キャリアを変えるのに1年あれば十分である。そのことは、チリのロックバンドであるカンデラブロ(Candelabro)にとってまさに現実となった。彼らがロラパルーザ(Lollapalooza)に初めて登場した2024年、まだ上昇途上の存在であった。しかし、アルバム『Deseo, carne y voluntad』のリリースをきっかけに状況は一変する。同作はメディア『Culto』によって2025年のチリ最高のアルバムと評価され、バンドは国内ロックシーンにおける重要な位置を確立したのである。その結果、今年のロラパルーザでは主要ステージのひとつに配置されるまでになった。
会場となったオイギンス公園(Parque O’Higgins)の楕円形広場には、まだ昼の暑さが残っていた。気温はおよそ30度に達していたが、観客の大半を占める若いファンたちは早くからステージ前に集まり、「カンデラブロ!」というスタジアムさながらの歓声を何度も響かせた。ライブはデビューアルバム『Ahora o nunca』(2023)に収録された『Dedo Chico』で幕を開ける。前列の観客はまるで小さなライブハウスの最前列にいるかのような熱気で飛び跳ね、会場は瞬く間に高揚感に包まれたのである。
ライブにおけるカンデラブロは、これまでのツアーや公演で培った経験を存分に発揮していた。アルバム『Deseo, carne y voluntad』の楽曲『Haz de mi』は、スタジオ版よりも荒々しく、生々しいアレンジで演奏される。バンドは楽曲の構造を自在に操りながら、ライブならではの緊張感を作り出した。ベーシストのカルロス・ムニョス(Carlos Muñoz)は流れるようなフレーズを自在に奏で、リズムの中心を支える。ボーカル兼ギタリストのマティアス・アビラ(Matías Avila)は力強い演奏と歌唱でステージを牽引し、ギタリストのルイス・アヤラ(Luis Ayala)との間にはまるでテレパシーのような同期が生まれていた。
アヤラが複雑なリフで始まる『Domingo de Ramos(Domingo de Ramos)』を弾き始めると、観客は即座に反応し、ジャンプしながら冒頭のフレーズ「¡Desalambraaaaaar!」を大合唱する。さらにサックス奏者ナウェル・アラビア(Nahuel Alavia)が国歌の旋律を奏でる演出が挟まれ、会場には感動的な瞬間が広がった。アラビアとマリア・ロボス(María Lobos)によるブラス・デュオは、バンドのサウンドの中核を担う存在であり、ライブでも大きな見せ場となっている。
今回のステージでは、アルバム『Deseo, carne y voluntad』が演出面でも中心的な役割を果たしていた。スクリーンに映し出されるグラフィックには、アルバムジャケットに描かれた羊やバンドのポートレートが取り入れられている。これらのビジュアルは、歌手でもあるハビエラ・ドノソ(Javiera Donoso)が手がけたものであり、音楽と視覚表現が一体となった世界観を形作っていた。
ライブの流れが変化したのは、内省的な楽曲『Fracaso』の演奏時である。スクリーンには古代の異教の聖域を思わせるイメージが映し出され、茨の冠をかぶった星が浮かび上がる。「Habrá que levantarse a construir, habrá que levantarse a trabajar(立ち上がって作り上げなければならない、立ち上がって働かなければならない)」という歌詞は、現実を直視するような重みを持って響いた。観客はそのメッセージを理解し、カストへの抗議のシュプレヒコールを上げたのである。
続いて訪れたのは、この日のハイライトの一つだった。アビラは「これは彼とその友達に捧げる」と語り、ロス・プリジョネロス(Los Prisioneros)の楽曲『Ultraderecha』のカバーを紹介する。この録音には、エストゥディオ・ラ・サリトレラ(Estudio La Salitrera)でオリジナル曲の録音に関わったエンジニア、ゴンサロ“チャロ”ゴンザレス(Gonzalo “Chalo” González)が参加している。ステージのスクリーンには、チリ大統領ホセ・アントニオ・カスト(José Antonio Kast)、イスラエル首相ベンジャミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)、アルゼンチン大統領ハビエル・ミレイ(Javier Milei)、アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプ(Donald Trump)、そして元カラビネロのクラウディオ・クレスポ(Claudio Crespo)の映像が次々に映し出され、会場の熱気はさらに高まった。
その後に演奏された『Pecado』では、アビラが事前に「垂直型ゲットー」に言及し、社会的観察を込めた短いスピーチを行う。楽曲が始まると、スカのリズムに合わせて観客は一斉に跳ね、会場は強い一体感に包まれた。拍手と歓声が鳴り止まず、この日のロラパルーザでも屈指の名演となったのである。
しかし、アビラには最後に伝えるべき言葉があった。「文化とは、アメリカ合衆国で小児性愛者と一緒に行動しないことである」と彼は強調する。それは祝祭的なショーの中に込められた、明確な社会的メッセージであった。
カンデラブロのパフォーマンスは、瞬く間に大きな論争を引き起こした。ライブ中、ステージ背後のスクリーンに映し出されたナチスの象徴や複数の政治指導者を用いた演出が、観客によってSNSを通じて急速に拡散されたためである。問題となった映像には、以下の政治家が含まれていた:
- ドナルド・トランプ(米国大統領)
- ホセ・アントニオ・カスト(チリ大統領)
- ベンヤミン・ネタニヤフ(イスラエル首相)
- ハビエル・ミレイ(アルゼンチン大統領)
アルゼンチン・イスラエル協会連合会の反応
アルゼンチン・イスラエル協会連合会(Delegación de Asociaciones Israelitas Argentinas:DAIA)などの団体は、この著名なフェスティバルのチリ版において「ナチスの象徴の軽視」が行われたとして非難した。同団体がSNSに掲載した声明では次のように述べられている。「ユダヤ人をショアー(ホロコースト)において絶滅させた歴史を象徴する忌まわしいシンボルが、再び軽率に扱われ、現代の民主主義国家の大統領たちを批判する立場を表明するために用いられた」。
さらに声明は次のように続けている。「アルゼンチン・イスラエル協会連合会(DAIA)は、ナチスの象徴が本来の意味を失い、政治的議論の道具として用いられることを避ける必要性を改めて強調する。とりわけ、多くの参加者が集まる公共の場において、そのような使用が行われるべきではない」。
しかし、この出来事を受けて、ユダヤ人コミュニティの関係者の間では、フェスティバル主催企業であるロータス(Lotus)の責任がどこにあるのかという問題も指摘されている。「彼らは決して素人ではない。この件が単なる不注意だったとは考えにくい。出演したのは“ビッグネーム”のバンドではなく、制作や条件を押し通すほどの力も持っていなかったことを考えるとなおさらだ」とされる。
一方で、「大衆向けの公演でナチスのシンボルを使用することは、芸術やユーモア、政治批判の名目で相対化や陳腐化はできない。ヘイトスピーチは文化的・ユーモラスな形式に偽装され、深刻さを薄め法的回避を狙うことがある」と指摘する声もある。しかし、同時にその映像がSNSで拡散されることで、矛盾も生じている。
En el día de hoy presenté una denuncia penal ante el Ministerio Público de la República de Chile a raíz de los hechos ocurridos el 14 de marzo de 2026 durante el festival Lollapalooza Chile, realizado en la ciudad de Santiago.
— Dr.Jorge Monastersky (@jorgemonasOK) March 15, 2026
Durante una presentación musical fueron proyectadas… pic.twitter.com/o9avKSHELh
ロラパルーザ・チリ主催者、カンデラブロ論争に言及
ロス・プリシオネロス(Los Prisioneros)の楽曲『Ultraderecha』をカバーし、国家元首の映像と鉤十字を用いた演出を行ったカンデラブロに関する論争で、フェスティバルのディレクター セバスティアン・デ・ラ・バラ(Sebastián de la Barra)とマネージャーアンドレス・ウルスア(Andrés Urzúa)は、アーティストの政治的自律性を擁護した。
デ・ラ・バラは次のようにコメントしている。「私の考えでは、アーティストには常に表現の自由がある。ロラパルーザはこの自由を決して制限せず、あらゆるタイプのアーティストや思想、文化的表現を受け入れる場である。アーティストは、トム・モレロ(Tom Morello)であれ、カンデラブロであれ、環境問題などのテーマであれ、自由に自己表現できる。過去にはポルトガル・ザ・マン(Portugal. The Man)も出演してきた。要するに、ロラパルーザはバンドが自由に意見を表明できる開かれたフェスティバルであるべきであり、各アーティストが自由に自己表現を行うことに価値がある」。
オヒギンス公園復帰と運営総括
ロラパルーザ・チリ2026は、本来の開催地であるオイギンス公園に復帰し、総括はおおむね肯定的であった。セバスティアン・デ・ラ・バラは、「改善すべき点はあるが、かつてのホームへの復帰は非常に良かった。多くの教訓を得られた。今後数週間で検討し、次回開催に向けた改善計画を始める予定である」と述べた。
今年の開催では、観客の増加に伴う運営課題にも対応した。デ・ラ・バラによれば、以前セリジョス(Cerrillos)で展開していたコンテンツをオヒギンス公園に移行し、動線管理を徹底した結果、モビスタル・アレーナ(Movistar Arena)へのアクセスや入場制限も円滑に機能した。また、ラ・クプラ(La Cúpula)やチリのテレビ番組『31 Minutos』の公演時にも問題はなく、安全管理が適切に行われたという。
観客の退場時の動線については、マネージャー アンドレス・ウルスアが「初日は複雑な状況だったが、2日目以降は改善され、地下鉄会社メトロや公共交通機関と連携して円滑に退場できた」と説明した。さらに、地域住民との協力も良好で、交通支援や路上管理などの取り組みが好意的に受け止められた。
3日間の来場者数は各日約8万人であり、象徴的な出来事として、チリのバンドロス・バンカーズ(Los Bunkers)が初のチリ人ヘッドライナーを務めた。主催者はそのパフォーマンスを高く評価し、「ロス・バンカーズはロック、ステージ演出、ビジュアルのすべてにおいて模範的なパフォーマンスを披露した。彼らに賭けたが、期待通りの結果を出してくれた。また、ヤング・シスター(Young Cister)やアクリイラ(Akriila)の出演にも満足している。チリのアーティストはフェスティバルを締めくくる力を十分に持ち、イベント全体を豊かにする存在である」と述べた。さらに主催者は、「すべてのステージと時間帯でチリ音楽の成長を促進し、新しいオルタナティブ音楽を支援すると同時に、ロス・バンカーズのように確固たる地位を築いたバンドも後押ししていく。彼らはヘッドライナーとしてふさわしいことを昨日のステージで証明した」と語った。
セバスティアン・デ・ラ・バラとロータスの過去の論争
カンデラブロは、インディーズやガレージロックのサウンドに社会的・政治的テーマの歌詞を組み合わせた音楽性で知られるチリの新世代ロックバンドである。その音楽的背景には、1980年代のチリ・ロックを代表するロス・プリシオネロスなど、社会批評的なメッセージを持つ歴史的グループの影響があるとされる。
これまで、デ・ラ・バラと彼のプロダクション会社ロータスは、大規模イベント運営をめぐって複数の論争に直面してきた。主な争点は以下の通りである:
- サンティアゴ市との対立(2021年)
長年Parque O’Higginsで開催されてきたLollapaloozaだが、環境への影響や公共空間の利用をめぐる批判の高まりを受け、開催地の移転を余儀なくされた。この問題は当時のサンティアゴ市長Irací Hasslerとの間でメディア上の緊張を生んだ。 - 契約不履行をめぐる訴訟(2026年)
今年初め、Lotusは複数の業者から、約14億チリ・ペソ規模の損害賠償を求める訴訟を起こされた。同社はこれを「過剰な請求である」として反論している。 - 安全管理と監督上の問題
2025年には、Servicio Nacional del Consumidor(SERNAC)が、System of a Downなどの大規模コンサートにおける安全対策の不備や、出演者変更時のチケット払い戻し対応の柔軟性の欠如について、Lotusに通知を出した。 - 公的機関との摩擦
最近では、Lotusがチリ国立スポーツ研究所(Instituto Nacional de Deportes:IND)によるフェスティバル「Loserville」の開催中止を「一方的かつ予期せぬもの」として批判し、公的機関との摩擦があることが明らかになっている。
この日のパフォーマンスによって、カンデラブロはチリのロックシーンにおける新たな地位に完全に適応していることを示した。緻密な音楽性、計算された演出、演奏者たちの高い技量、そしてチリ社会と深く結びついたレパートリーが結びつき、彼らの存在感は揺るぎないものとなったのである。
次回大会は2027年3月12日~14日にオイギンス公園で開催予定であり、チケット販売の詳細は近日発表される見込みである。
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参考資料:
1. Milei, Trump, la esvástica y el escándalo que salpica al Lollapalooza
2. Un show intenso y con duro dardo a Kast: Candelabro despliega un poderoso regreso a Lollapalooza
3. Organización de Lollapalooza y la polémica de Candelabro: “Jamás vamos a coartarle la libertad de expresión a un artista”

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