(Photo:Getty Image)
コロンビア大統領選で、米国籍を持つ右派候補のアベラルド・デ・ラ・エスプリエジャ(Abelardo de la Espriella)が注目を集めている。エスプリエジャは、米大統領のドナルド・トランプ(Donald Trump)から公的な支持を受けており、コロンビア国籍と米国籍を持つ二重国籍者であることから、米国市民権を持つ人物が同国の大統領に就任できるのかが争点となっている。
エスプリエジャは選挙戦で、コロンビアのカリブ海沿岸地域出身者であることを強調し、自らを愛国者と位置づけている。選挙活動では麦わら帽子をかぶり、コロンビア代表の黄色いサッカーユニフォームを着用する姿も見せた。
一方で、エスプリエジャは長年にわたり米国との関係を持ってきた。47歳の同氏は2023年に米国市民権を取得し、それ以前には10年以上にわたり米国フロリダ州で生活していた。現地では、著名なコロンビア人顧客を担当する刑事弁護士として活動していた。
エスプリエジャは帰化を公表した際、「私はコロンビアで常に直面している数多くの治安上の問題から離れ、そこで得ることのできない平穏を享受している」と記した。
今回の大統領選では、トランプによる支持表明が選挙戦の焦点の一つとなっている。エスプリエジャは決選投票で対決するイバン・セペダ(Iván Cepeda)はトランプの支持について批判し、「外国の大統領や政府による介入を通じて、われわれの選挙戦の行方が決定されることをエスプリエジャは容認している」と記者団に述べた。
これに対し、エスプリエジャは米国との緊密な関係を自身の強みとして示してきた。トランプの支持表明後には、選挙運動のマスコットであるトラとワシを並べた画像を公開した。
Dear President Donald J. Trump, @realDonaldTrump
— Abelardo De La Espriella (@ABDELAESPRIELLA) June 3, 2026
With my head held high and a heart full of patriotic gratitude, I receive your words and your steadfast support. Thank you, Mr. President!
In you, I see a leader of true strength and conviction—one who refuses to yield to… pic.twitter.com/S5tjXdL8uv
トランプの支持表明を巡っては、コロンビア国内でも受け止め方が分かれている。支持がエスプリエジャの追い風になるとみる声がある一方、外国政府による選挙介入への懸念も示されている。
米国法に国籍放棄義務はなし
外国の国家元首に就任する場合であっても、米国法には米国市民権の放棄を義務付ける規定は存在しない。
市民権問題の専門家で、テンプル大学(Temple University)のピーター・スパイロ(Peter Spiro)教授は、その一例として現職のローマ教皇を挙げ、「教皇は米国市民である」と指摘した。
また、バージニア大学(University of Virginia)法学部のアマンダ・フロスト(Amanda Frost)教授によると、米国連邦最高裁判所(Supreme Court of the United States)は、二重国籍者が米国市民権を失うのは、自ら放棄の意思を示した場合に限られるとの判断を示している。
そのため、外国で公職に立候補したり、外国政府の要職に就任したりすることは、米国市民権と両立しないように見える場合でも、それだけを理由に市民権を失うことはない。
米国移民弁護士協会(American Immigration Lawyers Association)の元会長であるチャールズ・カック(Charles Kuck)は、「これは決して前例のないことではなく、実際には各国の法律次第である」と述べている。
実際にラテンアメリカでは、二重国籍の国家元首が存在した。カックによると、米国フロリダ州(Florida)マイアミ(Miami)生まれのダニエル・ノボア(Daniel Noboa)エクアドル大統領は米国との二重国籍を有している。一方、ペルー元大統領のペドロ・パブロ・クチンスキ(Pedro Pablo Kuczynski)は、大統領就任前に米国市民権を放棄した。
コロンビア法上の問題はない、しかし
コロンビア駐米大使を務めたルイス・ヒルベルト・ムリージョ(Luis Gilberto Murillo)は、コロンビア憲法もデ・ラ・エスプリエジャに対し、米国籍の放棄を求めていないとの見方を示している。
ムリージョは「二重国籍を保持したままコロンビア大統領になることは可能である」と述べた。また、現職のグスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)大統領がコロンビア国籍とイタリア国籍を保有していることにも言及した。
ただし、ムリージョによれば、エスプリエジャを巡る論点は二重国籍ではなく三重国籍にあるという。
エスプリエジャは米国旅券に加え、イタリア旅券も保有している。大統領選への立候補を目指して昨年コロンビアへ帰国するまで、イタリアのフィレンツェ(Florence)で生活していた。
ムリージョは、コロンビア大統領が三重国籍を保持できるかどうかが法的な争点になる可能性があると指摘している。
デ・ラ・エスプリエジャは何を語っているのか
デ・ラ・エスプリエジャが当選した場合に米国市民権を放棄する意向があるのかについては、陣営は現時点で明確な回答を示していない。
エスプリエジャは選挙戦で、自身を他国よりもコロンビアを優先する政治家として位置付けている。国家主義的な主張を前面に打ち出し、麻薬密売組織から「祖国を守る」と訴えてきた。
その一方で、ドナルド・トランプ政権がラテンアメリカとの関係を重視していることを踏まえ、自身が米国市民であることはコロンビアにとって利点になるとの考えも示している。
また、候補者に対する暴力や脅迫が相次ぐ選挙戦の中で、自身の安全を脅かす勢力に対して警告も発した。
デ・ラ・エスプリエジャはインターネット上で、「米国市民に手を出す者がいれば、それが政府であれ、個人であれ、犯罪組織であれ、麻薬テロリストであれ、米国の司法の下で責任を問われることになる。その点は極めて明確である」と記した。
米国の議員たちは何と言っているのか
デ・ラ・エスプリエジャの大統領選出馬を巡っては、米国の政治家の間でも見解が分かれている。
フロリダ州選出の共和党下院議員マリア・エルビラ・サラサル(Maria Elvira Salazar)は、デ・ラ・エスプリエジャの有力な支持者の一人である。サラサルはコロンビア国民に投票を呼びかけるメッセージの中で、「彼はコロンビア市民であると同時に米国市民でもある。彼は米国の友人である」と述べた。
一方で、デ・ラ・エスプリエジャが大統領に就任した場合も米国市民権を保持し続けることについては、疑問の声も上がっている。
同氏の立候補を支持しているオハイオ州選出の共和党上院議員バニー・モレノ(Bernie Moreno)は、移民政策や帰化制度に関して強硬な立場で知られる。モレノは記者団に対し、「私の考えでは、他国の大統領である間は米国市民であり続けることはできないはずである。それが常識だと思う」と述べた。
デ・ラ・エスプリエジャの出馬は、米国で続く市民権や移民政策を巡る議論とも重なっており、二重国籍の政治指導者をどのように位置付けるべきかという問題を改めて浮き彫りにしている。
法曹界からも異論 争点は米国帰化時の宣誓
デ・ラ・エスプリエジャの二重国籍を巡り、コロンビアの法曹界から懸念が示されている。
コロンビア憲法裁判所(Corte Constitucional)、最高裁判所(Corte Suprema de Justicia)、国家評議会(Consejo de Estado)、和平特別司法機関(Jurisdicción Especial para la Paz:JEP)の元判事や著名な法学者らは声明を発表し、問題は二重国籍そのものではなく、米国への帰化によって生じた義務にあると指摘した。
署名者らによれば、米国市民権を取得する際の宣誓には、外国の主権への忠誠を放棄し、米国憲法と法律を擁護すること、法律で定められた場合には軍務や国家的に重要な職務に就くことを受け入れる内容が含まれている。
声明では、この宣誓によって生じる義務と、コロンビア大統領職が求める忠誠義務との間に両立の問題が生じる可能性があると主張している。
コロンビア大統領は就任時に憲法と法律への忠誠を宣誓し、国家の主権、制度、国益を守る責任を負う。さらに、大統領は軍の最高司令官として防衛や安全保障を担い、外交政策を指揮する立場にある。
署名者らは、米国への帰化時の宣誓によって米国の利益を守る義務を負ったと解釈される人物がコロンビア大統領になる場合、両国への忠誠義務が衝突する可能性があると指摘した。
声明では、「大統領職は、コロンビア、われわれの憲法、法律に対する深い忠誠と忠実を伴う職務である。したがって、米国への帰化時に法的効果を伴う正式な形で、われわれの国に対するあらゆる忠誠と忠実を絶対的に放棄した人物は、大統領になることはできない」と述べている。
一方で、署名者らは、この見解が二重国籍を持つコロンビア人そのものを問題視するものではないと説明している。また、外国の国家元首になった場合に米国市民権を維持できるかどうかを判断するものでもなく、その問題は米国法と米国当局が扱うものだとしている。
声明は、コロンビア憲法が出生によるコロンビア国籍を持ち、公民権を行使できる30歳以上の市民に大統領資格を認めていることにも触れている。二重国籍自体は憲法上の禁止事由ではないという。
その上で署名者らは、デ・ラ・エスプリエジャが保有するイタリア国籍については、大統領職との両立を妨げる問題は生じないとの見方を示した。イタリア国籍は血統によって取得されたものであり、米国への帰化のような忠誠義務を伴わないためである。
また、イタリア国籍を帰化によって取得した場合でも、宣誓内容はイタリア共和国への忠誠と憲法・法律の遵守を約束するものであり、コロンビアの公職に就くことと両立すると説明している。
この声明は2026年6月10日に署名された。署名者には、コロンビア憲法裁判所、最高裁判所、国家評議会などで判事を務めた人物や、憲法学の研究者らが含まれている。
署名者には、パブロ・カセレス・コラレス(Pablo Cáceres Corrales)、ステラ・コント・ディアス・デル・カスティージョ(Stella Conto Díaz del Castillo)、ハイメ・コルドバ・トリビーニョ(Jaime Córdoba Triviño)、アルバロ・エチェベリ・ウルブル(Álvaro Echeverri Uruburu)、グスタボ・エドゥアルド・ゴメス・アランフレン(Gustavo Eduardo Gómez Aranguren)、イバン・ゴンサレス・アマド(Iván González Amado)、ホセ・グレゴリオ・エルナンデス・ガリンド(José Gregorio Hernández Galindo)、マリア・アドリアナ・マリン(María Adriana Marín)、ホルヘ・イバン・パラシオ・パラシオ(Jorge Iván Palacio Palacio)らが名を連ねている。
また、この問題について元大統領のフアン・マヌエル・サントス(Juan Manuel Santos)は、デ・ラ・エスプリエジャと左派候補のイバン・セペダが大統領に就任した場合に直面する課題を挙げ、「和解や協力の余地を失った(quemaron los puentes)」と述べた。
有権者はどう考えているのか
デ・ラ・エスプリエジャの米国市民権を巡っては、コロンビア国内で懸念と期待の双方が出ている。
一部の政治評論家や有権者は、エスプリエジャが米国市民権を持つことで、米国が同氏の政策判断に過度な影響力を持つ可能性があると指摘している。こうした懸念は、防衛や安全保障分野にも及んでいる。
インターネット上では議論が広がり、エスプリエジャが大統領に就任した場合、初日に米国旅券を放棄すべきだと主張する意見も出ている。
グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)大統領は、デ・ラ・エスプリエジャがトランプに接近していると批判し、同氏がコロンビアを米国の「植民地」に変える可能性があると警告している。
一方で、支持者の間では二重国籍を外交上の強みと見る声もある。
バランキージャ(Barranquilla)のシステムエンジニアであるタイロン・ゲレロ(Tyrone Guerrero、42歳)は、「アベラルドは米国で暮らしていたので、物事の仕組みを理解している」と述べた。
さらにゲレロは、「彼は大統領と非常に良好な関係を築くことができる」と語り、米国との関係を持つことがコロンビアにとって有利に働くとの考えを示した。
Happy birthday Mr President @realDonaldTrump. 🇨🇴 🇺🇸 🐅 🦅
— Abelardo De La Espriella (@ABDELAESPRIELLA) June 14, 2026
(A.D.L.E) pic.twitter.com/6Fvt5J9abN
参考資料:
1. ¿Una persona con nacionalidad de EE. UU. puede ser presidente de Colombia?
2. Nacionalidad estadounidense de Abelardo de la Espriella le impediría ejercer la Presidencia de Colombia: la alerta de exmagistrados y constitucionalistas


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