(Photo: Policía Nacional)
エクアドルの野党指導者ルイサ・ゴンサレス(Luisa González)が2026年10月22日、マナビ県(Manabí)のカヌト(Canuto)で逮捕された。2023年の大統領選挙に関連する資金洗浄疑惑をめぐる捜査の一環で、翌23日には予防拘禁が命じられた。ゴンサレスは容疑を否定し、逮捕を政治的迫害だと批判している。
今回の逮捕は、ダニエル・ノボア(Daniel Noboa)大統領の政権下で、野党勢力や反対派への圧力が強まるなかで起きた。ゴンサレスが所属する市民革命運動(Revolución Ciudadana:RC)は、すでに選挙への参加資格を停止されている。野党側は、捜査や選挙管理機関の決定が政治的な排除に利用されていると訴えている。
約50万ドルの選挙資金をめぐる捜査
ゴンサレスの逮捕は、「ラベリント事件(Caso Laberinto)」と呼ばれる捜査に関連している。検察当局は、2023年5月から8月にかけて、約50万ドルの資金が複数の企業を経由して選挙広告の支払いに使われた疑いがあるとみている。
捜査当局によると、資金の出所や実際の提供者を隠すため、複数の法人を介した送金が行われた可能性がある。捜査対象者は7人に上り、検察はこのうち3人に対する逮捕状を請求した。資金の一部は、グアヤキル(Guayaquil)市長アキレス・アルバレス(Aquiles Alvarez)や、燃料関連企業テルナペ(Ternape)と関係していると報じられている。
検察は、選挙活動に使われた資金の出所や会計処理に不正がなかったかを調べている。ただし、現時点で疑惑が司法的に確定したわけではない。
ゴンサレスは容疑を否定し、今回の捜査を政治的な攻撃だと主張している。逮捕後には、エクアドルの自由と、より良い国の未来のために取り組む国民の尊厳をもって対応すると表明した。
別の選挙資金疑惑「カハ・チカ事件」
ゴンサレスは、2023年の大統領選挙に関連する別の資金疑惑「カハ・チカ事件(Caso Caja Chica)」でも名前が挙がっている。この事件では、ベネズエラから持ち込まれた現金が選挙運動に使われた疑いが調べられている。
捜査では、元市民革命運動所属(RC)の国会議員サンティアゴ・ディアス(Santiago Díaz)の証言が重要な根拠の一つになっている。ディアスは2026年5月、12歳の少女に対する性的暴行の罪で有罪判決を受け、懲役29年を言い渡された人物である。
ゴンサレス側は、こうした証言や疑惑を根拠にした捜査を不当だと批判している。今回の逮捕についても、政治的な目的で司法手続きが利用されていると主張している。
ゴンサレスと市民革命運動の反応
ゴンサレスは48歳の弁護士で、元国会議員である。ラファエル・コレア(Rafael Correa)元大統領の政治的盟友として知られ、2023年と2025年の大統領選挙に出馬した。いずれもノボアに敗れたが、2025年の選挙結果については異議を唱え、票の再集計を求めていた。
市民革命運動(RC)の党首ガブリエラ・リバデネイラ(Gabriela Rivadeneira)やコレア元大統領は、ゴンサレスの逮捕を政治的迫害だと非難し、釈放を要求している。党側は、司法機関による捜査が政権に批判的な勢力を排除する手段になっていると訴えている。
一方、政府報道官ホセ・フリオ・ネイラ(José Julio Neira)は、今回の事件について司法当局が厳格かつ迅速に対応するとの見通しを示した。
野党の選挙参加をめぐる相次ぐ措置
市民革命運動(RC)は、2026年3月、予備調査を理由に9カ月間の選挙参加停止処分を受けた。これにより、同党は11月29日に予定されている地方選挙への参加が制限されている。
選挙管理機関は、地方選挙の日程も変更した。当初2027年2月14日に予定されていた選挙は、エルニーニョ現象に伴う大雨の予測を理由に、2026年11月29日へ77日前倒しされた。
さらに、選挙裁判所は7月17日、市民革命運動(RC)の候補者が別の政党を通じて立候補する動きをめぐり、アミーゴ運動(Movimiento Amigo)の活動を停止した。市民革命運動(RC)の候補者が同党の名義で選挙に参加しようとしたことを受けた措置だった。
ゴンサレス自身も、マナビ県知事選への出馬を目指し、パチャクティク運動(Movimiento Pachakutik)の候補者となることを模索した。しかし、同党への所属期間が十分でないとして立候補を認められなかった。
さらに、人民統一党(Unidad Popular)は4月26日、選挙管理機関の登録名簿から除外された。こうした一連の措置に対し、野党側は選挙で競争できる政治勢力を狭めるものだと批判している。
キト市役所への捜索と地方政治家への捜査
ゴンサレスの逮捕前日には、首都キトの市役所が捜索を受けた。キト市長パベル・ムニョス(Pabel Muñoz)は再選を目指しているが、刑事告発にも直面している。
グアヤキル市長のアルバレスも、2月から拘束されている。アルバレスは今回の選挙資金疑惑でも名前が挙がっており、地方政治の有力者をめぐる捜査が相次いでいる。
コレア政権からノボア政権までの政治的経緯
エクアドルでは、コレアが2007年から2017年まで大統領を務めた。コレア政権後、レニン・モレノ(Lenín Moreno)政権は国際通貨基金(International Monetary Fund:IMF)との関係を強め、42億ドルの融資を受けた。
2019年には、燃料補助金の削減などをめぐって大規模な抗議行動が発生した。政府は抗議の拡大を受けて首都機能を一時グアヤキルに移した。エクアドルのオンブズマン機関によると、この抗議では11人が死亡し、約1340人が負傷した。
2021年に就任したギジェルモ・ラソ(Guillermo Lasso)政権は、2023年5月に国民議会を解散した。これを受けて前倒しの総選挙が実施され、ノボアが大統領に就任した。
ノボア政権は2024年、国内の治安悪化を受けて「国内武力紛争」を宣言した。同年には付加価値税率を12%から15%に引き上げ、治安対策や財政政策を進めた。また、警察がメキシコ大使館に突入し、同大使館に保護されていた元副大統領ホルヘ・グラス(Jorge Glas)を拘束した。この事件は国際的な批判を招いた。
ノボア政権はその後、IMFと新たに50億ドル規模の融資合意を結んだ。政府は財政再建や経済改革を進める一方、公共支出の削減を進めている。
燃料補助金の撤廃と2025年の抗議行動
2025年、ノボア政権はディーゼル燃料への補助金を撤廃した。これにより、燃料価格は1ガロン当たり1.80ドルから2.80ドルへ上昇した。
この政策に反発し、先住民族団体や労働者、市民による抗議行動が全国に広がった。全国規模のストライキは31日間続き、抗議の過程で3人が死亡したと先住民族連盟(Confederation of Indigenous Nationalities of Ecuador:CONAIE)は発表した。
同年11月16日に実施された国民投票では、ノボアが提案した複数の改革案が否決された。政府が求めた政策変更に対し、有権者が反対の意思を示した形となった。
財政緊縮と電力危機
IMFは2026年4月、エクアドル向け融資の一環として3億9400万ドルを追加で拠出した。IMFの計画では、国内総生産(GDP)に対する公共支出の割合を2025年の38.4%から2027年には35.6%へ引き下げる方針が示されている。
一方、国内では電力不足や停電が問題になっている。産業施設への電力供給が週3日停止される措置も取られ、企業活動や市民生活に影響が及んだ。ノボアは各家庭への電力供給を失わせないと約束していたが、電力危機は続いている。
こうした状況のなか、2026年10月8日には労働者統一戦線(Frente Unitario de Trabajadores:FUT)や全国教育者連合(Unión Nacional de Educadores:UNE)などの団体が、19県で抗議行動を実施した。抗議では、政府の経済政策や公共サービスの削減に対する不満が表明された。
WSWSが指摘する政権の政治的狙い
世界社会主義者ウェブサイト(World Socialist Web Site:WSWS)は、ノボア政権が司法機関や選挙管理機関を通じて、政権に反対する勢力を政治の場から排除しようとしていると分析している。同媒体は、ゴンサレスの逮捕や市民革命運動への選挙参加停止措置を、野党への圧力を強める動きの一部と位置づけている。
WSWSはまた、ノボア政権の財政緊縮政策がIMFの要求に沿って進められ、公共支出の削減や燃料補助金の撤廃が労働者や低所得層に負担を強いていると批判している。エクアドルの政治危機を、単なる政党間の対立ではなく、緊縮政策と社会的不満を背景とする問題として捉えている。
同媒体は、市民革命運動(RC)やコレア派についても批判的な見方を示している。コレア派はノボア政権に対抗する野党勢力である一方、2025年の選挙ではIMFや企業との関係を強め、財政緊縮政策を継続する立場に近づいたとWSWSは指摘している。そのため、同媒体はノボア政権だけでなく、コレア派も労働者や社会運動の要求を代表していないと論じている。
WSWSはさらに、労働組合の指導部が抗議行動を政府との対話要求にとどめていると批判している。同媒体によれば、労働者の不満が広がる一方で、組合指導部は政府との交渉を優先し、抗議運動を政治的な対抗勢力へと発展させていないという。
国際的な反応と今後の焦点
ゴンサレスの逮捕をめぐっては、エクアドル国内の野党勢力だけでなく、国外でも政治的な懸念が示されている。WSWSは、コロンビアやフランスなどでもエクアドルの政治情勢に関連する抗議行動が行われたと伝えている。また、ノボア政権が米国との軍事・安全保障面での協力を深めていることにも言及し、同政権の外交・安全保障政策を批判している。
ノボアは、ドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領の緊密な同盟者として知られている。WSWSは、ノボア政権が米国との関係を強化する一方、国内では反対派への圧力を強めていると分析している。
市民革命運動は、ゴンサレスの逮捕を受けて米州人権委員会(Inter-American Commission on Human Rights:IACHR)に予防措置を求め、本人の釈放を要求する方針を示している。
今回の事件では、選挙資金をめぐる疑惑の解明だけでなく、捜査が政治的に利用されているかどうか、野党勢力が今後の選挙に参加できるかどうかも焦点となる。11月29日の地方選挙を前に、司法機関や選挙管理機関の判断がエクアドルの政治情勢に与える影響が注目される。
参考資料:
1. Opposition leader Luisa González arrested in Ecuador
2. Ecuador opposition leader Luisa Gonzalez arrested in campaign finance probe
3. Dictan prisión preventiva a Luisa González en Ecuador

No Comments