エクアドル:公衆衛生省による黄熱病と百日咳で疫学警報宣言、そして予防のための取り組み

(Photo:Plataforma Gubernamental de Desarrollo Social)

エクアドルは現在、黄熱病、百日咳およびレプトスピラ症の感染者数の憂慮すべき増加を受け、疫学警報(alerta epidemiológica)を宣言している。これは、国内の保健当局である公衆衛生省(Ministerio de Salud Pública:MSP)による措置であり、感染拡大が全国的な流行に至る前に、局所的な発生を封じ込めることを目的としている。MSPは、現在の状況を「全国的危機」とまでは表現していないものの、感染者数と感染の焦点の広がりが国民に大きな不安をもたらしているのは事実である。

 

百日咳:危険な再拡大

2025年初頭、エクアドルでは321件の百日咳(tos ferina)症例が報告された。これは、前年同期比で127%の増加を意味する。この感染力の高い呼吸器疾患の影響が最も大きいのは以下の県である:グアヤス県(Guayas、106件)、マナビ県(Manabí、52件)、ピチンチャ県(Pichincha、45件)、サント・ドミンゴ・デ・ロス・ツァチラス県(Santo Domingo de los Tsáchilas、30件)。

この病気は本来、小児期の予防接種により制御されてきたとされていたが、近年再び猛威を振るっており、特に予防接種を受けていない1歳未満の乳幼児に多くの感染例が集中している。そのためエクアドル保健省(MSP)は、5歳までに接種が行われるはずのワクチン接種の年齢範囲を6歳11か月29日までに拡大する措置を取った。百日咳を予防するため、国家予防接種プログラムでは2種類のワクチンが用意されている。1つ目は「五価ワクチン(ペンタバレンテ)」であり、ジフテリア、破傷風、百日咳、ポリオ、B型インフルエンザ菌に対する防御を提供する。このワクチンは、生後2か月、3か月、4か月に接種される(短縮スケジュール)。2つ目は「DPTワクチン」であり、ジフテリア、破傷風、百日咳に対するブースターとして、生後18か月および5歳時に接種される。この緊急措置は、百日咳の陽性症例が報告されている地域、すなわちグアヤス県、マナビ県、ピチンチャ県、サント・ドミンゴ・デ・ロス・ツァチラス県において優先的に実施される。

国家緊急事態対策委員会(COE Nacional)は、2025年5月2日(金)に行われた会議において、教育機関内におけるマスク着用を義務付けることを決定している。対象は教職員、校長および学校当局、並びに生徒である。

保護者に対しては、呼吸器症状が見られる場合には子どもを登校させず、最寄りの保健センターに連れて行って適切な医療を受けるよう呼びかけている。学校側は、バーチャル授業または他の代替手段によって、学業の継続を支援する責任を負うこととなっている。

 

黄熱病:数年ぶりの再出現

黄熱病(fiebre amarilla)は蚊によって媒介されるウイルス性疾患であり、2017年3月に1件の黄熱病症例が報告されて以来、2019年から2023年までの間、エクアドル国内では一件の報告もなかった。しかし、2024年にコロンビアからの輸入症例としての孤発例1件が確認されたのち、2025年にはすでに3件が新たに報告されている。これらはいずれもペルー国境に接する県で発生しており、同様の感染拡大が見られるコロンビアでは国家緊急事態が宣言されていることから、この疾病は地域的な問題であると考えられている。

エクアドル政府は、熱帯雨林地域(アマゾン地域)へ旅行するワクチン未接種者における感染の可能性に備え、疫学的監視体制を維持している。該当地域とは以下の県である:

  • オレリャナ(Orellana)

  • スクンビオス(Sucumbíos)

  • パスタサ(Pastaza)

  • ナポ(Napo)

  • モロナ・サンティアゴ(Morona Santiago)

  • サモラ・チンチペ(Zamora Chinchipe)

  • エスメラルダス(Esmeraldas)

これらの地域では、黄熱病ウイルスの媒介蚊であるHaemagogus spp.およびSabethes spp.が生息しており、エクアドルでは当該地域が黄熱病ウイルスの流行地域(エンデミック)として位置づけられている。都市部では標高1,650メートル以下の地域であっても黄熱病の活動は確認されていないが、蚊(Aedes aegypti)を介したウイルスの再侵入リスクがあるため、保健省の勧告に従うことが重要である。

黄熱病とはウイルス性の急性疾患であり、その名の通り、多くの患者に皮膚の黄変(黄疸)が見られるためそう呼ばれる。感染した蚊(Haemagogus spp., Sabethes spp., Aedes aegypti)に刺されることで感染するが、。直接接触や物、母乳を介しての感染はない。一方感染リスクは全年齢にあるが、小児や高齢者は合併症を起こしやすいとされている。

黄熱病の初期症状として知られているのは、発熱、筋肉痛、頭痛、悪寒、食欲不振、吐き気などで3~4日で回復する場合が多い。しかし患者のうち15%は、回復後24時間以内に「毒性期(重篤な第2期)」に移行し、高熱が再発し、腎機能障害など複数の臓器に影響が出る。この段階に入った患者の約半数が10~14日以内に死亡してしまう。一方回復に至れば、重大な臓器障害は残らない。感染に対する特効薬は存在しない。逆を言えば症状に対する支持療法が行われることとなる。黄熱病感染リスクを下げるための予防方法は以下の通りである:

  • 蚊の活動が活発な夕方から夜間にかけての屋外活動を避ける。

  • 虫除け剤を多用し、汗をかいた後や水に触れた後は塗り直す。

  • 水をためる容器を処理し、蚊の繁殖を防ぐ。

  • リスク地域に住む人や渡航予定のある人は必ず予防接種を受ける。

 

黄熱病のための予防接種は、公衆衛生上もっとも効果的な介入策の一つとされている。しかし過去10年間にわたりその接種率は伸び悩んでいる。COVID-19パンデミックおよびそれに伴う中断は、保健システムに深刻な影響を及ぼした。2021年には2,500万人の子どもたちが予防接種を受けられず、これは2019年より590万人多い数値となった。2021年の時点で、黄熱病のリスクがあるアフリカおよびアメリカ大陸の40カ国・地域のうち36で、同ワクチンが小児の定期予防接種プログラムに組み込まれている。しかし、全体的なカバー率は47%にとどまり、効果的な制御には不十分であると評価されている。ワクチン接種は生後12か月から59歳までが対象で、一回の接種で生涯有効とされている。ワクチンの効果が現れるには接種後10日を要する。

2025年3月26日、汎米保健機関(Organización Panamericana de la Salud:OPS)も疫学警報を発出している。2025年第1週から第12週の間に、アメリカ地域の4カ国で131件の黄熱病のヒト感染が確認され、うち53名が死亡している。報告国と症例数は以下の通り:

  • ボリビア(Estado Plurinacional de Bolivia):1例(死亡1)

  • ブラジル:81例(死亡31)

  • コロンビア:31例(死亡13)

  • ペルー:18例(死亡8)

エクアドル当局は国境での保健管理を強化し、2025年5月12日より、ペルー、コロンビア、ボリビアおよびブラジルからの渡航者に対して黄熱病の予防接種証明書の提示を義務付けている。

 
 

レプトスピラ症:アマゾンでの児童の悲劇

第三の感染症として注目されているのがレプトスピラ症(leptospirosis)である。この疾患は感染した動物の尿に汚染された水や食品を通じて人に感染する細菌性疾患である。アマゾン地方のモロナ・サンティアゴ県のタイシャ(Taisha)という町では、2024年12月以降、8名の子どもがレプトスピラ症で死亡している。この地域は国内で最も貧しく、周縁化された地域のひとつであり、基本的な衛生設備や安全な飲料水へのアクセスが著しく欠如している。人権のための同盟(Alianza por los Derechos Humanos)などの社会団体は、国家による迅速な対応の欠如を公然と非難しており、エクアドル東部の先住民族や農村部のコミュニティに対する構造的な放置を強く非難している。

 

構造的要因:パンデミック後に弱体化した保健制度

UTE大学(Universidad UTE)の疫学者ダニエル・シマンカス(Daniel Simancas)は、今回の感染症の流行は偶然ではなく、新型コロナウイルス(COVID-19)パンデミック以降のワクチン接種率の低下の結果であると説明している。パンデミック時、多くの医療資源がグローバルな公衆衛生上の緊急事態への対応に集中されたため、定期的な予防接種業務が軽視された。この結果、本来ワクチンで予防可能な疾患に対して脆弱な小児世代が生まれたのである。シマンカスは、現在の状況を「シンデミア(sindemia)」と表現する。この言葉は、複数の疾患が共存し、それが貧困、地理的孤立、基本サービスへのアクセス欠如、そして脆弱な疫学的監視体制といった構造的条件によって相互に悪化し合う状況を意味する。

この深刻な状況を受けて、エクアドル政府は全国規模の未成年者を対象とした大規模予防接種キャンペーンを展開するとともに、これらの感染症が猛威を振るう地域にある学校および高校における60日間のマスク着用を義務化している。また近隣諸国からの旅行者に対する黄熱病ワクチン接種証明書の提示も義務化している。

これらの措置は、差し迫った感染拡大を抑えるための即時的な対応として評価されているものの、シマンカスのような専門家は、こうした対応だけでは不十分であると警鐘を鳴らしている。「国家の対応は、短期的対策にとどまるべきではなく、周縁化され見捨てられてきたコミュニティの救済に焦点を当てるべきだ」と彼は強調する。エクアドルは現在、複数の公衆衛生上の脅威に直面しており、これによって特に脆弱な地域における保健制度の脆さが浮き彫りになっている。政府の初期対応は迅速であるが、百日咳、黄熱病、レプトスピラ症といった予防可能な疾病による犠牲をこれ以上出さないためには、包括的かつ長期的な戦略が不可欠である。

 

エクアドル保健省は、黄熱病および百日咳の発症を予防することを目的に、全国規模でワクチン接種率を向上させるための施策を継続して実施している。5月26日に保健省によって発表された最新の疫学週(第20週)までのワクチン接種の状況は全国で合計94,410回分となっている。同省は、高リスク集団に対する予防接種を最優先としている。百日咳に関しては、生後2か月から6か月までの乳児に五価(ペンタバレンテ)ワクチンを接種し、18か月児に第1回目の追加接種、5歳児には第2回目の追加接種を実施する。つまり、すべての子どもは7歳未満までに5回分の接種を完了する必要がある。一方、黄熱病ワクチンは、国家スケジュールに基づき12か月から23か月の子どもを対象としており、また、黄熱病ワクチン接種証明書を要求する国への渡航者(1歳から59歳まで)は、渡航の少なくとも10日前に接種を受ける必要がある。さらに、アマゾン地域の県に入域する住民、観光客、商業従事者(2歳から59歳までで未接種の者)も、入域の少なくとも10日前に接種が必要である。

ゾーン別に見ると、ゾーン調整1(カルチ県、エスメラルダス県、インバブラ県、スクンビオス県)では、百日咳ワクチンが14,037人の子どもに接種され、黄熱病ワクチンは10,733人に接種された。ゾーン調整2(ピチンチャ農村部、ナポ県、オレジャナ県)では、今週だけで百日咳ワクチンが2,394回、黄熱病ワクチンが2,383回接種された。ゾーン調整3(コトパクシ県、トゥングラウア県、チンボラソ県、パスタサ県)では、百日咳ワクチンが1,817回、黄熱病ワクチンが1,415回接種された。ゾーン調整4(マナビ県、サント・ドミンゴ・デ・ロス・ツァチラス県)では、百日咳ワクチンが2,811回、黄熱病ワクチンが7,241回接種された。ゾーン調整5(サンタ・エレナ県、グアヤス農村部、ロス・リオス県、ガラパゴス県)では、黄熱病ワクチンが2,974回、百日咳ワクチンが8,830回接種された。ゾーン調整6(カニャール県、アスアイ県、モロナ・サンティアゴ県)では、百日咳ワクチン接種者数は724人、黄熱病は282人であった。ゾーン調整7では、百日咳ワクチンが2,371回、黄熱病ワクチンが11,641回接種された。ゾーン調整8(グアヤキル、ドゥラン、サンボロンドンの各カントン)では、百日咳ワクチンが8,222回、黄熱病ワクチンが1,418回接種され、ゾーン調整9(キト市)では、百日咳ワクチンが7,201回、黄熱病ワクチンが7,918回接種された。

9つのゾーン調整局が実施する対策の中には、予防接種の巡回チームの配置、教育機関における未接種児童の特定、戸別訪問による接種スケジュールの完了支援、迅速な接種モニタリング、症例の診断および早期治療などが含まれている。加えて、省庁間や部門間の連携、地域社会への啓発活動(保健促進員や地域リーダーを通じてワクチンへの理解を深める)も推進されている。

保健省は、全国にわたって包括的な保健サービスを提供することで国民の健康を保障し、ワクチン接種を最も安全かつ効果的な予防手段として促進している。

#PublicHealth

 

参考資料:

1. Ecuador declara la alerta epidemiológica por fiebre amarilla y tos ferina
2. Fiebre Amarilla
3. MSP implementa campaña de vacunación contra la tosferina en 4 provincias del país
4. En esta última semana, más de 94 mil dosis contra tosferina y fiebre amarilla han sido aplicadas por el MSP a escala nacional

 

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