアネーション(PAKKIRU)に対する監視と司法化が目的とされ、「Diario El Observador」「Librería」「Atenas」などのコード名も確認されている。
さらに、CONAIE大会への介入を通じ、ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)政権に友好的な指導部を形成しようとする動きも存在していたとされる。
国家諜報システムと公的資金
今回発覚した監視体制は、公的資金と国家インフラによって運営されていた点でも問題視されている。
監視に使用された車両は輸送車両として偽装されていたが、ナンバープレートはエクアドル内務省(Ministerio del Interior:MDI)名義で登録されていた。燃料カードは石油会社プライマックス(Primax)発行のものであり、エクアドル諜報総局(Dirección General de Inteligencia:DGI)名義で支給されていた。
車内からは、諜報関連法のコピー、警察書類、報道用身分証、無線機、先住民司法に関する研修資料、領収書なども発見されている。
関係者の証言によれば、この監視ネットワークは「現場工作員」「分析官」「潜入要員」の三層構造で構成されていた。
現場工作員は、写真・動画撮影や尾行を担当し、対象者の位置情報、会合場所、移動経路、生活実態などを収集していた。分析官は、収集データを整理し、人物相関図や時系列、指導者プロファイルを作成していた。潜入要員は、ジャーナリスト、弁護士、活動家などを装い、社会組織内部へ接触して情報収集を行っていたとされる。
また、拘束された警察関係者らは、自分たちは意思決定者ではなく、上級命令に従う実働部隊であると説明している。監視命令を出した人物として、アロバ大佐(Coronel Arroba)の名前が挙げられている。
コミュニティ側の調査によれば、エクアドル諜報総局(DGI)には約2000人規模の要員が存在し、さらに120人が新規採用段階にあるとされる。
チャット記録からは、「情報提供者(informantes)」として社会組織内部で活動していた協力者の存在も確認された。コミュニティ側は、これらの情報を慎重に扱いながら内部調査を進める方針を示している。
情報法制と監視国家化への懸念
背景には、ノボア政権による情報・治安関連法制の強化がある。
同政権は、司法監督なしで通信傍受、通話履歴取得、位置情報収集を可能にする諜報関連法案を推進していた。法案には、通信事業者に対するデータ提供義務、警察による潜入活動、秘密資金の利用などを認める内容も含まれていた。
しかし、これらの法案については多数の市民訴訟が提起され、現在はエクアドル憲法裁判所(Corte Constitucional del Ecuador:CCEC)によって一時停止されている。
今回の事件は、国家諜報システムが実際に市民監視へ利用されていた可能性を示す事例として受け止められている。
先住民司法による公開審理
2025年8月21日、コトパクシ県プランチャロマ(Planchaloma)で先住民司法の公開審理が実施された。
会場には周辺コミュニティから約600人が集まり、コトパクシ先住民農民運動連盟(Movimiento Indígena y Campesino de Cotopaxi:MICC)関係者、国内外メディア、人権団体関係者が参加した。エクアドル赤十字社(Cruz Roja Ecuatoriana:CRE)およびエクアドルオンブズマン(Defensoría del Pueblo del Ecuador:DPE)の代表者も立ち会った。
審理では、「Ñawinchina」と呼ばれる対面討論形式の手続きが行われ、押収データや証言内容が公開された。
ケビン・グアマンは、監視任務がアロバ大佐から与えられたものであり、情報収集が目的であったと認めた。また、ブライアン・ディアスは、エクアドル諜報総局(DGI)からの情報に基づき、8月15日にイサが自宅にいるか確認するよう命令を受けたと証言した。
両者は、自らは単に命令に従っていただけであると主張した一方、社会運動指導者や土地権利活動家、環境活動家を対象とする監視ネットワークの存在を認めた。
最終的に、コミュニティ側は3人を領域侵入の責任があると判断し、公開謝罪を行わせた後に釈放した。
監視と並行して進む「司法化」
一方、エクアドル政府は監視活動そのものについて十分な説明責任を果たしていない。
むしろ、2025年9月3日には、イサ自身が「誘拐罪」の疑いでエクアドル国家検察庁(FGE)へ出頭し、事情聴取を受けることとなった。これは、コミュニティ側が警察関係者を拘束した件に関連する捜査であった。
さらに、60人以上の社会運動指導者、コミュニケーター、技術者、弁護士らが、「不当利得」「テロ資金供与」「テロリズム」などの容疑で捜査対象となっている。
2025年10月から11月にかけて発生した全国ストライキ後には、イサ自身も「テロリズム」の疑いで告発されたとされる。
国際社会の懸念
国際人権団体フロントライン・ディフェンダーズ(Front Line Defenders:FLD)は、本件について「深い懸念」を表明した。
同団体は、エクアドルにおいて人権擁護者や先住民指導者に対する組織的監視、犯罪化、弾圧が強化されていると指摘している。また、国家の司法制度が社会運動指導者に対しては迅速に機能する一方、彼らが監視や脅迫の被害者となった場合には調査が不十分であり、不処罰状態が続いていると批判した。
さらに、本件は単独事件ではなく、ラテンアメリカ地域全体で進行する国家監視体制強化の一例であり、市民の権利やデジタル安全保障に恒常的リスクをもたらす問題であると警告している。
サン・イグナシオ共同体側は、今回の先住民司法による対応を、「権威主義的国家に対する自治権と領土防衛の実践」であると位置付けている。
#LeonidasIza #DanielNoboa #PAKKIRU #MICC #人権侵害
参考資料:
1. Espionaje estatal contra Leonidas Iza destapó red de infiltración en el movimiento indígena
2. Ecuador: espionaje estatal, persecución y judicialización contra la protesta social en el caso Leónidas Iza




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