ペルー:カスティージョの逮捕とディナ・ボルアルテ新大統領の誕生

カスティージョの大統領罷免とともに首相職から新大統領に昇格したディナ・ボルアルテ(Dina Ercilia Boluarte Zegarra)は「国民統合政府の設置」のために「政治的休戦(tregua política)」を呼びかけた。彼女は金曜日のうち、遅くとも翌土曜日の午前中には、新閣僚を宣誓するつもりだ」と述べた。

閣僚評議会の発足、各部門の責任者が自らの業務遂行をするようになれば、ペドロ・カスティージョ前大統領を訪問する時間ができるだろうとも述べている。彼女はペドロ・カスティージョ(José Pedro Castillo Terrones)が、憲法や三権分立を望まず軽視し、議会の一時閉鎖と例外的な政府の設立を発表するという「この予想外の事態」を遺憾に思ったという。

「誰も予想していなかった。先週まで閣僚会議で、私がまだ大臣だった頃、我々は同行し、前大統領に議会と対立し続けるべきでないと勧告したが、(信任問題の提示が)この状況になるための分岐点になってしまった」と状況を分析する。そして、カスティージョ前大統領がやったことはクーデターであり、ペルー全土はもとより、自らの政府構成員たちさえも驚かせたと言う。

 

たしかにカスティージョの行動は衝撃的だった。なぜなら誰も議会解散をするなど思ってもいなかったからだ。ガタガタしつつも直前まで職務をこなしていた。有志消防団、警察機関創設 34周年に対しても祝辞を送っていた。

 

12月7日は目まぐるしい1日となった。

午前11時57分、国営放送を通じて発したペドロ・カスティーリョによる議会の一時的な解散は想定外だった。「En atención al reclamo ciudadano a lo largo y ancho del país, tomamos la decisión de establecer un gobierno de excepción orientado a establecer el estado de derecho y la democracia」という言葉を用い臨時の政府を設立を宣言、併せて水曜日の午前0時から適用される夜間外出禁止令を発令した。彼はまた「私たちは16ヶ月以上にわたって、大統領府に対する継続的かつ容赦ない攻撃キャンペーンを受け続けてきた。これはペルーの歴史上かつてない事態である。私が共和国大統領に就任した2021年7月29日以降、議会の議題は大統領の罷免だけであり、それは今も続いている」とした。この状況は誰が見ても否定することはできない。

午後12時06分、閣僚の大量辞任が始まった。これはカスティージョによる発表を受けてのことだ。少なくとも5人の大臣が30分間で辞任している。経済財政、労働、司法、人権、外務、環境に続き、文化省のシルビア・ロブレス(Silvana Emperatriz Robles Araujo)大臣も辞任した。

午後12時25分、本会議の準備が始まった。当初午後3時頃から罷免決議は行われ、午後遅くか深夜に更迭のための判断が下されると予想されていた。しかし会議は前倒しされ12時30分開始となった。

午後12時32分、パトリシア・ベナビデス司法長官は法の支配とペルー憲法を尊重するよう求めた。

午後1時10分、ボルアルテ首相はカスティージョの議会解散の決定を拒否し、この措置によって「憲法秩序の崩壊を犯す」と非難した。ボルアルテは、この行動を「クーデター」と表現している。

 

午後1時32分、ペルーの武装勢力は共同声明でカスティージョの施策を支持することを発表し、国民に「冷静さを保ち」、国の制度を信頼するよう促した。彼らは「憲法秩序を尊重する」とし、大統領に議会解散権を与えた憲法を尊重するとした。

午後1時49分、議会によってカスティージョの罷免が確定する。

午後2:01分、カスティージョの発表を受け、メキシコのマルセロ・エブラルド(Marcelo Ebrard)外相は、12月14日に予定されていた太平洋同盟サミットを延期すると発表した。サミットはリマで開催されることになっていた。

午後2時54分、ペドロ・カスティージョ前大統領が拘束された。検察庁によると「刑法第346条に規定される反乱罪、憲法秩序を破壊した容疑」だという。

ペドロ・カスティージョは今週木曜日、2022年12月8日、獄中で夜明けを迎えた。かつての同僚からはクーデター指導者の烙印を押され、様々な理由で逮捕されたことによる。

 

ペルーでは、投票に勝つことは、刑務所に入ることとほぼ同義であると揶揄する人がいる。それは皮肉とも言えるし、そうでもないとも言える状態だ。特殊作戦本部(ディロエス)の囚人仲間にはアルベルト・フジモリ(Alberto Kenya Fujimori Inomoto)元大統領(1990-2000年)もいる。フジモリは殺人、職権簒奪、汚職とスパイ、横領、横領の罪で25年の刑に服している。日本人移民の息子でありながら、「エル・チノ」と呼ばれ親しまれたフジモリとカスティージョは、「多くの」類似点をもっていると分析するものもいる。その「多くの」について何を指すのかは不明だが、少なくともそれらの人々はアウトゴルペについて指摘している。一方、カスティージョはフジモリと違い人権を侵害したり、許可を取ることなく去勢(もちろん人間に対して)することもしなければ、人命に手をかけるなどしていない。

 

アウトゴルペ(Autogorpe)とは「自主クーデター」を指す。1992年4月5日に当時大統領であったアルベルト・フジモリが軍・警察の支持を受けて議会を解散、国に動揺を走らせた。

「フジモラート」と呼ばれる10年間は、汚職事件が多発し、前大統領は元妻からも薄気味悪い事件で告発され、人道に対する罪の判決を受けた。カスティージョと同じく「永久的な道徳的無能力」を理由に罷免されたが、議会はフジモリが国外逃亡後にファックスで送った辞表を受け入れることはなかった。

https://twitter.com/ExpresoPeru/status/1600677691036168192

カスティージョもまた水曜日、議会閉鎖と緊急政府の設立を命じた。カスティージョが実行したのはこのアウトゴルペと言われている。

大統領というタイトルを剥奪され私服に身を包んだカスティージョは警察によってリマ地区のバラックに連行された。そこからヘリコプターでアテ地区のバルバディロ刑務所に運ばれた。この刑務所にはフジモリ元大統領も収容されている。手錠をかけられたカスティージョはここへ連行された。

検察庁は同時に政府宮殿、閣僚会議議長本部、各省庁で捜査を進めている。また同庁は12月7日までのカスティージョの容疑に加え、「憲法秩序を破ったとして刑法第346条に規定される反乱罪」、「国家権力と憲法秩序に反する犯罪を謀議という形で行った容疑」を追加している。

 

刑法第346条は「政府の形態を変えるために武器を(以下の目的で)取る」ことをした場合、反逆罪に値し無期懲役を課すと言っている。なおその目的とは、「政府の形態を変える」「合法的に構成された政府を転覆させたり抑制する」そして 「憲法体制を変更する」ことと定義されている。前回のフジモリはたしかに軍権力を伴ったゴルペだった。しかし今回のカスティージョについてそのような報道は一切でていない。

Artículo 346.- Rebelión

En el alza en armas para variar la forma de gobierno, deponer al gobierno legalmente constituido o suprimir o modificar el régimen constitucional, será reprimido con pena de cadena perpetua.

 

カスティージョの行動は刑法第16条の国家権力と憲法秩序に対する犯罪、国家権力を行使する者の一般的な制限を定めた憲法第45条にも抵触しているとも指摘されている。そこでは「いかなる個人、組織、軍隊、国家警察または国家の部門も、その権力の行使を自らに傲慢にすることはできない。そうすることは反乱や扇動にあたる」とされている。

Artículo 45.

El poder del Estado emana del pueblo. Quienes lo ejercen lo hacen con las limitaciones y responsabilidades que la Constitución y las leyes establecen.

Ninguna persona, organización, Fuerza Armada, Policía Nacional o sector de la población puede arrogarse el ejercicio de ese poder. Hacerlo constituye rebelión o sedición.

 

この定義は、憲法裁判所がCase 03203-2008-PHC/TCの判決で取り入れたものだ。憲法裁判所は、「憲法秩序と合法的に構成された政府」という項目で、憲法優位の原則、すなわちマグナ・カルタのすべての公権力に対する拘束力を発展させるものの一つとして、この条文に言及している。

憲法の最高解釈者は、「民主主義国家の制度的秩序の破壊に参加する者は、適正手続の保障を伴う責任を定める法規範に基づく司法手続きに従わなければならない」と述べている。

ペルー・カトリック大学(Pontificia Universidad Católica del Perú:PUCP)法学部上級講師のイバン・モントヤ(Yván Montoya)刑事弁護士は、この検証の問い合わせに対し、「司法当局は、帰属する犯罪が反乱罪なのか、それとも別の刑罰が科される反乱陰謀罪、扇動罪、反乱罪なのか判断する」ことになると説明している。刑法第349条では共謀罪は「実行しようとした犯罪に定められた最高刑の半分以下」の親告罪で処罰される。

 

官僚に対する反逆罪などの告訴は、議会や他の国家機関が行うことができる。カスティージョは80人以上の閣僚を輩出し、多くのポストに関連した経験を持たない政治的盟友を充て、その中には汚職、家庭内暴力、殺人などで捜査の対象となった人物もいる。

一方刑事分野では検察庁のみが事件の進行を担当する。検察はカスティージョが議員や家族とともに政府契約で利益を得る犯罪組織を率いたこと、また、時には逮捕に直面した娘が大統領官邸から姿を消し、その瞬間をとらえたはずの映像が行方不明になったと後に彼の事務所が主張するなど、平然と司法妨害を繰り返したことで非難している。また政府が関係する契約から利益を得るために犯罪組織を率い、司法妨害もしているとし、検察は訴えた。捜査には政治憲法第100条に基づき、前審(政治的手続きを受けるプロセス)を享受している必要があるが、議会がこの特権を解除し、調査の正式な実施を継続することが必要である。

 

カスティージョによる国会解散宣言の数時間後、予定通り国会が開かれ、大統領罷免投票が行われた。この投票は、必要な解任に必要な87票に達しただけでなく、それをはるかに上回る101票を獲得している。もともと本審議を支持し署名した議員の数は67人であり、87票獲得にはさらに20人分の支持を取り込む必要があり、罷免が確実視されていなかったようにも思う(詳細はこちら)。これを思えばカスティージョは議員たちが自らを辞職に追い込むという確信を持っていたんだろうか。もしそうでなく、単なる早とちりからの解散と、その結果として自己中心的な権力の濫用を理由に大統領罷免支持をした議員が増えてしまったのであれば、アウトゴルペというより、自爆と言えるのではなかろうか。

ペドロ・カスティージョ政権はがたついていた。忠実であるはずのアレハンドロ・サラス(Alejandro Salas)、フェリックス・チェロ(Félix Chero)、ベッツィ・チャベス(Betssy Chávez)をはじめとする閣僚たちまでもが辞任し、政府宮殿には大統領一人が残っていた。

カスティージョのクーデターの目的は、避難先となるメキシコ大使館に行くことだったとされている。しかし、その目的は達成されることなくおわった。なぜならAv. Garcilaso de la VegaとAv. Españaの交差点で、カスティージョたちの乗る車が止められ、逮捕されたあからだ。なおカスティージョにこの時同行していた元首相のアニバル・トレス(Aníbal Torres)は、彼の技術的擁護を申し出ている。

 

カスティージョの大統領職をめぐるドラマは刺激的だった。元農民、教師、組合活動家である彼は、不振の経済を変革し、パンデミックの間に悪化したペルー農村部の人々の高い貧困率を逆転させるという公約を掲げて昨年の選挙戦に臨んでいた。もちろんケイコ・フジモリという真逆の大統領候補と一騎討ちとなったこと、反フジモリ主義者の支持を受けたこともあるが民主主義に基づき選ばれた大統領であることに間違いはなかった。背景に数十年にわたる不平等、高い失業率、長年の汚職と内紛に汚染されたエリート政治層にうんざりし、体制に幻滅した人々からの支持があった。しかし、彼は選挙公約を実行することに無関心とも思えるような態度をとり、すぐに高レベルの汚職スキャンダル、犯罪捜査、内閣の交代など、政権を麻痺させる事象に次々と直面、そして大統領職をこのような形で終えた。

 

7日昼間にカスティージョが議会の解散を宣言してから、彼が警察に逮捕されるまでに要した時間は3時間に満たない。あまりにもことがとんとん拍子だと考える人もいる。前日には国軍のトップもカスティージョとあった後、辞表を提出している。これは何を意味するのだろうか。

 

棚ぼた的に大統領になったボルアルテは、ペルー初の女性大統領となった。無事過ごせれば就任 2026年7月までとなる。

 

参考資料:

1. Presidenta Dina Boluarte anuncia que mañana sábado juramenta nuevo Gabinete
2. Pedro Castillo es compañero de Alberto Fujimori en cárcel de Perú
3. Pedro Castillo: así se ejecutó la detención del golpista tras alerta del jefe de la Escolta Presidencial
4. Explicador: ¿En qué consiste el delito de rebelión que se imputa a Pedro Castillo?
5. La crisis permanente del destituido Pedro Castillo
6. Seis horas de caos en Perú: de la disolución del Congreso a la detención de Pedro Castillo y la asunción de la primera presidenta del país

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