エクアドルでは毎年10月31日、国の象徴である国章を記念する「国章の日」を迎える。この日は、国民のアイデンティティーを形づくる国章の重要性を確認し、その歴史や各構成要素に込められた意味を振り返る市民的な記念日である。海外で広く祝われるハロウィーンと同じ日だが、エクアドルでは国家の歴史的記憶を守る機会となっている。
現在の国章は1900年10月31日、エロイ・アルファロ(Eloy Alfaro)大統領の政権下で、国民議会(Asamblea Nacional)が正式に採択した。同年11月7日には全国での使用が定められ、12月5日には官報に掲載された。さらに1916年には、教育省(Ministerio de Educación)が現在のデザインを承認した。
現在の国章の芸術的なデザインは、ペドロ・パブロ・トラベルサリ・サラサル(Pedro Pablo Traversari Salazar)によるものとされている。一方、デザインの着想は、1845年のマルシスタ革命(Revolución Marcista)の際に青と白を用いた紋章を制作したホセ・ホアキン・デ・オルメド(José Joaquín de Olmedo)に由来するともいわれている。
1820年から1900年までの国章の変遷
エクアドルの国章は、独立運動や政治体制の変化に伴い、1820年から複数回にわたって図柄が変更された。
1820年:グアヤキルの独立と最初の国章
1820年10月9日、グアヤキル(Guayaquil)が独立を宣言した際、解放運動に着想を得た紋章が採用された。青地に一つの五芒星を配したデザインで、月桂樹の枝や「独立したグアヤキルのために(Por Guayaquil Independiente)」という標語も取り入れられていた。
1821年:グラン・コロンビアの国章を採用
1821年、グアヤキルはグラン・コロンビア(Gran Colombia)の一部となり、コロンビアの国章が採用された。
この国章には、寒帯、温帯、熱帯の各地域の果物や花を載せた2本の豊穣の角と、コロンビアのファスケス(束桿)が描かれていた。
1830年:エクアドル独自の要素を追加
1830年にエクアドルがグラン・コロンビアから分離して共和国となると、フアン・ホセ・フロレス(Juan José Flores)は、それまでのコロンビアの国章を引き続き使用しながら、エクアドル独自の要素を加えるよう定めた。
その内容は、空色の地に赤道線上の太陽を描き、2本の束桿の上に配置したうえで、「コロンビアにおけるエクアドル(El Ecuador en Colombia)」という標語を掲げるというものだった。
1835年:国名の変更と新たな国章
1835年、グラン・コロンビアの終焉に伴い、国章に記されていた「コロンビア共和国におけるエクアドル国(Estado del Ecuador en la República de Colombia)」という標語は廃止され、「エクアドル共和国(República del Ecuador)」に改められた。
この時期の国章には、1820年の革命が起きた月を表す黄道十二宮の星座が描かれていた。獅子座から蠍座までの星座が配置され、7月から11月にかけての期間を示していた。
1843年:国章の形状と憲法を示す要素を変更
1843年、フランシスコ・デ・マルコス(Francisco de Marcos)は国章の変更を決定した。
新しいデザインでは、上部を長方形、下部を楕円形とすることが定められた。主な要素の一つとして開かれた本が描かれ、その左右のページには、憲法の最初の4条を示すローマ数字のI、II、III、IVを記すこととされた。
1845年:現在の国章につながるデザインの着想
1845年には、マルシスタ革命によってフアン・ホセ・フロレス政権が終わり、国章のデザインも再び変化した。この時期の紋章には青と白が用いられた。
現在の国章のデザインの着想は、詩人ホセ・ホアキン・デ・オルメド(José Joaquín de Olmedo)が提案した内容に由来するとされる。オルメドは、楕円形の盾の中央に太陽を描き、その周囲に3月、4月、5月、6月を示す黄道十二宮の星座を配置する構図を提案した。
また、国章にはチンボラソ山(Chimborazo)から流れ出す川と、その川幅が広がる場所を進む蒸気船を描く構想が盛り込まれた。船のマストには、航行と商業を象徴するカドゥケウスを掲げるとされた。山や川、蒸気船は、エクアドルの自然の豊かさと、航行・商業による繁栄を表している。
1900年:現在の国章を正式採択
1900年、国民議会は現在の国章を正式に採択した。最終的に国の象徴を定めたのは、共和国大統領だったエロイ・アルファロである。
現在の国章は同年10月31日に採用され、11月7日に全国での使用が定められた。12月5日には官報に掲載され、正式な承認が確立された。1916年には教育省が現在のデザインを承認している。
国章を構成する要素とその意味
現在の国章は、楕円形の盾を中心に、コンドルや植物、山、川、蒸気船、国旗、武器などを組み合わせたデザインとなっている。構成要素の数は資料によって数え方が異なり、13要素と説明されることがある一方、各部分を細かく分けた図解では15項目に整理されている。以下では、図解に示された15項目に沿って、それぞれの形状や意味を紹介する。
1. コンドル
盾の最上部には、翼を大きく広げ、飛び立とうとする姿勢のアンデスコンドルが描かれている。国のエネルギーや努力、自由を象徴し、エクアドル国民の力強さ、勇気、活力を表している。
2. 月桂樹
盾の周囲に配された月桂樹の枝は、国家の栄光や勝利を象徴している。
3. 楕円形の盾
国章の中央には楕円形の盾があり、外側は茶色の二重の縁取りで囲まれている。盾の内部には、チンボラソ山やグアヤス川、蒸気船など、国の自然や歴史を表す風景が描かれている。
4. 黄金の太陽
盾の上部には金色の太陽が配置されている。太陽は黄金を意味し、国の豊かさを表している。周囲には黄道十二宮の星座が描かれている。
5. 黄道十二宮の星座
太陽の周囲には、牡羊座、牡牛座、双子座、蟹座の四つの星座が描かれている。図解では、右側に牡羊座と牡牛座、左側に双子座と蟹座が配置されている。
これらは3月、4月、5月、6月を表している。この期間には、マルシスタ革命に関連する重要な出来事が起きた。星座は、フアン・ホセ・フローレス政権を終わらせた政治的な闘争の時期と結び付いている。
6. チンボラソ山
盾の中央には、雪に覆われたチンボラソ山が描かれている。エクアドルで最も高い火山であり、その万年雪に覆われた山頂からグアヤス川が流れ出す構図になっている。
7. エクアドル国旗
盾の両側には、4本のエクアドル国旗が配置されている。左右に2本ずつ、盾の前後に掲げられ、槍やハルバードなどの武器と組み合わされている。旗は国家の象徴であり、歴史的な闘争や国家の権力を守ることに関連付けられている。
8. ヤシの葉
ヤシの葉は、国章の周囲に配置された植物の一つである。図解では国家の平和を象徴すると説明されている。一方、別の説明では、自由のために闘った人々の犠牲を思い起こさせるものとされている。
9. リボン
国章には、絹でできたリボンも描かれている。盾の下部に垂れる装飾の一部を構成し、国旗や植物、武器などとともに全体を形づくっている。
10. 槍の穂先
国旗を掲げる槍の先端には、金属製の菱形の穂先が取り付けられている。4本の旗を支える槍の一部であり、国章の左右に配置されている。槍やハルバードなどの武器は、歴史的な闘争や国家の権力を守ることと結び付いている。
11. カドゥケウス
蒸気船のマストには、翼が付き、2匹の蛇が巻き付いたカドゥケウスが掲げられている。これはローマ神話の神メルクリウス(Mercurius)の持ち物に由来し、航海や商業を象徴している。
12. グアヤス川
チンボラソ山から流れ出すグアヤス川(río Guayas)は、盾の下部に向かって次第に川幅を広げていく。川の両岸には豊かな植物が描かれ、国の農業や自然の豊かさを表している。また、国内の人々を結び付ける存在としても説明されている。
13. 蒸気船「グアヤス号」
川の上には蒸気船「グアヤス号」が浮かんでいる。この船は1841年にグアヤキルの造船所で建造されたもので、南米で建造された最初期の蒸気船の一つとされる。
船のマストにはカドゥケウスが掲げられている。また、船体や船首にある旗には、エクアドル国旗と同じ色が使われている。国章の中では、航海や商業の歴史を示す要素となっている。
14. 執政官の束
盾の下部には、棒を束ねて交差させた装飾がある。これは「執政官の束(fasces consulares)」と呼ばれ、古代ローマの執政官が用いた権威の象徴に由来する。共和制の権威や尊厳を表している。
15. 斧
盾の下部には、束ねた棒に斧を組み合わせた「ファスケス・コンスラレス(fasces consulares)」が描かれている。古代ローマの執政官の権威を示す象徴に由来し、国家の権威や権力、共和制の尊厳を表している。
2026年11月の連休はいつから始まるのか
10月31日の国章の日は、エクアドルの祝日カレンダーに定められた休日ではない。ただし、2026年は同日が土曜日に当たるため、11月初めの祝日と連続する。
観光副省(Viceministerio de Turismo)の祝日カレンダーによると、11月2日月曜日は死者の日(Día de los Difuntos)、翌3日火曜日はクエンカ独立記念日(Independencia de Cuenca)である。このため、通常の勤務日程で働く人々は、11月4日水曜日に仕事へ戻る予定となっている。
国章の日は、ハロウィーンと同じ10月31日に祝われるが、エクアドルでは国章の歴史や各構成要素の意味を確認する市民的な記念日として定められている。
参考資料:
1. Ecuador conmemora el Día del Escudo Nacional: ¿qué significan sus símbolos y cuál es su historia?
2. ¿Cuándo es el Día del Escudo Nacional y qué significa cada elemento de este símbolo patrio de Ecuador?



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