エクアドルのルイス・ララ(Luis Lara)国防相は記者会見で、民間人の銃器自由携帯を否定した。ララはエクアドルのメディアに対し、「国土全域での武器の自由な携帯について、多くの憶測が飛び交っているが、これは法律でも政令でも、今日署名された閣僚協定でも想定されていない」と述べている。
ララが言う「憶測」は4月初旬にギジェルモ・ラッソ(Guillermo Lasso)大統領が行政令707号の発布を発言をした後に出てきたものだ。ラッソは公共放送の中で、国内の深刻な治安状況に対処するための措置として民間人に自衛のための武器の携帯・所持の許可証を取得することを許可した。ラッソは4月2日のコミュニケで「我々は、武器の所持と携帯を許可する政令を修正した。つまり、一般論として(…)、法律と規則に定められた要件に従って、個人防衛のための民間用銃器の所持と携帯が許可される」と述べ、個人防衛のための民間武器の所持・携帯を許可すると発表した。ララは「エクアドル国民の安心のために、私は銃器の携帯と所持を厳格な要件で規制し、その使用によって他の人々の安全を損なうことなく、要件を満たす人々の生命と家族を守ることを認める」と宣言している。
この政策は、次の3つのセクターの要求を満たすものだ。民間警備会社はこれで武装した警備員によるサービスを提供することができるようになる。農産業や牧畜業では、牛の盗難を防ぐために、自由に武器を携帯することを認めてほしいという要望があり、また、金融分野では、銀行強盗が頻発し始めているため、資産を守るための保証の充実を求めていた。
A los policías del Ecuador: actúen con firmeza. El arma de dotación es para usarla contra los delincuentes. pic.twitter.com/bgcrYo41WY
— Guillermo Lasso (@LassoGuillermo) April 14, 2023
しかし民間人における銃の所有自体、エクアドル社会の大部分から拒否されている。「市民が武装すれば、本当に治安が良くなるのか」という古くからの疑問をめぐる議論が巻き起こっている。エクアドルでは、武器の携帯が法律で定められているが、ラファエル・コレア大統領時代の2009年には、銃の所持が一定の条件の下で停止されていた。
エクアドル中央大学で秩序、紛争、暴力に関する研究プログラムのディレクターを務めるルイス・コルドバ・アラルコン(Luis Córdova-Alarcón)はBBC Mundoのインタビューに応じラッソ政権によるこの改正を「これはタリオンの法則とアメリカの西部開拓時代に逆戻りすることを意味する」と語り、社会的に一歩後退した措置だと思うと述べた。彼は安全保障の可能性は、武器や技術、軍備の蓄積からではなく、社会的関係における対立を解決することから生まれると話を続けた。アラルコンは組織犯罪への対抗に経済分析部門への予算を増やし、強化させる必要があると述べる。麻薬密売組織や違法伐採、武器や人身売買などで生み出された汚いお金が、エクアドルの金融システムで液状化したり、正規のビジネスシステムに染み込んだりしてしまったら、どうやって組織犯罪と闘っていけばいいのか、と疑問を投げる。また、アラルコンは今回の決定は同国における武器売買の増加につながると言い、エル・サルバドル大統領ナイブ・ブケレ(Nayib Armando Bukele Ortez)が就任するずっと前に同国が世界的に有名な麻薬戦争を開始し、マラスを徹底的に武装させることにつながったと言うことをも想起した。メキシコでも、フェリペ・カルデロン(Felipe de Jesús Calderón Hinojosa)が麻薬との戦いで、防衛や自衛のための武器所持を自由化しました結果、麻薬密売人と肩を並べて闘う自衛軍や準軍事組織が形成され暴力的になった。麻薬戦争で多くの人間の命が奪われた一方、その暴力は今も病んでいない。
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— Vilmatraca (@vilmavargasva) April 13, 2023
エクアドルにおける民間人による武器の携帯には、規制がなされている。これによると25歳以上であること、武器携帯の必要性を記した要請書の提出、毒物検査証明書、心理学的証明書、そして犯罪歴がないことの証明書が必要だ。この内容には家庭内暴力に関する苦情や法的手続きなども含まれている。もちろん銃器を使用するための知識を証明する認定証も必要である。しかし、エクアドル国家には登録、管理、証明書の付与の能力が不足しているため、許可証による管理は、政策の成功を保証するものではないとも言われている。2012年には、銃器による殺人事件が845件登録されましたが、銃の規制下にあるにもかかわらず2021年のそれは1,007件もあった。
国際社会においても共有されていることとして暴力を減らすには、犯罪的暴力だけでなく、社会的・構造的暴力についても考えなければならないと言うことだ。社会全体が適切な生計維持のための条件を備えていなければ、安全でいられない。このような観点から、武器は暴力に対する認識を高めるものであり、犯罪の問題を解決するものではないと考える必要がある。
なおエクアドルで合法・非合法の武器を手に入れることができるのは、裕福な社会層の人たちだ。600万人以上の人々が日々の生活に必要な3米ドルさえ持っておらず、経済活動をしている人口の40%に雇用がなく、18歳から24歳までの80万人以上の若者が勉強も仕事もしていないこの社会で、彼らが自分を守るために銃を手に入れようとするふりは、現実を否定するものでもある。つまりラッソたちのこの手の暴力を助長するような政策はエリート主義的、階級主義的な見方でもある。事実2010年以前、9ミリ拳銃が1,300ドル程度だったのが、今では闇市場で4,000ドル程度になることもある。しかも、その多くは中古の武器だ。弾薬の購入が困難だが合法的に所持していた人もその売価故、転売してしまう。昔は弾薬1箱が10ドル程度だったが、今は120ドルから130ドル程度となっている。
米国における銃を通じた犯罪は誰もが知るところだ。それは組織犯罪のみならず、民間個人による差別主義などそのニュースを頻繁に目にする。ブラジルのジャイル・ボルソナロ前大統領は、同国における過去2年間の殺人事件の減少を、自分の政権時代に市民が銃にアクセスできるようになったからだ...と主張するものの、農工業地帯であるアマゾンベルトでの殺人事件の増加はひたかくす。かつてないほど、社会指導者や農民の殺人が、アマゾンを伐採してモノカルチャーを開発し続けようとする農産物の利益によって生み出されている。そして、石油メジャーが雇ったヒットマンは、今年2月エクアドルでも熱帯雨林に住むコファン民族リーダー エドゥアルド・メンドゥア(Eduardo Mendúa)の体に12発もの弾丸を打ち込み銃殺している(詳細はこちら)。
#PorteDeArmas #BaLasso #Vilmatraca #Ecuador pic.twitter.com/GswwipoSe8
— Vilmatraca (@vilmavargasva) April 2, 2023
アラルコンは国際的な経験から、治安の良さと武器所持の自由度の高さの関係について語っており、銃の所持率が高ければ高いほど、対人暴力や殺人の割合が高くなるというのが、圧倒的な指標と述べた。
ラッソが2年間の政権運営で既に6回の非常事態宣言を出している。通常、軍が領土に駐留することで2~3週間は暴力行為が減少するが、非常事態が終了し、犯罪集団が軍や警察の活動の論理を解読すると、犯罪は他の地域に分散してしまう。このため、1年前まではグアヤキルでしか見られなかった恐喝などの現象が、キトやイバラ周辺、エスメラルダスやサンロレンソといった犯罪組織にとって実質的に解放された領域である都市で頻発するようになっている。
アラルコンはラッソのこの決定はアメリカ大使館の勧告に従っているのだと思うと述べた。2022年11月、内務省はAFT(米国政府のアルコール・タバコ・火器・爆発物局)と覚書を結び、銃の携帯性をデジタル追跡するeTraceシステムに参入できるようになった。これらの措置は、安全保障に関するアメリカのアドバイスの結果であり、軍備管理を可能にするための保証を与え、エクアドル軍にそのためのリソースを提供している。
ギレルモ・ラッソの法令を受けて、銃の輸入業者は数百件の注文を受けているという。
参考資料:
1. Ecuador descarta el libre porte de armas de fuego para la población civil
2. La polémica por el permiso para portar armas en Ecuador: “Significa volver casi a la ley del talión y al lejano oeste americano”
3. Importar un arma en Ecuador es “prácticamente imposible”
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