(Photo: @ActualidadRT)
ハイチでは憲法上、大統領の任期は2月7日に始まり、同じく2月7日に終了する。つまり、ハイチにとって2月7日は政権交代の象徴であり、統治の正統性を測る基準点となっている。そのような日が迫る中、ハイチは政治的緊張、治安問題、国際的関与が交錯する複雑な局面に直面している。ハイチでは今まさに、移行期の統治体制と治安維持をめぐるさまざまな動きが同時に進行している。
ハイチ国内対話フォローアップ会合(dialogue inter-haïtien)では、移行期の統治体制として3名で構成される大統領評議会(collège présidentiel)を設置する案が提案されている。ここでは統治のあり方や次期選挙の実施方法が検討される。こうした制度設計をめぐる議論が続く中、暫定大統領評議会(Consejo Presidencial de Transición de Haití:CPT)は、現首相のアリックス・ディディエ・フィルス=エメ(Alix Didier Fils-Aimé)の交代を視野に入れ、最長30日以内に暫定政府の新たな首相を任命する手続きを開始した。しかし、この政府構成の変更に対しては、米国が反対の立場を示している。米国務副長官クリストファー・ランド(Christopher Landau)は、治安情勢が依然として不安定な中での政権再編は、治安と基本的な安定の回復を損なう可能性があるとして、懸念を表明している。
同時期、米軍はポルトープランス湾(Port-au-Prince)に軍艦を配備した。米国大使館はX(旧Twitter)の公式アカウントで、国防長官ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)の命令に基づき、USSストックデール(USS Stockdale)、USCGCストーン(USCGC Stone)、USCGCディリジェンス(USCGC Diligence)が到着したと発表した。この展開はサザン・スピア作戦(Southern Spear)の一環であり、米国南方軍(United States Southern Command)は、海軍および沿岸警備隊が「より安全で繁栄したハイチを確保するために協力している」と説明している。これらの動きは、暫定大統領評議会(CPT)の任期が2025年2月7日に終了する直前に行われたもので、政治的緊張をさらに複雑化させている。さらに、米国務省は2026年1月25日、暫定大統領評議会(CPT)メンバー2名とその家族のビザを取り消したと発表した。理由として、同省は彼らが「ギャングやその他の犯罪組織」と関係している疑いがあると説明している。
Alors que le mandat du Conseil présidentiel de transition prend fin le 7 février, nous soutenons le leadership du Premier ministre Fils-Aimé dans la construction d’une Haïti forte, prospère et libre.
— U.S. Embassy Haiti (@USEmbassyHaiti) February 4, 2026
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Pandan manda Konsèy Prezidansyèl Tranzisyon an ap fini nan dat 7 fevriye,… https://t.co/ndzOnvFEX8
治安面でも状況は深刻である。国連ハイチ事務所(Oficina de la ONU en Haití)によれば、2025年には治安部隊によるギャング掃討作戦およびギャング側の暴力行為により、少なくとも負傷者2,708人、死亡者5,915人が確認されている。こうした政治・治安上の課題と並行して、米軍の展開やビザ取り消しといった国際的介入も起きており、2月7日の政権交代は統治の正統性、治安確保、国際関与のすべてに関わる重要な節目として注目されている。
ハイチ移行期統治をめぐる国内対話
ハイチで進められている移行期統治をめぐる国内対話は、深刻な政治不信と過去の統治経験への記憶を背景に、評価が分かれる議論の場となっている。とりわけ、3名で構成される大統領評議会案を軸とした統治モデルをめぐっては、賛否が鋭く対立している。
賛成派は、長年続いてきた権力集中型の大統領制が、同国の政治危機を繰り返してきた要因の一つだと指摘する。1人に権限を集約する体制は、汚職や権力乱用を招きやすく、治安が極度に悪化した移行期においては特に危険だとの見方が強い。このため、3名による合議制は権力を分散し、暫定統治の暴走を防ぐ「安全装置」になると評価されている。また、異なる政治勢力や市民社会の代表を評議会に参加させることで、排除されてきた声を反映し、最低限の政治的合意を確保できるとの期待も示されている。
一方、反対派は、評議会が選挙を経ていない統治機関である点を最大の問題として挙げる。誰が3名を選出するのかが不透明なままでは正統性は担保されず、既得権層や武装勢力の影響を受ける恐れがあるとの懸念が根強い。さらに、評議会内部で意見が対立すれば意思決定が停滞し、治安悪化への迅速な対応が困難になる可能性も指摘されている。
こうした賛否の対立の根底には、過去に暫定政権が長期化し、選挙が繰り返し延期されてきた経験がある。評議会方式も同じ道をたどるのではないかという不信感が、議論を一層先鋭化させている。3名大統領評議会案をめぐる論争は、制度設計の是非にとどまらず、「誰を信頼できるのか」「本当に選挙にたどり着けるのか」という、ハイチ社会全体に共有された深い疑念を映し出している。
こうした中、暫定大統領評議会(CPT)は、政治関係者とともに移行期の統治体制を協議する国内会合を進めてきた。この取り組みについて、一部の観測者は、停滞してきた国民的対話を前進させる建設的な試みだと評価する一方で、暫定大統領評議会(CPT)の一部メンバーが自らの権力維持を図る動きに過ぎないとの批判も出ている。
民間ラジオ局アルテルラジオ(AlterRadio)の番組「フウォト・リド(Fwote Lide)」(106.1FMほか)に出演した国際関係専門家のサミュエル・コラン(Samuel Colin)は、今回の取り組みを、1月中旬にハイチ平和・持続可能な開発フォーラム(Forum haïtien pour la paix et le développement durable:FOHPDD)が開始した国内対話の延長線上にあるものと位置づけた。同フォーラムは、コラン自身が率いるディアスポラ組織である。
コランは、ハイチ人自身が国家主権の回復を目的として妥協点を探るために協議の場に集うことは、「国際社会によって押し付けられる解決策を回避し得る希望を与える兆し」だと強調する。自らも対話への参加に意欲を示し、関係者に対してこの流れを継続するよう呼びかけた。また、社会運動組織、政治団体、労働組合、市民社会のアクターなど、異なる思想的潮流に属する代表者が参加している点を挙げ、対話プロセスの包摂性を評価した。
ハイチで行われた国内対話フォローアップ会合は、2026年2月7日以降に生じる制度的空白の回避を主目的に、移行期の統治体制や選挙準備に関する議論を進めた。会合では、ガバナンス、安全保障、人道支援、選挙実施の四つを軸に検討が行われ、終了時には合意に基づく移行期ロードマップの策定が見込まれている。
国際関係専門家のサミュエル・コランによれば、参加者は国家ガバナンスの将来的な方向性を慎重に分析した結果、暫定大統領評議会(CPT)が採用してきた輪番制大統領方式の廃止で広範な合意を得たという。多くの関係者は、大統領と首相による二頭制ガバナンスに加え、監督機関を設置する体制を支持している。
議論では、国内避難民の問題も取り上げられ、その数は150万人を超えると推定されている。また、自由で公正かつ透明性のある選挙の実施方法についても検討が行われた。コランは、合意形成の可能性に期待を示し、会合は2月1日から3日まで首都近郊ペシオンヴィル(Pétion-Ville)で開催され、現時点で重大な混乱は報告されていないと述べた。
安全保障問題も中心的テーマとなった。市民社会イニシアティブ責任者のロズニ・デロシュ(Rosny Desroches)は、武装ギャングとの闘争強化を最優先課題に位置づけ、争点は権力掌握ではなく、国家的諸勢力を結集して治安不安を克服することにあると強調した。さらに、安全の回復と選挙を通じた民主的秩序の再建には、米国を含む国際社会との協力が不可欠であると訴えた。
一部関係者は暫定大統領評議会の動きに疑念
ハイチ国内で進められている移行期統治に関する協議に対し、一部の関係者は疑念を示している。政治団体「ハイチの発展のための大集会(Grand rassemblement pour l’évolution d’Haïti:Greh)」の代表ヒムレール・レビュ(Himmler Rébu)は、暫定大統領評議会(CPT)が主導する協議を、巧妙に隠された政治的策動にすぎないとして厳しく批判した。
レビュは、暫定大統領評議会(CPT)の大統領評議員であるレズリ・ヴォルテール(Leslie Voltaire)、エドガール・ルブラン・フィス(Edgard Leblanc Fils)、ルイ・ジェラルド・ジル(Louis Gérald Gilles)が、三頭制によって権力に居座ろうとしていると非難している。この選択肢は、国の危機と市民の不安定な状況をさらに悪化させるだけだと主張している。さらにレビュは、ハイチの発展のための大集会(Greh)が合議制ガバナンスの終結を主張し、憲法に適合した方式として、破毀院(Cour de cassation)出身の大統領を中心に、12名の閣僚が補佐する体制を提唱していると強調した。また、地方の関与強化、国民会議の開催、真実・正義委員会の設置も支持している。
元陸軍大佐であるレビュは、安全保障面での進展を過小評価し、実質的に奪還された地理的空間は存在しないと指摘。現行の協議が政治目的に利用されているとみなし、国の停滞から脱却するための大規模な国家社会プロジェクトの策定を強く訴えた。こうした緊張は、2026年1月21日にCPTの5名の構成員が、アリクス・ディディエ・フィル=エメ首相の解任を決議したことを背景としている。この決議は、米国による警告にもかかわらず採択され、同時にカナダ、欧州連合、フランス、ドイツ、スペインの支持を受けていた。
「サザン・スピア作戦」の展開と国際的影響
サザン・スピア作戦(Operation Southern Spear)は、米国が2025年11月に正式に命名した軍事・海上作戦である。米国南方軍が中南米・カリブ海地域で展開する、対麻薬・対組織犯罪を目的とした広範な軍事活動を体系化したものである。米国防長官ピート・ヘグセス(Pete Hegseth)は2025年11月14日、自身のX(旧Twitter)アカウントで作戦開始を発表し、「祖国を守り、西半球から麻薬テロリストを排除し、米国民を死に至らしめる麻薬から米国を守る」と説明した。従来の散発的な軍事行動を統合した新たな枠組みとして位置付けられている。
作戦の中心には、カリブ海および東太平洋での米海軍と沿岸警備隊の展開がある。報道によれば、空母打撃群を含む艦隊が派遣され、国際水域で麻薬運搬船とみられる船舶に対して複数回の攻撃が行われた。2025年9月以降11月までに発生した攻撃は数十件にのぼり、死亡者は数十人から80人程度に上るとされる。例えば、20回目の攻撃では少なくとも4人が死亡したと報じられている。サザン・スピア統合任務部隊(Joint Task Force Southern Spear)は、麻薬密輸関係者を標的に複数回の攻撃を行っている。
米国側は、この作戦を「麻薬や関連組織犯罪ネットワークの探知・攪乱・弱体化」を目的としていると説明している。しかし、国際法との適合性や合法性については議論がある。特に国際水域での船舶攻撃に関しては、合法性に疑問を呈する声がある。また、作戦の展開はベネズエラ政権への圧力強化とも関連しているとみられている。
米国海軍および沿岸警備隊は、駐留が「ハイチの安全、安定、そしてより良い未来に対する揺るぎない関与」を示すものであると述べ、ハイチ当局とのパートナーシップを改めて強調した。また、同国を「より安全で、より繁栄した国」とするために協力を続ける姿勢を示している。
参考資料:
1. Barcos de Guerra de EE.UU. llegan a Puerto Príncipe como parte de la avanzada militar en Haití
2. Haïti : Tensions politiques et présence militaire américaine à l’approche du 7 février 2026

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