(Photo:Radio Pichincha)
スペイン政府は2026年4月14日、閣僚評議会(Consejo de Ministros)において、外国人に関する基本法4/2000に基づく規則改正を定めた国王令(Real Decreto)を承認した。本改正は「社会的緊急事態」と位置付けられ、国内に既に滞在している約50万人の移民を対象に、新たな在留制度「特例的定住(arraigo extraordinario)」を創設するものである。非正規滞在者に対する居住許可および労働許可の付与手続の迅速化を目的とする。
申請制度と運用
申請手続は2026年4月16日から開始され、同日よりオンライン申請および対面申請の予約取得が可能となる。窓口での申請は4月20日以降に開始され、申請期限は6月30日までと定められている。
申請対象は以下の要件を満たす者に限られる。
- 非正規滞在であること
- 2026年1月1日以前からスペイン国内に滞在していること
- 5か月以上の継続居住実績があること
- 犯罪歴がなく、公共秩序および安全保障に対する脅威とみなされないこと
申請手続開始から審査結果が出るまでの間、暫定的に就労が認められる。審査は原則3か月以内に行われ、期限内に回答がない場合は行政不作為(silencio administrativo)として不許可扱いとなる。
申請受付には社会保障制度(Seguridad Social)および郵便事業体コレオス(Correos y Telégrafos de España:Correos)が関与し、全国的な申請支援体制が構築される。政府は約2か月半で全申請処理を完了する方針を示し、申請は原則として受理されるとしている。
行政運用体制
約50万人規模の申請に対応するため、国営企業トラクサ(Tragsa)およびトラクサテック(TRAGSATEC)が書類管理、技術支援、処理補助を担う。ただし法的判断は行政機関の公務員に限定される。
移民担当省は450の窓口設置と600人以上の追加人員投入を行い、既存行政と並行して処理できる体制を整備する。また、問い合わせ窓口として電話番号060が設置され、受付時間は月曜から金曜の9時30分から14時、および16時30分から19時30分までとされている。さらに、公式ウェブサイトおよび専用情報ポータルでも情報提供が行われる。
制度構造(在留枠)
新規則では追加規定第20条および第21条により二つの在留枠が創設された。
- 第20条は国際保護申請中の案件を対象とし、2026年1月1日以前に申請されたものが該当する。
- 第21条は特例的定住(arraigo extraordinario)を規定し、同日以前からスペインに滞在し一定要件を満たす外国人に在留資格を付与する。
なお、庇護申請中の者が本制度による在留資格を取得した場合、既存の国際保護申請を取り下げる必要がある。
政治的背景と政府の説明
スペイン王国首相ペドロ・サンチェス(Pedro Sánchez)は、中国北京市(Beijing)から今回の決定について説明し、道義的および実務的意義を強調した。「既に国内にいる人々に対して権利を認める措置である」と述べたうえで、カトリック教会および経営者団体の支持に言及した。
さらにサンチェスは、経済成長の維持には労働力が不可欠であり、本制度が年金制度を含む将来の社会保障に資するとの認識を示した。
国民に宛てた書簡では、本措置を「正常化の行為(acto de normalización)」と位置付け、高齢者介護、農業、都市部での起業など、既に社会に貢献している人々を正式に承認するものだと説明した。また、「これは単なる正義ではなく必要性である」と述べ、移民が医療や教育など公共サービス維持に不可欠であると強調した。
さらに、過去により良い生活を求めて海外へ移住したスペイン人世代に言及し、本措置は歴史に対する正義でもあるとした。その上で、排外的言説に警鐘を鳴らし、「正義と共有された繁栄」の観点から移民を管理する必要性を訴えた。
野党の反発と法的論争
本制度は国王令(Real Decreto)によって承認されたことから、政治的論争を引き起こしている。政府は社会的緊急性を理由に迅速な対応を優先したと説明する一方、議会関係者からは審議回避との批判が出ている。背景には最大野党である国民党(Partido Popular)の反対があり、議会内対立が制度設計に影響したとされる。
また、2024年以降の市民立法イニシアティブにも多くの署名が集まっていたが、政府は迅速性を優先し政令による施行を選択した。
国民党のアルマ・エスクラ(Alma Ezcurra)は政府が議会を軽視していると批判し、「呼び込み効果(efecto llamada)」への懸念を示した。ボクス(Vox)のイグナシオ・ガリガ(Ignacio Garriga)も政令による制度運用を問題視し、法的手段を検討している。
これに対し、首相府大臣フェリックス・ボラニョス(Félix Bolaños)は、国家評議会(Consejo de Estado)の意見が反映されており、法的安定性と技術的精度は確保されていると説明した。政府は移民規制が国家の専属管轄であり、政令は適切な実施手段であると主張している。
国家評議会自体も、本制度が憲法枠組みの中で合法であるとの見解を示している。
行政上の位置付け
インクルージョン・社会保障・移民省(Ministerio de Inclusión, Seguridad Social y Migraciones)のエルマ・サイス(Elma Saiz)大臣は、本制度を「記録をリセットする(el contador a cero)」措置と位置付け、行政上不可視状態に置かれていた人々の状況を是正することが目的であると説明した。
またサイスは、国民党について「史上最も方向性を見失った」と批判し、「教会、産業界、あるいはボクスのどちら側に立つのか選ぶ必要があった」と述べ、「欧州で批判を試みたが失敗した」と強く非難した。
政策目的(人口・経済・制度背景)
スペインは急速な高齢化と出生率低下に直面しており、将来的な労働力不足が懸念されている。本制度は就労年齢層の移民を労働市場に統合し、拠出者と年金受給者のバランス維持を図る人口動態上の対応として位置付けられる。
2025年末時点で、社会保障制度(Seguridad Social)加入者の14.1%を外国人労働者が占め、その数は310万人を超えている。
政府は本制度により、社会保障制度の安定化、税収増加、非公式経済の縮小が見込まれるとしている。
また、国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)、欧州委員会(European Commission)、独立財政責任機関(AIReF)は、2050年まで年間20万〜25万人規模の移民受け入れが必要であるとの見解を示している。国王令の理由書では、スペイン銀行(Banco de España)および欧州中央銀行(European Central Bank)の分析を引用し、移民流入が国内総生産および消費の成長を押し上げてきたと説明している。
本制度は2018年の「安全で秩序ある正規移民のためのグローバル・コンパクト」(Global Compact for Safe, Orderly and Regular Migration)との整合性も意識されている。
公共サービス・住宅・EUの立場
公的データによれば、外国人住民は医療サービスの利用率が相対的に低い。一方で、申請集中に対する懸念から、政府は追加人員配置および専用受付時間の設定により対応可能としている。
住宅市場については、移民が価格上昇の主因であるとの見方は否定されている。移民は不安定な住宅状況に置かれており、過密住宅に居住する割合は23%であるのに対し、スペイン人は6%にとどまる。
欧州連合(European Union:EU)は本制度に特段の反対を示しておらず、在留資格付与は加盟国の権限であるとされる。ただし、本許可はスペイン国内に限定され、EU域内の自由移動権は付与されない。
過去の制度との比較
スペインにおける大規模な合法化措置は今回が初めてではない。民主化移行以降、複数回実施されており、今回も約50万人規模とされる。
直近では2005年にホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ(José Luis Rodríguez Zapatero)政権下で約57万6,000人が対象となった。
またサンチェスは、過去の国民党政権、特にホセ・マリア・アスナル(José María Aznar)政権でも同様の合法化措置が実施されてきたと指摘している。
誤情報と脆弱層対応
本制度は特定国籍を排除するものではない。ウクライナ人やベネズエラ人が対象外とする情報は誤りとされている。
重篤な疾病、障害、高齢者については最長4年間の更新延長が認められ、就労義務が緩和される。未成年については在留許可が一律5年とされ、家族単位での在留が可能となる。
安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト
安全で秩序ある正規の移住のためのグローバル・コンパクト(A/RES/73/195)は、国連の後援の下で策定された初の政府間合意であり、国際移住のあらゆる側面を包括的かつ統合的に扱う枠組みである。2018年12月10日、モロッコのマラケシュで開催された政府間会議において採択された。
国連人権高等弁務官事務所(Office of the United Nations High Commissioner for Human Rights: OHCHR)は、本コンパクトを移住ガバナンスの改善に向けた重要な枠組みとして評価しており、移民とその人権を中心に据えた重要な機会であると位置付けている。移民の法的地位にかかわらず、すべての移民の人権保護を強化することが目的とされる。
人権法上の原則と国家義務
本グローバル・コンパクトは国際人権法に基づき、すべての移民の人権を尊重し、保護し、実現するという国家のコミットメントを再確認している。また、世界人権宣言および9つの主要国際人権条約に基づいている。
さらに本枠組みは、非後退および非差別の原則を支持する。これを適用する際、我々は移住のあらゆる段階において、在留資格にかかわらず、すべての移民の人権の効果的な尊重、保護および履行を確保する。また、人種差別、外国人嫌悪、不寛容を含むあらゆる形態の差別を撤廃することを再確認する。
23の目標と政策内容
本コンパクトは各国に対し、移住課題に対応するための23の目標と具体的コミットメントを提示している。これらは移住の各段階におけるリスク軽減と、移民が社会の積極的構成員となるための条件整備を目的とする。
主な目標は以下の通りである:
- データおよび人権に基づく政策形成と公共言説の強化
- 貧困・差別・気候変動・災害による移動要因の削減
- 移民の情報アクセスおよび法的アイデンティティの保障
- 安全で秩序ある正規移住経路の拡充
- ディーセント・ワークと労働権の保護
- 移住過程における人権侵害の軽減
- 生命権の保護
- 人身取引・密入国斡旋の防止と被害者保護
- 国境管理における人権尊重と適切な支援
- 恣意的拘禁の禁止と代替措置の優先
- 基本サービス(医療・教育・社会支援)への非差別的アクセス保障
- 差別撤廃とヘイトスピーチ対策
- 集団追放の禁止および安全で尊厳ある帰還の確保
国連実施体制
本コンパクトの実施は国連移住ネットワーク(UN Migration Network)によって支援されている。同ネットワークは国連事務総長の下で設立され、国連システム全体の連携により加盟国の移住政策実施を支援する。
このネットワークは38の国連機関で構成され、移民とそのコミュニティの権利と福祉の向上を目的としている。
さらに16機関からなる運営委員会が設置されており、以下を含む:
- 国連経済社会局(United Nations Department of Economic and Social Affairs:DESA)
- 国際労働機関(International Labour Organization:ILO)
- 国際移住機関(International Organization for Migration:IOM)
- 国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)
- 国連開発計画(United Nations Development Programme:UNDP)
- 国連アフリカ経済委員会(United Nations Economic Commission for Africa:UNECA)
- 国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(United Nations Economic Commission for Latin America and the Caribbean:UNECLAC)
- 国連アジア太平洋経済社会委員会(United Nations Economic and Social Commission for Asia and the Pacific:UNESCAP)
- 国連西アジア経済社会委員会(United Nations Economic and Social Commission for Western Asia:UNESCWA)
- 国連欧州経済委員会(United Nations Economic Commission for Europe:UNECE)
- 国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees:UNHCR)
- 国連児童基金(United Nations Children’s Fund:UNICEF)
- 国連薬物犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime:UNODC)
- 世界保健機関(World Health Organization:WHO)
- 世界銀行グループ(World Bank Group:WBG)
- 国連女性機関(United Nations Entity for Gender Equality and the Empowerment of Women:UN Women)
参考資料:
1. El Gobierno aprueba el nuevo Reglamento de Extranjería para regularizar a medio millón de inmigrantes
2. España iniciará regularización masiva de migrantes
3. Pacto Mundial para una Migración Segura, Ordenada y Regular (GCM)

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