[WIPO] 知的財産、遺伝資源および関連する伝統的知識に関する歴史的な新条約を採択

(Photo:@WIPO / X)

世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization:WIPO)加盟国は2024年5月24日、知的財産(Intellectual Property:IP)、遺伝資源および関連する伝統的知識に関する新条約を承認し、数十年にわたる交渉に終止符を打つ突破口を開いた。

知的財産、遺伝資源、遺伝資源に関連する伝統的知識に関する国際法的文書を締結するための外交会議の議長であり、世界貿易機関(World Trade Organization:WTO)ブラジル常駐代表でもあるギリェルメ・デ・アグイアル・パトリオタ(Guilherme de Aguiar Patriota)大使が小槌を振り下ろし、知的財産、遺伝資源および関連する伝統的知識に関するWIPO新条約の承認に合意したことを伝えた。2024年5月13日~24日に開催された交渉のファイナルフェーズに参加したものたちは、この成功に喝采と拍手を送った。

この条約は、知的財産、遺伝資源および伝統的知識の間の接点に取り組む初のWIPO条約であり、先住民族および地域共同体に関する規定を特に含む初のWIPO条約である。

この条約が15の締約国で発効されれば、遺伝資源および/または関連する伝統的知識に基づいて発明された特許出願人に対する新たな開示要件が国際法に定められることになる。調印式は同日実施された。

 

TK-GVA条約-P845に関する交渉は、1999年のコロンビアからの提案に端を発する。2001年からWIPOで議論が開始されていた。

WIPOのダレン・タン(Daren Tang)事務局長は、条約の採択を歓迎し、外交会議の成功について祝辞を次のとおり述べている。 「今日、我々は様々な意味で歴史を作った。これは10年以上ぶりのWIPO新条約というだけでなく、先住民や地域社会が保有する遺伝的資源や伝統的知識を扱った初めての条約でもある。これによりより包括的な方法での進化と、すべての国とそのコミュニティのニーズに応える一方、イノベーションを奨励し続けることができる」。「コンセンサスによるこの合意は、25年にわたる交渉の集大成であるだけでなく、WIPOにおいて多国間主義が健在であることを示す強いシグナルとも言える。この2週間、そして過去数十年にわたり、今日の歴史を作るためにたゆまぬ努力を続けてきた、過去と現在のすべての交渉担当者に感謝する」と彼は付け加えた。

パトリオタ大使は、新条約を「この外交会議の非常に慎重でバランスの取れた成果である。この条約は、可能な限り最良の妥協案であり、慎重に調整された解決策である」と述べると共に「この瞬間を25年間待っていた」と語った。

 

条約の概要:
特許出願においてクレームされた発明が遺伝資源に関連する伝統的知識に基づいている場合、各締約国は、伝統的知識を提供した先住民族又は地域社会(該当する場合)を開示するよう出願人に要求する必要がでる。

遺伝資源と関連する伝統的知識:
遺伝資源は、例えば、薬用植物、農作物、動物の品種などに含まれているもの。遺伝資源そのものを直接的に知的財産として保護することはできないものの、遺伝資源を利用して開発された発明は、多くの場合、特許を通じて保護することが可能である。

遺伝資源の中には、先住民族や地域社会が何世代にもわたって利用・保全してきた伝統的知識と結びついているものもある。このような知識は科学的研究に利用されることもあり、保護される発明の発展に寄与することもある。

WIPO外交会議:
WIPO総会の決定によって招集される。外交会議は独自の手続規則および慣習国際法によって管理される。
ジュネーブにおける外交会議は2つの委員会に分かれている。第1委員会の任務は、すべての実質的な知的財産権条項について交渉し合意し、本会議での採択を勧告することであり、第2委員会では、条約に参加できる者や発効条件など、すべての管理規定と最終条項の交渉と合意がなされる。すべての委員会が作業を終えると、条約は本会議に送られ、採択された後、署名が行われる。外交会議の最後に条約に署名したからといって、その国がその規定に拘束されることを約束するわけではない。しかし、署名は署名国の強い意思表示となる。会議が開催されたという記録である最終法も、採択後に署名のために公開される。

 

 

知的財産、遺伝資源及び関連する伝統的知識に関するWIPO条約(全文)

※機械翻訳の基づく

 

この条約の締約国は

遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関連する特許制度の有効性、透明性及び質を促進することを要望し、

遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関して新規性又は進歩性のない発明に対して誤って特許が付与されることを防止するため、特許庁が遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関する適切な情報にアクセスすることの重要性を強調し、

遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識の保護に寄与する特許制度の潜在的役割を認識し、

特許出願における遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関する国際的な開示要件は、法的確実性及び一貫性に寄与し、したがって、特許制度並びに当該資源及び知識の提供者及び利用者にとって利益があることを認識し、

本条約と、遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関する他の国際文書とは、相互に支持し合うべきであることを認識し、

遺伝資源および遺伝資源に関連する伝統的知識の提供者および利用者の相互の利益のために、知的財産制度がイノベーション、知識の移転および普及、ならびに経済発展を促進する上で果たす役割を認識し、再確認し、

先住民の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)を認識し、同宣言に規定された目的を達成することにコミットし、そして

本条約の実施において、該当する場合には、先住民族および地域社会を含めるために最善の努力を払うべきであることを確認する。

 

以下のとおり合意した:

 

第1条
目的
本条約の目的は以下のとおりである:
(a) 遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関する特許制度の有効性、透明性及び質を高めること。
(b) 遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関して新規性又は進歩性のない発明に対して誤って特許が付与されることを防止すること。

 

第2条
用語一覧

この条約において:
「出願人」とは,特許付与を申請している者として,又は出願若しくは手続を行っている他の者として, 適用法令に従って受理官庁の記録が示す者をいう。
「出願」とは,特許付与出願をいう。
「締約国」とは、この条約の締約国又は政府間機関をいう。
「遺伝資源の原産国」とは、原位置の状態で遺伝資源を保有する国をいう。
「に基づく」とは、遺伝資源及び/又は遺伝資源に関連する伝統的知識が請求項に係る発明に必要であったこと、並びに、請求項に係る発明が遺伝資源の特定の特性及び/又は遺伝資源に関連する伝統的知識に依存していることを意味する。
「遺伝物質」とは、遺伝の機能単位を含む植物、動物、微生物又はその他の由来の物質をいう。
「遺伝資源」とは、実際の価値または潜在的価値を有する遺伝物質をいう。
「原産地条件」とは、遺伝資源が生態系および自然生息地内に存在し、家畜化された種または栽培された種の場合には、遺伝資源がその特有な性質を発達させた周辺環境に存在する条件をいう。
「受理官庁」とは、特許の付与を委託された締約国の官庁をいう。
「PCT」とは、1970年の特許協力条約をいう。
「遺伝資源の供給源」とは、出願人が遺伝資源を入手したあらゆる供給源をいい、例えば、研究所、遺伝子バンク、先住民及び地域社会、食料及び農業のための植物遺伝資源に関する国際条約(International Treaty on Plant Genetic Resources for
Food and Agriculture:ITPGRFA)の多国間システム、その他遺伝資源の域外収集又は寄託をいう。
「遺伝資源に関連する伝統的知識の情報源」とは、申請者が遺伝資源に関連する伝統的知識を入手したあらゆる情報源をいい、科学文献、一般にアクセス可能なデータベース、 特許出願、特許公開等が含まれる。
 

第3条
開示要件

3.1 特許出願において請求される発明が遺伝資源に基づく場合、各締約国は、出願人に対し、次の事項を開示することを要求する:
(a) 遺伝資源の原産国、
(b) 第3.1条(a)の情報が出願人に知られていない場合又は第3.1条(a)が適用されない場合には、遺伝資源の出所。

3.2 特許出願において請求される発明が遺伝資源に関連する伝統的知識に基づく場合、各締約国は、出願人に対し、次の事項を開示するよう求める:
(a) 遺伝資源に関連する伝統的知識を提供した先住民又は地域社会(該当する場合)、
(b) 第3.2条(a)の情報が申請者に知られていない場合又は第3.2条(a)が適用されない場合には、遺伝資源に関連する伝統的知識の出所。

3.3 第3条第1項及び/又は第3条第2項のいずれの情報も出願人が知らない場合には、各締約国は、出願人に対し、宣言の内容が出願人の知る限りにおいて真実かつ正確であることを確証する旨の宣言を行うことを求める。

3.4 締約国は,特許出願人に対し,開示要件を満たす方法に関するガイダンスを提供する とともに,特許出願人が第3.1条及び3.2条に規定する最低限必要な情報を記載していない場合,又は誤っ た開示若しくは不正確な開示を訂正する機会を提供するものとする。

3.5 締約国は,開示の真正性を確認する義務を国内官庁に課してはならない。

3.6 各締約国は,秘密情報の保護を害することなく,特許手続に従って開示された情報を利用可能 にする。

 

第4条
不遡及

締約国は、当該締約国についてこの条約の効力発生前にされた特許出願については、当該特許出願に適用される開示に関する既存の国内法を害することなく、この条約の義務を課さない。
 
 
第5条
制裁及び救済

5.1 各締約国は、この条約第3条において要求される情報の不提供に対処するため、適切、有効かつ公正な法的、行政的及び/又は政策的措置を講ずる。

5.2 第5.2条(bis)を条件として、各締約国は、制裁を実施し又は救済措置を指示する前に、第3条において要求される情報の不開示を是正する機会を提供する。

5.2 (bis)締約国は、国内法に定める不正な行為又は意図があった場合には、第5.2条に基づく是正の機会から除外することができる。

5.3 第5条4項に従い,いずれの締約国も,出願人がこの条約第 3 条に規定する情報を開示しな かったことのみを理由として,付与された特許権を取り消し,無効とし又は執行不能と してはならない。

5.4 各締約国は、この条約第3条の開示要件に関して不正の意図があった場合には、自国の国内法に従って、付与後の制裁又は救済を定めることができる。

 

第6条
情報システム

6.1 締約国は、該当する場合には、先住民並びに地域社会及びその他の利害関係者と協議の上、自国の国情を考慮し、遺伝資源及び遺伝資源に関連する伝統的知識に関する情報システム(データベース等)を構築することができる。

6.2 締約国は、該当する場合、先住民並びに地域社会及びその他の利害関係者との協議に おいて策定された適切な保護措置の下で、特許出願の調査及び審査の目的で、国内官庁が当該情報 システムにアクセスできるようにすべきである。情報システムへのアクセスは,場合により,情報システムを設置する締約国による 承認を条件とすることができる。

6.3 かかる情報システムに関し,締約国会議は,適切なセーフガードを伴う国内官庁のアクセシビリ ティなど,情報システムに関するあらゆる事項を取り扱うため,一つ以上の技術作業部会を設置す ることができる。

 

第7条
他の国際協定との関係

この条約は,この条約に関連する他の国際協定と相互支援的な方法で実施されるものとする。
 

第8条
見直し

締約国は、この条約の効力発生の4年後に、この条約の範囲及び内容を見直し、第3条の開示要件を知的財産の他の分野及び派生物に拡張する可能性、並びにこの条約の適用に関連する新技術及び新技術から生ずるその他の問題に対処することを約束する。
 

第9条
実施に関する一般原則

9.1 締約国は、この条約の適用を確保するために必要な措置をとることを約束する。

9.2 締約国が、自国の法制度及び慣行の範囲内でこの条約の規定を実施する適当な方法を決定することを妨げるものではない。

 

第10条
協議会

10.1 締約国は、議会を有する:
(a) 各締約国は、一人の代表団により総会に代表されるものとし、この代表団は、補欠の代表団、顧問及び専門家の援助を受けることができる。
(b) 各代表団の経費は、その代表団を任命した締約国が負担する。総会は、国際連合総会の確立された慣行に合致して発展途上国とみなされる締約国または市場経済移行国の代表団の参加を容易にするために財政援助を与えることをWIPO国際事務局に要請することができる。
(c) 総会は、認定されたオブザーバーとして、先住民族及び地域社会の代表の効果的な参加を奨励する。総会は、締約国に対し、先住民及び地域社会の参加のための財政的取り決めを検討するよう求める。

10.2 総会は
(a) この条約の維持及び発展並びにその適用及び運用に関するすべての事項を取り扱う;
(b) この条約の締約国となる特定の政府間機関の加盟に関し、第 12 条第 2 項に基づき割り当てられた機能を果たす;
(c) 第8条にいう審査を行う;
(d) 第8条にいう見直しの結果も含め、第14条にいうこの条約の改正のための外交会議の招集を決定し、かつ、かかる外交会議の準備のためにWIPO長官に必要な指示を与えること;
(e) 適切と思われる技術作業部会を設置することができる;
(f)第10.1条、第10.2条(c)、第10.2条(d)、第10.2条(f)および第10.3条を除く本条ならびに第11条の改正を採択すること。
(g) 締約国間の協力を促進し、かつ、開発途上国のための技術援助及び能力構築を支援するための既存のメカニズムを拡大するよう国際事務局に要請することを含む、この条約の規定の実施に適当なその他の機能を果たす。

10.3 総会は、コンセンサスによる決定を行うよう努めるものとする。合議によって決定を行うことができない場合には、その問題は投票によって決定されるものとする。この場合、次のとおりとする:
(a) 国である各締約国は、一票を有するものとし、自国の名においてのみ投票するものとする。
そして
(b) 政府間機関である締約国は、その加盟国に代わり、この条約の締約国であるその加盟国の数に等しい数の票をもって投票に参加することができる。いかなる政府間機関も、その加盟国の一国が投票権を行使する場合及びその逆の場合には、投票に参加しない。

10.4 総会は、WIPO事務局長の招集により、かつ、特段の事情がない限り、WIPO総会と同一の期間および同一の場所において開催されるものとする。

10.5 総会は、臨時総会の招集、定足数および本条約の規定に従い各種の決定に必要な多数決を含む独自の手続規則を定めるものとする。

 

第11条
国際事務局

11.1 WIPO国際事務局は、この条約に関する事務を処理する。特に、国際事務局は、総会および総会が設置する技術作業部会のために会議を準備し、事務局を提供するものとする。

11.2 WIPO事務局長および事務局長が指名する職員は、総会のすべての会合および総会が設置する当該技術作業部会に投票権なしに参加するものとする。事務局長または事務局長が指名する職員は、かかる機関の職権上の書記となるものとする。

11.3 国際事務局は、総会の指示に従い、外交会議の準備を行うものとする。WIPO事務局長および事務局長が指名する者は、投票権を有することなく、かかる会議の討議に参加するものとする。

 

第12条
締約国となる資格

12.1 WIPOのいかなる加盟国も、この条約の締約国となることができる。

12.2 総会は、この条約の対象となる事項に関して権限を有し、かつ、この条約の対象となる事項に関してすべての加盟国を拘束する独自の法令を有し、かつ、この条約の締約国となることをその内部手続に従い正当に承認されたことを宣言する政府間機関を、この条約の締約国となることを認めることを決定することができる。

12.3 第12条第2項を損なうことなく、欧州連合は、この条約に署名し、批准し、または加入することができる。この場合、欧州連合は、署名、批准または加盟の際に、第12.2条にいう宣言を行うものとする。

 

第13条
批准および加盟

13.1 第12条にいういかなる国または政府間機関も、WIPO長官に次の書類を提出することができる:
(a) この条約に署名した場合には批准書を、または
(b) この条約に署名していない場合には、加入書を提出すること。
13.2 批准書または加入書の寄託の効力発生日は、当該書が寄託機関に寄託された日とする。

 

第14条
改定

この条約は、条約法に関するウィーン条約に従い、外交会議によってのみ改正することができる。このような外交会議の招集は、総会が決定する。
 

第15条
第10条および第11条の改正

15.1 この条約の第10条及び第11条は、第10条第2項(f)に定めるところにより、総会が改正することができる。

15.2 第15条第1項にいう条文の改正提案は、いずれかの締約国またはWIPO事務局長が行うことができる。かかる提案は、総会による審議の少なくとも6ヶ月前に、WIPO事務局長から締約国に通知されるものとする。

15.3 第15条第1項にいう条文の改正の採択には、投票総数の4分の3を必要とする。

15.4 そのような改正は、締約国がそれぞれの憲法上の手続に従って受諾した旨の書面による通告を、総会がその改正を採択した時に締約国の四分の三から事務局長が受領した後一箇月で効力を生ずる。このようにして受諾された改正は、その改正が効力を生ずる時にすべての締約国を拘束し、又はその後の日にその締約国となるものを拘束する。

 

第16条
署名

この条約は、採択後1年間、ジュネーヴにおける外交会議において、およびその後WIPO本部において、資格ある締約国の署名のために開放されるものとする。
 

第17条
発効

この条約は、第12条にいう資格を有する15個の締約国が批准書または加入書を寄託した後3箇月で効力を生ずる。
 

第18条
締約国となるための効力発生日

この条約は次のものを拘束する:
(a) 第17条にいう資格を有する15の締約国は、この条約が効力を生ずる日から
(b) 第12条にいう他の各有資格締約国は、WIPO事務局長に批准書を寄託し、または加入書を提出した日から3ヶ月を経過した日から効力を生ずる。
 

第19条
否認

この条約は、いずれの締約国も、WIPO事務局長あての通告により、否認することができる。いかなる破棄も、WIPO事務局長がその通告を受理した日から1年で効力を生ずる。この条約は、批准の効力発生の時に批准した締約国について係属中の特許出願及び効力を有する特許に対するこの条約の適用に影響を及ぼすものではない。
 

第20条
留保

この条約に対する留保は、認められない。
 

第21条
言語

21.1 この条約は、アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語およびスペイン語による単一の原文により署名されるものとし、すべての本文は等しく真正である。

21.2 第21条第1項にいう言語以外の言語による公式文は、すべての利害関係当事者との協議の後、WIPO事務局長が、総会が指定する他の言語により定めるものとする。本項の目的上、「利害関係人」とは、その公用語またはその公用語のいずれかが関係する締約国をいう。

 

第22条
寄託者

WIPO事務局長は、この条約の寄託者である。
 
 

伝統的知識は過去において多国籍企業をはじめ多くのものたちから都合よく利用されてきた。搾取された先祖伝来の知識は時に他者の特許となり、金銭的目的のためにそれは悪用されてきた。グアラニーのカー・エー(ステビア)が日本人によって不当に持ち替えられ自国栽培を始めたことをきっかけに広まったその効果は、コカコーラをはじめとした多国籍企業に広まっていき利用されていることはあまりにも有名な話である。さらに日本におけるその栽培は問題を引き起こしたことから、生産地は中国へと移され隠蔽された。ステビア、ルイボス以外にもこのような事例は数えきれないほど、そして身近にあることは知られるべき内容であり、社会的責任のもとでの消費行動がますます求められるべきである。

なおルイボスは2021年、EUの「原産地名称保護(The protected designation of origin:PDO)」認定を受けた。これは特定の地域において伝統的な製法で生産されたものに対しその品質を保証し、その名称を保護するものである。これは農業に関するEUの制度の一つで、地域特産の農産物や食品の権利を保護する知的財産権のひとつである。コイコイ人とサン人が先祖伝来単なる食物としてのみならず深い繋がりをもっていた。かつてヨーロッパ人から貧乏人の飲み物と呼ばれていたそのお茶は、1930年代になると、入植者たちによってあたかも自身が発見したものであるかの如く、輸出が始められ入植者たちを潤す「品物」となった。植民地期によく似た構造が現代においても見て取れる。今回締結された条約は本来の持ち主にその利益を還元することを許力に後押しするものであると言える。

 

 

参考資料:

1. WIPO Member States Adopt Historic New Treaty on Intellectual Property, Genetic Resources and Associated Traditional Knowledge
2. Diplomatic Conference to Conclude an International Legal Instrument Relating to Intellectual Property, Genetic Resources and Traditional Knowledge Associated with Genetic Resources(以下添付)
3. “体にやさしい”甘味料「ステビア」の闇─大企業が無断で搾取し続ける原住民の「知的財産」
4. ステビアは万能ハーブ?それともグアラニー族を苦しめる悪夢?
5. 人気高まるルイボス茶の故郷、南アフリカの山村を訪ねた

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