メキシコ:サパティスタ、スペインの美術館で作品売って移民救助を支援する

(Photo: Museo Reina Sofía)

メキシコのサパティスタ民族解放軍(Ejército Zapatista de Liberación Nacional:EZLN)は自身の作品一式を、スペインのソフィア王妃芸術センター(Museo Nacional Centro de Arte Reina Sofía:MNCARS)に販売する。精巧に装飾された3隻のカヌー、反資本主義の刺繍、絵画、ビデオ計6点の作品は総額25,000ユーロで取引される。これらの作品はサパティスタの第4-2-1戦隊がスペインによるメキシコ征服500周年を記念し昨年6月に「ラ・モンターニャ号(La Montaña)」に積んで持ってきた。錆びたサパティスタ船は長さ24メートル41センチ、幅6.5メートル、重量75グロストンで、122年前、北海に近いオランダのイッセル(Ijssel)河畔の造船所で骨格(海運用語でキールと呼ばれるもの)が作られた。2005年以降、改装してシュタールラッテ(Stahlratte)と改名した後、地中海を航行し、大西洋を数回横断した後はカリブ海に停泊していた。出港の数ヶ月前までは、メキシコからキューバへ、コロンビアからパナマへと愛車を運ぶバイク乗りの間では有名な船だった。「500年前とは違う、命を蒔くための」航海は2021年5月2日(日)午後4時10分に始まり、6月にスペイン北部に到着した。元々は釣り用に設計された船はヨハンナ・マリア(Johanna Maria)と命名されていたが、その後、名前は5回、エンジンは4回変更された。

EZLN蜂起27周年に合わせ、2021年1月1日、サパティスタ運動はネットワーク上で「生命のための宣言」を発表、世界中の数千の組織や個人が署名した。この宣言とともにサパティスタは五大陸ツアーを発表している。自由と正義のために戦うすべての人々に耳を傾けることを意図した旅で、それぞれの相違点に基づき、500年前にヨーロッパの征服者たちが歩んだ道を逆に再現することを意図したものであった。

 

これらの作品は政治的反抗が表現されている。「Otro mundo es posible(もう一つの世界は可能だ)」のタイトルで展示されている作品は、サパティスタによると杉やマホガニーで作られており、3艘のカヌーのうち1艘は子供たちが装飾している。作品には「マヤの祖先と現在のサパティスタ共同体の生存への闘い」を連想させるものも含まれている。

美術館は国から割り当てられた予算を用いて買収の手続きを開始している。購入にあたっては美術館の評議員会の承認、そして資格審査会(Junta de Calificación)、文化・スポーツ省評価輸出委員会(Valoración y Exportación del Ministerio de Cultura y Deporte)の承認が必要である。承認が降りた後はENLZと連携するガリシアの団体「Pallasos en Rebeldía(反逆の道化師)」財団と売買契約が行われる。この団体は親パレスチナ派を宣言し「希望のグローバル化」をモットーとしている。

EZLNは2万5000ユーロの売却益を、地中海で移民や難民を救助するスペインのNGO「オープン・アームズ(Open Arms)」に寄付する予定だ。EZLNによるとオープンアームズの人道的活動に深く感銘を受けたためであり、El País紙に掲載された声明の中で、EZLNは「これは連帯の証であり、人権擁護者の間の国際的な抱擁である」と述べている。NGOは毎年地中海を命がけで渡っている何万人もの男性、女性、子どもたちを救っている。

「死と破壊の運命から逃れようと、あえて海を渡ってヨーロッパの地にたどり着こうとする移民たちの、痛みと苦しみの道程を、ここしばらくの間、私たちは追ってきた」。「非人間的な行為を目の当たりにしても、それを改善・緩和しようとせずにいられない人たちがいることを目の当たりにしている。メキシコ南東部の山々から、波止場や観光ルートの麻痺を抜け出し、ヨーロッパ海域の漂流者を救出するために出発する(オープン・アームズの)船を(我々はメキシコから)見たのだ」 とEZLNは述べている。

オープンアームズはこのメッセージに対し「他の者が壁を築くところに橋をかける連帯の抱擁、他の者が死と破壊をもたらすところに生命をもたらす国境なき寛容さ」と表現したEZLNに感謝すると声明を発表している。

オープン・アームズはカヌーの理念に基づき、「終わりのない旅、尊厳ある人生のための旅、区別なく人間の権利を守るための旅という私たちの職業を続けるために」、寄付金を移民救助のための船アストラル(Astral)の新しいボートの購入に充てられると付け加えた。

カヌーをラ・モンターニャ号で輸送したのは、「ヨーロッパまでの郵送料を節約するため」であり、「これまで川や湖での航海しか経験のない乗組員が、難破しても『安全で楽しい』と思えるように」という2つの理由からだとEZLNは説明する。美術館はカユコスを「先住民の想像力、ラカンドのジャングルからの抵抗、共同体の論理など、革命運動の宇宙観の特殊性を要約している」と説明している。

レイナソフィアは館内でサパティスモについて次のように説明している。アメリカ大陸では社会的・政治的教義が確立され、先住民の抵抗が強まった。EZLNは1994年1月1日に設立され、メキシコのチアパス州のいくつかの町を占拠し、ラカンドン密林の第一宣言を読み上げた。この文章は、先住民に可視性を与えようとし、その提案は明確だった。闘いは先住民のアイデンティティ、領土、権利、あるいは民主、自由、正義といった価値を守ることだけに集中してはならず、新自由主義政策と対峙することでなければならなかった、と。

先住民の想像力、ラカンドのジャングルからの抵抗、共同体の論理など、革命運動のコスモヴィジョンの特殊性を要約したものが今回の作品である。トウモロコシ、共同生活、学校、ミルパは、サパティスタの図像の中で繰り返されるこれらの先住民社会の想像上のテーマであり、展示室では、EZLNの反乱軍が作り出した資本主義のヒドラを刺繍で表現し、その対極にあるものを見つけている。これらの作品は、サパティスタのコミュニティーの寛大さと、研究者のナタリア・アルコス(Natalia Arcos)とフランシスコ・デ・パレス(Francisco de Parres)の仲介により、レイナ・ソフィア美術館のコレクションに組み込まれることになった。

 

オープンアームズは今年5月にも地中海中部で100人以上の移民を発見している。移民たちはリビア沿岸を出発してから20時間以上海上にいたと言う。移民たちは密輸業者が所有すると思われるヨットで移動していた。5月18日に更新されたイタリア政府の数字によると、今年に入ってから地中海経由でイタリアに到着した移民は15,876人。これは、13,357人が到着した2021年の同時期よりも増加している。2022年にイタリアに到着した人の大半はもともとエジプト出身で、バングラデシュ人がそれに続き、チュニジア人、アフガニスタンやシリア出身者が続いている。今年の到着者の10人に1人は、同伴者のいない未成年者である。オープンアームズは移民を受け入れたくない右派政権から度々問題視はされている。アストラルはかつて、スペインを拠点とするイタリア人起業家リビオ・ロ・モナコ(Livio Lo Monaco)が2016年にオープンアームズに寄贈した豪華ヨットで、他の救助船と同様、乗組員には船員だけでなく、経験豊富な救助隊員や医師も含まれている。

 

EZLNのその他の記事はこちらから。

 

参考資料:

1. Zapatistas llevan «otro mundo posible» al Museo Reina Sofía
2. El Reina Sofía compra varias piezas del Ejército Zapatista para su colección
3. Open Arms sailing boat Astral locates more than 100 migrants in central Mediterranean
4. EL BARCO ZAPATISTA ZARPA RUMBO A EUROPA
5. La carabela zapatista La Montaña navega hacia la “fortaleza” europea
6. スペインNGO 地中海で移民372人救助 1人死亡
7. 船上はパニック、地中海での移民救助に同行
8. Mexican rebels donate museum money for canoes to refugee rescues
9. El Museo Reina Sofía de Madrid adquiere cuatro piezas artísticas del EZLN

5 Comments

  • miyachan 10/28/2022 at 01:20

    久々にサパティスタのニュース。懐かしさえ感じますが、彼らは27年間、弛まず戦ってきたのかなあ。マルコス副司令官は、お元気なのか、1994年当時、まだ、珍しいインターネットを通じて世界に向かって発信していた。
    貧しいチアパスから、多額の寄付をする、かつてキューバが革命まもない頃に、カストロはアフリカの国の独立のため軍事支援を行なったことにも通じるのだろうか。
    Marinaさんは、チアパス、サンクリストバルへ行ったことがありますか?数年前、かの自治区に旅行した女性(誰か忘れた)の話をR大学で聴いたことがありました。子供の教育に悩んでいるような、、、

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    • MARINA 11/01/2022 at 00:24

      EZLNの方々はSNS等を通じて活躍されていらっしゃいます。COVID-19における対応やロシア-ウクライナ戦争、平和へのメッセージ等積極的に発信されています。
      私自身は直近でサンクリストバルにも滞在しています。残念ながら前回訪問ではパンデミックの影響もありEZLNの方々の住む集落への訪問はかないませんでした。
      町にもほぼ姿を見せてないだろうことを、EZLNグッズを扱うお店の人に伺いました。表彰(と言っていいのかわかりませんが)としてのマルコスさんはすでにいらっしゃらず、サブコマンダンテ・インスルヘンテ・ガレアノ(Subcomandante Insurgente Galeano)さんに変わっている(改名している)と言う認識です。

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  • miyachan 11/02/2022 at 00:39

    サンクリストバルに直近滞在ですか。さすがMARINAさん、すごい!世界中を巡り、異境の経験に溢れたMARINAさんは、夜どんな夢を見るのだろう?「夢は荒れ野を駆けめぐる、、」感じかな。
    サンクリストバルには、どんな人が住んでいるのか、EZLNをどう思っているのか、色々教えてほしい。

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    • MARINA 11/02/2022 at 21:25

      はい、今度情報も上げるようにしますね。
      ちなみに・・・
      記載の通りパンデミック中ということもあり、直近ではEZLNを名乗る人には会えませんでした。
      広場の観光案内所でEZLNの村や町中でいる場所いないのかを聞いたのですが、「先住民」に会いたければマーケットや教会そばの広場にいくのがいいというアドバイスしか得られませんでした。
      個人的にはこの回答に興味を持っています。その案内所の方はEZLNを認めていないのか、それとも覆面だからわからないだけで、そのあたりの先住民に聞いて回ればメンバーの一人くらいに出会えるでしょっていう意味で言ったのでしょうか。ちょっと深掘りしたくはなりました。
      なお、サンクリにはEZLN行きのツアーを扱っているところもありますので、行く機会があれば行ってみてください!

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      • miyachan 11/04/2022 at 01:20

        Replyありがとう。
        ENLZへツアー? そこまでDEEPな旅は、自分には無理です。
        EURECA CAFEのブログ情報に期待しています。

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