ベネズエラ・ボリバル共和国、マラカイボ湖で見る光の超常現象

世界には信じられないような気象現象がある。その1つにカタトゥンボの稲妻がある。マラカイボの灯台とも呼ばれる落雷は、大航海時代には既にヨーロッパでも知られるほどのもので、その現象は数百年ずっと続いている。

 

南米最大の湖であるマラカイボ湖(Lago de Maracaibo)に流れ込むカタトゥンボ(Catatumbo)川のデルタ地帯、シアネガス・デ・ファン・マヌエル・デ・アグアス・クララス・イ・アグアス・ネグラス国立公園(Parque Nacional Ciénegas de Juan Manuel de Aguas Claras y Aguas Negras)で頻繁に演じられている。この事象が発生する前には必ず暗闇が地平線全体を覆い、その後どこからともなく閃光が走りだす。その強い光はまるで昼間であるかのような感覚に陥らせる。

4月から11月の間、稲妻は絶え間なく頭上で大暴れをする。空に現れては消えを繰り返しすこと年に100万回以上(160万回を記録するとしている文献もある)、住民にとってはいつもの現象も観光客にとっては奇跡として写る。1分間に18~60回の稲妻が発生し、それは8~10時間も続く。ちなみに2011年6月16日午後10時には、マラカイボ湖とフアン・マヌエル(Juan Manuel)市の間に位置するオロガ(Ologa)の町では「1秒間に2回の放電」を見られたという。この威力は凄まじく、地球上の平均的な放電の5%に相当した。この土地においては雲と地面の間の放電は1万~5万アンペア、雲と雲の間の放電は10万~30万アンペアと強力だ。

 

NASAによる調査が行われるまでは世界1の雷のホットスポットはアフリカのコンゴ川流域だと考えられていた。コンゴ民主共和国(República Democrática del Congo)の町キフカ(Kifuka )では、1平方キロメートルあたり年間158回という落雷数が記録されていた。一方のカタトゥンボでは1平方キロメートルあたり250回、年間平均160万回という驚異的な落雷数を記録している。これは科学者たちによる約17年分のデータ分析で分かったことだ。NASAが熱帯降雨観測衛星(Tropical Rainfall Measuring Mission:TRMM)に搭載した「ライトニング・イメージング・センサー(Lightning Imaging Sensor:LIS)」と呼ばれる雷センサーを使い観測した。2014年1月にはこの自然発生的なこの放電回数がギネスブックで認められ、「世界で最も雷が集中している場所」とされた。なお、NASAはカタトゥンボ以外の湖のあちこちでも同様の現象が起きていることを報告している。

 

気象学者たちは、カタトゥンボにおける長時間にわたる稲妻の発生理由をまだ特定していない。ただ最も広く受け入れられている説は次のとおりだ。カリブ海からの貿易風がマラカイボ湖の湖面上を移動する際暖かい空気を吹き込み、その後、アンデス山脈からの冷たい空気と衝突。蒸発が最も活発になる午後遅くに、貿易風はペリジャ山系やアンデス山脈を上昇、高度が高くなるにつれ、空気は冷えて重くなり、重くなった空気は楔となり、時計回りに回転して高温多湿の空気を持ち上げ、垂直方向に大きく発達した雲を形成する。温度が1.5℃になると、発生した電荷が雲の中で整列し始め、上部はプラス、下部はマイナスになる。垂直方向に大きく発達した積乱雲は、高さが7,000メートルを超えることもあり、雲と雲の間では雷雨が発生する。スリア大学のアンヘル・ムニョス(Ángel Muñoz)教授とカラボボ(Carabobo)大学のネルソン・ファルコン(Nelson Falcón)教授の研究によると、湖で発生する地質由来のメタンガスと、湿地帯で有機物が嫌気的に分解されて発生する生物由来のメタンガスが多く存在することが、この気象現象の強さと再発に関係している。稲妻の震源地は、国立公園内のラ・ベジェサ(La Belleza)湖とラ・エストレジャ(La Estrella)湖に位置しており、科学的にも自然の美しさの観点からも例外的な普遍的価値を持ち、人類のために保存しなければならない場所だ。

 

プエルト・チャミタ(Puerto Chamita)はこのショーをみられる場所として有名で、マラカイボ湖の南に位置する。年間の平均暴風雨回数は297回と報告されているほどだ。ここの村には観光客用のパラフィトス(水上の高床式建築)がある。これらの光景はベネズエラの「リトル・ベニス」と呼ばれることもある。この村の家の屋上には避雷針がついていることが多い。雷が家に落ちることを防ぐためだ。この雷は時に人を攻撃し2020年10月23日にはコロンビア北東部の町セサール(Cesar)の南に位置するロス・コルティホス(Los Cortijos)地区で、11歳の少女が雷に打たれて死亡した。また、ノルテ・デ・サンタンデール(Norte de Santander)州のテオラマ(Teorama)市の農村部でも落雷が発生し、カーニョ・セコ(Caño Seco)村で管理・監視業務を行っていた兵士グループが感電、兵士1名が死亡、3名が負傷している。それ以前にも雷に打たれ命を落とす人はおり、特に兵士や軍人は、開けた場所や人里離れた場所、あらゆる気象条件の中で移動するため、この現象の影響を最も受けやすいとされている。

米国疾病管理予防センター(Centers for Disease Control and Prevention :CDC)は、安全を確保するためにはまず空を見て天気を予測することが一番だと推奨している。密で重そうな、さらに暗い雲が近づいてきたら、たとえ雨の気配がなくても、雷雨の予兆の可能性がある。雷の音が聞こえたら、屋内に入る、それも密閉された安全な場所に避難することが優先される。

木の下への避難は非常に危険だ。コンクリートの床や壁にも近づいてはいけない。なぜなら雷は、それらの中にある電線や金属棒を伝わってやってくるからだ。だから屋内にいれば雷から身を守れると純粋に考えてはならない。実際、雷による被害の約3分の1は屋内で発生していると言う。屋内で気にすべきは水の利用から遠ざかること。なぜなら雷はパイプを伝ってもやってくるからだ。また、あらゆる種類の電子機器を避けることも大切だ。電話の利用もコード付きの電話は避けるべきで、使うとしても携帯電話やコードレス電話機だ。これらは暴風雨の中でも安全だとされている。

適切な避難所がない場合は、できるだけ体を地面につけないようにしてしゃがむのが良い。雷は地表にも電流を発生させ、時に100フィート以上離れていても致命傷を与える可能性があるからだ。

なお、安全ルールとして「30と30のルール」を覚えておくのも良い。稲妻を見たら30まで数え始め、30に達する前に雷が鳴ったら室内に入る。そして最後の雷鳴の後少なくとも30分は外出などの活動をやめるのが良い。

 

カタトゥンボの雷は大気中のオゾンを生成する上で重要な役割を果たしていると主張する科学者もいる。オゾン層は太陽から放射される有害で高エネルギーの紫外線から生物を守る役目がある。落雷の発生で近くの空気が熱せられ、放出されたエネルギーによって化学反応が起こり、他の分子と結合、オゾンを形成する窒素酸化物を合成するというのだ。そしてそれは世界最大の「対流圏オゾン発生器」と称されることもあるほどだ。ベネズエラの環境保護活動家であるエリク・キロガ(Erik Quiroga)も、カタトゥンボ・ライトニングと呼ばれるこの現象がオゾン層の破壊を修復するのに役立つと考えており、「夜行性雷雨の雲から雲へのサイクルがあることから、発生したオゾンの一部が下層オゾン層に到達している可能性がある」としている。学会でも知られるこの現象は垂直に発達した雲の中で発生する稲妻が連続的、そして静かに発生し、高さ4kmにも及ぶ放電を起こすことが特徴だ。

この自然現象についてはスリア州やその歴史、地域の先住民の口伝、民俗学、文学、音楽と結びついており、スリア州歌や旗、紋章にも見られる。コロンビアとの国境から約150kmに位置するペリハ(Perijá)山脈西部の先住民族バリ(Barí)族は、稲妻を祖先の霊で形成された「空の川」を意味する「Ri’baba」と呼び、これを守護者と位置付けている。

 

カラカスやその他の土地からマラカイボへは飛行機も飛んでいる。カラカスからメリダまではバスで16時間、そこから1時間でこの土地に着くことができる。飛行機でエル・ビジアに行き、そこからメリダまで1時間のバスでいくという方法もある。行くのはなかなか骨が折れるが高い確率で雷による光のショーを見ることができるのみならず、周りの環境も魅力的だから、一度行く価値はある。

キロガはカタトゥンボの灯台を含むこの土地の生態系全体をユネスコの世界遺産に登録すべくキャンペーンを展開している。

 

ベネズエラを代表する自然の奇跡「エンジェル・フォール(Salto Ángel)」についてはこちらを参考のこと。

 

 

参考資料:

1. Estos son los rincones del planeta en los que más rayos caen a lo largo del año
2. Sobre la Violencia entre los Barí y los Criollos en Perijá, Estado Zulia 1600-1960
3. Relámpago del Catatumbo, Ri’baba (Río del Cielo): “Un Patrimonio Natural para la Humanidad”
4. Catatumbo: el fascinante lugar de Venezuela que la NASA declaró como la capital mundial de los relámpagos
5. Relámpago del Catatumbo
6. Catatumbo: el rincón de Venezuela donde caen 1,6 millones de rayos por año
7. ‘El relámpago del Catatumbo’, la extraña zona de rayos letales entre Colombia y Venezuela con una de las mayores actividades eléctricas del mundo
8. Catatumbo: la capital del relámpago

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