チリ:ボリッチ、エスカス地域環境条約へ向けた一歩を踏み出す

チリのガブリエル・ボリッチ(Gabriel Boric)共和国大統領は3月18日金曜日、エスカス協定(Acuerdo de Escazú)に署名した。エスカス協定は1992 年にブラジルのリオ・デ・ジャネイロで開催された国連環境開発会議(地球サミット)における「環境と開発に関するリオ宣言」の原則10を受け、現在および将来の世代が健全な環境と持続可能な開発を享受する権利を保護するもので、環境・人権活動家への攻撃や脅迫行動に対して法的措置等をとるることを可能とし、また、活動家の生命権や、運動、表現、結社、集会など行動の自由を保障する。また、人権保護活動者に関する国連宣言(1998年)を反映している。ラテンアメリカ諸国はこれらを通じ環境活動家を脅迫や暴力から保護する。エスカス協定には平等・非差別、透明性・説明・公開、非後退・前進、信義・誠実、防止・予防、世代間衡平、自然資源恒久主権、主権平等、人権などの前提とされる諸原則も明記されている。

第10原則

環境問題は、それぞれのレベルで、関心のある全ての市民が参加することにより最も適切 に扱われる。国内レベルでは、各個人が、有害物質や地域社会における活動の情報を含め、 公共機関が有している環境関連情報を適切に入手し、そして、意志決定過程に参加する機会 を有しなくてはならない。各国は、情報を広く行き渡らせることにより、国民の啓発と参加 を促進しかつ奨励しなくてはならない。賠償、救済を含む司法及び行政手続きへの効果的な アクセスが与えられなければならない。 (環境と開発に関するリオ宣言)

 

ボリッチが本協定に署名するという情報は、大統領府長官のジョルジオ ・ ジャクソン(Giorgio Jackson)によって共有されていた。2018年3月4日に、ラテンアメリカおよびカリブ諸国24カ国によって採択され、9月27日にニューヨークの国連本部で行われた式典では14ヵ国が署名していた。チリは他の23カ国と共に採択していたものの、セバスチアン・ピニエラ(Sebastián Piñera)前大統領は署名を拒否していた。本協定への署名については、ボリッチが選挙公約としても掲げていたものでもあり、彼が大統領に就任してから1週間後に実行された。コスタリカのエスカスで採択されたこの文章は、正式には「ラテンアメリカ・カリブ海地域における環境問題への情報アクセス、市民参加、司法へのアクセスに関する地域協定(Acuerdo Regional sobre el Acceso a la Información, la Participación Pública y el Acceso a la Justicia en Asuntos Ambientales en América Latina y el Caribe)」と呼ばれている。ラテンアメリカ・カリブ海諸国における初の地域環境協定であり、環境問題における人権擁護者に関する具体的な規定を含む地球初の協定としても知られている。

 

第2次ピニエラ政権はこの協定の締結を何度も拒否していた。2020年9月にも当時の環境大臣カロリナ・シュミット(Carolina Schmidt)は「エスカスの問題は、それが扱う問題でも、情報へのアクセスでも、市民参加や正義でもない。問題は、最終的な文章の書き方、曖昧さ、広範さにある」と述べると共にアンドレス・アラマン(Andrés Allamand)元外務大臣も「エスカス協定は、その条件の曖昧さと広さ、最終的な自己執行性、国内環境法よりも優先されるであろうその規範の拘束力を考えると、署名するのは不都合だ」と主張し締結に反対していた。

ジャクソンは「私たちにとって、環境問題は非常に重要であり、(必要なのは)正義を生み出すこと、この種の問題は第一に解決できるという意識を持つことが重要だ」とボリッチの決定を受け述べた。

 

エスカス協定は、一般市民の参加と技術事務局としてのラテンアメリカ・カリブ経済委員会(Economic Commission for Latin America and the Caribbean:ECLAC)の支援により、地域のために地域によって交渉されたものだ。最も脆弱で周縁化され排除された人々に対する権利の完全行使を妨げようとする障壁を取り除くことを目的としている。これは「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の最後の目標である「誰一人取り残さない」を忠実に反映している。

気候の脆弱性、災害の増加(特にカリブ海地域と中米)、海洋酸性化、土壌浸食、生物多様性の損失などの緊急課題に取り組むためには、社会のすべてのセクターがタイムリーに情報を提供し、より公正で持続可能な開発モデルへと移行することが不可欠だ。1992年のリオデジャネイロ地球サミットで多国間環境3条約(気候変動、生物多様性、砂漠化)が構想された。それから26年、エスカス協定は採択された。この協定にチリは3月18日加盟した。

なお、3月21日現在署名しているのはチリを除く下記24カ国だ。 ※色がついているのは批准12か国
アンティグア・バーブーダ(Antigua y Barbuda)アルゼンチン(Argentina)、ブラジル(Brasil)、コスタリカ(Costa Rica)、エクアドル(Ecuador)、グアテマラ(Guatemala)、ガイアナ(Guyana)、ハイチ(Haití)、メキシコ(México)パナマ(Panamá)、ペルー(Perú)、ドミニカ共和国(República Dominicana)、サンタ・ルシア(Santa Lucía)ウルグアイ、(Uruguay)、パラグアイ(Paraguay)、ボリビア(Bolivia)セントビンセントおよびグレナディーン諸島(San Vicente y las Granadinas)、グラナダ(Granada)、ジャマイカ(Jamaica)、セントクリストファー・ネービス(San Cristóbal y Nieves)ニカラグア(Nicaragua)、コロンビア(Colombia)、ベリーズ(Belice)、ドミニカ(Dominica) 

 

この協定採択の背景に世界の環境保護活動者に対する殺害事件の約60%がラテンアメリカで発生していること(※)も忘れてはならない。

※ラテンアメリカにおける環境活動家への暴力についてはこちらを参照のこと。

 

参考資料:

1. The Escazú Agreement: An Environmental Milestone for Latin America and the Caribbean
2. Todo lo que tienes que saber sobre el Acuerdo de Escazú
3. Boric firmará Acuerdo de Escazú: ¿Qué es y por qué la administración de Piñera se negó a firmarlo?
4. Ministro Jackson anunció que Boric firmará este viernes el Acuerdo de Escazú

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