映画 “夢のアンデス” でチリのクーデター「9.11」と向き合う

<ネタバレ注意>

どちらかと言うと、映画を多く見る方である。主にその対象はノン・フィクションやドキュメンタリーであり、敬拝する監督の頂点にいるのはパトリシオ・グスマン(Patricio Guzmán)だ。本日ついに待ちに待ちすぎた映画「夢のアンデス(原題:La Cordillera de los Sueños)」を見る機会に恵まれた。

チリ出身の彼は人生の多くを他国フランスで過ごしている。それは「9.11」がきっかけである。軍人アウグスト・ピノチェト(Augusto José Ramón Pinochet Ugarte)らはチリ共和国にける自由選挙によって出来上がった社会主義政権を軍事の力で転覆させた。大統領官邸モネダ宮はチリ空軍の英国製ホーカー・ハンター 2機のスーラ3 ロケット弾による砲撃と戦車による砲弾で破壊され、大統領は自らの命をそこで絶ったとされている。当時の大統領はサルバドル・アジェンデ(Salvador Guillermo Allende Gossens)であり、キューバの革命家フィデル・カストロ(Fidel Alejandro Castro Ruz)から寄贈された自動小銃で頭を撃ち抜いた。元来彼の死への憶測は様々あったことから、2011年5月23日チリ政府はアジェンデの遺体を掘り起こし、検死した。結果として「軍との交戦による戦死」や「軍によって殺害された」という説は否定された。なお、娘のイサベル・アジェンデはこの報告を受け入れるも、彼が殺されたとする論は根強い。

パトリシオ・グスマンもまた1973年のクーデター後、エスタディオ・ナシオナル(Estadio Nacional Julio Martínez Prádanos)に収容され、そこで15日間の監禁生活を強いられる。ピノチェトたち軍部はこの時左翼狩りをおこなっていたのである。このスタジアムでは、国民的シンガーソングライターのビクトル・ハラ(Víctor Lidio Jara Martínez、関連記事はこちら)が公衆の面前で拷問され殺されている。つまりグスマンもハラ同様、死と隣り合わせにあったのだ。彼が生き延びれたのは「チリの闘い(原題:La batalla de Chile)」に関するフィルムが家から見つからなかった、押収されなかったこよによる。なお、1975年から1979年までにアジェンデが取った社会主義政策や、その終焉の様子がこの三部作に収められているが、この作品が日の目に出たのは妻や友人がフィルムの国外持ち出しを協力したことによる。グスマン自身はキューバのハバナに亡命。現在はフランスで暮らし、チリに思いを馳せながら映画を作成している。20作品ほど故郷への想いを綴った作品を制作しているも、すでにチリにいる時間より海外にいる時間の方が多くなっている。

パブロ・サラス(Pablo Salas、彼の作品情報はこちら)もまたチリを撮り続けてきた人である。グスマンの言葉を借りれば、サラス以上にチリを撮り続けた人間はいないと言う。彼はグスマンと異なり、チリにい続けている。彼もまた暗殺の危険と隣り合わせにあった。それでも撮影をやめることはなかった。彼は映像を通じ何があったのかを後世に語り継ぐことを使命と感じている。だからスタジアムに収容される人々や、迫害を受ける人々を危険を承知で撮り続けた。今の時代のテクノロジーがあれば、日夜を問わず、時間も忘れ何が起きたのかを全て映像の中に収められたのに、彼はそう悔しそうに語る。一連のクーデターの5%しか記録できなかったと言う思いがあるからだ。オマージュに聞こえないかも知れないが、その姿を見て若干狂気の沙汰だと感じないわけには行かなかった。繰り返すが彼は政府や軍から暗殺される危険と常に隣り合わせだった。

でもグスマンは言う。パブロがいたから後世に何が起きたかを映像を通じ伝えられるし、事実の撮影のおかげで、政府はそれを隠蔽することはできない。ホルヘ・バラディッド(Jorge Marcos Baradit Morales)が言うように、いまだこの人権犯罪を正当化している人間、沈黙している人間がいる。そしてこの国の政府も然りだ。チリにおける天然資源はこの国のためのものではなく、他国の利益、もしくはごく限られた一部の人間の利益のために存在する。「見えないもの」として扱われてきた人間もこの国におり、その状況はピノチェトたちが作った法律が現代においても使われているから、状況が変わることはない。アンデス山脈は数万年前からこの土地を見続けてきた。だからチリの歴史もこの国で何が起きていた/いるのかを知っている。「アンデス山脈がもし話せたら何を語るだろう」そう皆、口にする。先住民達はこの土地で暮らし、自然と対話し、そこから多くを学んできたことにもよるのかも知れない。だから尚更に、自然を大切にしない国家に対する反発もある。

アンデス山脈と言うとペルー、ボリビアを思い浮かぶ人も多いと思う。でもチリもアンデス諸国のメンバーである。むしろ北から南までの約4,630キロメートルに及ぶ国土の80%をそれが形成しているし、アルゼンチンとの国境(アルゼンチン側)にある標高6,960.8 mのアコンカグア(Aconcagua)は南米最高峰の山であり、アンデス山脈の代表格だ。

 

かつて「日本企業による開発であのさまざまな色を持った山はいずれなくなる」とペルーでツアーガイドから直接的に言われたことがある。神聖なものはアンデスが抱える鉱物資源、つまり人間の欲のためにその文脈を知らないもの達に侵入され、汚され、切り崩され、形を変え、最後には消滅させられる。私は自然を大切にしていると言うつもりはない。なぜなら意図的、もしくは無意識的に「アンデスからの恵み」と正当化し、そこで取れたものを日常的に使っているからだ。だからこそ「アンデスは何て言うだろう」と言う疑問を私自身も持った。この国の歴史をもっともっと知るためにも。

 

アジェンデについてはタグ「SALVADOR ALLENDE」で検索のこと。

 

作品情報:

名前:  La Cordillera de los Sueños(邦題:夢のアンデス)
監督:  Patricio Guzmán
脚本:     Patricio Guzmán
制作国: Chile
製作:  Renate Sachse (Atacama Productions)
時間:   85 minutes
ホームページ:https://www.uplink.co.jp/andes/
ジャンル: documental
 ※日本語字幕あり

 

関連資料:

1. Patricio Guzmán, documentalista radicado en Francia: “Dentro de tres semanas voy a ir a Chile. Vamos a filmar el plebiscito”

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