米国:最高裁、郵送投票期限で州の裁量を認定 ネイティブアメリカン有権者にも影響

(Photo:Rodrigo Abd / AP Photo)

米国最高裁判所(Supreme Court of the United States)は2026年6月29日、ワトソン対共和党全国委員会事件(Watson v. Republican National Committee)において、州法が認める場合、選挙日までに投函されたものの選挙日後に到着した不在者投票を集計できるとの判断を示した。

今回の判決は、郵送投票の到着期限に関する連邦法解釈を示したものであり、遠隔地に居住する有権者、とりわけネイティブアメリカン有権者の投票アクセスにも関係する判断となった。

多くのネイティブコミュニティでは、投票所までの長距離移動、対面投票施設の不足、郵便サービスへのアクセス制限など、地理的および制度的な障壁が存在する。

そのため、選挙日までに適切に投函された投票用紙が、郵便輸送の遅延のみを理由に無効とされない制度は、投票機会を確保する仕組みに位置付けられている。

 

ワトソン対共和党全国委員会事件とは

ワトソン対共和党全国委員会事件は、選挙日後に到着した郵送投票を州が集計できるかどうかをめぐる訴訟である。事件番号は24-1260で、正式な当事者はミシシッピ州務長官(Mississippi Secretary of State)であるマイケル・ワトソン(Michael Watson)対、共和党全国委員会(Republican National Committee:RNC)ほかである。争点となったのは、ミシシッピ州が採用していた不在者投票制度が、連邦法で定められた「選挙日」の規定に違反するかどうかであった。

本件は、米国第5巡回区控訴裁判所(United States Court of Appeals for the Fifth Circuit)の判断をめぐり、最高裁判所が審理したものである。

口頭弁論は2026年3月23日に行われ、最高裁判所は同年6月29日、第5巡回区控訴裁判所の判決(120 F.4th 200)を破棄し、事件を差し戻した。

 

ミシシッピ州の郵送投票制度が争点に

訴訟の中心となったのは、ミシシッピ州法が定める不在者投票制度である。同州では、一定の不在者投票について、以下の条件を満たした場合に投票用紙の集計を認めていた。

  • 選挙日当日まで、またはそれ以前の日付の消印があること
  • 選挙日後5営業日以内に指定された選挙管理当局へ到着すること

対象となるのは、自宅を離れている大学生、高齢者、そのほか州法が認める一定の有権者である。

この制度では、有権者が期限内に投票用紙を郵送していれば、郵便輸送の遅延によって到着が選挙日後になった場合でも、一定期間内であれば投票を有効として扱うことができる。ミシシッピ州は、このような「選挙日までに投函され、後日到着した郵送投票」を認めている約30州の一つである。

 

共和党全国委員会が連邦法違反を主張

共和党全国委員会(RNC)は、ミシシッピ州の制度が連邦法に違反すると主張した。共和党全国委員会(RNC)が根拠として挙げたのは、以下の規定である。

  • 合衆国法典第3編第1条(3 U.S.C. §1)
  • 合衆国法典第2編第1条、第7条(2 U.S.C. §§1, 7)

共和党全国委員会(RNC)は、連邦法における「選挙(election)」という言葉には、有権者が投票する行為だけではなく、投票用紙が選挙当局に到着する行為も含まれると主張した。

その上で、連邦法が選挙日を定めている以上、投票用紙も同日までに選挙管理当局の管理下になければならず、選挙日後に到着した投票用紙の集計を認めるミシシッピ州法は無効であると主張した。

 

ミシシッピ州は州による期限設定を主張

これに対し、ミシシッピ州側は、連邦法が定めているのは有権者が投票を行う日であり、投票用紙が選挙管理当局へ到着しなければならない期限ではないと反論した。州側は、郵送投票の到着期限をどのように設定するかは、各州が選挙制度の中で決定できる事項だと主張した。

この連邦法解釈をめぐり、地方裁判所と第5巡回区控訴裁判所で判断が分かれ、最終的に最高裁判所が判断することになった。

 

第5巡回区控訴裁判所はミシシッピ州法を無効と判断

地方裁判所は、ミシシッピ州側の主張を認め、州法による郵送投票制度を維持した。しかし、第5巡回区控訴裁判所は判断を覆した。

第5巡回区控訴裁判所は、連邦選挙日に関する規定が、投票用紙を選挙日までに受領することを求めていると判断した。その上で、選挙日後に到着した不在者投票の集計を認めるミシシッピ州法は、連邦法によって無効になると判断した。

これに対し、ミシシッピ州側が最高裁判所に審理を求めた。

 

最高裁判所の判断構成

法廷意見は、エイミー・コニー・バレット判事(Amy Coney Barrett)が執筆した。この意見には、ジョン・ロバーツ首席判事(John Roberts, Chief Justice)、ソニア・ソトマイヨール判事(Sonia Sotomayor)、エレナ・ケイガン判事(Elena Kagan)、ケタンジ・ブラウン・ジャクソン判事(Ketanji Brown Jackson)が賛同した。

一方、反対意見はサミュエル・アリート判事(Samuel Alito)が執筆し、クラレンス・トーマス判事(Clarence Thomas)、ニール・ゴーサッチ判事(Neil Gorsuch)、ブレット・カバノー判事(Brett Kavanaugh)が賛同した。

最高裁判所は、連邦選挙日に関する法律は、有権者が投票を行う日を定めるものであり、投票用紙が選挙管理当局へ到着しなければならない期限を全国一律に設定するものではないと判断した。

この判断により、ミシシッピ州の制度は維持され、選挙日までに適切に投函された不在者投票について、選挙日後の到着でも集計できる仕組みが認められた。

 

「選挙」の意味をめぐる最高裁判所判断

本件で最高裁判所が重視した争点は、連邦法における「選挙」という言葉の意味であった。バレット判事は、連邦選挙日に関する規定は、有権者が候補者を選択する行為が行われる日を定めたものであり、投票用紙が選挙管理当局へ到着しなければならない期限を全国一律に定めたものではないと説明した。

これに対し最高裁判所は、「選挙」の本質的な要素は、有権者による候補者の選択であると判断した。法律用語は通常、議会が法律を制定した時点で一般的に理解されていた意味に基づいて解釈される。最高裁判所は、当時の辞書において「選挙」が、公職に就く人物を選ぶ行為として定義されていたことを指摘した。また、過去の判例でも、選挙とは資格を持つ有権者による候補者選択の表明を意味すると説明されてきたとした。

この解釈に基づき、最高裁判所は、有権者による選択は投票が完了した時点で成立するのであり、投票用紙が選挙管理当局に到着した時点で成立するものではないと判断した。

 

郵送投票制度をめぐる今後の制度上の論点

ワトソン対共和党全国委員会事件の判断により、州が郵送投票の到着期限を独自に設定する余地は維持された。一方で、郵送投票制度をめぐる議論は継続している。今後の論点となるのは、選挙日後の到着を認めるかどうかだけではなく、どのような条件の下で郵送投票の信頼性と投票アクセスを両立させるかという点である。

主な論点として、以下が挙げられる。

  • 投票用紙の本人確認方法
  • 消印制度の扱い
  • 投函期限の設定
  • 投票用紙追跡制度の整備
  • 郵便サービスと選挙管理機関の連携
  • 遠隔地域における投票インフラの改善

郵送投票では、投票の安全性を確保する仕組みと、郵便輸送の遅延や地理的条件によって合法的に投票した有権者の票が失われない仕組みの両立が課題となっている。

 

ネイティブコミュニティにおける到着期限の意味

郵送投票制度における到着期限は、都市部の有権者にとっては行政上の期限として扱われることが多い。しかし、ネイティブアメリカンコミュニティでは、到着期限そのものが投票アクセスを左右する制度条件となる。

都市部では、自宅から郵便局まで短時間で移動でき、日常的な郵便集配や複数の投票方法を利用できる環境がある。

一方、遠隔地のネイティブコミュニティでは、以下のような状況が存在する。

  • 郵便局まで長距離移動が必要である
  • 自宅への郵便配達がない場合がある
  • 航空輸送に依存する地域がある
  • 天候によって輸送日程が変化する

このため、選挙日までに投函された投票用紙について、到着日だけを基準に有効性を判断する制度は、地域によって異なる影響を及ぼす可能性がある。ネイティブ団体が最高裁判所に提出した意見書でも、この点が主張された。

団体側は、投票用紙が遅れて到着した理由が有権者本人の行動ではなく、郵便インフラや輸送環境によるものである場合、その不利益を有権者だけが負担するべきではないと主張した。

 

郵便インフラ格差と投票権保障

ワトソン対共和党全国委員会事件は、郵送投票の法的解釈をめぐる事件であったが、同時に米国における公共インフラ格差と投票アクセスの関係も示した。ネイティブコミュニティにおける投票アクセスの問題は、選挙制度だけで解決できるものではない。

投票用紙を利用できる制度が存在していても、以下のような基礎的な条件が整わなければ、実質的な投票機会は制限される。

  • 郵便を受け取れる環境があるか
  • 郵便を発送できる環境があるか
  • 輸送経路が安定しているか
  • 選挙管理施設へ到達できるか

この問題は、選挙管理上の手続だけではなく、投票権を実際に行使できる環境をどのように確保するかという制度上の問題でもある。

 

ネイティブアメリカン有権者と投票権保護制度

ネイティブアメリカン有権者をめぐる投票アクセスの問題は、郵送投票だけに限定されない。歴史的に、ネイティブアメリカンは米国の政治制度への参加において複数の障壁を経験してきた。

1924年のインディアン市民権法(Indian Citizenship Act)によって、すべてのネイティブアメリカンに米国市民権が付与された。しかし、その後も州によって投票資格や登録手続をめぐる制限が存在した。

現在でもネイティブコミュニティでは、以下の要素が投票参加に影響する。

  • 投票登録へのアクセス
  • 投票所への移動手段
  • 身分証明書制度への対応
  • 郵便サービスへのアクセス

ワトソン対共和党全国委員会事件におけるネイティブ団体の主張は、こうした背景を踏まえたものである。

 

市民権証明制度や投票手続の変更に懸念

トランプ政権による郵便投票制度の見直しをめぐり、地方に暮らすネイティブアメリカン有権者への影響が議論となっていた。

米国先住民権利基金(Native American Rights Fund:NARF)の上級弁護士であるジャクリーン・デ・レオン(Jacqueline De León)は、市民権証明の要求や郵便投票利用者の確認制度が、ネイティブアメリカンの投票アクセスに影響する可能性があると指摘していた。

2026年3月、トランプ政権は、投票資格を持つ米国市民を市民権証明によって確認し、郵便投票を利用できる有権者の一覧を連邦機関が作成することを求める大統領令を発令した。

デ・レオンは、制度上は市民確認を目的とした措置であっても、政府が指定する証明書類を保有していない有権者が投票機会を失う可能性があると説明していた。

ネイティブアメリカンのコミュニティでは、地理的条件やインフラ不足が投票アクセスに影響していた。デ・レオンは、インディアン・カントリー(Indian Country)では郵便サービスが長年の課題となっており、住宅への直接配達が行われない地域や、郵便局まで長距離移動が必要な地域が存在すると説明していた。また、投票所や有権者登録の機会が十分に整備されていない地域もあり、郵便投票は重要な投票手段の一つとなっていた。米国先住民権利基金(NARF)は、対面投票と郵便投票の双方を含む複数の投票手段を確保することを支持していた。

デ・レオンは、市民権確認制度そのものではなく、どのような証明方法を認めるかが重要な問題になるとも指摘していた。例えば、部族IDを市民権確認の証明として認める制度であれば、ネイティブアメリカン有権者も利用できた。一方で、特定の証明書類だけを認める制度では、必要な書類を持たない有権者が投票手続にアクセスできない可能性があった。同氏は、制度設計によっては、市民権確認を目的とした措置が投票参加を制限する仕組みとして機能する可能性があると述べていた。

 

州と部族社会の対応

米国では、選挙運営に関する大きな権限を州が担っていた。デ・レオンは、今後、一部の州でこうした制度変更に対する法的な争いが起こる可能性があると説明していた。

また、部族社会は選挙制度について意見を表明し、当局と協議する役割を持つと述べている。具体的な対応として、居留地内への投票所設置、有権者登録機会の確保、投票用紙提出箱の設置などを挙げている。

ネイティブアメリカンの投票権をめぐっては、歴史的に多くの制限が存在していた。1924年のインディアン市民権法(Indian Citizenship Act)によってネイティブアメリカンに米国市民権が付与されたが、その後も州による投票資格制限や登録手続上の障壁が続いていた。識字能力試験や財産要件などの制度も長期間存在し、投票所への移動、郵便サービス、有権者登録手続へのアクセスは引き続き課題となっていた。

郵便投票をめぐる制度変更は、こうした歴史的背景の中で、ネイティブアメリカン有権者の投票参加に関わる問題として注目されていた。

 

州の選挙管理権限と投票アクセスの均衡

最高裁判所の判断では、州による選挙管理権限も重要な論点となった。米国の選挙制度では、州が投票手続を設計する大きな役割を担っている。州は、投票方法、不在者投票制度、投票用紙の処理方法、到着期限などについて、それぞれ異なる制度を採用している。

ワトソン対共和党全国委員会事件では、連邦法が州のこうした制度設計を全面的に置き換えるものではないと判断された。その結果、州は地域事情を考慮した郵送投票制度を維持できることになった。

この判断は、ミシシッピ州の制度を認めるものであると同時に、ネイティブコミュニティ、離島地域、農村地域など、異なる事情を持つ地域に対応した制度設計にも関係する判断となった。

 

最高裁判決後も残るネイティブ投票アクセスの課題

ワトソン対共和党全国委員会事件によって、ネイティブアメリカン有権者が直面するすべての問題が解消されたわけではない。郵送投票の到着期限が柔軟に設定されたとしても、以下の課題は残る。

  • 郵便局まで移動できない問題
  • 郵便サービスそのものが不足している問題
  • 選挙情報へのアクセス不足
  • 投票手続の複雑さ
  • 遠隔地域における行政サービス不足

そのため、ネイティブ団体は今後も、投票制度の変更だけではなく、投票を可能にする基盤整備を求めている。郵便インフラ、交通手段、選挙管理サービスへのアクセス改善は、ネイティブコミュニティにおける投票アクセスをめぐる課題として残っている。

 

障害を持った人々にも重要な郵便投票

ワトソン対共和党全国委員会事件は、ネイティブアメリカン有権者だけでなく、障害のある有権者の投票アクセスにも関係する判断であった。全米障害者協会(American Association of People with Disabilities:AAPD)は、障害のある人々には他の有権者と同じ投票権があり、その権利を行使するために必要な配慮や支援、制度を利用する権利があるとの立場を示していた。郵便投票は、障害のある有権者にとって重要な投票手段の一つである。

全米選挙支援委員会(Election Assistance Commission:EAC)の調査では、2022年に障害のある有権者の約5分の3が郵便投票または期日前の対面投票を利用していた。一方、障害のない有権者では、その割合は半数をわずかに上回る程度であった。また、同調査では、障害のある有権者が投票時に困難を経験する割合は、障害のない有権者より高いことも示されていた。このため、郵便投票の利用を制限する措置は、障害のある有権者に特に大きな影響を与える可能性があると指摘されていた。全米障害者協会(AAPD)は、有権者が定められた手続に従って期限内に投票用紙を郵送した場合、郵便輸送の遅延など本人が管理できない事情によって投票権を失うべきではないとの考えを示していた。

ワトソン判決では、投票を行うことと、投票用紙が選挙管理当局に到着することは同じではないと判断された。この判断により、障害のある有権者を含む郵便投票利用者が、本人には管理できない郵便遅延によって投票機会を失う可能性を抑える制度が維持された。

一方で、郵便投票制度だけで投票アクセスの課題が解消されるわけではない。障害のある有権者が投票に参加できる環境を整えるには、郵便投票と対面投票の双方を利用可能な制度として維持し、資格を持つ有権者が投票手続から排除されない仕組みを確保することが課題である。

#NativeAmerican #Navajo

 

参考資料:

1. Watson v. Republican National Committee (Election Law)
2. Society for the Rule of Law Statement on Supreme Court Ruling in Watson v. Republican National Committee.
3. SUPREME COURT OF THE UNITED STATES
4. SUPREME COURT PROTECTS NATIVE VOTERS WHO RELY ON MAIL VOTING
5. Supreme Court Holds Federal “Election Day” Statutes Do Not Preempt State Receipt Deadlines for Timely Cast Mail Ballots
6. Native American rights advocate says limiting mail-in voting will hurt Native voters
7. Supreme Court Protects Mail Voting in Major Win for Voters With Disabilities

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