映画 “カナルタ 螺旋状の夢” でシュアール族を観る

<ネタバレ注意>

アマゾンの民シュアールにまなざしを向け、監督太田光海はその世界観を映像に残した。1年間彼らとともにいたからこそ撮れた作品だ。太田はパリで20代前半を過ごし、あらゆる映像を浴びるように吸収したと言う。イギリスのマンチェスター大学で先端学問である「映像人類学」の博士号を取得した後、この土地にやってきた。

エクアドル南部アマゾン熱帯雨林にあるシュアール族の集落ケンクイム村に住むセバスティアンの父親はシャーマンだった。シャーマンとともに、ヒーラーとしての能力も持っていたのかも知れない。だからセバスティアン自身も怪我人が出たり、体調が悪い時には自然の力を借りた。シャーマンたち植物学を身につけ西洋医学がこの土地に入ってくるずっと前からこのような方法を用いて人々を治癒してきた。Alternative Medicine、代替医療とも呼ばれるこのような医療に頼る人もいる。ベネズエラではその医療に頼る人は増えてもいると言う。医療へのアクセスができないこと、コストの問題があると言うが、マーク・プロトキン(Mark Plotkin、詳細はこちら)のように、ハーバード大学の比較動物学博物館で働き、その後ハーバード大学のハーバード・エクステンション・スクールで教養学士号、イェール大学で森林学の修士号を、タフツ大学で博士号を取得した専門家もこの医療の可能性を説いている。カナルタを通じ知ったのは、このような植物や医療に関する知識は代々継承されるもののみではないと言うことだ。セバスティアンは名も知らない宿木を口に含み、その植物が彼らを攻撃するものなのか、それとも薬草として使えるものなのかを調査する。このように発見された植物は今後彼らの医療の一端をになっていく可能性がある。CONAIEによるとシャーマンの処方した薬を用いた治療と診断の確実性は98%の信憑性を持っていて、より良い結果を得るためには、成熟した信念を持つことが必要だと言われている。これらの実践に加えて、現在はアロパシー医学が用いられているという。

太田は「チチャ」によるコミュニケーションにも目を向ける。唾液に棲む微生物で発酵させ作る口噛み酒であるそれは、コミュニティでの共同作業と切っても切り離せない。草葺屋根の材料となる草の収穫や、屋根の完成を祝うために皆腹一杯それを飲む。どこにそんな大量の液体が吸収できるのかと思うほどの分量だ。アンデスにおいてはトウモロコシを主な原料とするも、この土地ではイモが使われているようだ。唾液中の消化酵素で素材のデンプン質が糖質に変化し、空気中の酵母によりアルコール発酵が進む。

アマゾン先住民文化においてはアヤワスカやマイキュアのような薬草も欠かせない。その摂取をきっかけに彼らは自然や自らと対話する。これらとの出会いは人間に未知なる体験の機会を与える。感覚は研ぎ澄まされ、するっと通り過ぎてった経験は深層心理から顔を出し、それと対峙するするきっかけとなる。太田自身も「お前は将来キリスト教徒になる」と言う声と格闘したことを清水高志との対談で語っている。その問いが顔を出すきっかけとなったのは、太田自身がアマゾン入りする前にキリスト教の宣教師たちが土着文化を否定してきた歴史に直面していたことによるのだろう、太田はそう振り返る。

シュアールは植民時代において極めて勇敢な戦士であった。そのことでJíbaros(野蛮人)という蔑称で揶揄されてきた。この民族主義的で人種差別的な表現に対し彼らは異をとなえている。エクアドルとペルーの両国に暮らす彼らだが、エクアドルにおいては主にモロナ・サンティアゴ(Morona Santiago)州、パスタサ(Pastaza)州、サモラ・チンチペ(Zamora Chinchipe)州に住み、それ以外にもアマゾンのスクンビオス(Sucumbíos)州、オレジャーナ(Orellana)州、海岸地域ではグアヤス(Guayas)州とエスメラルダス(Esmeraldas)州におり、その人口は11万人(1998年)で、約668のコミュニティに定住している。シュアールの土地にやってきたカトリックの宣教師は彼らの生活に大きな変化をもたらした。教会の資金援助で彼らの土地に学校、商店、医療センターが建設され、このことはジャングルでのノマド的生活体系を定住生活へと導いた。1964年になるとシュアールは連盟を組織し、国家やその他の非国家組織との政治的な結びつきを持つようになる。なお、シュアールに関する連盟は3つ(FICSH、FIPSE、FINAE)あり、これらの組織は石油会社からの圧力に直面する民族の権利を守るための行動をとることを主な目的としている。宗教面において言えば蛇の祭りである「ツンキ」を尊重しているものの、カトリックや福音派の影響もあり自然に対する象徴的な儀式が散財する結果となった。

彼らは昔から年長者や他人への敬意や誠実さ、仕事に対する実直さを持っており、非常に明確な原則によって行動が決まると考えている。上述の通りこの民族は勇ましい。かつては部族抗争で負けた酋長の首を干し首ツァンツァにしていた。それは宗教的な意味合いからで、干し首にすることで敵の霊魂を束縛し、制作者への奉仕を強制するものとなると信じていたことによる。なお、干し首は突出した下顎と歪んだ顔面、額の両側面の収縮を持つという特徴がある。

 

何度も言うように、映画は自らのできない生活を追体験させてくれる。それが人類学者によるものであれば尚更のことだろう。高層ビルの間を飛び回るスパイダーマンは出てこない。でも自然の中に生きる蜘蛛はこの作品に出てくるかも知れない。ハリーポッターが使うような魔法は出てこない。でも我々が知らない方法で病気を治癒する場面に遭遇するかも知れない。ゼロ・グラビティのような宇宙での生活も出てこない。でも、彼らの宇宙観はそこにしっかりと見て取れる。

自文化とは違う世界に生きる他者から学ぶことは多分にある。サステイナビリティが注目される現代においては尚更に、アマゾンの民から学ぶべきことは多いだろう。

 

参考文献:

1. シャーマンに頼る病人はなぜ増えた? 南米シャーマン信仰と医療危機
2. アマゾンに単身乗り込み、かつて首狩り族として恐れられた部族と行動を共に。僕が無謀な旅に出た理由
3. 太田光海 × 清水高志|巨大な夢が繁茂するシュアール族の森で──複数の世界線を生きる|映画『カナルタ 螺旋状の夢』公開記念対談
4. 森の民に迫る危機
5. Nacionalidad Shuar
6. SHUAR

 

作品情報:

名前:  カナルタ 螺旋状の夢
監督:  太田光海
出演:     セバスティアン・ツァマライン、パストーラ・タンチーマ
制作国: イギリス・日本
製作協力:マンチェスター大学グラナダ映像人類学センター
時間:   121 minutes
ホームページ:https://akimiota.net/Kanarta-1
ジャンル: Documentary
 ※日本語字幕あり

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