コロンビアのアベラルド・デ・ラ・エスプリエジャ(Abelardo De La Espriella)政権が、イスラエルによるシリア領ゴラン高原(Golan Heights)への主権を正式に承認したことをめぐり、シリア、トルコ、サウジアラビア、カタール、エジプト、パレスチナなどが相次いで反発した。
今回の問題の核心は、イスラエルが1967年以降、シリア領ゴラン高原を占領し、1981年には一方的な併合を行ってきたことにある。国際連合(United Nations:UN)を含む国際社会は、この併合を合法なものとして認めておらず、ゴラン高原を占領されたシリア領として扱っている。
その状況に対し、コロンビア政府は今回、イスラエルによるゴラン高原の実効支配を追認するにとどまらず、同地域に対するイスラエルの主権を正式に承認した。さらに、イスラエルが外部からの脅威から自国を守る権利を認め、ゴラン高原におけるイスラエルの支配と主権を、イスラエル市民の生命を守り、安全を確保するための重要な要素として位置付けた。
コロンビアがイスラエルの主権を正式に承認
コロンビア外務省(Ministerio de Relaciones Exteriores de Colombia:コロンビア外務省)は2026年8月、イスラエルが約60年前から占領しているシリア領ゴラン高原について、イスラエルの主権を正式に承認すると発表した。
この決定は、デ・ラ・エスプリエジャがカリで大統領就任式を行った翌日に下されたとみられる。同じ時期、イスラエル外相ギデオン・サール(Gideon Sa’ar)が3度目となるコロンビア訪問を行い、副大統領ホセ・マヌエル・レストレポ(José Manuel Restrepo)と会談した。
このタイミングでコロンビア外務省は、イスラエルが外部からの脅威から自国を守る権利を認めるとともに、ゴラン高原に対するイスラエルの主権を承認すると表明した。同外務省はその理由について、イスラエルが数十年にわたり国境沿いで継続的かつ存立に関わる安全保障上の課題に直面しており、近年、その課題が大幅に激化していると説明した。声明では、その暴力の一例として、ハマス(Hamas)が10月7日に実行したテロ攻撃にも言及した。
コロンビア政府はこうした安全保障上の状況を踏まえ、イスラエル政府によるゴラン高原の支配と主権を、イスラエル市民の生命を守るための重要な要素として承認した。また、この決定によって、中東における安定的かつ持続的な平和の追求へのコミットメントを改めて表明すると説明した。
イスラエル側はコロンビアの決定を歓迎
サール外相は、コロンビアによるゴラン高原の主権承認を歓迎し、デ・ラ・エスプリエジャ大統領に対して今回の立場への感謝を表明した。両者がバランキージャ(Barranquilla)の執務室で並んだ姿も公開されている。
イスラエル首相ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)もコロンビアによる承認を歓迎した。ネタニヤフ首相は動画を公開し、コロンビアとともにあると述べたうえで、デ・ラ・エスプリエジャ大統領を「われわれの友人」と表現し、ゴラン高原に対するイスラエルの主権を認めたことに感謝を表明した。
なぜゴラン高原の主権承認が問題になっているのか
ゴラン高原はシリア南西部に位置する岩地の高原で、イスラエル、シリア、ヨルダン、レバノンに近接している。ダマスカス(Damascus)から約60キロしか離れておらず、シリア南部や首都周辺を見渡せることから、軍事・安全保障上の重要性が非常に高い。
しかし、今回の問題は単にイスラエルがゴラン高原を実効支配していることと、国際社会が別の立場を取っていることの違いではない。イスラエルが1967年以降、シリア領を軍事的に占領し、1981年には一方的に併合したこと、その後もその支配を維持していることが問題の出発点にある。
国際連合(UN)を含む国際社会は、イスラエルによる1981年の併合を合法なものとして認めていない。したがって、コロンビアが今回、イスラエルによるゴラン高原の主権を承認したことは、国際法および国際連合の決議に基づく従来の立場とは異なり、イスラエルによる占領・併合を正当化する方向に踏み込んだものとして受け止められている。
2026年7月にも、国際連合事務総長アントニオ・グテーレス(António Guterres)は、ゴラン高原を改めて「シリア領」と表現した。こうした国際的な立場が維持されている中で、コロンビアはイスラエルの主権を承認した。
ゴラン高原では何が起きてきたのか
ゴラン高原は1967年の六日戦争(Six-Day War)をきっかけにイスラエルが大部分を占領した。1973年のヨム・キプル戦争(Yom Kippur War)では、シリアが支配権を取り戻そうとしたものの成功しなかった。
1974年にはイスラエルとシリアが停戦協定を締結し、両者の間に国際連合(UN)が監視する分離地帯が設置された。しかし1981年、イスラエルは自国が支配していた地域を一方的に併合した。この措置は国際的に承認されていない。
イスラエルによる占領と併合が続く一方、国際連合(UN)はゴラン高原をシリア領として扱ってきた。今回のコロンビアの決定は、この長年の国際的な立場に反して、イスラエル側の主権主張を正式に認めるものとなった。
ゴラン高原は現在どうなっているのか
ゴラン高原の面積は約1,800平方キロメートルとされる。現在イスラエルはそのうち約1,200平方キロメートルを支配しているとされている。約230平方キロメートルは国際連合(UN)が設置した平和維持活動の区域に含まれ、残りはシリアの統治下にある。
イスラエルとシリアの間には、1974年の停戦協定に基づく分離地帯が存在する。この地域で停戦と国境の尊重を監視しているのが、国連兵力引き離し監視軍(United Nations Disengagement Observer Force:UNDOF)である。
分離地帯にはクネイトラ(Quneitra)がある。クネイトラはかつてゴラン高原の主要都市だったが、1974年にイスラエル軍によって破壊され、放棄された。シリア側は地域全体が返還されるまで都市を再建しない方針を取り、その破壊を記録するための博物館も建設している。
ゴラン高原北部にはシェバア農場(Shebaa Farms)もある。約22平方キロメートルの地域で、シリアとレバノンの双方がレバノン領だと主張している。一方、国際連合(UN)はイスラエルが占領するシリア領と位置付けている。
軍事的に重要なのはなぜか
ゴラン高原の軍事的価値は、その標高と地形にある。高原からはシリア南部やダマスカス方面を監視できるため、イスラエルにとって重要な防衛・監視拠点となっている。
特に重要なのがヘルモン山(Mount Hermon:ヘルモン山)である。標高2,814メートルに達するヘルモン山は、ゴラン高原だけでなくシリア全土でも最も標高が高い地点とされ、天然の防壁であると同時に広範囲を監視できる地点でもある。
イスラエルにとってヘルモン山を確保することは、シリア南部だけでなく、レバノンのベカー渓谷(Beqaa Valley)や、同地域を活動拠点の一つとするヒズボラ(Hezbollah)の動向を監視するうえでも意味を持つ。
また、イスラエルはシリア国内におけるイラン関連の軍事活動を警戒しており、2017年以降、関連する標的への攻撃を強化してきた。ゴラン高原周辺の軍事的緊張は、こうしたイスラエル、シリア、イラン、ヒズボラなどをめぐる安全保障問題とも結び付いている。
アサド政権崩壊後に軍事状況が変化
2024年にバッシャル・アル=アサド(Bashar al-Assad)政権が崩壊すると、ゴラン高原周辺の軍事状況も大きく変化した。
イスラエルはシリア国内の軍事基地などへの攻撃を開始し、「抵抗の枢軸」の軍事能力を弱めるとともに、シリアで新たに台頭する勢力が国境付近で軍事的影響力を拡大することを防ごうとした。
さらにイスラエル軍は、1974年の合意によって設定された非武装地帯へ進出し、クネイトラ周辺に軍用車両を展開したほか、ヘルモン山にも到達した。イスラエル側は軍事的脅威への対応を理由としているが、シリア側から見れば、従来の停戦体制に対する重大な変更となる。
ネタニヤフ首相は、この進出について一時的な措置であり、旧シリア政府の軍事インフラや武器を破壊することが目的だと説明している。
ヘルモン山を長期的に確保し、監視設備などを設置すれば、イスラエルはシリア南部だけでなく、レバノンのベカー渓谷など、より広範囲を監視できるようになるとの見方もある。
水資源と農業でも重要なゴラン高原
ゴラン高原の重要性は軍事面だけではない。高原に降った雨や雪は周辺の河川や流域に集まり、ヨルダン川(Jordan River)へ流れ込む。この水資源がイスラエルの水供給のおよそ3分の1を支えるとされている。
また、火山性の土壌を持つゴラン高原は農業にも適しており、果樹やブドウの栽培が行われている。さらに、イスラエル唯一のスキー場も存在する。
そのためゴラン高原は、軍事的な高地であるだけでなく、水資源、農業、観光、国境管理という複数の側面を持つ地域でもある。
ゴラン高原には誰が暮らしているのか
ゴラン高原の住民は一つの民族・社会集団で構成されているわけではない。地域全体に約4万5,000人が暮らし、そのうち約2万人がシリア系のドルーズ派(Druze)住民やアラブ人、約2万5,000人がユダヤ人とされている。
シリア系住民は主に北部に居住している。マジュダル・シャムス(Majdal Shams)はゴラン高原最大の町で、ドルーズ派住民の主要な自治体でもある。一方、イスラエル側ではカツリン(Katzrin)が地域の中心都市とされている。
イスラエルは1981年の併合後、支配地域に残ったシリア人にイスラエル国籍を申請する選択肢を提示した。しかし、多くの住民はシリア人としてのアイデンティティを維持し、イスラエルとの関係を築くことを避けた。
一方、近年はゴラン高原出身のドルーズ派住民の間で、イスラエル国籍を申請する人も増えている。
2019年には米国がイスラエルの主権を承認
ゴラン高原をめぐる国際的な立場に変化が生じたのが2019年だった。米国のドナルド・トランプ(Donald Trump)大統領は、ゴラン高原に対するイスラエルの主権を承認した。
ただし、この米国の決定によって国際社会全体の立場が変更されたわけではない。国際連合(UN)を含む国際社会では、イスラエルによる1981年の一方的な併合を合法なものとして認めない立場が維持されている。
そのため2026年のコロンビアによる主権承認は、米国に続いてイスラエルの主権を認める国家が現れたという意味を持つ一方、国際的な多数派の立場とは異なる外交判断でもある。
シリア、トルコ、サウジアラビアなどが相次いで拒否
コロンビアによる発表後、シリアをはじめとする各国政府が相次いで反応した。
シリア外務省は、コロンビアの発表からわずか1日後に反応した政府の一つだった。シリア政府はコロンビアの立場を断固として拒否し、非難するとともに、ゴラン高原がシリア領土と不可分の一部であることを改めて確認した。
トルコはシリアの立場を支持し、コロンビアの決定を国際法違反とした。トルコ外務省は、イスラエルによるゴラン高原の占領を正当化しようとするコロンビアの声明を強く非難し、ゴラン高原はシリアの不可分の一部であると表明した。
サウジアラビアもゴラン高原に対するイスラエルの主権承認を拒否すると表明した。サウジアラビアは、この措置が国際法および国際連合(UN)の関連決議に反すると指摘した。
カタールはコロンビアの決定を批判し、ゴラン高原を「占領されたアラブ領土」と表現した。カタール政府は、イスラエルが国際法を順守し、占領されたアラブ領土から撤退しなければならないと改めて主張した。
エジプトもコロンビアの措置を非難した。エジプト外務省は、今回の決定がシリア・アラブ共和国がその全領土において有する正当かつ確立された権利を侵害すると批判した。さらに、イスラエルが占領下にあるシリア領ゴラン高原から撤退する必要性を強調した。
パレスチナも批判に加わり、コロンビアの決定は国際法および国際連合憲章に違反すると指摘した。
アラブ連盟もコロンビアの承認を拒否
アラブ諸国22カ国からなるアラブ連盟(Arab League)も、コロンビアによるイスラエルの主権承認を拒否した。アラブ連盟事務総長ナビル・ファフミ(Nabil Fahmy)は、デ・ラ・エスプリエジャ政権の外務省が発表した承認について、その声明には法的効力がなく、ゴラン高原の地位や同地域に対する主権を決定するうえで、いかなる価値も持たないと述べた。
ファフミ事務総長は、国際法および国際的な正当性に関する決議に従えば、ゴラン高原は今後も占領されたシリア領であるとした。また、同地域の法的地位は確立されており、政権交代や政治的方針の変更によって影響を受けるものではないと指摘した。
そのうえで、デ・ラ・エスプリエジャ政権に対し、国際的な決議および国際連合(UN)の決議に従って、声明を撤回し、立場を改めるよう求めた。
コロンビアの外交政策はどう変わったのか
今回の決定は、デ・ラ・エスプリエジャ政権が発足直後から進める外交政策の転換とも結び付いている。
前大統領グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)政権下では、コロンビアとイスラエルの外交関係は大幅に悪化していた。2024年5月には、ペトロがガザ(Gaza)での戦争への対応を理由にイスラエルとの外交関係を断絶した。
これに対し、デ・ラ・エスプリエジャ政権は発足直後からイスラエルとの関係を再構築する姿勢を示した。ゴラン高原の主権承認は、その外交方針を象徴する決定の一つとなった。
今回の政策転換を理解するうえでは、コロンビアの首都ボゴタ(Bogotá)とイスラエルのテルアビブ(Tel Aviv)の関係が、ペトロ政権時代から大きく変化していることも重要である。
サール外相の訪問と10月のイスラエル訪問
デ・ラ・エスプリエジャ政権発足直後、サール外相は3度目となるコロンビア訪問を行い、レストレポ副大統領と会談した。両者の会談では、今後の二国間関係について二つの方向性が示された。一つは、10月にコロンビアの新政権がイスラエルを公式訪問すること。もう一つは、「二国間経済委員会」を始動させることだった。
サール外相は会談について、両国間の協力の将来にとって非常に重要だったと評価した。また、デ・ラ・エスプリエジャを「決断力があり、刺激を与える指導者」と評価し、ユダヤ人とイスラエル国家の友人だと表現した。
また、コロンビアで地震が発生した際、サールは早い段階で支援を申し出た人物の一人となった。
西サハラでも前政権から方針転換
新政権による外交政策の転換は、ゴラン高原だけではない。
デ・ラ・エスプリエジャの大統領就任式から数時間後、コロンビアはモロッコの西サハラ(Western Sahara)に対する主権も承認した。これは2022年以降のコロンビアの立場からの転換である。ペトロ政権は2022年、サハラ・アラブ民主共和国(Sahrawi Arab Democratic Republic:SADR)との外交関係を再開していた。
このため、新政権はゴラン高原や西サハラなど、国際的に領有権をめぐる対立が続く地域について、前政権とは異なる外交方針を相次いで打ち出している。
デ・ラ・エスプリエジャ政権の外交政策
デ・ラ・エスプリエジャは就任前の2026年7月27日の時点で、14の大使館と15の領事館を閉鎖すると発表していた。維持費がかかる一方で、具体的な成果を生み出していないと判断したためだと説明した。
同氏は、これらの閉鎖が該当国との外交関係そのものを断つことを意味するわけではないと説明した。
ただし、キューバとニカラグアについては例外とし、「独裁政権とのいかなる関係も持たない」との立場を示した。
イスラエルとの関係再構築と大使館移転
デ・ラ・エスプリエジャ政権によるイスラエルのゴラン高原主権承認は、イスラエルとの関係を再構築する動きの一環となっている。
コロンビアは新たな関係の一環として、イスラエルにある大使館をテルアビブからエルサレム(Jerusalem)へ移転することも発表した。エルサレムはイスラエルによって首都とみなされている。
大使館移転の方針も含め、今回の一連の政策は、ペトロ政権下で悪化したコロンビアとイスラエルの関係を、新政権が大きく方向転換させていることを示している。
ゴラン高原をめぐる現在の焦点
ゴラン高原をめぐる対立は、1967年の六日戦争から半世紀以上が経過した現在も解決していない。イスラエルは広大な地域を実効支配し、1981年には一方的な併合を行った。2019年には米国がイスラエルの主権を承認し、2024年のアサド政権崩壊後にはイスラエル軍が1974年の合意によって設定された非武装地帯へ進出するなど、軍事的な状況も変化している。
一方、国際連合(UN)はゴラン高原をシリア領として扱い、国連兵力引き離し監視軍(UNDOF)による停戦監視体制も維持されている。つまり現在のゴラン高原には、イスラエルによる長期的な占領と実効支配、1981年の一方的な併合、シリアによる領有権主張、国際法および国際連合の決議に基づく非承認、イスラエルの安全保障上の主張、そして国連による停戦監視が重なっている。
今回のコロンビアの決定は、この構図の中で、イスラエルによるゴラン高原の支配を安全保障上の必要性と結び付けて正当化し、その主権を正式に承認した点に大きな意味がある。シリアなどが反発したのは、コロンビアが単にイスラエルとの外交関係を強化したからではなく、国際法上認められていない占領・併合をめぐるイスラエルの主張を国家として承認したためである。
ゴラン高原は、軍事的な高地、水源、農業地域、国境地帯という複数の側面を持つ。同時に、イスラエルとシリアの長年の対立、国連の停戦監視、イランやヒズボラをめぐる安全保障問題とも結び付いている。そのため、今回の主権承認を理解するには、ゴラン高原がなぜ戦略的に重要なのかだけでなく、イスラエルがどのように同地域を占領・併合してきたのか、国際社会がなぜその措置を認めていないのか、そしてコロンビアがなぜその主権を承認したのかを一体として見る必要がある。
参考資料:
1. Crisis diplomática entre Colombia y países árabes por los Altos del Golán: ¿qué pasó?
2. Países árabes rechazaron reconocimiento de Colombia de la soberanía israelí sobre el Golán
3. Israel y Arabia Saudí presionaron a Trump para atacar a Irán, según The Washington Post
4. Gobierno de Abelardo de la Espriella reconoció la soberanía de Israel sobre Altos del Golán
5. COLOMBIA RECONOCE LA SOBERANÍA DE ISRAEL SOBRE LOS ALTOS DEL GOLÁN
6. Altos del Golán son territorio de Siria, afirma secretario de ONU
7. El mapa de los Altos del Golán, el estratégico enclave sirio ocupado por Israel





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