エクアドル:ビジャビセンシオ殺害から3年、「メタスタシス」と「マグニシディオFV」で浮かび上がる殺害計画

2026年8月9日、エクアドルの大統領選候補だったフェルナンド・ビジャビセンシオ(Fernando Villavicencio)が殺害されてから3年を迎えた。ビジャビセンシオが2023年8月9日に襲撃されたキト北部の教育機関では、友人や関係者が献花や写真入りの横断幕を設置して追悼した。一方、司法当局では、殺害の実行に関与した人物に対する判決がすでに出ているほか、殺害を計画、資金提供、調整したと検察がみている7人をめぐる「マグニシディオFV(Magnicidio FV)」事件の公判前審理が続いている。

この事件をめぐる捜査では、「メタスタシス(Metástasis)」と「マグニシディオFV」という二つの司法手続きが関連している。「メタスタシス」はビジャビセンシオ殺害そのものを審理する事件ではなく、犯罪組織や政治関係者らの関係を示す通信記録などを捜査した事件である。その中で確認された会話や人物間のつながりが、ビジャビセンシオ殺害の計画を示す情報として浮上した。これを受け、「マグニシディオFV」では、殺害を計画、資金提供、調整したとされる人物の責任が追及されている。

 

殺害から3年、現場で追悼

ビジャビセンシオの殺害から3年となった8月9日、キト北部の教育機関にある体育館の前で追悼が行われた。ここは、ビジャビセンシオが2023年8月9日、大統領選挙運動中の政治集会を終えた際に襲撃された場所である。友人や関係者は、現場に花と写真入りの横断幕を設置した。参加者にはジャーナリストのクリスティアン・スリタ(Christian Zurita)とカルロス・フィゲロア(Carlos Figueroa)もいた。

ビジャビセンシオは政治集会を終えて車に乗り込もうとしていた際、銃撃を受けた。近隣の医療機関に搬送されたものの、そこで死亡が確認された。

娘のタミア・ビジャビセンシオ・サンドバル(Tamia Villavicencio Sandoval)はXへの投稿で、追悼は献花だけではなく、捜査に費やす時間、審理で真実を守ること、告発、そして日々の生活における決断の中でも続いていると述べた。タミアは「父がいない3年」と記し、父親の原則、価値観、勇気、エクアドルへの愛を誇りに思うと強調した。また、家族がビジャビセンシオが戦った相手側の勢力の一部と考える人々と向き合わなければならなかったと述べ、父親を追悼する最善の方法は、その原則に沿って一貫した生き方をすることだと訴えた。

 

「メタスタシス」で確認された会話が殺害計画の捜査につながる

ビジャビセンシオ殺害の全容を追ううえで重要な位置を占めているのが「メタスタシス」である。「メタスタシス」は、犯罪組織と司法関係者、政治関係者などの関係を示す通信記録や会話などを捜査した事件である。その捜査の過程で、ビジャビセンシオの殺害を計画することにつながったとされる会話が確認された。

ビジャビセンシオの娘たちによると、捜査対象となったチャットには、当時大統領選候補だったビジャビセンシオを殺害する計画の起点をたどることができるとされる会話が記録されている。その中には、ハビエル・ホルダン(Javier Jordán)とレアンドロ・ノレロ(Leandro Norero)のものとされる会話も含まれている。説明によると、2022年6月10日、ホルダンは「ビジャビセンシオの件」を解決するよう求め、殺害を実行するため、別の場所から移送される者を含む殺し屋の雇用について言及したとされる。

また、ビジャビセンシオの娘たちは、父親を沈黙させる動機となり得た問題を特定できると考えられる捜査が260件以上存在すると指摘している。その中には、石油資源、契約、中国からの借り入れ、エクアドル国営石油会社(Petróleos del Ecuador:Petroecuador)の事業、賄賂、公営企業、犯罪経済組織との関係の可能性などについて、ビジャビセンシオが行った告発が含まれている。

娘たちは、これらと同じネットワークが「メタスタシス」のほか、「プルガ(Purga)」、「プラガ(Plaga)」、「マグニシディオFV」などの捜査でも登場すると主張している。

ただし、「メタスタシス」と「マグニシディオFV」は同じ事件ではない。「メタスタシス」で確認された会話や関係者のつながりが、ビジャビセンシオ殺害の計画に関する情報として浮上し、それらが「マグニシディオFV」の捜査でも関連情報として扱われている。

 

「マグニシディオFV」で殺害の計画と実行のつながりを捜査

「マグニシディオFV」は、ビジャビセンシオ殺害を計画、資金提供、調整したと検察がみている人物の責任を明らかにするための司法手続きである。検察は、2023年8月9日に集会を終えたビジャビセンシオを襲撃した実行犯だけによる犯行ではなく、複数の段階で関係者が関与する組織的な構造の結果として殺害が実行されたと主張している。

公判前審理では、検察官アナ・イダルゴ(Ana Hidalgo)が、計画を立てたとされる人物と実際に襲撃を実行した人物との間に関連性があったことを示す証拠を提示してきた。証拠には、監視、調整、資金提供、後方支援などに関する記録が含まれている。

検察は、7人の被告について、それぞれ異なる役割を担っていたと主張している。

  • ホセ・セラノ(José Serrano)は、首謀者および計画立案者だった疑いがあるとされる。
  • ハビエル・ホルダンは、殺害をそそのかし、意思決定に関与した人物だった疑いがあるとされる。
  • ロニ・アレアガ(Ronny Aleaga)は、政治関係者と犯罪組織をつなぐ調整役だった疑いがあるとされる。
  • ダニエル・サルセド(Daniel Salcedo)は、物流面での支援や関係者間の仲介に関与した疑いがあるとされる。
  • ウィルメル・チャバリア(Wílmer Chavarría)は、「ピポ(Pipo)」の通称を持ち、犯罪組織「ロス・ロボス(Los Lobos)」の幹部として、実行役の調整や資金、物資の手配に関与した疑いがあるとされる。
  • エステバン・アギラル(Esteban Aguilar)は、「ロボ・メノル(Lobo Menor)」の通称を持ち、「ピポ」から指示を受け、調整や後方支援に関与した疑いがあるとされる。
  • ルイス・アルボレダ(Luis Arboleda)は、「ゴルド・ルイス(Gordo Luis)」の通称を持ち、殺し屋の勧誘につながる人脈の手配や資金の受け取り、分配に関与した疑いがあるとされる。

検察によると、セラノは公職在任中に入手したビジャビセンシオに関する機密情報をサルセドに提供したとされる。また、アレアガは政治関係者と「ロス・ロボス」の間の仲介や連絡、会合の調整を担ったとされ、サルセドは殺害を計画したとされる人物と「ロス・ロボス」のメンバーをつないだとされている。

チャバリアについては、殺害の実行を指示され、実行役を調整するとともに、資金や物資を手配し、襲撃前のビジャビセンシオに対する監視を指揮したと検察は主張している。アギラルはその作戦の副責任者、アルボレダは物流・資金面の実務担当者だったとされる。

 

計画は「相互解散」後に再び動き出したとされる

ビジャビセンシオの娘たちの説明によると、殺害計画は、当時の大統領ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)が2023年5月17日に実施した差し違えこと「相互解散(muerte cruzada)」の後に再び動き始めたとされる。差し違えは、ラッソが大統領令741号によって国会を解散し、前倒し選挙を実施するとともに、移行期間中も大統領職にとどまった措置である。娘たちは、サルセドとロニ・アレアガが進行中の作戦について話し、セラノが大統領選候補だったビジャビセンシオの動向を監視するよう求めたと指摘している。

資金面についても捜査が進められている。娘たちは、殺害の実行に約100万ドルが用意され、そのうち50万ドルが後方支援に、残りの50万ドルが殺し屋の雇用に充てられたと指摘している。

検察は、犯行の実行だけでなく、犯行を隠蔽しようとした疑いのある行為や、その後の行動についても証拠を提示するとしている。検察の見立てでは、これらの行動は捜査に影響を与えたり、不安定化させたりすることを目的としていた可能性がある。

 

実行犯5人にはすでに判決

ビジャビセンシオ殺害をめぐる司法手続きは、「マグニシディオFV」だけではない。実際の襲撃と実行犯の責任については、すでに別の司法手続きで判決が出ている。

「インビシブル(Invisible)」の異名を持つカルロス・エドウィン・アングロ・ララ(Carlos Edwin Angulo Lara)とラウラ・ダヤナラ・カスティジョ(Laura Dayanara Castillo)には、34年8カ月の禁錮刑が言い渡された。

一方、エリック・マルセロ・ラミレス・パラガ(Erick Marcelo Ramírez Parra)、ビクトル・アルフォンソ・フロレス(Víctor Alfonso Flores)、アレクサンドラ・エリザベス・チンボ(Alexandra Elizabeth Chimbo)には、共犯として12年の刑が言い渡された。

襲撃に直接関与した殺し屋たちは、裁判を受ける前に殺害されたため、この事件について司法手続きに臨むことはなかった。

 

検察が7人を間接正犯として起訴

「マグニシディオFV」の公判前審理は2026年6月から続いている。8月8日の審理で、検察は捜査記録全体を総合的に分析した統合報告書の説明を終え、7人の被告を間接正犯の疑いで起訴するとともに、公判で提示する予定の証拠の告知を開始した。検察は、エクアドル包括刑法(Código Orgánico Integral Penal:COIP)第140条第9号および第10号を根拠としている。これらは、多数の人が集まる場所で行われた殺人、および選挙で選ばれる公職の候補者に対する殺人に関する規定である。

間接正犯とは、犯罪を直接実行した人物ではなくても、他人を介するなどして犯罪の実現を支配した場合に刑事責任を問う法的概念である。「マグニシディオFV」で検察は、7人が殺害の計画、資金提供、調整、実行を担う組織の異なる段階に関与したと主張している。検察の起訴内容では、計画、教唆、調整、資金提供、後方支援、犯罪組織との連携など、被告ごとに異なる役割があったとされている。

ただし、これらは検察側の主張であり、7人の被告について現時点で最終的な刑事責任が認定されたわけではない。公判に付すのに十分な証拠があるかどうかは、裁判官が判断する。

 

審理中に匿名メッセージと怒号

8月6日にオンライン形式で行われた審理では、複数の出来事が起きた。

身元不明のユーザーが、検察官や起訴内容で示された情報を批判する手書きのメッセージを画面に表示した。イダルゴ検察官は、裁判官ジョバンニ・フレイレ(Giovanni Freire)に対し、そのメッセージを表示している人物は、数分前まで審理に接続していたセラノのパートナー、マリア・パウラ・クリスティアンセン(María Paula Christiansen)だと述べた。

ビジャビセンシオの娘たちは、審理の管理をより厳格にするよう求め、被害者を再び傷つけるような発言や、通信手段を使った嘲笑的な表現を批判した。その発言の途中でクリスティアンセンが割って入り、裁判所書記官が音声を切った。

アマンダ・ビジャビセンシオ(Amanda Villavicencio)は、自分たちが巨額の資金を使ったメディアキャンペーンの標的になっていると述べた。一方、セラノの弁護士マリア・デル・マル・ガジェゴス(María del Mar Gallegos)は、自分たちも攻撃を受けていると応じた。

フレイレ裁判官は、審理では正式に被告側と告発側が提出した内容だけを考慮すると説明した。そのうえで、今後はカメラをオンにして身元を明らかにする人だけがZoomの法廷に残ることを認めると決定した。

6日の審理では、イダルゴ検察官がアギラルとアルボレダについて個別の証拠の提示を進めた。審理は7日にも続けられ、検察庁の警察捜査部門のチームが作成した報告書について説明が行われる予定となっていた。

 

マルセロ・ラッソのものとされる新たな音声も公表

殺害から3年となる時期には、マルセロ・ラッソ(Marcelo Lasso)のものとされる新たな音声も公表された。音声は、政治関係者と犯罪組織とのつながりがあったとする疑惑をめぐる議論に新たな材料を加えている。

2025年10月の日付が付された録音の中で、ラッソはサルセドについて、政治関係者と犯罪組織の間の「連絡役」だったとされる人物として言及している。ただし、音声の内容そのものが司法上の責任を認定するものではない。

ラッソは音声の中で、米国にいると公に伝えられていた時期に、実際にはボリビアに滞在していたことについても話している。音声によると、ジャーナリストに写真を撮られ、居場所を特定されることを避けるため、民間航空便の利用を避けていたとされる。また、小型飛行機による移動についても触れ、そうした警戒を取った理由を自身の説明として語っている。音声には資金の移動に関する言及もあり、4,000ドルと6,000ドルの支払い、2万6,000ドルと67万8,000ドルの2件の送金、さらに5万ドルの未払い金について話している。その発言の中では、言及された資金の一部を提供した人物としてホルダンの名前も登場する。

タミアによると、ラッソの携帯電話はホルダンの弁護側から検察に提出された。タミアは、この音声によって、ラッソとそのパートナーとの間にあった信頼関係の程度を示すとされる会話を知ることができ、それらが現在、事件をめぐる議論の一部になっていると説明した。別の部分では、資金提供について話す中でセラノの名前が直接言及され、「最終的にコレア派のために働くことになった」とされる内容にも触れている。

 

4人について国際手配を要請

8月8日の審理で検察は、統合報告書の提示を終えた後、7人の被告を間接正犯の疑いで起訴し、公判で提出する予定の証拠について説明した。その後、3つの私人による告発側が意見を述べ、その手続きは8月9日に終了した。検察は、7人の被告について未決拘禁を継続するよう求めた。

さらに検察は、米国にいるホルダンとセラノ、ベネズエラにいるアレアガ、スペインにいるチャバリアについて、逃亡者として認定するよう要請した。

4人については、拘束と最終的な身柄引き渡しを目的として、国際刑事警察機構(International Criminal Police Organization:INTERPOL)に赤手配書の発行手続きを進めるよう求めた。また、国内金融システムにある口座の凍結と資産の処分禁止も要請した。

 

8月11日に弁護側の審理へ

フレイレ裁判官は、検察側が提示した証拠によって7人の被告を公判に付すことができるかどうかを判断する。審理は2026年8月11日午前9時に再開され、弁護側の弁護士が意見を述べる予定である。つまり、ビジャビセンシオ殺害をめぐる司法手続きでは、すでに殺害の実行に関与した5人に判決が出ている一方、殺害を計画、資金提供、調整したと検察が主張する7人については、まだ公判に付すかどうかを判断する段階にある。

「メタスタシス」で確認された会話や関係者間のつながりは、「マグニシディオFV」の捜査において、殺害計画がどのように形成され、誰が関与し、どのように実行へ移されたのかを解明するための関連情報として扱われている。

ビジャビセンシオの家族は、誰が殺害の背後にいたのか、そしてなぜビジャビセンシオを沈黙させようとしたのかを明らかにすることが目的だとしている。

8月9日の全国向け演説で娘たちは、父親が残した捜査や告発は父親の死によって消えるものではないと改めて強調した。娘たちは、人を殺すことはできても、その人が書いたものや、すでに多くの人の手に渡っている記録を消すことはできないとの趣旨を述べ、殺害の背景を明らかにするための取り組みを続ける考えを示した。

#FernandoVillavicencio #LosLobos

 

参考資料:

1. Metástasis y Magnicidio: las investigaciones que reconstruyen el asesinato de Fernando Villavicencio
2. Fiscalía acusa a siete procesados como autores mediatos del asesinato de Fernando Villavicencio
3. Tres años de la muerte de Villavicencio: homenajes y búsqueda de quienes planificaron el ataque
4. Caso Magnicidio FV: Pareja de José Serrano interrumpió audiencia para gritar a hijas de Fernando Villavicencio

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