ハイチ:殺人件数は倍増、避難民は強制退去、ケニアは多国籍軍への参加を違憲と判定

(Photo:@Copskenya / X

国連はハイチにおける暴力、治安の悪さ、警察・司法制度の浸食の根強さを記した報告書を2024年1月23日(火)に発表した。本報告書には国連ハイチ統合事務所(United Nations Integrated Office in Haiti:BINUH)の活動報告も含まれている。

報告書には2023年、殺人件数が119.4%増加したことが記載されている。命を落としたのは4,789人で、465人の女性、93人の少年、48人の少女が含まれる。これは人口10万人あたり40.9人の割合に相当する。2022年に暴力を通じ命を落とした人の数は2,183人(人口10万人あたり18.1人)だった。2023年にハイチで武装ギャングが起こした殺人の件数に関するこれらの数字は、国土に多国籍武装勢力を展開する計画のために、人的・財政的資源を探していることを背景にしている。この国ではさらに、拉致された人の数も2022年の1,359人から2023年には2,490人と83%増加している。

 

ハイチのこの状況に直面し「私は、特にポルトープランスにおいて、ハイチ人の生活を破壊しているギャングの暴力が憂慮すべきレベルで増加していることに驚愕している」とアントニオ・グテーレス(Antonio Guterres)国連事務総長は嘆いた。「ギャング集団は殺人、誘拐、性的暴力、特に女性と女児に対する虐待を平然と続けている。特にアルティボニト県など、以前は安全と考えられていた農村部にも、ギャングの暴力が急速に広がっていることも、大きな警戒を要する原因だ」と付け加えた。 報告書ではギャング団が自分たちの支配拡大を目指し、地域社会から警察官を排除すべく、警察署を襲撃していることも述べられている。連続的な襲撃の結果、国内にある412の警察署のうち45以上が使用不能となり、焼失したと指摘している。これは「警察疲れ」によるものだ。治安改善のために戦い命を落とした者もいる。報告書は、ハイチ国家警察が「驚くべきスピードで」縮小していることをも指摘している。

12月31日現在、ハイチの警察官数は13,196人で、うち1割強の1,588人が女性である。ハイチは兵士の改革、採用、訓練のための支援を資金的にも武器的にも国際社会から受けているものの、警察は「ギャングに対する作戦を開始する能力が依然として限られている」。また警察官の数も減り続けている。2023年は1,636人の警察官が退職した。それとともに同時期に48人の警察官が死亡し、75人が負傷している。グテーレスは「多国籍治安支援ミッションが永続的な効果を発揮するためには、警察の減少に迅速に対処する解決策を見つけなければならない。支援ミッションの活動と警察活動の強化は、司法・刑事制度の強化と手を携えて進められなければならない」と警告した。彼が述べるのは治安改善のためのミッションの成功には、ハイチの警察と司法制度の強化であり、ギャングとの闘いを支援することが不可欠であるということだ。

 

グテーレスがハイチ国民と国際社会へ向けて発したメッセージは、このハイチにおける政治的・人道的状況の深刻さは誇張ではなく、真実の姿だということだ。ハイチは現在極めて深刻、かつ重大な状態にある。その状況を改善するために彼が繰り返し述べるのはハイチの利害関係者が一丸となり、永続的で包括的な解決策について幅広いコンセンサスを構築することの重要性だ。「治安状況が改善すれば、信頼できる選挙を通じてハイチ国民は、国の民主的制度を回復するために、参加型で包括的な解決策を検討できるようになるだろう」と述べたグテーレスは国連加盟国に対し、最も脆弱な人々を保護するため、ハイチにおける人道的・開発的対応への支援を強化する一方、不安定化の根本原因への対処に引き続き投資するよう呼びかけた。

また不安定で暴力的な国から命からがら避難した人々が強制送還されているという事態についても報告書を通じ国連は状況の報告をしている。それによると2023年7月以降、ドミニカ共和国当局は118,228人のハイチ人(男性65%、女性22%、少年7%、少女6%)を「強制送還」している。さらに、米国からは406人、バハマからは596人、タークス・カイコス諸島からは1,649人、キューバ、ジャマイカ、トルコからも505人のハイチ人が強制送還されている。

同事務局長は「人々が突然強制送還され、不確かな未来に直面し、おそらく彼らの幸福にも危険が及ぶであろう」と、緊急の人道的懸念を提起した。国連難民高等弁務官事務所(United Nations High Commissioner for Refugees:UNHCR)は、亡命を申請する方法や、人道支援などの必要不可欠なサービスについてのガイダンスを求めるハイチ人の数が増加していることを指摘したと論じている。南北アメリカ地域全体で、ハイチ人による亡命申請は2023年半ばまでに194,774件に達したとUNHCRは報告している。

 

2024年1月18日(木)に開催されたハイチ情勢に関する国際フランコフォニー機関(Organisation internationale de la Francophonie:OIF)特別協議委員会の第4回会合ではハイチ危機の規模を考慮し、「ハイチ国民のために緊急かつ効果的な行動を実施するためには、協調した協力が必要である」との判断が下されている。これはルワンダのルイズ・ムシキワボ(Louise Mushikiwabo)事務局長によると、「ハイチにおける必要な平和、安全、安定に向けて取り組むという集団的コミットメントの重要な前進を意味する」。

 

 

この深刻な安全保障と人道的危機に直面した国連安全保障理事会は2023年10月2日、ハイチ国家警察(Police Nationale d’Haïti:PNH)がハイチで武装ギャングと戦うのを支援するため、ケニアを中心とする多国籍治安支援ミッション(Multinational Security Support mission:MSS)のハイチ派遣を承認した。ケニア議会もまたその決定を受け、2023年11月、1,000人の警察官の派遣を承認している(詳細はこちら)。

1月25日、ハイチの外務大臣ジャン=ビクトール・ジェネウス(Jean-Victor Généus)は、国連安全保障理事会で「ハイチ国民はこれ以上我慢できない。私たちの治安部隊を支援する多国籍軍の展開の前に私が話すのは、今回が最後になることを願っている」と始動に時間がかかっていることへ憤りを表しながら、配備を早めるよう訴えた。彼はハイチのギャングによる暴力は、紛争地域で経験する恐怖と同じくらい野蛮であると評価している。

 

ハイチ国内では別のことも起きている。ケニアの裁判所は1月26日(金)、ギャングによる暴力に苦しむカリブ海諸国の平和と安全の回復を目的とした多国籍ミッションへの同国警察の派遣承認を無効と判断している。これはエノック・チャチャ・ムウィタ(Enock Chacha Mwita)判事はが述べるように「国家機関や国家公務員によるハイチへの警察官派遣の決定は、憲法と法律に違反し」ており、ゆえに「無効」でありまたら「ハイチやその他の国への警察官派遣を禁止する命令を下す」とした。この裁定は、ハイチ政府が多国籍軍の緊急派遣を求めている中で下された。

ケニアのウィリアム・ルト(William Ruto)大統領は本ミッションを植民地主義によって荒廃した国家における「人類のための使命」であると位置付けていた。しかし、1,000人の将校の派遣計画は国内では批判にさらされており、昨年、野党のエクル・アウコット(Ekuru Aukot)はナイロビ高等裁判所に請願書を提出していた。

 

上述の通りハイチではギャング関連の暴力が急増している。約3年前にジョベネル・モイーズ(Jovenel Moïse)大統領が暗殺されて以降(詳細はこちら)、状態は悪化した。国民は非合法に大統領に就任したアリエル・アンリ(Ariel Henry)首相に対し市民は治安の悪化に取り組めなかったとして、辞任を求める抗議行動を起こしていた。

 

 

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