ブラジル:クーデターの計画者・実行犯は軍人でも容赦無く裁く

(Photo by @andersongtorres/Twitter

ブラジル連邦最高裁判所(Supremo Tribunal Federal de Brasil:STF)のアレクサンドル・デ・モラエス(Alexandre de Moraes)判事は2月27日月曜日、ルラ(Luiz Inácio “Lula” da Silva)大統領就任後の1月8日に起きたクーデター未遂事件に関与した「民間人と軍人を区別することなく」裁くことを決定した。モラエスは、この事件に対するSTFの「能力」を強調し、連邦警察に対し、軍人が犯した「犯罪の可能性」について捜査を開始する権限を付与した。

 

モラエスは民主主義を脅かす行為において、独自の法理を持つ「正義は軍事機能とは関係ない」と規定する反テロリスト憲章に基づき、判決を正当化した。あわせてクーデター行為に関する捜査を60日間延長し、ソーシャルネットワークを通じてクーデター行為を扇動したとされる「反民主的デジタル民兵」に対する捜査も90日間延長している。今回の決定は連邦警察(Polícia Federal:PF)が「民主的法治の暴力的廃止とクーデター」の犯罪に軍隊と警察のメンバーが参加した疑いがあるとして、STFに捜査権限を要請していたことに基づく。モラエスは判決文において「私は、2023年1月8日に発生した犯罪を、捜査対象が民間人であるか軍人であるかを問わず処理し裁くための連邦最高裁判所の権限を確定し、連邦警察の捜査権を支持し、犯罪・テロ行為で最高潮に達した民主主義に対する攻撃における軍隊および憲兵の関与(犯罪計画や実行)を確かめるための捜査手続きの開始を承認する」と記している。

 

軍法会議ではなくSTFが事件を担当することは、軍内部でも支持されている。三権分立の司令部に対する破壊行為や侵略行為に関与した軍隊は、民間人として対処すべきだというのが陸軍の評価であるからだ。モラエスも「軍事刑法は軍人の人物を保護するものではなく、むしろ軍隊という制度そのものの尊厳を保護するものである」と認識している。

未来の連邦軍事高等裁判所(Superior Tribunal Militar:STM)長官であるフランシスコ・ホセリ・パレンテ・カメロ(Francisco Joseli Parente Camelo)は今月初め、クーデター(未遂)を実行、計画した軍人がいた場合、軍事裁判所は「あらゆる正義をもって」行動し、犯罪が立証されれば軍人は処罰されると述べている。

テロ行為に関与したものは下記の罪で裁かれることとなる。
 – 脅迫
 – ストーキング
 – 損害賠償
 – 煽動罪
 – 放火
 – 武装犯罪組織の結社
 – 民主的な法治国家を暴力的に廃止しようとしたこと
 – クーデター

 

司法長官事務所(Procuradoria-Geral da República:PGR)はSTFが元司法大臣で連邦管区の元公安長官であるアンダソン・トレス(Anderson Torres)の勾留期限を延期させることを表明している。PGRはトレスについて次のように語っている。「1月8日に事件が発生することを知りながら(米国に向けて)出国しており、自らが監督する構造物に対する警備の指揮・調整から意図的に離れた疑いがある。このことは、問題の事実が悲劇的に展開するための優位な要因として浮かび上がるもの」であり、コンプライアンスにも抵触する。

ボルソナロ前大統領の下で法務大臣を務めたトレスは、フロリダからブラジリアに到着した後、1月14日、連邦警察によって逮捕されている。一方トレスの弁護側はSTFに対し予防拘禁を取り消すよう要請していた。しかしモラエスは、三権分立に対する破壊行為にトレスが関与した証拠があるとして、逮捕を命じている。トレスは当時、連邦管区の公安長官であったものの、議会、最高裁判所、プラナルト宮殿の建物が荒らされたとき、米国にいた。前大臣はデモをコントロールするための行動計画は自分の責任ではないと述べ、休暇を過ごした米国で携帯電話を紛失したと主張している。なお、トレスの自宅ではクーデター計画の議事録も発見されている。

 

トレスはPFに対しクーデターの草案は「使い捨て」文書であり、「法的に実行可能性がない」と述べている。元大臣の自宅で見つかった草案は2022年の日付で、日・月が空欄、ボルソナロの名前が書かれていたものの署名はなく、正式な政令になることはなかったことによる。またこの文書はトレス自身によって書かれたものではなく、大臣在任中に提案や提案として受け取ったものであるとしている。「このような地位にある者は、何がブラジルに効果的に貢献するかを理解する分別が必要だ」と述べ、廃棄される他の文書の中にこの草案を保管し、時期をみて廃棄するつもりであったとトレスは述べている。しかしPGRは「それは捨てられるような文書ではなく、それどころか連邦政府のフォルダに、家族の写真や宗教画など、特別な独自性を持つ他のアイテムとともに非常によく保管されていた」と述べている。この草案にはボルソナロが敗れた2022年の選挙結果を変更するため、上級選挙裁判所(TSE)に防衛状態を設置する命令が書かれており、この措置は、法律家によって違憲とみなされ、現在クーデターの試みを示すものとして広く非難されている。本件についてボルソナロは言及していない。検察は文書の押収は元大臣が国外にいたからこそ可能だったことを述べている。

モラエスは連邦管区当局の不作為と共謀を示す事実として、不十分な取り締まり、乗員が暴力的で反民主的な行為を行う可能性があることがわかっていたにもかかわらず、バスがブラジリアに自由に入ることを許可したこと、「この場所にテロリストがいることが明らかなのに」市内の軍本部前でのキャンプを終わらせようとしなかったと指摘している。

ボルソナロ政権の終焉とともに、トレスは法務・公安大臣をやめ、連邦管区の公安長官に任命されたが、このポストは1月8日のブラジリアへの侵入事件後、イバネイス・ロシャ(Ibaneis Rocha)知事(現在は解任)によって解任された。

ジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)前大統領の支持者が起こしたクーデター未遂においては行為の実行者や扇動者を含む約2,000人が逮捕、912人が起訴されている。2月27日にはさらに80人が糾弾されている。起訴された人物のうち44人が扇動罪で起訴されている。この罪は3年3ヶ月の禁固刑に処される。また36人は、暴力と深刻な脅迫を伴う、より深刻な犯罪で起訴された。刑期は30年を超える可能性がある。

ブラジルの司法府は連邦最高裁判所、連邦高等裁判所、連邦地方裁判所、労働裁判所、選挙裁判所、軍事裁判所、州・連邦区・直轄領裁判所から構成される。

ボルソナロ前大統領は2月中旬数週間のうちにブラジルに帰国すると述べている。現在は未だ米国にとどまっている(詳細はこちら)。ボルソナロは、犯罪を公然と扇動した疑いがある。

 

参考資料:

1. Supremo brasileño juzgará a militares por atentado golpistas
2. Moraes decide que STF vai julgar militares envolvidos em atos golpistas
3. PGR denuncia mais 80 pessoas por atos golpistas de 8 de janeiro
4. Polícia Federal analisa digitais na minuta do golpe e vídeos de pessoas que entraram no Palácio do Buriti em janeiro
5. Ministros do STM apoiam decisão de Moraes que manteve no STF julgamento de militares envolvidos atos golpistas
6. Quem é Anderson Torres, ex-ministro de Bolsonaro preso pela Polícia Federal

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