コロンビア:INDEPAZによるイバン・ドゥケ政権に対する評価

(Photo by Inter-American Dialogue

8月7日、グスタボ・ペトロ(Gustavo Petro)は副大統領にフランシア・マルケス(Francia Márquez)を据え、新しい政権を発足させる。それに先駆け交代するイバン・ドゥケ(Iván Duque)とその政権に関する評価を開発平和研究所(Instituto de Estudios para el Desarrollo y la Paz:INDEPAZ)が発表した。

 

INDEPAZの人権と紛争観測所(el Observatorio de Derechos Humanos y Conflicto)はドゥケ政権中の2018年8月7日と2022年8月1日の間に起きた殺人事件で命を落とした人の総数を発表した。その人数は5,079人だった。2021年をピークに殺人事件発生率が26.9%に上昇している。また、957人の人権指導者や人権擁護者が殺害されていて、強制失踪は220件、誘拐が555件となった。

和平合意締結者に対する暴力も多く、261人が命を落とし、545のイベントでコミュニティが強制的に立ち退きを迫られている。虐殺の件数も313件と非常に多く、1192人の犠牲者が出た。

LGBTQI+の人々に対する暴力も多く、2019/01/01から2021/12/31においては584件の殺人が報告されており、2021年中には254件も発生している。

ドゥケ在任中最も目立ち、多くに知られている暴力といえば2021年における全国ストに関するものだ(詳細なこちら)。警察による過剰なまでの暴力と治安部隊による市民への攻撃が続いた。税制改革案に端を発っしたストライキでは3カ月間で83件の暗殺があった。身体的暴力の被害も合計1747件と多く、そのうち目を負傷した被害者は96人、性的暴力の被害者は35人と報告されている。サントス前政権(2010~2018 年)期における国家警察による殺人は421件だった。

 

イバン・ドゥケの任期中に発生した暴力事件のうち43.3%が責任の所在が不明だ。残りの56.7%の多くは違法な武装集団によるもので、第1に麻薬組織と準軍部隊、第2にFARC-EPとの和平プロセスの反体制派および残留派、第3にELN、第4に治安部隊とされている。具体的な数字は以下の通り。

AGC(Autodefensas Gaitanistas de Colombia)またはClan del Golfo※ 17.92%
FARC-EPの残存グループ 16.23%
麻薬パラミリ(準軍組織)グループ 11.09%
民族解放軍(ELN) 10.7%
治安部隊 0.72%

 

PDET(Programa de Desarrollo con Enfoque Territorial、地域重点発展プログラム)ゾーンとPNIS(Programa Nacional Integral de Sustitución de Cultivos Ilícitos:PNIS)自治体における殺人率は全国平均と比べて驚くほど高くなっている。PDETでは48.9%、PNIS自治体では58.5%だ。PNIS地域とは家族が自主的に不正作物を代替することに関心を持っている場所のことを言う。これは麻薬政策と地方の安全保障の失敗を反映していると分析する人もいる。

指導者や和平協定署名者の殺害や虐殺はカウカ(Cauca)340件、アンティオキア(Antioquia)194件、ナリーニョ(Nariño)151件、バジェ・デル・カウカ(Valle del Cauca)117件、プトゥマヨ(Putumayo)103件だった。その中でもトゥマコ(ナリーニョ)が最も多く、73件以上報告されている。その町だけで51人の社会的指導者が殺された。

 

イバン・ドゥケ政権による政治的責任としては、和平合意の完全な履行ができないことにある。国家安全保障委員会(Comisión Nacional de Garantías de Seguridad:CNGS)が5年間、平和を脅かす行動や組織を解体するための公共政策を国家に提供しなかったことは深刻な問題とされている。左翼ゲリラ勢力コロンビア革命軍(FARC-EP)との和平はサイントス政権期の2016年8月24日に合意に至った。半世紀以上にわたる内戦が正式に終結された瞬間だった。

和平合意後FARC-EPのメンバーは全国26か所にある正常化移行集落(Zonas Veredales Transitorias de Normalización:ZVTN)で国連の立会いの下で武装解除をしていった。最後の武器引渡しが2017年6月に行われるとZVTNは研修・社会復帰特区(Espacios Territoriales de Capacitación y Reincorporación:ETCR)となり、FARC-EPの元メンバーが市民生活へ適応できるよう必要な教育等が実施されていた。ETCRの設置期間は24ヶ月でその後は制度的には終了してはいるものの、元戦闘員やその家族がこの空間から退去する必要ないとされている。

なお、和平協定後FARC-EPは合法政党「普遍革命代替勢力(Fuerza Alternativa Revolucionaria del Común)」、現「コムネス(Comunes)」とし活動していたが、ドゥケ政権になると元戦闘員の政治参加,減刑等和平合意の一部見直しが計られるようになった。

 

ドゥケ政権になると「農村の総合改革(Reforma Rural Integral)」や「麻薬政策(política de drogas)」、「不正作物の代替(sustitución de cultivos de uso ilícito)」の分野で協定が守られていない。不履行の背景には予算不足があると全国紙エルティエンポ(El Tiempo)は指摘する。2021年政府がPDETやPNISに対して割り当てたのは必要予算の4%、16%だった。その理由に「政府の怠慢、政治的意思の欠如、官僚的障害」が挙げられる。問題解決の枠組みは作ったものの、実行するための中身が欠如していると言うのが実態だ。

武装解除の一方、自らの生活や身の安全が保証されていないと感じた一部元戦闘員はETCRから離脱し、当初から和平交渉に反対していたFARC-EPの分離派やマネーロンダリング企業、国家機関とつながりのあるマフィアに合流していった。元FARC-EP指導者の一人であるルシアノ・マリン(Luciano Marín Arango、通称イバン・マルケス(Iván Márquez))も政府が和平合意を遵守していないとして,2019年8月にはに再び武装闘争路線に復帰すると表明している。

FARCに次ぐ規模の左翼武装組織「民族解放軍(ELN)」も2016年10月から101日間の相互一時停戦を約束するも、「和平交渉は継続するも停戦は延長しない」と言う言葉を残し、停戦期間終了後には石油パイプライン爆破を、2019年1月ボゴタの警察学校に対する自動車爆弾テロをおこした。これらの事象を受けドゥケは和平交渉の再開しないと表明している。

同研究所は、議会や一部の政府機関が推進する協定に反対する政府の政治的な言説を非難している。報告書によれば、この言説は、和平プロセスへの関与を続ける94%の和平署名者に汚名を着せ、孤立させる「誘因」となっている。

このように再統合のための環境が整っていないことが、何百人もの元兵士が殺害されるという犯罪行為を助長している。

INDEPAZは最後に、新政府に一連の提言を行っている。提案の中には、真実委員会の呼びかけに耳を傾けること、国家安全保障委員会の仕事を改善すること、オンブズマン事務所の早期警告システムを改善することに加え、社会のリーダーの保護と自己防衛するための緊急プランの作成も含まれる。 これらは治安部隊の改革といわゆる「偉大なる国民対話」に自分たちの予防策が含まれることを望む15以上の社会団体からペトロ大統領のエンパルメント委員会に提出されたものだ。

 

※Clan del Golfoはコロンビア自衛軍連合に代わる新たな準軍組織の1つ

 

参考資料:

1. Balance del gobierno de Duque: asesinatos de líderes, violaciones de DDHH y otras cifras
2. Cientos de masacres y líderes asesinados: balance de Indepaz sobre el gobierno Duque

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