エクアドル国内武力紛争:最悪の犯罪者フィトの脱獄と非常事態宣言

(Photo:@DanielNoboaOk / X

「警察は軍隊とともに、この社会復帰センターに収容者の一人がいないことに気づいた」と警察司令官セサル・サパタ(César Zapata)は1月8日語った。この一人とは同国で最も危険な犯罪者であるとされているホセ・アドルフォ・マシアス・ビジャマル(José Adolfo Macías Villamar)、通称フィト(Fito)である。フィトはメキシコのシナロア・カルテルの活動部門であり、主に麻薬密売、恐喝、武器密売、その他の関連犯罪に関与している犯罪組織ロス・チョネロス(Los Choneros)のリーダーを務めている。彼が脱獄したことを国が認識するのに15時間かかっており、彼がいつ脱獄したかすらわかっていない。

フィトは44歳で、強盗、組織犯罪、武器所持、殺人など様々な犯罪で14回起訴されており、合わせて最高34年の懲役刑に処せられている。うち12年はグアヤキル地方刑務所に収監されている。彼の脱獄は今回が初めてではない。2013年2月、フィトはリーダー格のホルヘ・ルイス・サンブラノ(Jorge Luis Zambrano)を含むロス・チョネロス一味の囚人15人とともに、同刑務所内にあるラ・ロカ(La Loca)と呼ばれる最高警備の刑務所から脱獄している。警察によって発見されるまでの10ヶ月間、彼らは国内最重要指名手配犯だった。

刑務所内の事態に責任を持つ政府機関「自由を奪われた成人と青少年犯罪者のための国家統合的注意サービス(Servicio Nacional de Atención Integral a Personas Adultas Privadas de la Libertad y a Adolescentes Infractores:SNAI)」からの説明によるとフィトがいないと気づいたきっかけは武器管理作戦と刑務所からプラグ(スイッチ)を取り外すことにあった。ダニエル・ノボア(Daniel  Noboa Azín)大統領によると、フィトが収容されている独房には4つのソケットがあり、「ホテルの部屋よりも多くのソケットがある」。ノボアは当初より「ギャングのリーダーのプラグをソケットに入れさせるべきではない」と述べており、刑務所改革においては基本的なことから始めるべきだと警告していた。禁止物の管理作戦においては「携帯電話、プラグ、刃物のついた武器、その他の証拠が押収された」とサパタ司令官は述べたが、そのCAMEX(Control de Armas, Municiones y Explosivos)作戦中に「受刑者の一人が不在であることに気づいた」と付け加えた。CAMEXに加え国家警察と軍隊との組織間連携により第8刑務所への介入とフィトの移送も計画していた。

刑務所内の捜索は続いている一方、州検察庁は職権で捜査を開始するための進めている。サパタの声明は、大統領によって招集された安全保障理事会の緊急会議の後に発表された。グアヤキルの刑務所群は5つの刑務所からなり、12,000人以上が投獄されている。

ゾーン4の司令官リチャド・ヴァカ(Richard Vaca)は、マナビでの記者会見でフィトの失踪について言及した。「警戒態勢は敷かれているが、明らかに現場での捜索が行われている。刑務所を知っている者なら、フィトが刑務所のどこかに収容されていたかを知っているに違いない」と述べた。 フィトが脱走したのではないかとの質問に対し、ヴァカ司令官は「肯定も否定もできないが、捜査は進行中であり、24時間以内に担当部署から情報が得られることを期待している」と答えた。こうした発言にもかかわらず、SNAIはこの件に関する公式報告書を発表していない。警察ゾーン8からは、州の機関が状況の詳細を担当するとのことだった。当局がフィトの居場所がわからないと認めるまで、これらすべてが混乱に拍車をかけた。当局がフィトの居場所を知らないと認めるまで、混乱は続いた。この事件はダニエル・ノボア共和国大統領が、パスタサとサンタ・エレナに2つの最高警備刑務所を建設すると発表した4日後に発生した。

https://twitter.com/Presidencia_Ec/status/1744902576791847344

 

フィトの脱獄を受け大統領は同日、大統領令第110号を通じ国内全土を対象とした60日間の非常事態宣言(Estado de excepción)を発令した。この期間 国内全土を対象とし国家警察と軍隊による警備が強化される。また市民に対しては23時から翌朝5時の6時間 (治安、救急関係者等一部例外有り) の夜間外出禁止(Toque de queda)を求めている。ノボアが大統領になって初めての非常事態宣言となった。一方前大統領ギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)は非常事態宣言を連発し自身の大統領就任期間には22回も発令された。

 

ノボアによる非常事態宣言に端を発するようにエクアドルでは様々な事件が発生している。夜間外出禁止令にもかかわらず、国内の5つの都市で暴力行為が記録された。大統領は同国北部で政府に対する「テロ行為」があったことを告発している。彼によると犯罪組織は国家に宣戦布告している。エクアドルの暴力の危機は火曜日にエスカレートし、大統領は「国内武力紛争(conflicto armado interno)」の存在を宣言するという前例のない決断を下した。武力紛争宣言の中でロス・チョネロを含む22の犯罪組織をテロリストグループとして指定している。指摘されたのは具体的に次のとおり:

Águilas、 ÁguilasKiller、 Ak47、 Caballeros Oscuros、 ChoneKiller、 Choneros、 Covicheros、 Cuartel de las Feas、Cubanos、 Fatales、 Gánster、 Kater Piler、 Lagartos、 Latin Kings、 Lobos、 Los p.27、 Los Tiburones、 Mafia 18、 Mafia Trébol、 Patrones、 R7、 Tiguerones.

 

ノボアは軍隊に通りの秩序を回復するよう命じるとともに「テロリストと交渉するつもりはない」と、月曜日に語っている。「これらの麻薬テロ集団は我々を威嚇し、我々が彼らの要求に屈すると信じようとしている。私は軍と警察の指揮官に対し、刑務所の管理に介入するよう明確かつ的確な命令を下した」と彼は続けた。エクアドル軍統合司令部長のハイメ・ヴェラ・エラソ(Jaime Vela Erazo)によると、ノボアの法令で言及されたすべてのグループは、現在「軍事目標」とみなされている。

 

非常事態宣言後、何が起きたのか

1月8日の夜、警察官3人がマチャラで、1人がキトで誘拐された。首都で誘拐された警察官は、武装した3人組に脅されて発砲するビデオの被写体となったが、警察官の容態は不明である。

キトの中心部、エル・トレボル地区の歩道橋では、爆発物の存在が確認されるとともに同爆発物の爆発が構造物を損壊した。キト南部では、ガソリンスタンド付近でガスボンベを積んだ車が発見され、専門チームが緊急事態を収拾した。エスメラルダ、ロハ、キト、グアヤキルで自動車爆弾や車両焼却、クエンカでは、イヴァン・サキセラ(Iván Saquicela)国立裁判所長官の自宅前で爆発物が爆発した。サキセラ長官はInfobaeの取材に対し、この事件が直接の脅迫か偶然の一致かはまだわからないと述べた。しかし、同大臣はモニカ・パレンシア内務大臣にこの事件を報告したと述べた。

9日火曜日の朝には、エクアドル沿岸部のケベドの道路でパトカーが爆発した。この襲撃事件は、ロス・チョネロスのリーダーである通称フィトの逃亡を受け、ダニエル・ノボア政権が発令した非常事態と外出禁止令に対する組織犯罪の反応であったと言われている。

犯罪組織のメンバーは、夜道で見かけた軍や警察官を殺すと脅しているし、キトの南216キロに位置するリオバンバでは、同市の刑務所から39人の受刑者が脱走した。その中にはディアナ・サラサル(Diana Salazar)検事総長を暗殺しようとしたとして告発されたファブリシオ・コロン・ピコ(Fabricio Colón Pico)も含まれていた、と同市のジョン・ビヌエサ(John Vinueza)市長は述べている。コロン・ピコ、通称エル・サルバヘ(El Salvaje)には長い犯罪歴があり、1月5日に捕まった。彼はロス・ロボス(Los Lobos)の首謀者の一人であり、ロス・ロボスもまた国内で最も凶暴な犯罪グループである。

同時に、エクアドルの刑務所は囚人たちによって占拠され続けている。刑務所局によると、ロハ、エル・オロ、チンボラソ、コトパクシ、アズアイの刑務所で100人近い刑務官が拘束されているという。この日の暴力の結果、教育省は1月12日金曜日まで授業を停止した。

アスアイでは、ロス・ロボスが管理するトゥリ刑務所から、囚人たちが大統領にメッセージを送られた。「あなたがエクアドルで自由を奪われた人々の命を気にかけていないように、私たちもあなたの役人である刑務官や警察の命など気にかけていない。あなたの非常事態宣言は、私たちを脅かすものではない。我々はすでに死んでいる」と、フードをかぶった男がビデオの中で語ってる。犯人は市民に、夜間は外出しないよう「勧告」している。また、警察と軍に対しては「エクアドルの歴史上かつてない結末に直面するだろう」とも語った。同じ録音で、フードをかぶったと思われるガイドがノボア大統領に「私たちは無実だ」と命を守るよう求めている。

もちろん軍や警察もやられてばかりではない。キトのサン・マルティン地域警察部隊の裏手にスーツケースを放置、火をつけたとされる犯人を警察は捕らえたと報告している。捜索の結果、警察は銃器1丁、爆発物16本、電話機2台を押収した。

市民プラットフォームSOS CárcelesはX(旧Twitter)で、1月5日のコロン・ピコの逮捕と別名フィトの逃亡が「ダニエル・ノボア政府とロス・チョネロスの同盟」を示しているため、メガギャング、ロス・ロボスが街頭と刑務所での蜂起を発表したと報告している。同様に、SOS Cárcelesは、「エクアドル・シエラのすべての刑務所で鎮圧された刑務所ガイドは、組織犯罪グループ ロス・ロボスの力とダニエル・ノボア政権の即興性を示している。大統領はフィトと手を結んでいるため、これは戦争の始まりである、とプラットフォームは指摘する。これについて今のところ、大統領府は何の声明も出していない。

犯罪グループはさらにグアヤキルのTCチャンネル生放送中のテレビ局に押し入った。現地時間午後2時に放送された映像では、ほとんどがフードをかぶっている犯人は爆発物のようなものを持っており、従業員に床に伏せるよう強要している。叫び声や銃声のような音が背後から聞こえる。また、ある司会者は警察に現場から立ち去るよう要請せざるを得なかった。

ジャーナリストのホセ・ルイス・カルデロン(José Luis Calderón)は銃を向けられ、ダイナマイトをスーツの上着のポケットに入れられた。ジャーナリストはひざまずき、危害を加えないでくれと懇願した。この事件を受けて、エクアドル警察の専門部隊が施設に到着、関係者13人を逮捕するとともに、被害者を避難させることに成功した。

セサル・サパタ総司令官によると「われわれが介入し、まず外周を固め、テレビ局の従業員全員を排除し、それから戦術部隊が突入した」。逮捕された者たちについては、「所轄官庁に引き渡され、テロ行為に関する報告がなされる」と述べた。今のところ当局は、テレビ番組を占拠したものたちはロス・ティゲロネスに関連している可能性があると考えている。今回の作戦では、銃器、手榴弾、爆発物、車両2台が押収された。

https://twitter.com/Presidencia_Ec/status/1744912546258137551

 

フィトという人物

フィトは組織犯罪、麻薬密売、殺人の罪で34年の実刑判決を受けている。2011年に有罪判決を受け、2023年8月に大統領候補フェルナンド・ビジャビセンシオが暗殺された後、グアヤキルのラ・ロカと呼ばれる刑務所に移送、その後まもなくグアヤキル刑務所に戻された。

通称フィトは、2020年に亡くなるまでギャングのリーダーだったホセ・ルイス・サンブラノ、通称ラスキーニャの右腕だった。ふたりは以前一緒に収監されており、2013年にラ・ロカ刑務所から脱獄した。その2ヵ月後に彼らは再び捕まり、収監された。フィトと通称ジュニオールは、ラスキーニャ殺害とともにロス・チョネロスの責任者となった。2021年の警察情報報告書によれば、フィトとジュニオールは、犯罪指導者の移送を囚人たちに知らせた張本人である。これによって刑務所内での攻撃、復讐、虐殺が始まった(詳細はこちら)。

同年11月、フィトの娘がマンタで誘拐された。彼女ともう一人の若い女性は100時間拘束されたが犯罪の首謀者は通称「ゴヨ」は2022年、サント・ドミンゴ刑務所で殺された12人の受刑者の一人となったった。他の男たちに殺され、心臓をえぐり取ら殺されている。

 

エクアドルの治安と刑務所の危機

エクアドルが南米のコカインルートの要衝となって以来、治安と刑務所の危機に対処するため、エクアドルの歴代政権も非常事態を宣言してきた。人口10万人当たりの殺人発生率は過去7年間で300%以上増加し、昨年8月には選挙前にフェルナンド・ビジャビセンシオが暗殺されるなど、著名な政治家や候補者が何人も殺害されている。2021年以降、エクアドルの刑務所では、敵対するギャング同士の衝突により400人以上の死者が報告されている。

ノボアの安全保障計画には、新たな諜報部隊、法執行機関と治安部隊のための戦術兵器、危険な囚人を一時的に刑務所船に閉じ込める計画が含まれている。ノボアは、当局の承認待ちの国民投票を提案し、より厳しい措置に対する国民の支持を求めている。

月曜の非常事態宣言に先立ち、フィトの奪還を図るため、警察と軍隊の両方から少なくとも3,000人の軍隊が動員されることが発表されている。

なお、武装集団が利用している武器がペルー国軍のものも含まれる問いことから、ペルーにおいてもテンションが高くなっている。

 

#フィト #エクアドル国内武力紛争

 

参考資料:

1. Se fuga de la cárcel Fito, el criminal más peligroso de Ecuador
2. Autoridades reconocen que no saben cuál es el paradero de alias ‘Fito’ 
3. Quito vivió una noche con secuestros, explosivos y coches bomba
4. Otra noche de terror en Ecuador: coches bomba, policías secuestrados y amenazas al presidente desde las prisiones
5. Un grupo armado interrumpe una transmisión en vivo de un canal de TV en Ecuador en una jornada de violencia en todo el país que lleva a anunciar el estado de “conflicto interno”
6. 3 claves que explican el “conflicto armado interno” declarado en Ecuador tras varias jornadas de violencia

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