ハイチの首都ポルトープランスとその周辺で、犯罪グループによる殺害、誘拐、性的暴力が2023年に入ってから劇的に増加している。国連ハイチ特使のマリア・イザベル・サルバドール(María Isabel Salvador)は4月、ニューヨークを訪れ、ハイチの現状を報告した。それによると「2023年第1四半期の誘拐件数は、2022年の最後の3ヶ月と比較して63%増加した」。国連人権高等弁務官事務所のラヴィナ・シャムダサニ(Ravina Shamdasani)報道官も8月15日の時点で、少なくとも2,439人が死亡、902人が負傷したと述べた。また彼らの推定によると1,000人以上が誘拐された。性的暴力も顕著でヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)は、11人の子どもと12人の女性を含む67件の殺人と、20件以上のレイプ事件(その多くは複数の犯罪者による集団レイプ)を記録している。同高等弁務官によると4月24日以降 350人以上がリンチされており、その中にはギャングメンバーや事件の目撃者、警官も含まれる。暴力と国家の無策に対して、一部のハイチ市民は「民衆の正義(justiça popular)」の名の下でブワ・カレ運動(movimento Bwa Kale)を結成、6月までに、自衛グループは警察と共謀することで全国で200人以上の犯罪グループの容疑者を殺害している。
オーストリアの弁護士であり国連人権高等弁務官を務めるフォルカー・テュルク(Volker Türk)はカリブ海諸国における複雑な暴力状況に対処するため、多国籍軍を派遣する必要性を強調した。「ハイチ国民の人権は守られ、その苦しみは軽減されなければならない」と付け加えた同高等弁務官の発言は、アントニオ・グテーレス国連事務総長が今週、ハイチでの暴力に対処するよう再度国際社会に呼びかけた後のことだ。グテーレスは上述の通り4月にも非常事態に陥っているハイチでの暴力の激化を食い止めるため、国際的な行動を呼びかけているが全くと言っていいほど進捗はない。国連は言葉だけであり、国際社会を本当に動かす力、意思があるのかとすら感じずにはいられない状況だ。
ハイチは長年にわたり、深刻な経済・治安・政治危機に陥っている。2016年以来選挙が行われていない同国は、ギャングが首都ポルトープランスの80%を支配しているため、深刻な人道的、経済的、政治的危機に見舞われている。緊急事態の引き金となったのは、2021年7月に当時の大統領ジョベネル・モイーズ(Jovenel Moïse)が私邸で暗殺された事件だ(詳細はこちら)。アリエル・アンリ(Ariel Henry)首相兼国家元首による現在の暫定政権は民衆から信頼も支持も得ておらず、民主的移行を可能にするためにハイチの政治関係者や市民社会の代表とのコンセンサスも得ていない。そもそも民衆からの支持を欠いている状態だ。抗議行動も日常茶飯事となっている。ハイチ当局によれば、7つの主要ギャングが権力の空白を利用している。
メディアによるインタビューに応じたハイチの市民社会代表や虐待被害者のほぼ全員が、状況は急激に悪化しており、安全保障を含む国際的な対応が必要だと述べた。その多くは、過去の国際的介入の結果生じた深刻な虐待を防ぐための十分なセーフガードを用いて、今すぐさらなる被害と虐待を防ぐ必要性を強調した。一方国連事務総長のグテーレスも「軍事的手段によって支援され、国家警察と連携した、特殊で有能な多国籍警察による、一連の非キネティックな手段によって補完された、武力行使をしない限り、これらの目的を達成することはできない」と8月22日に述べている。
ハイチ市民社会の代表者たちは犯罪集団とのつながりが疑われる非合法で腐敗した政府を率いるアンリ首相への支援を、他の国々はやめるべきだと考えている。そもそもこうした暴力の背景には米国フロリダ州から継続的にハイチ渡る武器弾薬の流入がある。非合法組織の多くは、政治、経済、警察の高官とつながりがあると言われている。その上2023年初頭以来、殺人、誘拐、性的暴力の責任者やその支持者に対する刑事訴追や有罪判決は出ていない。
首都ポルトープランスとその首都圏では、約150の犯罪グループが活動しており、その多くは、G-Pèp連合とG9連合という2つの主要犯罪連合に属している。 酷い虐待の多くは、海岸に接する人口密度の高いコミューン、シテ・ソレイユで起こっており、住民たちは、「バーベキュー(Barbecue)」ことジミ・シェリエ(Jimmy Chérizier)率いるG9連合と、そのライバル、ガブリエル・ジャン・ピエル(Gabriel Jean-Pierre)、通称ガブリエル率いるG-Pèp連合との間で長期にわたる抗争を繰り広げている。G-Pèpはブルックリンと呼ばれる地域を支配し、G9は近隣の行政区を支配し、ブルックリンを乗っ取ろうとしている。
以下地図はハイチ、シテ・ソレイユ・コミューン(ブルックリン地区を含む)、G-PèpとG9犯罪連合が支配する地域を示している(Data© CNIGS, OpenStreetMap. Image © 2023 Maxar Technologies. google earth。Graphics © ヒューマン・ライツ・ウォッチ)
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