エクアドル:現代でも奴隷的扱いと続ける「FURUKAWA」に国が動く

エクアドルにおいて2021年4月19日、歴史的判決がくだった。それは今もなお行われていた奴隷労働(現代奴隷制)の存在を認めるというもので、裁判所は雇用主古川拓殖エクアドル株式会社(Furukawa Plantaciones C.A.、以下FPC)とエクアドル政府に対して判決を言い渡した。

https://twitter.com/AbacaleroLibre/status/1384945272040591364

 

エクアドルは世界第2位のアバカ繊維(マニラ麻)輸出国で、毎年約7,000トン、額にして1,700万米ドル以上を欧州、アジア、米国に販売している。その用途は多岐に渡りロープ、車のパーツ、紙幣などが有名だ。1963年2月22日FPCはエクアドルでそのビジネスをスタートさせた。約60年をかけ徐々にそのビジネスを拡大させ今では23,000ヘクタールのプランテーションと32の農場を持っているという。2017年におおけるFPCはアバカ輸出金額は約840万米ドルだったことを思うと、どれだけこの企業がエクアドルに影響を及ぼしてきたのかは容易に想像つくだろう。なおアバカ自体をフィリピンからエクアドルに持ち込んだのも同社だ。

数年前からFPCに対する人権侵害については国内外から指摘されていた。事実同社における労働者への待遇はひどいもので、まともな住居を提供しないだけでなく、彼らの健康・教育・仕事・自由に対する権利を剥奪してきた。労働省も査察を通じそれを認識しており、2019年2月18日にはそのキャンプの一時的閉鎖や生産活動の停止、さらに罰金の支払いを命じていた(※)。一方でそれ以外の罪や改善命令、追加調査などされることもなかったため、2021年になってもなお状況が変わることはなかった。

所得が高くないエクアドルの中でも、そこで働く人々の生活はかなり厳しいものがある。その81%が極度の貧困(238家族)、17%が貧困(50家族)であり、貧困ラインを超えるのはわずか2% (6家族)だったし、その多くは読み書きすらできない状態だ。なお、アバカ農家が1トンの生産で得られるのは640ドルであるのに対し、FPCはアバカ繊維を2,700ドルで市場に販売していると言う。

長時間に渡る肉体労働だけでなく、硬い繊維を解いていくための機械作業は指の変形や切断、骨折などのリスクを持っての仕事となる。作業中に飛んでくる細かいアバカの粉塵や、夜間作業で用いる灯油ライターの残留物も呼吸器疾患の原因となり、多くの人がその疾患を抱えていると言う。病気や怪我を抱えても、FPCによる医療費などが提供されることもない。

このような状態下でも働かねばならないのは、彼らが極貧であるが故に移動する術がないこと、職業を選べる状態でないことが挙げられる。なお、子供でさえもこれらの病気に苦しんでいるのは、児童労働(8歳か9歳から働く)の存在とは無関係ではない。ちなみにここで生まれた子たちは出生届が出ていないなど珍しくはない。つまり国からは「存在していない」もしくは「認識されていない」状態にあると言うわけだ。

 

2021年4月19日、246ページにわたる判決が出た。その内容は以下のようなものだ。 FPCには原告のそれぞれに対し、専門家が定める賠償金全ての支払いを命ずる。それとともに、暴力を受けてきた農民それぞれに対し土地5ヘクタール、あるいはそれに相当する金額を支払うことを命ずる。更に、元従業員への公の謝罪とし、同国最大の日刊紙に謝罪を掲載することとする。 労働省には提示されてきた事例(虐待、違反)全てに対して責任があるとし、謝罪を求める。理由は労働省による労働状態の確認義務違反が、FPCによる労働者への基本的人権への侵害を継続させてきたことによる。なお、その謝罪は労働省のみならず、経済・社会省、公共保健省も各々のウェブ・サイトに掲示することを指示した。

なお、この判決を受け、2005年FPCの功績を讃えアルフレド・パラシオ(Luis Alfredo Palacio González)大統領によって与えられた顕賞も撤回されることとなる。

FPCの判決はあくまでもエクアドルにおける労働環境の改善と、人権を守る取り組みの出発点でしかない。エクアドル共和国の憲法(第33条)では労働について以下のように言っている。

El trabajo es un derecho y un deber social, y un derecho económico, fuente de realización personal y base de la economía. El Estado garantizará a las personas trabajadoras el pleno respeto a su dignidad, una vida decorosa, remuneraciones y retribuciones justas y el desempeño de un trabajo saludable y libremente escogido o aceptado.

 

仕事は経済基盤とともに自己実現の場でもある。それを通じ肉体的・精神的にも充実した生活を送れる必要があり、保証されている。エクアドルにおいては、アバカ産業のみならず、劣悪な条件で働く人たちも多いという。アバカは成長が早く、二酸化炭素を比較的多く吸収すると言うことでも有名だ。糸を焼却しても有害物質を発生させることなく生分解できるという利点もある。持続した成長とともに、環境にも優しい次世代型素材としてこれから注目もされていくことだろう。

地球も労働者の生活も、更には政治と金の問題(※)もクリーンな状態になるよう一刻も早く状況がレビューされ、改善に向かうことを願わずにはいられない。

 

なお、FPCも国も方針にそぐわない部分があるとし控訴を予定している。また、告訴した123名の家は保護の対象となっていたが、FPCによってまるで報復かの如くその住居は破壊されている。今回の勝訴により勇気を持った他の労働者からもオンブズマンに集団告発の支援依頼が今後くる可能性もある。

※労働省から命じられたのは42,880米ドルの罰金と90日間の閉鎖だった。
※金と政治の問題はエクアドルでも蔓延っている。レニン・モレノ(Lenín Boltaire Moreno Garcés)現政権の元農業副大臣職にFPCの役員バイロン・フローレス(Byron Eduardo Flores Loayza)がついていた。

 

[補足]

FPCと労働者の関係は若干わかりづらい。FPCは自社の所有地で労働をさせていると言うよりは、農民請負業者に自社の土地を貸し出している。土地はプランテーション用の区画に分けられ、そこで雇われた労働者が働いている。つまり直接の雇用主はFPCではなく、その請負業者であるから、今回のような奴隷的扱いも自分たちの責任ではないという主張になる。

 

参考資料:

1. First Case In Ecuador Recognizes Slavery In Agriculture
2. Furukawa, el caso de esclavitud moderna por el que una empresa japonesa y el gobierno de Ecuador fueron obligados a pedir disculpas 
3. Empresa que realizaba supuesta explotación laboral fue clausurada y multada
4. ONU denuncia trabajo infantil en Ecuador
5. ABACA: MODERN SLAVERY IN THE ECUADORIAN FIELDS
6. Los esclavos invisibles del abacá (Parte II)
7. Furukawa: un exviceministro como gerente y abacaleros contagiados, sin bonos ni atención de Salud

本事案に対する連帯のためのコミッティー #FurukawaNuncaMas のホームページはこちらから。
児童労働に触れているメキシコの環境と炭鉱問題についてはこちらをご参照ください。

4 Comments

  • miyachan 05/15/2021 at 01:41

    「古川」が気になります。エクアドルでプランテーション始めて60年近く。勲章まで頂いた。2万ヘクタールの広大な農地を株式会社が持てる制度のエクアドルは「革命」以前の状態なのか。FPCは完全にエクアドルの会社で、この問題は日本やフィリピンは関係ないのしょうか?
    日本から古川さんがエクアドルに行ったら「搾取王の末裔」と思われるのでしょうか?古川さん、誰?

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    • MARINA 05/17/2021 at 20:15

      FPCはエクアドルの会社ではありますが、単に現地法人なだけだと考えます。その点から言うと、日本に関係ないと言うことは一切できないと思います。
      古川拓殖についてちょっと調べてみましたが、設立者は古川義三さんです。フィリピン・ダバオに古川拓殖を大正3年に設立し、敗戦の消滅。その後古川拓殖株式会社として再設立、しかしビジネスがうまくいかず、昭和38年エクアドルにマニラ麻会社、これがFPCの前身でしょう。日本にも古川拓殖マーケティング株式会社があり、ここが関連会社です。2018年JICAによる案件「フィリピン国スピンドルマシンを利用した産業用特殊紙原料(マニラ麻)の品質・生産性向上に向けた案件化調査業務委託契約」に入札していそうなので、フィリピンでも引き続きビジネスされているのかもしれません。ちなみに古川義三さんの著書に「ダバオ開拓記」と言うものがあるようなので、ご興味があれば是非。

      以下サイトにも情報がありました。ちなみに、義三さんのお母さんの姉は初代伊藤忠兵衛の妻とのことなので、ここから現伊藤忠商事との関係が見えてきましたね。
      http://pikapikahikari.air-nifty.com/tearoom/2010/04/post-1e3b.html

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  • miyachan 05/22/2021 at 10:24

    お忙しいところ、調査ありがとうございます。リンクも含め、大変有益な情報でした。「拓殖」という古色蒼然とした名前の会社が日本で継続しているのですね。現下の問題でもエクアドルに反日感情が広がらないように、何か手を打って欲しいですね。

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    • MARINA 05/24/2021 at 20:37

      エクアドルびいき私としても、反日感情が生まれないことを願わずにはいられません。

      Reply

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