ペルー:第4次内閣はアニバル・トレス・バスケスが率いる

Al(Photo by Presidencia Perú

 

前内閣の発足からから7日後、新たに第4次内閣を構成する人事を発表した。閣僚会議議長はアニバル・トレス・バスケス(Aníbal Torres Vásquez)が指名された。2月4日に第3次内閣の中心人物として発表された新首相エクトル・バレル・ピント(Héctor Valer Pinto)は過去の家庭内暴力疑惑を事由に辞職している。それ以外にも異論続出でカスティージョは任命から数日で内閣の改造を宣言した。これで半年間で4回目の内閣改造となった。ギド・ベジド・ウガルテ(Guido Bellido Ugarte)の第1時政権は3カ月(2021年7月から10月まで)、ミルタ・バスケス・チュキリン(Mirtha Esther Vásquez Chuquilín)内閣は3ヶ月(2021年10月から2022年1月まで)、バレル・ピント政権は承認すらされなかった。現在ペルーは政治危機に陥っている。

新たに首相としての役割を担うアニバル・トレスは法務省人権擁護局出身の弁護士で、大統領選挙決選投票に向けてはペルー・リブレ(Perú Libre)のアドバイザーを務めていた。政権発足時には法務大臣としても就任している。サンマルコス国立市長大学で法学と政治学の博士号を取得し、学部長も務めている。2002年から2003年までリマ弁護士会(Colegio de Abogados:CAL)部長、同年、ペルー弁護士会会長を務める。ペルー法律アカデミー名誉会長、グラウ海防衛愛国委員会の委員でもある。ちなみにトレスは、アルベルト・フジモリ(Alberto Kenya Fujimori Inomoto)元大統領を特別刑務所から一般刑務所に移し、25年の刑期を務めることに賛成するよう主張している。

 

第4次内閣においては6人の新閣僚が着任する予定だ。新内閣は今後30日以内に議会に出席し、議員たちに信任投票を求めなければならない。

新任者:

保健省(Ministerio de Salud):エルナン・ユリ・コンドリ・マチャド(Hernán Yuri Condori Machado)
環境省(Ministerio del Ambiente) モデスト・モントヤ(Modesto Montoya)
法・人権省(Ministerio de Justicia y Derechos Humanos):アンヘル・イルデフォンソ・ナロ・フェルナンデス(Ángel Ildefonso Narro Fernández)
エネルギー・鉱業省(Ministerio de Energía y Minas):カルロス・サビノ・パラシオス・ペレス(Carlos Sabino Palacios Pérez)
女性・弱者省(Ministerio de la Mujer y Poblaciones Vulnerables):ディアナ・ミロスラビッチ(Diana Miloslavich)
農業開発・灌漑省(Ministerio de Desarrollo Agrario y Riego):オスカル・ゼア・チョケチャンビ(Oscar Zea Choquechambi)

 

続投者:

外務省(Ministerio de Relaciones Exteriores): セサル・ランダ・アロヨ(César Landa Arroyo)
経済・財務省(Ministerio de Economía y Finanzas):オスカル・グラハム(Óscar Graham)
対外貿易・観光省(Ministerio de Comercio Exterior y Turismo):ロベルト・サンチェス(Roberto Sánchez)
生産省(Ministerio de la Producción:):ホルヘ・ルイス・プラド・パロミノ(Jorge Luis Prado Palomino)
労働・雇用促進省(Ministerio de Trabajo y Promoción del Empleo):ベッツィ・チャベス(Betssy Chavez)
運輸通信省(Ministerio de Transporte y Comunicaciones):フアン・シルバ・ビジェガス(Juan Silva Villegas)
住宅・建設・衛生省(Ministerio de Vivienda, Construcción y Saneamiento):ガイナ・アルバラド(Geiner Alvarado)
内務省(Ministerio del Interior):アルフォンソ・チャヴァリ・エストラダ(Alfonso Chávarri Estrada)
文化省(Ministerio de Cultura):アレハンドロ・サラス・ゼガラ(Alejandro Salas Zegarra)
国防省(Ministerio Defensa): ホセ・ルイス・ガビディア・カラスコ・アラスコ(José Luis Gavidia Carrasco Arrascue)
開発・社会的包摂省(Ministerio de Desarrollo e Inclusión Social):(ディナ・ボルアルテ(Dina Boluarte)
教育省(Ministerio de Educación):ロセンド・セルナ(Rosendo Serna)

 

本閣僚人事にも、様々な意見が発せられている。留任した閣僚のうち特にフアン・シルバ・ビレガス、アルフォンソ・チャヴァリ・エストラダ、サラス・ゼガラに関しては風当たりが強い。

ミルタ・バスケス政権以降、運輸通信部長を務めてきたフアン・シルバ・ビジェガスは、昨年11月、議会でその経験不足、管轄省庁の人事問題、インフォーマル輸送との関係を問われた。フェデリコ・ビジャレアル国立大学(Universidad Nacional Federico Villarreal:UNFV)で教育学の学士号を取得し、ペルー・カエターノ・ヘレディア大学で学校経営と教育的リーダーシップの第二専門課程を修了。2000年3月1日より、リマ市プエンテ・ピエドラ(Puente Piedra)地区にある教育機関(N°5178)のディレクターを務めていた。昨年12月、同大臣は公共交通機関の運転手の登録制を承認する決議にも署名している。

アベニロ・ギジェン(Avelino Guillén)から内務大臣を引き継いだアルフォンソ・チャヴァリ・エストラダへカスティージョは固執している。前大臣評議会議長のミルタ・バスケスはペルー国家警察大佐の採用を認めていなかった。

大臣になる前に同性愛嫌悪、人種差別、反左翼的なフレーズをソーシャルネットワークに投稿していたアレハンドロ・サラス・ゼガラも残った。ソモス・ペルー党のプエブロ・リブレ地区の議員を務めていた。サン・マルティン・デ・ポレス大学(Universidad de San Martín de Porres:USMP)出身の弁護士で、Centro de Altos Estudios Nacionales(CAEN)で国防を専門とする公共管理学の修士号を取得。人・貨物・物品陸上輸送総局(Superintendencia de Transporte Terrestre de Personas, Carga y Mercancias:SUTRAN)副総局長、住宅省、ヘスス・マリア(Jesús María)自治体の専門家を経て、現在に至る。文化分野での職歴は全くない。

 

第3次内閣で指摘されていた環境省と女性省(詳細はこちら)のトップに誰が着任するかも見ておこう。

環境省のトップにはモデスト・モントヤ・サバレタが大臣に就任した。核物理学者であり、エネルギー鉱山省付属の公的実行機関であるペルー原子力研究所(Instituto Peruano de Energía Nuclear:IPEN)の所長を務めていた。昨年9月、モントヤ・サバレタは大統領府の科学問題担当顧問に就任し、その1カ月前にはIPENの所長に任命された。科学省創設に向けた主な中心人物の一人とるが、この分野の緊急課題として、ラ・パンピージャ(La Pampilla)製油所での1万バレルを超える原油流出事(詳細はこちら)故の後始末と修復が挙げられる。モデスト・モントヤはパリ・サクレー大学(Université Paris-Saclay)で物理学博士、サン・マルティン・デ・ポレス大学で行政・公共政策博士、国立工科大学(Universidad Nacional de Ingeniería:UNI)で物理学修士を取得している。

前回は女性・弱者省のケイティ・ウガルテ(Katy Ugarte Mamani)の採用も頭を抱える一つの要因となっていた。今回は彼女からディアナ・ミロスラビッチにトップを変えた。就任前は、30年以上勤めたフロラ・トリスタン(Flora Tristán)ペルー女性センターで、政治参加プログラムのコーディネーターを務めていた。作家、フェミニスト活動家、女性の権利擁護者であり、「マリア・エレナ・モヤノ(María Elena Moyano)」の著者でもある。サンマルコス国立大学(Universidad Nacional Mayor de San Marcos:UNMSM)文学部で学んだ。マリア・エレナ・モヤノはリマ市南部の貧困地区ビジャ・エルサルバドルで活動していた市民運動家。「勇気の母」とも呼ばれた彼女は1992年2月15日、テロリストのセンデロ・ルミノソ(Sendero Luminoso:SL)に自分の子供の目の前で撃たれ、34歳で銃弾に倒れた。

エルナンド・セバジョス・フロレスの後任となる保健大臣についても議論の的となっている。ペルー・リブレの創設者ウラジミル・セロン(Vladimir Roy Cerrón Rojas)に近いエルナン・コンドリ・マチャドが就任することによる。彼は過激派で、フェルナンド・オリウエラ政権時代にフニン地方の保健局長を務めていた。セロンと仕事をしていた時に不正な契約をしていたとして昨年6月から調査を受けている。外科医で、2019年までチャンチャマヨ・ヘルス・ネットワーク(Red Salud Chanchamayo)のディレクターを務めていた。ちなみに捜査を受けているのは、このネットワークに不利益をもたらす不適切な徴収と互換性のない交渉をした罪の疑いでラ・メルセ(La Merced )の反汚職検察局によって調査されている。

2020年1月、ペルー・リブレ政権下のフニン州地域保健総局(Diresa)の地域保健局長に任命されている。問題視されているのは医療疫学者アルバロ・テイペ・ロンダン(Alvaro Taype Rodan)が公開したビデオについてだ。彼はその中で「六角水(agua hexagonal)」と呼ばれる科学的裏付けのない液体サプリメント「クラスターX2(Cluster X2)」の宣伝をしていた。サプリメントは体内での栄養素の吸収を高める製品ということらしい。

 

 

セバジョス・フロレスの離脱は、政府とJuntos por el Perú(JPP)との同盟関係をも弱体化させた。その数日前にも第2次内閣を率いてきたミルタ・バスケス(Mirtha Vásquez)が辞職し、JPPと関係のあるペドロ・フランクル(Pedro Franckle)とアナイ・ドゥランド(Anahí Durand)も職を離れている。そして現政権に残ったのは外国貿易観光省のロベルト・サンチェス・パロミノだけとなった。

今回内閣に男女の平等が欠けていることも指摘されている。彼のチーム内で信頼される高いポジションには女性が着任できていない。18の省庁のうち女性が大臣となったのはわずか3省庁で労働・雇用促進省、女性・弱者省、開発・社会的包摂省である。ちなみに初めて内閣を組閣した時にも男女平等でないことを厳しく批判されており、リマ・コンベンションセンターで開催された全国の女性市長を前にしたイベントで「この政権の発足当初は、男性の数が過半数を占めていると考えていたことをおわびしたい」「しかし、私は自分自身を訂正し、これまでの努力の枠内で、女性、その男性も含めなければならないと考えることにする」と約束をしていた。

 

上記以外の一部メンバーについてもクイックに見ていくこととしよう。

アンヘル・イルデフォンソ・ナロは法務大臣に就任。マドレ・デ・ディオス(Madre de Dios)、フニン、アンカシュ(Áncash)の元裁判官で、憲法裁判所の候補者でもあった。ここ数カ月はペドロ・カスティージョ大統領に接近し、政府宮殿での任命に向けて働きかけ、同時に司法部での裁判官としての仕事もこなしていた。サン・マルチン・デ・ポレス大学(USMP)法学・政治学部卒業後、民間弁護士、マドレ・デ・ディオス州タンボパタ市長顧問、マドレ・デ・ディオス上級司法裁判所上級判事、フニン上級司法裁判所混合法廷判事、数日前までアンカッシュ上級司法裁判所判事を歴任した。国賓訪問の記録によると、彼がこの政府と最初にコンタクトを持ったのは2021年9月のことで、当時の文部大臣フアン・カディージョ(Juan Castillo)とであった。彼はリカルド・パルマ大学(Universidad Ricardo Palma)で政治学と国際関係論の博士号も取得してる。2021年12月11日(日)にはカスティージョを訪問し3時間ほどミーティングを行っている。一方彼はカスティージョに最も近い人物の一人で、「影の顧問」と非難されているベデル・カマチョ・ガデア(Beder Camacho Gadea)とも頻繁にミーティングをしている。事実大統領がアベリノ・ギジェン(Avelino Guillén)前内相を迎えていれないことを決めた時から、第三次閣僚危機が始まる数日前の1月14日まで毎日行われるようになっていた。官邸の訪問者名簿によると、彼は仕事の日でも夜遅くまでカサ・デ・ピサロ(Casa de Pizarro)を訪問しているし、顧問と「仕事の打ち合わせ」をしながら、管轄の活動を分担し行っていた。これは司法省の電子記録としても残っている。

 

エネルギー・鉱山大臣のカルロス・サビノ・パラシオス・ペレスはフェルナンド・オリウエラ(Fernando Orihuela Rojas)がフニン州知事に就任していた時、同州のエネルギー・鉱山局長を務めていた。ペルー・リブレ。

農業開発灌漑省のトップには、プーノ選出の下院議員、オスカル・ゼア・チョケチャンビが任命された。議員としての経験に加え、学校教師として働いた経験もあり、プーノ州フリアカ(Juliaca)に本社を置く農業原材料の卸売を専門とする会社インカ・へネティクスSRLTDA(Inka Genetics SRLTDA)のゼネラルマネージャーを務めていた。国立アルティプラーノ大学(Universidad Nacional del Altiplano Puno)で教育科学の学位を取得、プーノ県ウアンカネ(Huancané)市の地方議員を務めた(2006〜2010年)。ペルー・リブレ。

 

オスカル・グラハム経済・財務大臣は続投。もともと経済財務省のキャリア公務員で、金融市場の発展、個人年金制度、金融包摂の推進、生産性向上のための公共政策の立案と実施を専門としていた。国立工科大学で経済工学の学士号、ロンドン大学クイーン・メアリー校(Queen Mary University of London)で経済学の修士号を取得。

対外貿易・観光大臣のサンチェス・パロミノは2021年7月28日の就任以来、カスティージョ政権で大臣を務めている。元大統領候補のベロニカ・メンドーサとともに、Juntos por el Perúの副大統領候補であった。ホルヘ・ルイス・プラド・パロミノは生産省に残留。2021年11月より同職。彼は、ピウラ国立大学(Universidad de Piura)で公認会計士を取得し、サン・マルティン・デ・ポラス大学で会計・財務の修士号と博士号を取得している。

ベッツィ・チャベスは労働・雇用促進大臣を留任。チャベス・チノは弁護士であり、以前は立法府の顧問を務めていた。

ガイナ・アルバラドは引き続き住宅・建設・衛生大臣を務める。アマゾン地方チャチャポヤス(Chachapoyas)出身のアルバラドは、職業は土木技師。2021年10月6日から内閣に加わっている。

ロセンド・セルナ・ロマンは教育省のトップを継続する。彼は2003年から2014年、2019年から2021年にかけてワヌコ(Huánuco)県教育局長を務めていた。2014年から2019年にかけては、文部科学省の専門家として勤務した。

 

新内閣は、野党が支配する議会で承認されなければならない。それができなければ、トレスは辞任し、第5次内閣を模索しなければならない。大統領は最初の2つの内閣の承認を得たが、第3の内閣は投票前に解散している。昨年12月、野党はカスティージョが道徳的に不適格であるとして大統領弾劾を試みた。しかし、この動議は議会で十分な票を集めることができなかった。批評家はカスティージョが内閣に継続性を持たせることができないことからに懸念を抱いているという。

 

 

参考資料:

1. Pedro Castillo se aferra a Aníbal Torres en su cuarto gabinete en seis meses
2. Esta es la conformación del Gabinete Ministerial que preside Aníbal Torres [FOTOS]
3. Pedro Castillo: los 6 nuevos ministros de su cuarto Gabinete y los que continúan
4. Ministro de Justicia defendió a sentenciado por violación de una menor
5. Pedro Castillo: cuarto gabinete con ausencia de mujeres que lideren cargos en el Ejecutivo
6. Perú Libre obtiene presencia mayoritaria en el Consejo de Ministros

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