エクアドル:10歳の子どもたちを次々と勧誘する麻薬密売人

エクアドルのエスメラルダ(Esmeraldas)では着るもののプレゼント、何かに所属する機会、そして少なくとも1日1食の食事を保証することと引き換えに子どもたちをギャングの仲間に引き込んでいる。着用のためにプレゼントしているのは学校やホリデーキャンプの制服ではない。胸に猫がプリントされたコットン製のTシャツで、これは暗殺、爆破、麻薬密売を行う犯罪組織の仲間となったことへの目標だ。内務省によると、これは犯罪組織による新しい採用形態で、都市の限界集落や貧困地帯、特に沿岸部において用いられ、10歳の子どもたちは次から次へとリクルートされている。なお、思春期になると猫の代わりにオオヤマネコが描かれたTシャツがプレゼントされる。これは新しい責任が伴うことの証だ。腕次第では、武器の扱いを訓練され、ガンマンやヒットマンになることもある。青少年になるとオオヤマネコのプリントはトラに変わる。キャラクターの変化はより大きな責任を持たされたことを意味する。

勧誘されてしまう子どもたちに共通しているのは、ネグレクトや暴力など、崩壊した家庭の出身であるということだ。また、両親が死亡、拘留中、移住しているなどと言った理由から、祖父母や叔父叔母に預けられている子もいる。心に抱える子どもは優しく語りかけ、最も身近な存在として愛情を注いでくれる存在であるギャングたちに心を許す。誰かが自分を困らせたり、不当に扱ったりすれば、仲間やグループのリーダーがかばってくれることを知っているからだ。さらに多くの場合ギャングたちは教会のメンバーのように振る舞うことで、大人たちから信頼を獲得し、子どもを連れ去れる状態に持っていく。

猫のシャツを着た子どもたちは「カエル」としの務めを持っている。子どもたちは犯罪組織の最前線にいて、見知らぬ人が近づいてきたら口笛を吹き警告をする。成長とともに新たな責任を負うようになると、第二段階で麻薬を運んだり、麻薬を運ぶ麻薬密売人の前を歩き、逃げるように相手を威嚇するようになる。彼らはソーシャルネットワークを通じて、武器を振り回す動画を投稿しギャングに合図を送ったり、脅迫ビデオも投稿する。そこに映る10歳未満の子どもたちは組織のために活動していることを自慢しているようでもある。国家警察のデータによると、犯罪暴力の被害者の多くは20代から30代の若者である。彼らの暗殺者は14歳から30歳の人間だ。彼らがリクルートされていく過程においては、10歳の子どもに銃を装着させ、警察に逮捕されても沈黙をさせ続けるというものもある。

犯罪プロファイラーであるアレクサンドラ・マンティジャ(Alexandra Mantilla)によると、犯罪組織が10歳の子供を勧誘するのは、犯罪者にとって2つの理由がある。少年たちが捕まったとしても幼いという理由で刑務所ではなく、更生施設に送られることにある。犯した罪に対してそれ以上法的な措置がとられないのだ。また、未成年者であることから何人人を殺してもプライバシーも法律で保護される。組織の子どもたちは仕事の対価として、テレビゲームや高級携帯電話を提供される。「このようなオファーや機会の不足が、リクルートの絶好の温床になっている」とマンティラは付け加える。自由を奪われた人のケアのための国立サービス(Servicio Nacional de Atención a Personas Privadas de LibertadSNAI)のデータによると、2021年には684人の青年が青年犯罪者用の拘置所で刑に服していた。

オンブズマン事務所の児童・青少年の促進と保護のためのメカニズム担当ディレクター ロリーナ・チャベス(Lorena Chávez)は「エクアドルでは、社会が子どもたちをモノとして見る傾向が強まっており、子どもたちは権利の主体ではない」と話す。社会学者で教授のエクトル・チリボガ(Héctor Chiriboga)は、「子供たちの多くは、自分にはない権威に誘惑され、自分を導いてくれる人を求めている。自分たちは悪党の集まりなのだ」と述べている。

エクアドルはこの地域で2番目に栄養失調の多い国であり、30%の子どもたちが栄養失調に悩まされている。生後数カ月を過ぎれば、MIESが運営する児童発達センターに連れて行くことができ、3歳まで遊びの活動や食事をすることができます。全国で12,154人の乳幼児がこのプログラムに参加している。 そして、2,165カ所の児童発達センターのうち767カ所が設置されている。しかし 4歳からは学校教育の一環となり、それ以外の保護制度はない。

INECの調査によると、物乞いをしている子どもや若者は35万4千人で、そのうち「11,900人が経済・社会的包摂省(Ministerio de Inclusión Económica y Social:MIES)のプログラムを利用している」。これは何らかの保護を受けている子どもは4%以下しかいないことを意味する。つまり、96%の子どもは貧困から抜け出す機会すら得られそうにない状態だ。

 

グアヤキル(Guayaquil)近郊のドゥラン(Durán)州に麻薬密売人がやってきた。目的は「殺し屋学校(escuela de sicarios)」を開設することだった。ここでもまた10歳の子どもたちがターゲットとなり勧誘される。ドゥランのセロ・ラス・カブラス(Cerro Las Cabras)は最も暴力的な場所として知られる。2月には歩道橋から2人のヒットマンの射殺体が吊るされていた。2021年10月以降も切断された死体5体と、首を切られた死体2体が発見された。まるでメキシコのマフィアのような残酷さがある。この殺人事件もまたギャング同士の抗争とされている。公式発表によれば、ドゥランだけで月に麻薬がらみの金が180万ドルほど動く。犯罪組織における抗争は激しさを増しており、2021年にも刑務所で約400人の受刑者が死亡した(詳細はこちら)。この流血には「ロス・チョネロス(Los Choneros)」と「チョネ・キラーズ(Chone killers)」が関与していた。この時政府は非常事態宣言もだしている。刑務所の外でも暴力も続いている。1月以降、ドゥランと近隣のサンボロンドン(Samborondón)、グアヤキルで363人が麻薬関連の犯罪で死亡した。エクアドルは世界二大コカイン生産国であるコロンビアとペルーの間に位置している。暴力が比較的少ない土地であったが、ビジネスは変異し、今日でエクアドルは麻薬の「物流センター」と化している。主要港を抱えるこの土地は、欧州や米国に向かう大量のコカインの出発地でもあり、麻薬組織の集まる土地ともなっている。サンボロンドン、グアヤキルの2都市だけで、今年これまでに43.5トンの麻薬が押収された。

犯罪組織に加担しないよう、直接的に支援を受けている子どもは4%未満だ。

 

参考資料:

1. Así reclutan los narcotraficantes a los niños para sus bandas
2. Bandas delincuenciales reclutan a niños desde los 10 años en Ecuador
3. La “escuela de sicarios” en el Cerro Las Cabras en Durán recluta a niños de 10 años para la venta de droga y los entrena para los crímenes

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