エクアドル:この国で増える恐喝や「ワクチン」犯罪、市民の安全とは何を意味するか

(Photo:@GKecuador/ Twitter)

エクアドルは暴力と治安の危機を経験している。もはやこの地域で最も安全な国のひとつとは考えられていない。2022年はエクアドル史上最も暴力的な年であり、人口10万人当たりの殺人発生率は10.5から25.5に上昇した。これにより、市民の安全が危険にさらされている。

2023年1月、Gallup社の世論調査によると、エクアドル国民の64%以上が過去4ヶ月間に治安が悪いと感じたことがあると答えた。Gallup社の分析によるとこれは、エクアドルでは全世帯の半数が同じ期間に強盗や暴行の被害にあったと報告している事実と一致している。犯罪増加の割合が高いと感じるのは、「経済力の低い人々」である。

 

この統計は、調査対象となったエクアドル人の半数が、過去4ヶ月の間に家族の少なくとも1人が強盗や暴行の被害にあったと答えているという別の統計とも一致している。調査結果が示すのはエクアドルは犯罪や非行が増加していると感じる国民の割合が最も高いラテンアメリカの国となったということである。市民の安全は国の発展には欠かせない。しかし現在におけるエクアドルではそれが確保されていないのだ。

本記事では市民の安全とは何を意味するかを説明し、その後この国で増えている恐喝について説明する。

 

<目次>

  1. 市民の安全保障
  2. 恐喝ワクチン(vacunas extorsivas)
  3. 風俗嬢への恐喝ワクチン
  4. その他恐喝

 

市民の安全保障

国連開発計画(UNDP)は市民の安全保障を「民主的な市民秩序を確立、強化、保護するプロセス」としている。これは「住民に対する暴力の脅威を排除し、安全で平和的な共存を可能にする」ことによって達成される。言い換えれば、市民が強盗に襲われたり、殺されたり、暴力的な方法で攻撃されたりすることを恐れずに生活できるということである。

市民の安全を保障することは、国家の主要な責務のひとつである。米州人権委員会(IACHR)は、市民の安全の概念は発展してきたと述べている。古代においては、国家は「権力の強さと優越性の表現として秩序を保証すること」にのみ関心を抱いていた。それは支配を維持するための手段であって、市民の福祉を確保するための手段ではなかった。

しかし今日の民主主義国家は、法律、基本的権利、そしてそれらを保護する役割を担う機関、とりわけ国家、警察を尊重することによって、市民の保護を促進しなければならない。したがって、市民の安全保障は、すでに起きてしまった出来事へ対応するための抑圧的あるいは反応的な応答に重点を置くのではなく、暴力と不安の原因の予防と制御に重きを置くべきである。

たとえば、犯罪が起きてから泥棒をリンチするよりも、警察や警報機、街灯など、治安が悪くならないように近隣が組織化されているほうがいい。また、犯罪を減らすことだけが目的ではない。市民の安全保障は「住民の生活の質を向上させるための包括的かつ多面的な戦略」でなければならないとUNDPは言う。そのような戦略には、犯罪を防止するための行動、効果的な司法制度へのアクセス、価値観や法の尊重、寛容に基づく教育などが含まれるべきである。

エクアドルでは司法が深刻な問題となっている。2023年5月に発表されたObservatorio de Derechos y Justiciaの報告書によると、2022年だけでも123件もの司法制度とその職員における不正に関する警告が提起されたという。これに加え、2022年以降、司法制度は汚職や権力闘争の疑惑を含む危機に陥っているという。

 

エクアドルでは近年暴力事件が増加しており、市民の安全が脅かされている。例えば、暴力による死亡者数は過去5年間で5倍に増加している。2019年には年間1,000人を下回ったが、2023年には5,000人以上に達すると推定されている。 

2021年から2022年の間だけで、暴力による死者は85%増加した。国家警察によれば、昨年の2022年は4,632人の暴力死者で幕を閉じた。2023年9月には、すでに2022年通年の暴力死者数4,835人を上回っている。

24州のうち、エスメラルダス州、グアヤス州、マナビ州、ロス・リオス州、エル・オロ州の5州で全国の暴力による死者の80%を占めている。エスメラルダスは暴力事件発生率が最も高く、人口10万人当たりの死亡者数は80人である。この数字は、2022年の全国平均25.5人を大きく上回っている。

エクアドルで近年増加している犯罪は、暴力による死亡だけではない。恐喝の報告件数は、2021年の2,700件から2022年には7,740件に増加した。この犯罪は、ある人が他の人に、その意に反して何かをするよう圧力をかけるもので、エクアドルでは2022年1月から増加し始めた。 

エクアドルで最も一般的な手口となっているのは「恐喝ワクチン(vacunas extorsivas)」 —犯罪者が「安全を保証する」ために金銭を要求すること— である。

 

恐喝ワクチン(vacunas extorsivas)

2023年3月30日、港湾都市グアヤキルは、宝石店の警備員が胸と足に爆発物を巻かれた姿を映したビデオが出回り、衝撃を受けた。サウセス3で起きたこの事件は、この店の経営者、そしてこの地域の他の企業に対して、恐喝ワクチンの支払いを拒否した場合に何が起きるかを警告するためのものだった。エクアドルにおけるこのような恐喝は今に始まったことではなく、2022年1月以降、犯罪グループによるこのような請求はより一般的になっている。

「ワクチン」とは、犯罪者や組織集団が、彼らが安心して働けるように安全や保護を「保証」するために、第三者から要求される恐喝的な金銭の支払いのことである。

治安問題の専門家であるカロリナ・アンドラーデ(Carolina Andrade)は、恐喝されている者が金を支払わない場合、彼らが行使する暴力を用いての徴収システムのレベルは犯罪者、犯罪組織との近さ、彼らの寛容度によって異なると強調する。以下のような例がある:

本人や家族の生命に対する脅迫
店の外での銃撃 
商業施設の外に爆発物を設置
殺害(最も極端なケース)

 

国家警察の対誘拐・恐喝部門の責任者であるウィルソン・サパタ(Wilson Zapata)中佐は、エクアドルには5種類の恐喝があると説明する。サパタ中佐によれば、「市民は口語で『ワクチン』という言葉をあらゆる恐喝に対して用いている」が、彼にとって「ワクチン」と呼べるのはそのうちのひとつだけだ」と強調する。

「ワクチン」という名の恐喝は、商業施設や農場に直接要求されるもの。犯罪者は、任意の金額を要求するために近づいたり、パンフレットを送ったりする。彼らは「彼らが活動する地域の警備」と引き換えに、月々の料金を通じてこれを行う。サパタは、この種の恐喝は国内で3番目に多いが、増加傾向にあることは明らかだと説明する。2023年第1四半期まで、全国レベルの恐喝事件の22%を占めていた。「ワクチン」は日本語で言う「みかじめ料」に近いもののようにも映る。

カロリナ・アンドラーデは、強要ワクチンは経済的な影響をも与えることも指摘している。専門家はエスメラルダス沿岸地方の例を挙げ、何人かの事業主が早期閉鎖の脅迫を受けが結果、人々は都市空間を利用しなくなり、経済活動は低下し、経済所得の減少、ひいては雇用の減少につながった。サント・ドミンゴ県、サン・ハシント・デル・ブア教区に複数の農園を持つパーム栽培農家のロドニ(Rodny)は、みかじめ料を求められるようになり、何人かの農民が怯えているという。彼の知は人弱い立場にある一方、農村部では警察が助けてくれないことから、代償を支払うことに同意したという。この地域でヤシを栽培しているもう一人のアニバル(Anibal)は、8年以上前にもこの手法で恐喝されそうになった。彼は脅しを無視したが、それ以上に恐喝は発展しなかった。しかし彼は、この地域の農園での強盗が絶え間なく増加傾向にあり、財産の盗難もますます凶暴化しているため、銃の携帯許可証を取得したと告白する。今では、労働者を雇うときは、顔見知りか推薦された人だけに限定している。

 

風俗嬢への恐喝ワクチン

アレクサンドラ・スマラガによれば、このような強要的なワクチン接種は、数十年前から売春宿として知られる寛容ゾーンでも行われてきたという。専門家は、これらの場所は通常、危険指数が高い地域に位置しているため、ギャングは、施設だけでなく、そこで働く女性にも保護を提供することによって、犯罪範囲を拡大化させる。

スマラガは、この慣習は変化し始めており、もはや売春宿に限ったことではないと明言する。むしろ「ワクチンドール」たちは、路上で売春する女性たち、特にトランスジェンダーの女性たちから金を脅し取るようになったと述べている。 2022年9月3日土曜日の夜、アフロ・エクアドル人トランスジェンダーのリーダーであるジェシカ・マルティネス(Jéssica Martínez)が組織化されたギャングによって殺害されている。

ジェシカ・マルティネスは少なくとも11発の銃弾を体に受け、エクアドルのシエラ・セントラル地方のアンデス都市アンバトの中心部、フアン・エルバスとルイス・マルティネスの間にあるマリエータ・ヴェインティミーリャ通りの路上で発見された。

スマラガは、風俗嬢はリスクの高い仕事であるため、虐待されないように世話をするポン引きにいつも守られていると強調する。しかし、売春する女性とポン引きの間には通常、世話と住まいの契約があり、多くの場合、感情的な絆が見られるのが普通だ。しかし最近では女性たちは犯罪組織にその地域で働くためにワクチンを支払う傾向にある。

この手の恐喝を行うのはカロリナ・アンドラーデによるとロス・チョネロ、ロス・ロボ(Los Lobos)、ロス・ティゲロネ(Los Tiguerones)といった凶悪犯罪組織や一般的な犯罪グループであると考えている。そして多くはギャングではなく一般的なグループによって行われる。この種の恐喝が頻繁に行われるようになったのは、それが生存と経済収入の一形態になったからだという。刑務所と治安問題の専門家であるアレクサンドラ・スマラガ(Alexandra Zumárraga)もこの意見に同意する。 彼女は、多くの場合、恐喝しようとする人たちの個人情報が入ったデータベースを持っているため、電話をかけてくるのだと説明する。電話をかけてくるとき、犯罪組織の一員だと名乗ることが多いが、必ずしもそうとは限りません。被害者予備軍のリスト入手経路はわかっていない。と言うのも先述の通りこれらの犯罪は組織に所属していない一般人によって行われることが多く、その目的は経済的な余裕を得たいと言う願望である。

カロリナ・アンドラーデはこのような恐喝が減らないのは「恐喝の苦情が殺到するため、警察は事件に対してまともなアプローチができず、本当に犯罪組織に関係している事件を捜査することができず、適切な対応ができない」ことだ。

万一この手の恐喝の脅迫を受けた場合、被害者は犯人の言うことをすべて注意深く聞き、可能であればメモを取り、何かを決定したり金銭を提供したりしてはならない。逆探知を可能にするために当局にすぐ通報するとともに、銀行に行っているか会議中などといって1時間後に電話するようにと伝えることが望ましい。

この国で発生しているその他の恐喝は以下の通りである。

 

その他恐喝

1. バーチャル恐喝

ソーシャルネットワークを通じて相手の情報を入手し、それに基づいて欺いたり脅したりして金銭の支払いを要求するもの。電話やメッセージ機能が用いられる。

サパタによると、エクアドルではこのタイプの恐喝が最も多く、2023年第1四半期には44%のケースが発生している。犯罪者の言説は時代とともに変化する。サパタは、最近の犯罪者は、被害者も電話を切らせることなく短時間に金銭を求める。犯罪者が被害者から金を脅し取るために使う言い分には次のようなものがある:

自分たちは殺し屋で、ある人物に雇われており、あなた(被害者)を殺すことになっている脅すもの。殺し屋とされる人物は、犯罪を犯さないために金銭を要求する。短時間に行われるもので、銀行振り込みでの支払いを要求する。

このやり方以前は、恐喝者が被害者と連絡を取る際、ロス・チョネロ(Los Choneros)などの犯罪組織の一員であることを名乗り、恐喝として金額を要求するのが一般的だった。サパタは、この種の恐喝は、COVID-19の流行以来、かなり増加している。多くの専門家や企業が、ソーシャルネットワーク上で自分たちの活動に関する情報を公開しており、この手段を通じて、犯罪者たちは恐喝を行うための情報を入手している。しかし、犯罪者はインターネット上にある情報以外に人物の情報を持っていないのも特徴だ。

また、海外に住む「自分の甥、いとこ、愛する人」から電話がかかってきて、エクアドルに来るために空港で荷物の問題を解決するためにお金を貸してほしいと手紙や電話で頼まれることもよくあることだ。これは日本でいう「オレオレ詐欺」に近いものだろう。

 

2. 一般的な恐喝

犯罪者は被害者に接近するものの直接接触することはないことが特徴だ。つまり、恐喝者は、被害者が今どこにいるのか、パートナーや子どもはどこにいるのか、自宅の写真や子どもの学校の名前など、被害者に関する非常に正確な情報を持っていたり、被害者の日常生活を知っていたりする。こうした情報をもとに、犯人は金銭を得るために被害者を怯えさせる。サパタによると、この種の恐喝は誘拐やその他の犯罪とは無関係であり、恐喝の枠内にとどまる。この種の恐喝は、2023年に最もよく見られる恐喝の一つである。

 

3. 性的恐喝

デジタル手段を用いて主に行われる犯罪。被害者は、裸や性的に危うい体位で写っている画像を送られ、その情報を公にしないよう、金銭を要求される。写真やビデオは、ハッキングやビデオ会議など、インターネットを通じて入手される。恐喝事件全体の0.2%を占める。

サパタは、最も重要なことは「恐喝を阻止し、こうした犯罪組織に大金が流れるのを防ぐことだと強調する。この地域全体で、恐喝は国内総生産の2%を占めている」。

 

4. 子供たちへの恐喝

8月24日、グアヤキルのシンシア・ビテリ(Cynthia Viteri)市長は、市内のいくつかの学校で子どもたちが『予防接種』を有料で受けていることを糾弾した。 「今現在、学校にいる子どもたちでさえ、ワクチン代を支払っている。1ドルであっても要求される」状態にあると市長は述べている。グアヤキル市では、移動・交通局(ATM)と警視庁の職員が330校の外に出て、子どもたちが恐喝されるのを防ぎ、「ワクチン接種者」を捕まえることを決定した。

恐喝の場合、サパタは、人々が当局に接近し、領土を支配する犯罪者の言説に納得させられないようにすることを勧める。サパタ中佐は、国家警察は脅迫されている商業施設に対してある戦略を実施していると説明する。

サパタ中佐によると警察は、脅されている商業施設にパニックボタンを設置したり、定期的な訪問を行い、ワクチンの回収を防いでいる。彼による主な勧告は、被害者は決して恐喝者との通話や連絡手段を絶つべきではない、というものである。万一コンタクトパスがなくなれば犯人がソーシャルネットワークで見つけた情報を持っているだけなのか、それとももっと深刻な脅迫なのかがわからなくなってしまうからだ。

https://twitter.com/mrey982/status/1568110239911759872

その他増加したもうひとつの犯罪は強盗である。2021年から2022年の間に、人からの窃盗は22%、バイクからの窃盗は55%、車からの窃盗は52%増加している。これらの数字が高いままである限り、エクアドル国民の安全は脅かされ続ける。その結果、エクアドルへの投資が減少し、国民の心身の健康が損なわれることになる。

Gallup社による調査結果はニカラグア、メキシコ、ホンジュラスなど、強盗の被害者世帯の割合が極めて高い一方、犯罪の増加を国民がそれほど感じていない国もあるこということだ。またエルサルバドルは、この地域で唯一、過去4ヵ月間に犯罪が減少したと認識している人が大多数を占める国である。

 

参考資料:

1.  ¿Qué es la seguridad ciudadana?
2. Te explicamos el cobro de “vacunas” extorsivas en Ecuador

No Comments

Leave a Comment

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください