(Photo:ERALDO PERES / AP)
米国は、世界のレアアース(希土類)供給網をめぐる戦略競争で重要な一手を打った。ホワイトハウスの支援を受ける米国企業USAレアアース社(USA Rare Earths)は、ブラジルのレアアース生産企業セラ・ヴェルデ社(Serra Verde)を約28億ドルで買収する契約を発表した。
セラ・ヴェルデ社は非上場企業であり、首都ブラジリア近郊のゴイアス州(Goiás)で大規模鉱山を運営している。同社の特徴は、西側の鉱山とは異なり、重希土類(ヘビー・レアアース)に富んでいる点にあるとロイター通信は報じている。
この動きは、中国が世界供給の約9割を占めるレアアース市場に対抗し、米国が供給網の分散と安全保障確保を進める戦略の中核に位置づけられる。なおブラジルは、風力発電タービンやドローンの製造に不可欠な磁石の原料となる戦略的資源であるレアアースの埋蔵量で世界第2位を誇る。
レアアース市場とブラジルの戦略的重要性
レアアースは17種類の希少金属元素の総称であり、以下のような産業に不可欠である。
- 風力発電タービン
- 電気自動車(EV)モーター
- ドローン・精密兵器
- ロボティクス・電子機器
特に磁性材料としての用途が大きく、現代のエネルギー・防衛・半導体産業の基盤を支える資源である。
ブラジルはレアアース埋蔵量で世界第2位とされるが、商業規模で生産している企業はセラ・ヴェルデ社のみである。同社はゴイアス州ミナス・ド・ゴイアス地域にあるペラ・エマ鉱山(Pela Ema mine)を運営している。
この鉱山の特徴は、アジア以外では極めて珍しい「重希土類(heavy rare earths)」に富む点であり、ロイター通信(Reuters)によれば、戦略的価値が特に高い資源とされる。
買収内容と企業評価
USAレアアース社の発表による買収条件は以下の通り。
- 現金支払い:3億ドル
- 株式交換:1億2690万株(USA Rare Earths株式)をセラ・ヴェルデ社へ割当
USAレアアース社(USA Rare Earths)の最高経営責任者バーバラ・ハンプトン(Barbara Humpton)は声明の中で、「セラ・ヴェルデ(Serra Verde)のペラ・エマ(Pela Ema)鉱山は、その種の中でも唯一無二の資産であり、アジア以外で唯一、4種類の磁性レアアースを大規模に供給できる生産拠点である」と強調した。買収の発表後、USAレアアース社の株価は約8%上昇した。
この買収契約には、3億ドルの現金支払いと、ナスダック(Nasdaq)に上場しているUSAレアアース社の1億2690万株のセラ・ヴェルデへの譲渡が含まれている。
中国の圧倒的支配と米国の戦略
現在、中国は世界のレアアース生産の約90%を占め、供給量と価格形成を実質的に支配している。
そのため米国は、以下のような国家戦略を進めている。
- サプライチェーンの国内・同盟国分散
- 中国依存度の低減
- 戦略鉱物の長期確保
英フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)によれば、USAレアアース社は米国政府から最大16億ドル規模の支援を受ける見通しであり、国家安全保障級の投資案件とされている。
さらに、米国国際開発金融公社(U.S. International Development Finance Corporation:DFC)は2026年2月時点でセラ・ヴェルデ社に5億6500万ドルの融資を実施している。
ブラジル政府の立場
ブラジル政府は、外資導入を進めつつも資源主権の維持を強調している。ルラ大統領はハノーバーで開催された世界最大級の産業見本市の一つを訪れ、政府がレアアースおよび重要鉱物への投資を拡大していることを強調した。また、ルイス・イナシオ・ルラ・ダ・シルバ大統領(Luiz Inácio Lula da Silva)は欧州訪問中に「外部需要を満たすために資源の単なる採掘国へと我が国を矮小化するような協力形態は受け入れない」と改めて明言した。
ブラジルは、米国・欧州連合(European Union:EU)・インドなどと重要鉱物分野での協議を拡大している。ドイツ外相フリードリヒ・メルツ(Friedrich Merz)は、ルラ大統領との会談で「レアアース分野の協力拡大のため、技術的ノウハウを提供する用意がある」と述べた。
セラ・ヴェルデ社の事業構造と成長戦略
セラ・ヴェルデ社CEOリカルド・グロッシ(Ricardo Grossi)は事業戦略を以下のように説明している。
- レアアース17元素のうち主要15元素を対象
- 200以上の産業用途に対応
- 2035年まで年率8〜10%の市場成長予測
同社は「運営基盤と製品ポートフォリオの優位性により競争力がある」としている。
ブラジルをめぐる国際資源競争の拡大
ブラジルのレアアース資源をめぐり、以下の勢力が競争している。
- 米国(United States)
- 欧州連合(European Union)
- 中国(China)
- インド(India)
EU委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエン(Ursula von der Leyen)は、ブラジルとの重要原材料投資協定を協議中であると発言し、EUは5つの鉱山プロジェクト(レアアース、ニッケル、リチウム等)への投資を検討している。
一方、ワシントンはブラジルの未開発鉱床へのアクセスを非公式に強く求めているとされ、EUと米国の間でも競合が生じている。
中国は依然としてジスプロシウムやテルビウムなど重希土類の輸出制限を行っており、価格上昇と供給不安定化を引き起こしている。
市場・投資の動向
- ブラジル鉱業全体への中国投資(2024年):5億5600万ドル
- ブラジル・レアアース関連資金調達(過去2年):約7億ドル
- 主な資金源:米国・英国・カナダ・フランスの輸出金融機関、民間投資家
企業例:
- メテオリック・リソーシズ(Meteoric Resources)
- ビリディス(Viridis)
- セント・ジョージ・マイニング(St George Mining)
- ユコア・レアメタルズ(Ucore Rare Metals)
これら企業は欧米・中国双方と供給契約・交渉を進めている。
今回のUSAレアアース社によるセラ・ヴェルデ社買収は、単なる企業取引ではなく以下が交差する案件である。
- 中国によるレアアース支配構造への対抗
- 米国のサプライチェーン再構築戦略
- ブラジルの資源主権と産業政策
- EU・米国・中国による資源外交競争
レアアースは今後、エネルギー転換・防衛産業・AI・半導体を含む「経済安全保障の中核資源」として、国際競争の中心に位置し続けるとみられる。
参考資料:
1. Una empresa respaldada por Washington compra la única compañía que produce tierras raras en Brasil
2. La UE y China rivalizan con EEUU por las tierras raras de Brasil

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