(Photo:Freepik)
本記事はパブロ・コルソ(Pablo Corso)によるものの日本語訳である。コルソはアルゼンチン・ブエノスアイレス在住のフリーランス・ジャーナリストである。2005年以降、アルゼンチンの主要新聞・雑誌に寄稿しており、英国、メキシコ、ロシアのメディアとも協働してきた。ブエノスアイレス大学(Universidad de Buenos Aires)にてコミュニケーション科学の学士号を取得し、同分野の教授資格を有する。2014年からは国際的な科学報道プラットフォームSciDev.Netに寄稿している。
社会問題、科学、観光、スポーツを主な取材分野とし、アルゼンチンのほか、スペイン、スウェーデン、メキシコ、チリ、ペルー、ジャマイカで取材・調査を行ってきた。
ラテンアメリカは、公衆衛生分野における規制政策では世界的に先駆的な地域とされている。一方で、不健康な食品や飲料の販売促進、特に子どもや青少年を標的とした広告への対応は、依然として深刻な課題として残されている。広告規制を目的とした比較的強固な法制度は存在するものの、食品・飲料企業の影響力が拡大する中で、その実効性は大きな試練に直面している。
こうした現状は、ラテンアメリカにおける超加工食品(ultraprocesados)のマーケティング戦略を分析した54本の研究を総合的に検討したシステマティックレビューによって裏付けられた。メキシコの研究者らによる分析では、広告されている製品の約60%が「健康的とは言えない」、もしくは「ほとんど健康的でない」食品であることが明らかになっている。
この研究成果は、国際学術誌『BMCパブリック・ヘルス(BMC Public Health)』に掲載されたものであり、若年層向け広告の制限措置を「すでに採用している、あるいは導入を提案している」ラテンアメリカの11か国を対象としている。
調査によれば、広告の対象となっている製品の大半は超加工食品である。これらは、着色料や香料、食感を強調するための添加物を含み、ナトリウム、糖類、トランス脂肪酸、さらには飽和脂肪酸を多く含有する配合食品である点が特徴だ。
2013年から2023年にかけて蓄積された証拠を整理した本研究は、メディア、販売現場、学校といった複数の場面における広告規制を、さらに強化する必要性を指摘している。これは、未成年者が適切な栄養を享受する権利を守るうえで不可欠な措置である。
世界全体では、5歳から19歳までの人口の約18%が過体重または肥満の影響を受けているとされるが、ラテンアメリカはその中でも特に有病率が高い地域の一つである。メキシコ、チリ、アルゼンチンでは、その割合が最大30%に達している。
この傾向は、超加工食品の販売量とも一致している。2015年に作成された世界ランキングによれば、メキシコは1人当たり年間214キログラムで第4位、チリは202キログラムで第7位、アルゼンチンは185キログラムで第14位に位置していた。超加工食品の大量消費と健康リスクの拡大は、同地域において密接に結びついているのである。
2024年にメキシコ中央銀行(Banco de México)が公表した地域経済に関する研究によれば、同国では2022年時点で、加工食品および超加工食品への1人当たり支出が、食品支出全体の29.5%を占めていた。報告書はさらに、これらの製品の1人当たり消費量および食生活における比重が、特にメキシコ、アルゼンチン、チリにおいて、引き続き増加傾向にあると指摘している。
超加工食品の摂取は、体重増加の可能性を高めるだけでなく、心血管疾患や脳血管疾患、うつ病、さらには死亡リスクの上昇とも関連していることが、近年の研究で示されている。
子どもを標的とするマーケティング
同レビューによると、最も頻繁に宣伝されている食品カテゴリーは加糖飲料であり、これに菓子類、アイスクリーム、朝食用シリアルが続く。
企業が用いる主な説得的手法としては、アニメキャラクターやマスコットなどの登録キャラクターの使用、健康効果を強調する表現、視覚的に魅力的な画像、命令形のスローガンなどが挙げられる。
著者らは、4歳から8歳の子どもはキャラクターやロゴを識別する能力を備えている一方で、マーケティング表現が現実を正確に反映していないことを理解する認知能力が未熟であると指摘する。そのため、こうした手法で宣伝された商品を好む傾向が強く、場合によっては実際以上においしいと認識することさえあるという。
広告媒体として最も多く確認されたのはテレビであり(20の調査)、次いで包装(パッケージ)が続いた(19の調査)。広告が展開される主な場は商業施設と学校であった。
商業施設では、目線の高さでの陳列、販促キャンペーン、価格割引といった戦術が多用されている。一方、学校では、ポスターや運動場、食堂での広告に加え、景品の配布や教育的講話を通じた訴求が行われている実態が確認された。
法制度と企業の影響力
企業の影響力が強まる一方で、ラテンアメリカは不健康な食品・飲料に対する規制政策の先進地域でもある。
2012年にチリで制定された世界初の正面表示義務法では、包装前面に糖分、ナトリウム、脂肪、カロリーの過剰を警告する八角形の表示が導入された。その結果、学校における超加工食品の流通率は、2014年の90%から2016年には15%へと大幅に低下した。その後、ペルー、ウルグアイ、エクアドル、ブラジルも同様の制度を採用している。
メキシコでは、こうした規制によって食品産業が製品の再配合を迫られた。「このような変化は地域全体で起こるべきだ」と、同国の研究者であり本研究の共著者の一人であるリスベト・トレンティーノ=マヨ(Lizbeth Tolentino-Mayo)は、科学ニュースサイトサイデブ・ネット(SciDev.Net)への電子メール取材で述べている。
一方で彼女は、法制度を評価しつつも、栄養評価の基準値(カットオフポイント)の設定、規制対象となる消費者の年齢範囲、広告が許可される時間帯や番組内容などに、依然として課題が残っていると警鐘を鳴らす。
同様の見解を示すのが、研究には参加していないアンドレア・グラシアノ(Andrea Graciano)である。彼女は、ブエノスアイレス大学の「食料主権自由講座(Cátedra Libre de Soberanía Alimentaria)」のコーディネーターを務めている。消費者は表示ラベルを評価し、購買判断に活用しているものの、産業界やそれに譲歩的な政府の存在が、制度の適切な実施を妨げていると指摘する。
実際、アルゼンチンではハビエル・ミレイ大統領(Javier Milei)の政権下で、法律に基づく基準値の算定方法が変更された。その結果、チーズなどの乳製品は、従来は最大4つの警告表示を必要としていたにもかかわらず、1つのみの表示で済むようになった。
このような企業による影響戦略としては、政策決定者へのロビー活動や、企業幹部と政治家が相互に立場を行き来する、いわゆる「回転ドア(puerta giratoria)」の存在が頻繁に指摘されている。
未解決の課題
著者らは、近年拡大するインタラクティブ・マーケティングの手法についても強い警鐘を鳴らしている。これらの手法は、広告主が未成年者と継続的かつ直接的に接触することを可能にし、従来の広告規制の枠組みを容易にすり抜けている。
アンドレア・グラシアノ(Andrea Graciano)は、ブエノスアイレス大学の「食料主権自由講座(Cátedra Libre de Soberanía Alimentaria)」のコーディネーターとして、アルゴリズム主導の広告戦略の問題点を次のように指摘する。「アルゴリズムに基づくセグメンテーションによって、産業側の利益に沿ったターゲティング広告の設計が可能になっている。その手法は攻撃的で効率的である一方、監視や規制が極めて困難である」。
実際、ファストフード企業は、ソーシャルメディア、オンラインゲーム、動画配信サービス、インスタントメッセージングといった分野への投資を強化している。これらのデジタル空間は、現行の法制度では最も規制が及びにくい領域であり、未成年者が広告にさらされやすい環境が形成されていると、グラシアノは警告する。
こうした現状を踏まえ、メキシコの研究者であるリスベト・トレンティーノ=マヨ(Lizbeth Tolentino-Mayo)は、「だからこそ、利益相反のないデジタルメディア規制が不可欠である」と強調する。
彼女は比較例として、ヨーロッパの一部の国々では、工業製品化された食品の広告を一切認めない規制が導入されていることを挙げる。また、スペインでは、電子的手段を用いた広告配信に対し、保護者の事前承認を義務付ける制度が採用されているという。
トレンティーノ=マヨは、ラテンアメリカも同様の道を歩むべきだと考えている。それは、有害な食品や飲料の広告を禁止するだけでなく、それらの製品そのものの生産や供給のあり方を見直すことを含む、より包括的な取り組みであるべきだという立場である。
用語補足
回転ドア
政府・規制当局と民間企業(特に大企業や業界団体)の間で、人材が頻繁に行き来する構造を指す比喩表現。回転ドアという言葉は、建物の入口にある回転式ドアのように、
- 元政府高官や規制担当者が、退任後に企業の幹部・顧問・ロビイストになる
- 逆に、企業幹部や業界関係者が、政府の政策立案や規制を担う立場に就く
といった人事の循環が繰り返される状態を表している。この構造が問題とされる理由は、利益相反が生じやすいからである。
- 規制する側が、将来の「天下り先」や再就職を意識し、規制を弱める可能性がある
- 企業側の論理や利害が、公共の利益よりも優先されやすくなる
- 表向きは中立的な政策でも、実質的に産業寄りの制度設計になりやすい
超加工食品の文脈では、食品企業と規制当局の人材循環によって、広告規制や表示制度が骨抜きにされることが懸念されている。
#JavierMilei #PublicHealth #食料主権
参考資料:
1. Alimentos ultraprocesados, batalla sin cuartel en Latinoamérica

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