エクアドル:ムーディーズ、自然保護債務スワップ発行はデフォルトと等しいと評価

5月16日、米格付け会社ムーディーズ(Moody’s)はエクアドルが政策として降り出した環境債権スワップを理由に、同国をデフォルト相当と評価した。彼らの目には「自然に対する債務」が「ディストレスト債務(※)」の交換に写ったことによる。この評価はマンリケ外相が世界最大のスワップを成立させ、世界で最も貴重な生態系のひとつであるガラパゴス諸島の保護に努めるとと自信を持って発信している内容と温度感の違いが見て取れる(詳細はこちら)。

デフォルトという言葉に敏感に反応し、途端に国家破綻、治安悪化、XX政権のせいなどと言い出すものもいる。「デフォルト」という言葉がセンセーショナルに伝えられやすいことも事実だ。しかし、デフォルトとは元来「履行遅延」「履行不能」「不完全履行」のいずれかのことを言うものであり、すぐに財政破綻と結びつくものではない。そもそも、2023年米国においても債務上限引き上げ問題の解決に糸口が見えず、6月に「Xデー」が来るのではないかと囁かれている。米国がデフォルトしたら、米国は滅びるのだろうか。世界はおかしくなるのだろうか。もちろん格付け会社による評価と、ここで言うデフォルトの意味合いに差はある。

借金は遅延なく返せることにこしたことはない。もちろんデフォルトは投資家にとっては悩みの種である。しかしデフォルトにおいては必ずしも対象国の事由でなく発生することもあろうし、COVID-19のパンデミック期間中はいくつもの国がモラトリアムを要求していた。例えば中南米において言えばエクアドルで、アルゼンチン、スリナム、ベリーズが挙げられる。これに対しIMFなどは追加融資を提案するなど行った。危機管理ができていないが故に支払い遅延を起こしたと言うのは簡単ではあるが、どこまでのリスクを見込むのかと言う問題もある。エクアドルの財政状況が優等生とここで言うつもりは全くない。しかしながら、自らの大統領時代(現在も大統領ではあるが)を振り返り5月24日に報告したギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)共和国大統領によると、財政赤字は75億米ドルから20億米ドル未満に減らし、公的債務も3年前と比べ12%も削減されている。

そもそも今回発表された環境債権スワップは突如浮上してきたものではない。国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)でエクアドルが満を持して発表した世界のためのガラパゴス保護区の拡大と引き換えに提供されるものである(詳細はこちら)。還元すればブルーボンド(海洋保全や持続可能な漁業支援等に使途を定めた債権)である。ちなみに米国は同スワップ取引をすでに6億5600万ドル分行っている。

 

ムーディーズは今年2月、エクアドルの格付けを投機的等級の「Caa3」で据え置き、見通しを「stable」としていた。5月16日になると同社はエクアドルをデフォルト相当と評価した。では他の格付け会社からはどのように扱われているのだろうか。S&P(スタンダード・アンド・プアーズ)はエクアドルを2022年8月19日に「B-(stable)」、今年5月23日にFitch Ratings(フィッチ・レーティングス)は「B-(negative)」とした。なおS&Pはパンデミック期間中の2020年4月13日、同国を「SD(選択的デフォルト)」と評価していた。

ちなみにS&P評価における「B」は「債務者は現時点ではその金融債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた債務者よりも脆弱である。事業環境、金融情勢、または経済状況が悪化した場合には、債務を履行する能力や意思が損なわれやすい」を意味する。

 

BBCが経済学者に調査した内容によると債務不履行の最初の記録は紀元前377年のギリシャで起きた。この債務危機のほとんどは、インフレと通貨切り下げによって解決された。また、デフォルトを、政情不安、戦争や革命、あるいは投機的な融資の増加による安価な信用の波によって引き起こされる対外債務危機と考えるならば、歴史上最悪の債務国はスペインで、金融公約に関連する危機が14回も発生しているという(2015年時点)。16世紀(またはその独立)以降のデフォルト回数を調査しているハーバード大学のケネス・ロゴフ(Kenneth Rogoff)とカルメン・ラインハート(Carmen Reinhart)、そしてブエノスアイレスのサン・アンドレス大学の経済学者ミゲル・アンヘル・ボッジャーノ(Miguel Ángel Boggiano)などの研究者によるとデフォルト回数はベネズエラとエクアドルが11件、ブラジル10件、コスタリカ、メキシコ、ペルー、チリが各々9件で良い印象のないアルゼンチンは8件、ギリシャは6件となっている。

16世紀からの実績でトップ、ここ10年に2回の債務不履行を経験という観点からエクアドルを信用しづらいということに異論はない。しかし、そのようなことを騒ぎ立てるより、新たな取り組みに目を向けたり、拝金主義から脱却したり、微々たるものとは言え協力するなど、持続的社会形成に向けた議論をした方が有益ではなかろうか。

 

※経営破たんや経営不振による財務危機で行き詰っている国や企業に対する債権をいう。

 

参考資料:

1. Los países que más “defaults” han tenido en la historia (y no son Grecia ni Argentina)
2. エクアドル自然保護債務スワップ、デフォルト相当=ムーディーズ

3 Comments

  • miyachan 06/16/2023 at 01:33

    個人の間でも借金を踏み倒されたら、そいつには2度と金を貸さない。日本だと国が保証している国債などはデフォルトは考えにくいが、アルゼンチンでは政府国債がデフォルトで債券が紙屑に。自然に役立っているお金なら、贈与だと思って諦めもつくかもしてない。米国やIMFは、借金を返さないと内政干渉をし、さらに海兵隊を派遣した。債権者はかつての日本のヤクザのような怖い存在でした。エクアドルの債権者(中国政府など)は借金の方に何か要求しないのでしょうか?それとも「もう一元も貸さない、絶交だ」と言っているのでしょうか?
    ・・・先週からの疑問でした。

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    • MARINA 06/16/2023 at 08:04

      まず、ブルーボンドについて。個人的見解は借金踏み倒し手段ではなく、自然への投資に該当する、です。社会・経済活動は環境が正常であるからこそ行われています。

      (国への)融資については慈善事業ではありません。それはODAなども然りです。見返りがあるから投資するのです。
      リスクに対する許容度はそれぞれであり、リスクをどう見るかについてもそれぞれです。また、COVID-19パンデミックのように予兆なく発生する災害もあります。

      企業、国もそうですが一度デフォルト(債務不履行)になったり、経営破綻したら全く融資を受けられなくなるのでしょうか。そうではありません。事実過去過去10回以上デフォルトを経験しているエクアドルは、それでも融資を受けることができています。政府も投資家に対しても積極的な投資を呼びかけています。

      担保は中国のみならず「もちろん」とっています。そのため中国のみならず国際機関への非難は頻繁に発生しています。

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  • miyachan 06/17/2023 at 19:32

    REPLYありがとうございます。
    私は自然保護債務について、またエクアドルの国家債務についても、基本的な理解に欠けているようです。ガラパゴスの自然保護に何故そんな大金が必要なのかも。観光客を受け入れつつ、自然保護をする為かな?(その場合相応の観光収入もある?)
     海外で長年ご活躍の友人ですが、アルゼンチン国債を30年以上前に買ったそうです。実際の購入額は聞かなかったけど、例えば、当時の100万円の価値があったものが今は20万円位の額面になっているとか。10年償還のはずが延長、延長、割引の連続で、途中払われるべき利息も元本繰入等で、これまでほとんど受け取っていない、と言っていました。デフフォルトもいろいろあり、政府補償も国により色々、担保契約も内容に千差、とかく金融の世界は難しいですね。

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