映画:『Estimados Señores(親愛なる皆様へ)』で知るコロンビアの女性参政権

パトリシア・カスタニェダ(Patricia Castañeda)は、コロンビアにおける女性参政権獲得の闘いを描いた映画『親愛なる皆様へ(Estimados señores)』を発表した。この作品は、長年にわたる女性たちの努力と歴史的な過程を描いている。

70年前のコロンビアの女性たちは基本的権利の一つである投票する権利を持っていなかった。そのため、多くの女性たちは困難な闘いと数々の障害を乗り越え、女性を家庭内の役割だけに限定する考え方を変えるために行動した。

コロンビアはラテンアメリカの中でも女性参政権の導入が遅かった国の一つである。1954年8月25日、グスタボ・ロハス・ピニジャ(Gustavo Rojas Pinilla)政権下の制憲国民議会による法律第3号によって、女性の投票権が正式に認められた。

『親愛なる皆様へ』は、この歴史的な闘いを背景に制作された作品である。出演者には、エスメラルダ・アルボレダ(Esmeralda Arboleda)役のジュリエット・レストレポ(Julieth Restrepo)、ベルタ・オスピナ役のバルバラ・ペレア(Bárbara Perea)、ホセフィナ・バレンシア(Josefina Valencia)役のパウラ・カスターニョ(Paula Castaño)などが参加している。

 

カスタニェダは、実際に起きた歴史を映画化するという挑戦に取り組んだ。現在の女性たちが社会の中で得ている立場に至るまでに、長い時間をかけた闘いと犠牲があったことを伝える必要があると考えたためである。

監督は、特に脚本の台詞作りが難しかったと語っている。過去から受け継がれてきた情報や歴史があるため、男性側の台詞を書くことは比較的容易だった一方で、女性側の言葉を作ることは困難だったという。また、この重要な出来事について残されている資料が少ないことにも驚いたと述べている。

出演者たちは、この作品が女性の視点から作られたことの重要性を示している。また、これまで映画で十分に描かれてこなかった歴史を扱う作品に参加する意義についても語っている。

バルバラ・ペレアは、実在した人物を演じることが大きな挑戦だったと述べている。外見的には本人と一致しなかったものの、その人物が持つ意志や情熱を通して表現したと語っている。

コロンビア女性の歴史と投票権をめぐる闘いは、多くの女性たちの声によって形成されたものである。そこには一人の英雄や唯一の象徴的な人物だけが存在するわけではない。

『親愛なる皆様へ』の中心人物であるアルボレダだけでなく、歴史的な転換に関わった女性リーダーたちがいた。

例えば、コロンビア初の女性大臣・女性知事であるバレンシア、保守派の立場から異なる政治的背景で重要な役割を果たしたベルタ・エルナンデス・デ・オスピナ(Bertha Hernández de Ospina)、そして1954年に国家へ働きかけ、女性の投票権への道を開いた組織的運動の中心人物であるテレサ・サンタマリア(Teresa Santamaría)やマリア・クレア(María Currea)が挙げられる。

 

カスタニェダの映画は、物語をアルボレダ一人に集中させず、政治的な広がりを持つ視点から描いている。個人の英雄化を避け、女性たちの連帯や対立を含む複雑な歴史として構成している。

この作品は、一本の糸で結ばれた物語ではなく、多くの糸が交差する網のような構造を持つ。目に見える関係だけではなく、表に出ない交渉や協力も女性たちの闘いを形作っている。

パウラ・カスターニョはバレンシアを演じ、国家を動かす力を持つ女性の姿を表現している。マルセラ・マール(Marcela Mar)はサンタマリア役を演じ、人間的な側面と冷静な判断力を持つ人物として描いている。また、バルバラ・ペレアはオスピナを演じ、制度の内部にいながら、その仕組みを変えようとする複雑な立場を示している。

この視点によって、『親愛なる皆様へ』は単なる歴史ドラマや一人の女性の物語として単純化されていない。描かれているのは、政治的・社会的・宗教的背景が異なる女性たちによる協力、交渉、対立、そして葛藤である。

脚本は登場人物に矛盾や対立、自ら行動する力を与えている。そのため、女優たちは思想だけではなく、怒りや迷い、戦略を持つ人間として人物を表現している。

一方で、この時代における権利獲得のための闘争の複雑さを、作品全体で維持できているわけではない。美術面では、生活感のある空間よりも舞台装置のように見える場面があり、小道具や背景の細部が没入感を弱める場合がある。

しかし、この作品は長く忘れられていた歴史を描こうとしている。また、現代の視点から制作されながらも、現在の価値観を一方的に当てはめたり、歴史を単純化したりしていない。

『親愛なる皆様へ』は、集団的な歴史を伝える作品であり、女性たちが何を経験し、どのような犠牲を払い、なぜその闘いが重要だったのかを描いている。

近年のコロンビア映画の流れにおいて、『親愛なる皆様へ(Estimados señores)』は、カミラ・ロボゲレロ(Camila Loboguerrero)の映画『マリア・カノ(María Cano)』が示した流れにつながっている。この作品は、フェミニストで労働運動家でもあった女性指導者の歴史を描いた先駆的な映画である。ロボゲレロの死によって、この流れは単なる追悼ではなく、歴史を受け継ぐ意味も持つようになった。

 

コロンビア女性参政権獲得から72年 権利を得るまでの長い闘い

2026年は、コロンビアの女性が投票権を認められてから72年にあたる。

女性が完全な市民権を認められたのは1954年8月25日であった。しかし、実際に女性が初めて投票権を行使したのは、1957年12月1日に行われた国民投票であった。

1954年8月25日、制憲国民議会では女性参政権について最後の審議が行われた。この議論を主導したのが、ホセフィナ・バレンシアとエスメラルダ・アルボレダである。

2人は異なる政治的立場を持っていたが、女性の投票権を認めるという共通の目的を持っていた。

女性の参政権は、ある政治指導者から与えられたものではない。そこには、何十年にもわたる女性たちの運動と働きかけがあった。

Photo:Centro Nacional de Memoria Histórica

 

数十年続いた女性参政権への道

コロンビアでは、女性の権利拡大は段階的に進んだ。

1932年には女性が自分の財産を管理する権利が認められた。1933年には大学教育への道が開かれ、女性が高等教育を受けることが可能になった。

1947年には法律改正によって市民権や公職に就く可能性が認められたが、政治参加の基本となる投票権はまだ存在していなかった。

こうした状況に対し、女性参政権運動家(sufragistas)たちは議会へ法案を提出し続けた。しかし、何度も否決される結果となった。

そして1954年、制憲国民議会によって女性の投票権が正式に承認された。

女性が初めて投票した1957年の国民投票では、国内の多くの地域で女性の投票参加率が男性を上回った。

政治参加は現在も続く課題

女性参政権の獲得は大きな歴史的転換であった。一方で、女性が政治の場で平等に参加するための課題は現在も残っている。

固定化された性別役割、暴力、武力紛争、ケア労働の負担、経済的資源へのアクセス不足などが、女性の政治参加を妨げる要因になっている。

アンティオキア県(Antioquia)では、2023年の選挙で議会などの合議制の役職における女性の割合は19%から21%へ増加した。しかし、1,421議席のうち女性が占めたのは270議席であった。また、125の市長職では22人の女性が当選した。その後、2024年の再選挙によってベネシア市(Venecia)でさらに1人の女性市長が加わった。県議会では女性議員は2人のままで、前期から変化はなかった。これらの数字は、女性の政治参加が進んでいる一方で、地方政治における女性代表はまだ低い水準にあることを示している。

現在、コロンビアの法律では最低30%の女性比率が求められている。また、アンティオキア県の女性政策では40%を目標としている。フェミニズムの立場からは、公平で平等な代表は50%であるべきだとされている。

女性政治家を育てる取り組み

こうした格差に対応するため、アンティオキア女性局(Secretaría de las Mujeres de Antioquia)は女性の政治参加を支援する活動を進めている。その一つが「ロシータ・トゥリソ女性政治養成学校(Escuela de Formación Política para Mujeres Rosita Turizo)」である。

この名前は、同地域で最初期の女性弁護士の一人であり、活動家、参政権運動家でもあったロシータ・トゥリソ(Rosita Turizo)を称えたものである。トゥリソは、「コロンビア女性市民連合」や「アンティオキア女性専門職協会」の共同設立者でもあった。

この取り組みは、選挙で選ばれる女性の数を増やすことだけを目的としていない。家父長的な慣習や差別的な構造に対抗し、社会を変える力を持つリーダーシップを育てることを目指している。また、人権を守る女性たちが暴力を受けることなく活動できる環境を保障することも目的である。

2027年の地方選挙への参加を目指し、アンティオキア県(メデジンを除く)では300人の女性候補者候補が参加する予定である。

参加者には、社会活動家、人権擁護者、女性政治家、和平協定署名者、紛争被害者などが含まれる。

コロンビアの女性参政権の歴史は、1954年の権利承認だけでは終わっていない。1957年の初投票を経て、現在も女性が政治の場で平等に参加するための取り組みが続いている。

他の映画作品等の情報はこちらから。

#参政権

 

参考文献:

1. ‘Estimados Señores’: La historia jamás contada llega a salas de cine, ¿de qué se trata?
2. Crítica: Estimados señores
3. ¡Hace 71 años que las mujeres podemos votar!
4. LA CONQUISTA DEL VOTO FEMENINO: UN CAMINO QUE EMPEZÓ ANTES DE 1954

 

作品情報:

名前:Estimados señores(親愛なる皆様へ)
監督:パトリシア・カスタニェダ
脚本:パトリシア・カスタニェダ
制作国:コロンビア
製作会社:Ágora Films、El Circo Film
時間:1 h 42 min
ジャンル:伝記(Biografía)

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