メキシコの先住民活動家の度重なる殺害について

この2カ月間、メキシコの先住民運動の活動家が次々と命を落としている。民族の土地と権利を主張していたヤキ(Yaqui)族のリーダー、トマス・ロホ・バレンシア(Tomás Rojo Valencia)も、ツォツィル(Tsotsil)族の活動家シモン・ペドロ・ペレス・ロペス(Simón Pedro Pérez López)も暴力によって倒された。彼らの死は組織犯罪や準軍部隊(paramilitar)、治安部隊による直接的または間接的な協力を得て実行されている強制移住、失踪、女性殺し、秘密の墓など、彼らの領土で継続的に行われているた暴力犯罪の一部でしかない。

人類学博士のR. Aída Hernández CastilloがLa Jornadaの社説で書いているように

麻薬による暴力が先住民にどのような影響を与えているかについては、社会科学的にはあまり報告されておらず、国内の過激な暴力の影響に関する公式報告書でも黙殺されている。このような問題の現地調査にはリスクが伴い、また先住民に対する文化主義的な視点から、コミュニティの生地がこれらの複数の形態の暴力によってどのような影響を受けているかについての詳細な分析はできていない

のが現実だ。

 

7月5日、市民社会組織ラス・アベハス・デ・アクテアル(Las Abejas de Acteal)の元代表で全国先住民会議(CNI)のメンバーだったシモン・ペドロはチアパス(Chiapas)州のシモジョベル(Simojovel)市の中心部で、バイクに乗った人物に銃殺された。息子に連れられて市場に買い物に行った時のことだった。家族とともにパンテルホ(Pantelhó)市のサンタ・カタリーナ(Santa Catalina)教区に属するシモジョベルのイスラエリータ(Israelita)というコミュニティに住んでいた彼は先住民の権利の促進と擁護に努め、暴力を非難し、それを止めるべく正義を求めていた。

この事件はチアパス州のさまざまな自治体で活動する犯罪グループに対する政府の怠慢、許容、寛容の結果であり、正義を求め、シモジョベル、チェナルホ(Chenhaló)、チャルチフイタン(Chalchihuitán)、アルダマ(Aldama)、ベヌスティアーノ・カランサ(Venustiano Carranza)、チロン(Chilon)、そして特にパンテルホのような州内の様々な自治体で起きた広範な暴力に対するメキシコ政府の責任は追及されるべきだと組織は言う。

シモン・ペドロが殺害された原因は、コミュニティの人権擁護者としての活動、コミュニティ内に存在する暴力を糾弾する平和への闘争、そして正義への闘争ゆえのことで、市民社会組織のメンバーは、非暴力闘争と「もうひとつの正義」レキル・チャパネルの建設のために、常に脅迫を受け、包囲され、脅迫され、出身地からの転居を余儀なくされてきたと言う。パンテルホではまた、自治体の代表者に関連する犯罪グループが、2021年3月12日から現在までに、子どもを含む12人を殺害、1人を行方不明とし、さらに女性と子どもにも暴力を振るっているという。この地域では犯人グループによる検問や封鎖、市警や州警の部隊を伴った侵入は日常茶飯事であると言う。また、パンテルホには、自治体と共謀して行動を取る犯罪グループが存在し、自治体の権力構造の一部に組み込まれているという。別の言葉を使えば、現在、同市を統治している制度的革命党(Partido de la Revolución Democrática:PRD)とつながっている。チアパス州政府も自治体と犯罪集団との繋がり含め十分把握をしていながらも、現在まで住民の生命、品位、個人の安全を守るための行動を起こしておらず、むしろ政府はこの深刻な状況を、人種差別に基づくコミュニティ間の闘争として処理している。

 

市民社会組織ラス・アベハスは自分たちの権利を取り戻し、自治権を築き、土地や領土を守るために平和的に闘う抵抗勢力だが、1992年に起きた土地相続と女性の農耕権をきっかけに設立された。1997年12月22日、チェナルホ市のアクテアルの町をパラミリタルが襲撃、ラス・アベハスのツォツィル系先住民が襲われ、子供や妊婦を含む45人が死亡している。彼らは常に権力者たちからの暴力にさらされている。この時も政府はコミュニティ間の民族紛争と説明していた。反対派や人権団体は、アクテアル・コミュニティの社会基盤を解体する政府の戦略の一環であると見なした。犯罪に対する処罰がなされないまま放置されていた。なお、ラス・アベハスは平和的に権利を主張していて、サパティスタとはその点で異なるが、制度的革命党の準軍事組織からは常に同レベルで見られ、敵視されている。

 

7月2日午後にもコリマ(Colima)州マンサニージョ(Manzanillo)で環境活動家でMORENA(Movimiento de Regeneración Nacional:国民再生運動党)創設者ダビッド・ディアス・ヴァルデス(David Díaz Valdez)が殺害された。トラックに乗り込もうとしている時、バイクに乗った2人の男によって背中を撃たれたのだ。歩道の上に倒れ込んだ重傷者は数分後には体と頭の傷が原因で死亡した。彼の死は2021年に入ってから7月2日までに11件もの人権擁護者の殺害があったことを意味した。彼はカンポス・コミュニティにおける熱電発電所の建設が環境に悪影響を及ぼすことを指摘しており、それがしのげ人だとされている。彼の国民と環境を守る主張は2020年9月15日の保健社会福祉省(SSBS)との対立を生み、それによって彼は逮捕、実刑となった。6月21日、9ヶ月ぶりに釈放されたが、それから11日目のことだった。家族はダビッド・ディアスは、麻薬密売人とのトラブルは一切なかったと語っている。釈放にあたって、彼自身身の安全を保証するようコリマ検事総長、検事局職員、州司法当局、セルヒオ・マルセリーノ・ブラボ・サンドバル(Sergio Marcelino Bravo Sandoval)判事に要求していた。

 

ダビッド・ディアスの死の1カ月前、トマス・ロホも失踪し、後に殺害されたことがわかった。5月27日、朝5時に自宅を出て散歩に出かけた後、行方不明になっていたが彼が暮らしていたソノラ州コミュニティであるビカム(Vícam)近くの墓からその遺体が発見された。この土地ではギジェルモ・パドレス(Guillermo Padrés Elías)前知事の6年間(2009年~2015年)に水戦争が起こっていた。ヤキ川から州都エルモシヨに何百万立方リットルもの水を運ぶインデペンデンシア水道橋の建設にヤキ族は反対をしていて、ロホは闘争を率いていた。このような資源の乱開発では、自分たちの村の水が保証されないと、コミュニティは抗議していたが、複数の脅しや暴力行為が横行していて、ヤキ族の若者が失踪したり、知らぬ間に埋められていたと言う事件も過去発生している。りこれも治安部隊の直接的または間接的な支援を受けた武装勢力の領土支配戦略の一環であるとされている。PAN政権との衝突でロホは身を隠す必要が出たり、マリオ・ルナ(Mario Luna Romero)などのリーダーは刑務所に入られてたりすることもあった。2013年には最高裁がプロジェクトの中止を求め継続開発にはヤキ族との協議が必要だと命じましたが、建設は続けられ、今では水道橋が稼働している。

この土地では、暴力がエスカレートしていて5月にロマ・デ・グアムチル(Loma de Guamúchil)のヤキ族の歴史的指導者の息子であるアグスティン・エル・ロケ・バルデス(Agustín El Roque Váldez)、ロホ・バレンシア、ルイス・ウルバノ・ドミンゲス・メンドーサ(Luis Urbano)が殺され、6月17日にもヤキ族のリーダー、マリオ・ルナの妹であるロレーナ・バレンズエラ(Lorena Valenzuela)が失踪している。

ダビッド・ディアスの処刑動機は、ヤキ族の領土を通過するメキシコ15号線の国際高速道路使用料の利益を不当に得ようとしていた「本来の人々とは異なる利害関係を持つ犯罪グループ」が関係していると推定されている。調査によると、トマス・ロホは高速道路の利用料を正しく徴収するための料金所の設置を推進しており、その恩恵は本来の利益者であるヤキ族にも分配されるはずだった。

5月27日に失踪したロホ・バレンシアの遺体もビカムの近くで半分埋まった状態で発見された。遺体の頭部には鈍器による外傷があり、遺体から少し離れた場所からはハンマーが見つかっている。ロホも自らの領土内に作られ、一方で全く地元の人間に利益が入ってこないガス・パイプライン、水道橋、鉄道路線に抗議して、数ヶ月にわたって道路を封鎖するなど、緊張状態が続いていた。

メキシコにおいては近年、抗議団体が既存の料金所を占拠したり、道路を封鎖してドライバーに通行料を請求するという事象が発生している。これらのグループはおそらく年間約1億5,000万ドルの収入を得ていると推定され、2020年末にも、アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領がこれらの道路封鎖を撤去するよう支持している。一方で、大統領AMLOはメキシコで最も迫害されている先住民グループヤキ族による道路封鎖を撤去の対象としていない。トマス・ロホの殺害に関与したとされる通称エル・ヒル(El Gil)ことジルベルトN( Gilberto ‘N’)とエル・モロチョ(El Morocho)ことフランシスコ・イラム(Francisco Hiram)は逮捕されている。計画的殺人、悪意と利得、犯罪結社の罪だ。

 

7月7日以降、パンテルホー、チェナルホー、シモジョベルの各自治体から約3,200人が避難しています。これは、地方自治体の組織犯罪が推進し、連邦政府が容認している全般的な暴力による。パンテルホ市で起きたように、犯罪者グループに立ち向かい、命を守るための決断をした人たちは、報道機関から「チリレス」と呼ばれている。

パンテルホに暮らす先住民ツォツィルとツェルタルがこの度数千人が結集した。最近チアパス州で結成された自警団ロス・マチェテスへの支持を表明するためだ。ロス・マチェテスの目的は先住民農民をこれ以上殺させないこと。そのためには殺し屋・麻薬犯罪組織を追い出すことが必要で、そのためには武装化する必要があると考えた。この土地では市警察もまた、先住民に対する嫌がらせを継続して実行している。

AMLOは治安の責任は国家にあるとし、チアパス州、ミチョアカン州、ゲレロ州、モレロス州にいる自警団の存在に拒否感を表明している。

 

参考資料:

  1. Las múltiples ausencias de los indígenas desaparecidos en México
  2. Autoridades detienen al presunto asesino del líder yaqui Tomás Rojo Valencia
  3. Pueblos indígenas, narcoviolencia y paramilitarismo
  4. VIAJE ZAPATISTA POR LA VIDA. AL ENCUENTRO DE LOS PUEBLOS EN LUCHA
  5. ¿Quiénes son las Abejas de Acteal, Chiapas? Conoce cuándo surgieron y por qué luchan
  6. Asesinaron en Chiapas a Simón Pedro, activista y ex presidente de Las Abejas de Acteal
  7. ¿Quiénes son las Abejas de Acteal, Chiapas? Conoce cuándo surgieron y por qué luchan
  8. Localizado el líder yaqui Tomás Rojo en una fosa en Sonora
  9. ¿Quién era Agustín Valdez, “el Roque”, asesinado anoche en Loma de Guamúchil?
10. Lorena Valenzuela, hermana de Mario Luna, es hallada con vida en Sonora
11. Story of Indigenous Leader Mario Luna Romero and the Yaqui’s Fight for Water
12. Detienen a segundo sospechoso de matar a Tomás Rojo, líder yaqui 
13. Yo sólo quería que amaneciera / Impactos Psicosociales del Caso Ayotzinapa
14. Rosalva Aída Hernández Castillo (coord.) La otra palabra: mujeres y violencia en Chiapas. Antes y después de Acteal

2 Comments

  • miyachan 08/04/2021 at 06:15

    治安維持は歴代政権の政策の柱であり続けたが、一向に改善しない。PRI(制度的革命党)など既存政党に愛想をつかした国民がAMLO大統領(国民再生運動)に期待していたが、未だこのような状態ですか(ため息)。マンサニージョといえば、有名な美しい海岸のリゾートでもあるのに、こんな醜悪な事が起こっているとは!

    Reply
    • MARINA 08/08/2021 at 19:16

      メキシコだけの話ではないく、他の国でも多くの環境活動家が危険にさらされているようです。マンサニージョ、素敵そうですね。興味が湧きました。

      Reply

Leave a Comment

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください