エクアドル国会解散:選挙まで残すところあと二週間、現時点での支持率

(Photo:Internet)

“Muerte Cruzada”こと刺し違え(実施日、5月17日)を通じ国会解散をギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)が実行してから早2ヶ月半が経った。それと同時に8月20日の選挙まで残すところ二週間となった。CELAGがまとめた現在の大統領支持率調査によると引き続きコレア路線をたどるルイサ・ゴンサレス(Luisa González)が支持率のトップを独走している。大統領選挙には8人の候補者がいる。日本国内の専門家においては、社会キリスト教ヤン・トピック(Jan Topic)の可能性について言及するものもいるようだが、過去調査結果においても現時点においてもその可能性は見えてこない。もちろん選挙は最終最後まで何が起こるかわからないが、いずれにしても現時点では「どの」調査を見てもその傾向が見えず、平均支持率も7.4%であることは表をご覧の通りだ。

7月20日のCELAG発表によるとエクアドルにおける政治的無関心は強く、確固とした政党支持はない。しかし元大統領ラファエル・コレア(Rafael Correa)に対する評価は二分されていることも確かであり、前回の大統領選挙においてもそれは明確だった。今回選挙ではルイサ・ゴンサレスがコレア主義の公認候補として決定する前、つまり誰が大統領候補になるかわからない時点においてもコレアの後継者を支持するものは多くその数は32ポイントとなっていた(詳細はこちら)。

 

ルイサを追う先住民・環境保護主義者のリーダーであるヤク・ペレス(Yaku Pérez)、前議会議員のフェルナンド・ビジャビセンシオ(Fernando Villavicencio)、前大統領候補のハビエル・エルバス(Xavier Hervas)はルイサが出馬する市民革命(Revolución Ciudadana)とは距離を置いている。

エクアドルの大統領は第1回投票、もしくは決選投票となる第2回目投票で決定される。1回で大統領が決まる条件としては最も得票の多い候補者が40%以上の支持を得、かつ、次点候補者との差が10ポイント以上あることだ。なおこの国における投票は義務となっている。

今回の選挙戦では深刻な治安問題も争点となる。比較的平和だった同国はわずか6年間で、死者の数は5倍に増えており、また、政治家も某領の対象となっている。

2022年7月17日夜、エスメラルダス州議会議員候補のリデル・サンチェス(Rider Sánchez)は首都の北西210キロに位置するラ・ウニオンで殺し屋に暗殺された。警察の発表によるとサンチェスは3発撃たれ、うち1発は頭を撃たれ、病院に運ばれたが重傷を負った。重傷を負ったサンチェスは、サントス・ドミンゴ・デ・ロス・ツァチラの保健センターに搬送されたが、午前0時過ぎに死亡が確認された。前回の統一地方選挙で、サンチェスはCREOの県知事候補であり、現在は大統領候補オット・ソンネンホルツナ(Otto Sonnenholzer)とともに8-23同盟の下院議員の座を狙っていた。ソンネンホルツナは自身のツイッターで殺人事件を否定し、非行や犯罪は「私たちを脅かすものではなく、一歩も引かず、この疫病に終止符を打ち、エスメラルダスと国全体に平和を取り戻す」と述べた。

7月24日にはマンタ市長で38歳のアグスティン・イントリアゴ(Agustín Intriago)が殺害された。なおマンタ市長の応援に向かったサッカー選手アリアナ・チャンカイ(Ariana Chancay)もまた同時に殺害されている。全国選挙評議会によると、8人の大統領候補のうち6人が警察の警備を受けている。ソンネンホルツナとノボアはそれを受け入れていない。

なお昨年2月の統一地方選挙前には、2件の事件が記録されており41歳のオマル・メンデス(Omar Menéndez)は2月5日、マナビ県プエルト・ロペス市長選に勝利したものの、投票数時間前、メネンデスと市民革命チームが当日の投票の最終準備をしていた部屋に武装した男たちが乱入し、銃殺された。16歳の少年も殺害され、他に2人が負傷した。一方、1月には、サンタ・エレナのサリナス市長候補だったフリオ・セサル・ファラキオ(Julio César Farachio)が、ホセ・ルイス・タマヨ・ムエイ(José Luis Tamayo Muey)の教区で支持者と遊説中に殺害された。

2022年12月20日にもハビエル・ピンカイが遊説中に数発撃たれて重傷を負った。手術の甲斐あり生き延びたピンカイは後にポルトビエホ市長に就任することができた。その後2023年1月25日、選挙本部の外で爆発物が爆発し、4人が負傷するなど暴力が続いている。

 

治安専門プラットフォーム「Insight Crime」によると、エクアドルとコロンビアの国境にあるエスメラルダスはラテンアメリカで最も暴力的な地域のひとつである。人口10万人当たりの殺人発生率はメキシコのコリマ州とベネズエラの首都圏に次ぐ危険度である。同プラットフォームによると、ラテンアメリカの都市や州では、組織犯罪マフィア間の争いが殺人率を高めている。不名誉にも地域別第3位となったエスメラルダスではコカイン密売による殺人件数が500%増加した。2022年までに、同州の殺人発生率は1年で倍増し、人口10万人当たり81人となり、全国平均の22人を大きく上回った。

「この暴力の多くは、急成長するコカイン取引と、エクアドルがヨーロッパへの麻薬の出口として便利な場所に位置していることに関連している」とInsight Crimeは指摘し、「この国を流れるコカインの量が増加するにつれて殺人も増加している」と述べている。なお2022年だけでも、エクアドルは201トンの麻薬を押収しており、これは例年に比べて2倍以上の押収量である。Insight Crimeによると、ロス・ティゲロネス(Los Tiguerones)はエスメラルダスで活動する犯罪組織で、4,000人から5,000人のメンバーがいる。このギャングは、メキシコのハリスコ・ヌエバ・ジェネラシオン・カルテルに連なるロス・ロボス(Los Lobos)と同盟を結んでいる。

 

弁護士であり、元議会議員で、ラファエル・コレア政権で信頼されていたルイサ・ゴンサレスは第1回投票で大統領に就任する可能性が高くなっている。そしてコレアたちは第1回投票での勝ち抜けを目指している。前回選挙においてアンドレス・アラウス(Andrés Arauz Galarza)が有効投票の33%を獲得したものの、決選投票でコレア主義に反対するものたちの支持が固まったことでギジェルモ・ラッソに敗退したことによる。ちなみに2017年選挙におけるレニン・モレノ(Lenín Boltaire Moreno Garcés)は39.4%を獲得、決選投票で勝ち残った。

次点につけるヤク・ペレスはエクアドル先住民族連合(Confederación de Nacionalidades Indígenas del Ecuador:CONAIE)からの支援を受けずに選挙に臨む。CELAGによると彼は、グスタボ・ラレア(Gustavo Larrea)のような政治資金に乏しい古い中道左派の政治家からの支持を得ている。この先住民運動との亀裂は、アメリカとの自由貿易協定、国家規制のない環境保護主義、国のためのプロジェクトのイデオロギー的内容を空っぽにすることに賛成であることを示したペレスのイデオロギー的転換を強固なものにする。彼の平和主義的なイメージとは裏腹に、この国の治安の悪化は、この2023年の選挙戦のために「強い手」のイメージを構築することを余儀なくさせた。世論調査によれば、2021年にCONAIEとPachakutikの支援を受け、有効投票の19%を獲得した時のような支持を集めるのは難しい。

レニン・モレノ政権の不信任にもかかわらず、肯定的なイメージを維持しているオット・ソンネンホルツナは、保守右派ブロックの中で際立っている。エクアドル右派が非常に分断されたシナリオの中で、オットはキリスト教社会党(Partido Social Cristiano:PSC)のヤン・トピック、エルバス、ビジャビセンシオといった他の候補者の分散した票をまとめようとしている。未決票が多いことから、有用な票が活性化し、結果的にオット・ソンネンホルツナに有利に働く可能性もある。

メディアはコレア主義を弱体化させることを目的に攻撃し続けているという。上述の通り反コレア主義が2021年のように再び活発化するのか、それとも逆に寛解期に入ったのかにより選挙は左右されることも容易に想定できる。

https://twitter.com/vilmavargasva/status/1682535275275141121

 

8月20日(日)の投票には1,340万人の有権者が投票に行く。共和国大統領と副大統領、137人の国民議会議員を選出するためだ。選出された議員たちの任期は、2025年の任期満了までである。

ヤク・ペレス候補、ヤン・トピック候補、オット・ソンネンホルツナ候補はアグスティン・イントリアゴ(Agustín Intriago)の暗殺を受け、選挙キャンペーンを一時中断していた。ペレスは、政府のリーダーシップの欠如を指摘し、国は喪に服していると述べた。「民主主義に銃弾が撃ち込まれた。これは、1,800万人のエクアドル国民の運命を導くリーダーシップの欠如によるものだ。このような状況下で、私は選挙キャンペーンを一時中断することを決定し、残りの候補者に呼びかける」と述べていた。

暴力は物理的なものとしてもあるが、Latinobarómetroによると、エクアドルの民主主義に対するものもありその不満は、2017年から2020年の間に48.4%から90%に上昇している。

 

今回のMuerte cruzadaに関する別記事はこちらから。

 

参考資料:

1. Asesinaron a un candidato a asambleísta en Ecuador
2. El asesinato de Agustín Intriago, el alcalde “incorruptible”
3. A un mes de las elecciones presidenciales en Ecuador

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