米国はキューバへの追加制裁とLet Cuba Liveキャンペーン

米国のバイデン政権は、キューバの国防相と内務省は人権侵害を行ったとして、高官や団体を対象とした個人制裁を木曜日に科した。制裁の対象となるのは、キューバ軍のトップであるアルバロ・ロペス・ミエラ(Alvaro Lopez Miera)と、「黒いベレー(Boinas Negras)」として知られるキューバ内務省の特別国家旅団だ。今回の制裁が、対象となる人々に深刻な影響を与えるかどうかは不明で、むしろ戦略国際問題研究所の米州プログラムでシニアフェローを務めるライアン・C・バーグ(Ryan C. Berg)は「この制裁は純粋に象徴的なものであり、バイデン政権がキューバの抗議活動に迅速に対応しているという印象を与えるためのものだが、実際にはこれらの行動はあまり効果がない」と指摘している。

一方、バイデン大統領は 「これは始まりに過ぎなず、米国はキューバ国民への抑圧に責任を持つ個人への制裁を継続する」と声明を出した。さらにロシア政府の弾圧に対抗して制定され、その後ベネズエラなどの政府にも適用されたマグニツキー法(Global Magnitsky Act※)を拡大し、キューバに適用する可能性があるとした。

さらにバイデン大統領は、キューバへの対応策として、インターネットアクセスの向上や、全体主義的な政府に対する国際的な圧力の強化などを挙げており、7月11日のキューバでの暴動以来、さらなる行動を求めていたマイアミの民主党キューバ系アメリカ人活動家との電話会談で、その概要を説明した。

これに対してキューバのブルーノ・ロドリゲス(H. E. Bruno Eduardo Rodríguez Parilla)外相は、今回の制裁を「根拠のない誹謗中傷」と非難し「2020年に1,022人の命を奪った日常的な抑圧行為と警察の残虐行為に対して、グローバル・マグニツキー法を自らに適用すべきだ」と反論した。

 

なお米国においてはキューバ対応への保守派によるバイデン氏への批判がここ数日でかなりエスカレートしている。共和党はこの騒動を利用し、現政権の外交政策を叩き、反共産主義的なテーマで国内の人気獲得を狙う狙いもある。

 

米国にいる人が全てCOVID-19によって傷め付けられているキューバ政府を倒したい、これ以上の制裁を加えたいと考えているわけではもちろんない。事実、Global Health Partnersは彼らが必要としている予防接種等のシリンジを提供するために募金を募っているし(詳細はこちら※)、400人以上の政治家、知識人、聖職者、アーティスト、活動家は米国によるキューバに対する封鎖の解除をニューヨーク・タイムズ紙の全面広告欄を通じ求めている。「Let Cuba Live」という名のキャンペーンはルラ(Luiz Inácio Lula da Silva)元ブラジル大統領、ラファエル・コレア(Rafael Correa)元エクアドル大統領、アンドレス・アラウス2021年大統領元候補(Andres Arauz)「思い込みを疑い、批判的に世界を考察せよ!」で知られるノーム・チョムスキー(Avram Noam Chomsky※)、女優ジェーン・フォンダ(Jane Fonda)、映画監督オリヴァー・ストーン(Oliver Stone)などの著名人にも支えられ、賛同者の規模を拡大していることが想定される。米国の嫌がらせは直接的なもの以外にも、第三国に対するものも含まれていて、更に米国からの送金禁止や両国間の直行便の廃止は多くのキューバ人の幸せを阻害している。同キャンペーンでは「米国がキューバを隣人ではなく実存する敵として扱わなければならない冷戦政治を維持する理由はない」とし、バイデン氏が7月12日に述べたようにもし彼が「We stand with the Cuban people(キューバの人々とともにある)」のであれば、ドナルド・トランプ前政権が設定した243件の制裁措置(2017年~2021年)を即時無効にすべきであるとし、解除を求めている。

この公開書簡は、The People’s Forum、CODEPINK、ANSWER Coalitionが共同で行っているもので、不道徳で近視眼的な対キューバ禁輸政策を変え、キューバの人々が必要としている薬や医療品を提供するためのものだ。公開書簡と署名者のリストは、特別サイト(https://www.letcubalive.comは閉鎖)で確認できるし、署名に参加することもできる。

キューバ外務大臣はユニオンスクエアに掲示されたLET CUBA LIVEキャンペーンをTwitterで紹介するとともに、米国による執拗までの干渉について再度声明を出している。茶化すわけではないけれど、ロドリゲスがバイデンをメンションし、Twitterでつぶやいているところが、なんだか面白い。

https://twitter.com/BrunoRguezP/status/1418551534795825156

キューバへの制裁については2020年4月、7人の国連特別報告者が米国政府に書簡を送り、それを拒否している。また、2021年6月23日、国連の場においても184カ国が封鎖解除に賛成した。国際的な怒りにもかかわらず、米国政府はキューバに対する敵対的な態度をとり続けている。

なお、このような書簡に賛同すること自体、今後米国から要注意人物としてチェックされると疑念を持ったり、米国ビザが発行されなくなるのでは、考える人がいることも確かだ。でもこれこそが、そう考えさせてしまっているこそが、米国が暗に周囲に与えているプレッシャーによるものであり、彼らによって表現、考えの自由を制限されていることの証ではないかと思ってしまう。

 

キューバのブルーノ・ロドリゲス外相のコメントは昨年米国で発生した人種差別に対するデモやそれに対する可能な取り締まりを想起させる。それらは例えば以下のようなものだ。

2020年5月にミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性ジョージ・フロイド(George Floyd)が警官に首を押さえつけられて死亡した。この事件を受け、ミネアポリス市内では26日夕、警察署前で大規模な抗議行動があり、警察は催涙ガスを使って解散させた。デモ参加者や取材中の記者の中にはゴム弾に当たるなど負傷者も出ている。この事件を受け全国に広がったデモでも1万人以上が逮捕され、警察は唐辛子スプレー、ゴム弾、催涙スプレー、警棒を常用した。デモの間中の警察による過剰な力を用いた行使は米国各地でも報告されており、ジャーナリストが警察に襲われたという報告件数も130件以上記録されている。6月1日、ジョージア州アトランタで非暴力で抗議活動をしていたとされるジャラ・ギブソン(Jarah Gibson)も逮捕された。

ギブソンは

The police are instigating everything and they are criminalizing us. Now I have my mugshot taken, my fingerprints taken and my eyes scanned. Now I’m a criminal over an illegal arrest. I want to be heard and I want the police to just abide by basic human decency.

警察はすべてを扇動し、私たちを犯罪者扱いしている。今、私は顔写真を撮られ、指紋を取られ、目をスキャンされている。違法な逮捕によって私は犯罪者になってしまった。私の声を聞いてほしいし、警察には人間としての基本的な良識を守ってほしい。

と主張している。

 

米国に限らず、キューバにおいてだって、もちろんその他の国だって理由なき、もしくは自分の意にそぐわないという理由が故に人を拘束することは許されることではない。ただし、自由の名の下で暴徒化したり、暴力を振りかざすデモ参加者にも疑問がある。

今回のバイデン大統領の追加制裁は選挙戦中の公約「米キューバ政策の雪解けを取り戻す」としていたものからの転換を意味している。上述の通り国内における過激派からの突き上げがあるのは事実だろうが、一番困っている人たちのことを人道的に考え行動を取ってほしいと思う。

 

※マグニツキー法はは2012年に制定され、初はロシアだけを対象としていた。のちにその適用は全世界に広げられた。これは人権侵害をした個人や組織を対象に資産凍結やビザ発給制限などの制裁を科すことを目的としている。以下資料も参照。
※ロドリゲス外務大臣はGlobal Health Partners(GHP)からコロナワクチン接種用の注射器が届いたことを報告した。ドネーションによって集めた50万が無事注射器に代わったことを意味する。17日にマリエル港に到着した。第一書記もGHPに礼を伝えている。

 

 

 

参考資料:

1. “Let Cuba Live”: carta abierta a Biden para que finalice el bloqueo a la isla
2. 「思い込みを疑い、批判的に世界を考察せよ!」
3. Let Cuba Live!, Progressive Leaders Around the World Demand
4. ‘They set us up’: US police arrested over 10,000 protesters, many non-violent

 

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