インドネシア:森林火災による深刻な煙害で抗議拡大

(Photo:Achmad Ibrahim / AP)

インドネシアで過去10年以上で最悪となる森林火災が発生し、約200万ヘクタールが焼失した。広範囲に有害な煙が広がり、住民の健康や生活を脅かすなか、政府の対応に抗議する動きが各地で拡大している。プラボウォ・スビアント(Prabowo Subianto)大統領の就任から2年を迎えたが、経済の停滞や政策の失敗、政府への不信が重なり、政権に対する国民の不満は強まっている。

10月28日には、首都ジャカルタ(Jakarta)をはじめ国内各地で学生や市民社会団体のメンバー数百人が抗議活動を行った。参加者は森林火災への対応を求め、政府に対して火災を国家災害に指定するよう要求した。また、無料給食事業などの政策への支出を見直すよう求める声も上がった。

今回の抗議は、森林火災だけをめぐるものではない。市民社会団体やアナリストは、政府事業の浪費、軍事化と権力集中、縁故主義、報道機関への攻撃、司法の弱体化などを批判している。生活費の上昇や経済への不安も重なり、プラボウォ政権への不満が広範囲に広がっている。

 

約200万ヘクタールが焼失、東南アジアに煙害拡大

インドネシアでは、過去10年以上で最悪となる森林火災が発生し、約200万ヘクタールが焼失した。泥炭地を火災に弱い状態にするエルニーニョ現象も被害を悪化させている。森林や土地の火災によって発生した煙はインドネシア各地を覆い、マレーシアやシンガポールにも広がっている。煙害によって呼吸器疾患が増加しており、地域住民の健康への影響が懸念されている。

カリマンタン(Kalimantan)では有害な大気の状態が続いている。中部カリマンタン州(Kalimantan Tengah)でも深刻な煙害が報告され、西カリマンタン州(Kalimantan Barat)では、自然保護団体が絶滅の危機に瀕するオランウータン数十頭を避難させた。

10月には、消火活動に当たっていたボランティア4人が死亡した。大学研究者のヌルル・アマリア(Nurul Amalia、33)は、政府が消火要員を増やしていると説明しているものの、目に見える進展は乏しいと批判した。カリマンタンでは依然として有害な大気が報告され、消火活動中に人命が失われたことにも懸念を示した。

アマリアは10月28日、ジャカルタで行われた抗議活動に参加した。1週間で2度目となるデモで、参加者は政府に対して火災を国家災害に指定するよう求めた。

ロイター(Reuters)によると、インドネシア政府は火災に関係した疑いのある企業を訴追し、雨を降らせるための気象改変も試みている。また、火災被害を受けた州に支援物資を送り、状況の監視を続けている。

政府広報室は10月28日夜の声明で、火災に関する企業への訴追や被災地域への支援を進めていると説明した。学生たちの意見や要求についても、歓迎する姿勢を示した。

 

ジャカルタなど各地で学生や市民が抗議

10月28日、学生や市民社会団体のメンバー数百人がジャカルタのホテル・インドネシア・ラウンドアバウト(Hotel Indonesia Roundabout)に集まり、森林火災と政府の政策に抗議した。一部の参加者は防毒マスクを着用し、火災を国家災害に指定するよう求める看板を掲げた。

デモ参加者の一部は「私たちが燃えれば、あなたたちも一緒に燃える(If we burn, you burn with us)」と書かれた看板を掲げ、抗議を象徴する3本指のサインを示した。このサインは映画『ハンガー・ゲーム』(The Hunger Games)に由来し、世界各地の若者による抗議運動でも使われている。

28歳のアンギ・アウリエン(Anggi Aurien)は、森林火災によって野生動物が命を落としていることに抗議するため、ランドマークで3時間にわたって防毒マスクを着用した。「動物たちは自分で考えることができない。私たちが動物を殺すのなら、私たちと動物の違いは何なのか」と訴えた。

会場には、火災の被害を受けているオランウータンの写真や、プラボウォの等身大の段ボール製パネルも掲げられた。

インドネシア大学(Universitas Indonesia)の学生を含む別の学生グループは、数十人の警察官や軍関係者に進路を阻まれ、一部で小競り合いが発生した。参加者は「革命、革命」と連呼した。

パジャジャラン大学(Universitas Padjadjaran)の学生エズラ・アル・バラ(Ezra Al Barra)は、森林火災が「私たち全員の怒り」になっていると述べ、ジャカルタ以外の地域からも学生が集まったと説明した。

南スラウェシ州(Sulawesi Selatan)のマカッサル(Makassar)や西ジャワ州(Jawa Barat)のバンドン(Bandung)でも、同様の要求を掲げる学生集会が開かれた。数十人の学生がバイクで幹線道路を埋め、政府に抗議した。

参加者は森林火災への対応だけでなく、プラボウォ政権の無料給食事業など、ポピュリズム的な政策への支出を停止するよう求めた。

Photo:Mast Irham / EPA

 

環境団体が気候危機と生活費高騰への対応を要求

森林火災への抗議が広がるなか、環境団体グリーンピース・インドネシア(Greenpeace Indonesia)は10月20日、ジャカルタ中心部で政府に対応を求める平和的な抗議活動を行った。

活動家たちは、ホテル・インドネシア・ラウンドアバウト(Hotel Indonesia Roundabout)にある歓迎の像(Monumen Selamat Datang)の頂上から、2枚の巨大な横断幕を掲げた。一枚には「気候危機に対処し、生活費を引き下げよ」と記し、大統領宮殿に向けた。もう一枚には「災害は悪化し、人々は苦しんでいる。政府は何をしているのか」と記し、ロータリーの南側に向けた。

登山用のハーネスとヘルメットを着用した2人の女性活動家は、「抗議なくして進歩なし」と書かれた球形の看板を手に、歓迎の像からロープを使って地上へ降りた。この様子はソーシャルメディアで急速に拡散し、2人は「女王たち」と呼ばれて話題になった。写真や動画は世界各地に広がり、政府に対応を求める声を広げた。

現場には多くの人々や報道関係者が集まった。グリーンピース・インドネシアの社会・経済キャンペーン責任者アタ・ラシャディ(Atha Rasyadi)は、経済成長の恩恵が一部の人々に集中し、自然の搾取が進む一方で、多くの人々が生活に苦しんでいる状況を前に、沈黙することはできないと訴えた。

同団体の気候正義キャンペーン担当者ジアニー・シライット(Jeanny Sirait)は、気候危機が人々の生活の質を低下させていると指摘した。異常気象や生態系の災害は、安全や健康を脅かすだけでなく、生活基盤を損ない、所得を減少させ、食料価格を押し上げていると述べた。

グリーンピースは、気候危機に対処するには、政府と企業が化石燃料からの公正な世界的エネルギー転換を加速させ、森林破壊を終わらせる必要があると主張する。同団体は、化石燃料を気候危機の最大の要因と位置づけている。

今回の抗議の背景には、森林火災に加え、鉄砲水やエルニーニョ現象によって深刻化する干ばつなど、気候変動に関連する災害が相次いでいることがある。グリーンピースは、こうした災害が何百万人もの人々の暮らしに影響を及ぼしていると訴えた。

同団体は、気候危機と生活費の問題は切り離せないと指摘する。世界的な化石燃料価格の高騰が、食料や交通など日常的な支出を押し上げる「化石燃料インフレ」につながっているという。

グリーンピースによると、インドネシアだけでなく、フランスやアルバニアなどでも学生が抗議の先頭に立ち、政府に責任を果たすよう求めている。また、ブラジル、ケニア、セルビア、英国、米国などでも、腐敗の終結や、脅迫を受けずに声を上げる自由を求める運動が広がっている。

同団体は、抗議活動を通じて人々が異なる未来を求めて行動していることに希望を見いだしている。住宅価格の高騰や学校の資金不足、構造的な腐敗、警察の暴力、抗議する権利への制限など、各国が抱える問題は異なるものの、若者を中心に組織的な行動が広がっていると説明した。

 

無料給食事業に相次ぐ問題、支持率も低下

プラボウォは2024年の大統領選挙で、現状維持を掲げ、親しみやすいイメージを打ち出した。また、栄養不良対策として数十億ドル規模の無料給食事業を公約に掲げた。

しかし、政権の看板政策である無料給食事業は、開始後から相次いで問題に直面している。2026年6月には、事業を担当する国家栄養庁の長官が汚職の疑いで逮捕された。事業開始以来、汚染された食事を口にした何千人もの児童が食中毒の被害を受けている。米の中にウジ虫やガラス片が入っていたという苦情も寄せられた。

政府は10月28日の声明で、事業の監督を強化し、地方政府も実施に関与させる方針を示した。また、多くの子どもや妊婦、授乳中の母親が事業の恩恵を受けていると説明した。

一方、サイフル・ムジャニ・リサーチ・アンド・コンサルティング(Saiful Mujani Research and Consulting)が10月に実施した世論調査では、インドネシア国民の約62%が無料給食事業に反対していることが示された。

同じ調査で、プラボウォの支持率は44.5%となった。調査が始まった20年前以降のインドネシア大統領の中で、最も低い数字だという。

長年インドネシアを分析してきたケビン・オルーク(Kevin O’Rourke)は、この結果はプラボウォが国民の支持を失っていることを示していると述べた。無料給食事業や費用のかかる村落協同組合事業など、国民が地域社会で影響を目にする政策が失敗しているとの見方を示した。

プラボウォの前任大統領の下で大統領府スタッフを務め、シンガポールのユソフ・イシャク東南アジア研究所(ISEAS – Yusof Ishak Institute)の客員研究員でもあるヤヌアル・ヌグロホ(Yanuar Nugroho)は、政府が公共政策の議題を設定することには長けている一方、実行する能力は乏しいと批判した。

ヌグロホは、現在の政府の状況について、これまでに見たことがないほど混乱しており、最悪の状態だと述べた。また、プラボウォは現実から切り離されているように感じられる一方、自らを救世主のように捉える強い考えを持っているようだと指摘した。

ジャカルタ在住で3人の子どもを育てる広報専門職のイカ・アナスタシア(Ika Anastasia)は、政権発足後に進歩が見られないだけでなく、実際には後退したように感じると話した。

民間企業に勤めるアリャナ(Aryana)は、自身の32年間の人生で最悪の政権かもしれないと述べた。問題が次々と起こり、一つが解決する前に別の問題が発生していると批判した。

Photo:Reina / AFP / Getty Images

 

ルピア安、燃料不足、株式市場をめぐる懸念

インドネシア経済も不安定な状況にある。2026年にはルピアが対米ドルで過去最低水準に下落した。また、2年間で財務相が3人目となった。

ここ数週間には、バリ島(Bali)、スラウェシ島(Sulawesi)、カリマンタンで、人々が燃料を求めて長い列を作る様子が報じられた。

さらに、世界的な株価指数提供会社MSCIは10月、インドネシア市場について、株式保有構造の不透明さや協調的な取引の疑いを理由に、市場区分を「独立市場(standalone market)」に格下げする可能性を警告した。格下げが実施されれば、東南アジア最大の経済にとって大きな打撃となる可能性がある。

政府は、2026年第2四半期の経済成長率が5.29%に達し、貧困率が8%低下したと説明した。また、MSCIが指摘した問題に対処するため、市場改革を加速させていると述べた。一部のアナリストは、規制当局ではないMSCIが行き過ぎた可能性もあると指摘している。

プラボウォはMSCIの警告に強く反発した。閣僚に対し、インドネシアはMSCIを含むさまざまな妨害に直面しており、同社はインドネシアを脅そうとしていると述べた。また、インドネシア国民は誰も恐れず、決して引き下がらないと語った。

アナリストによれば、こうした混乱のなかで、プラボウォは頑固で、助言を受け入れようとしない人物との評判を築いている。一方、政府はこの見方に反論し、大統領はさまざまな利害関係者と継続的に対話していると説明している。

 

政権発足から2年、政治への不信も拡大

プラボウォは元軍将軍で、かつての独裁者、スハルト(Suharto)の娘婿だった。2024年の大統領選挙では現状維持を掲げ、親しみやすいイメージを打ち出して当選した。

しかし、政権発足から2年が経過するなかで、政策の実施能力や経済運営に対する批判が強まっている。市民社会団体は、政府事業への浪費や縁故主義、軍事化と権力集中、報道機関への攻撃、司法の弱体化などを問題視している。

インディカトル(Indikator)のアナリスト、ケネディ・ムスリム(Kennedy Muslim)は、現在のインドネシアでは不確実性が非常に高く、抗議活動が起きる可能性も大きいと指摘した。抗議を引き起こす出来事が必要になるものの、それが何になるかを予測することはできないと述べた。

オルークは、インドネシアが1998年のスハルト退陣後に始まった改革時代以来、前例のない状況にあると分析する。過去の政権にも問題はあったが、民主的な開放性や独立した制度、権力の抑制と均衡は、現在よりも確保されていたという。

オルークによれば、以前は政治に関わる人々が民主主義や選挙のルール、議会における反対派の権利を尊重する必要があった。しかし、現在はそうした制約が失われている。プラボウォに対する抑制がほとんど存在しないため、政治情勢は不安定で予測しにくくなっていると指摘した。

 

過去の抗議活動と今後の焦点

インドネシアで前回大規模な抗議活動が発生したのは2026年8月で、その際には数百人が拘束された。

2025年には、バイクタクシー運転手が警察に殺害されたことをきっかけに、インドネシア全土で数週間にわたる抗議活動が発生した。この騒乱では、さらに複数の人々が死亡した。

今回の抗議活動は、森林火災や煙害への対応を求めるものとして始まったが、政府の経済政策や無料給食事業、生活費の上昇、政治制度への不信など、幅広い問題に対する不満を反映している。

グリーンピース・インドネシアは、気候危機への対応と生活費の引き下げを求める市民の声を広げている。環境団体は、気候災害が人々の安全や健康だけでなく、所得や食料価格にも影響していると指摘し、政府に抜本的な対策を求めている。

政府は学生の意見を歓迎し、火災対策や市場改革、無料給食事業の監督強化などを進めていると説明する。しかし、森林火災による煙害が続き、経済的な不安や政治への不信も強まるなか、政権への批判が収まる兆しは見えていない。

#森林火災 #抗議

 

参考資料:

1. As forest fires rage, hundreds of Indonesian students protest government response
2. ‘Feels like we’ve gone backwards’: Indonesia’s choking haze provides spark for wider protests
3. Indonesia’s protest ‘queens’ are a viral sensation. Here’s why their message on haze, climate and cost of living hits the spot

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