キューバ中央銀行(Banco Central de Cuba:BCC)は8月26日付官報215(Resolución 215/2021)で国内の商取引における暗号通貨の利用を認めると発表した。マルタ・サビーナ・ウィルソン・ゴンザレス(Marta Sabina Wilson González)大臣が署名したこの文章は今後20日間で発効とする。なおその使用の許可だけでなく、仮想資産サービスプロバイダーのライセンス化など規則も確立する。BCCは文章の中で暗号資産を「デジタルで取引や転送が可能で、支払いや投資に使用できる価値のデジタル表現」と定義している。
キューバにおける暗号資産の利用は個人間で行われてきた。と言っても1100万人いる中のごく一部の人間に限られる。それはインターネット・アクセスへの事由もあっただろうし、そのほかの理由もあっただろう。それでも非公式情報によると若者を中心に1万人程度が島でビットコインを利用し、数千人がビットリフィル(Bitrefill)で暗号資産が使えるプリペイドカードを購入している。米国の制裁はキューバにいる人々が海外から送金を受ける自由を奪い、商取引を困難な状態に押しやり、また、YouTuberなどで広告収入を得る人に苦労をかけてきた。
ビットコインをはじめとする暗号通貨やクリプトアセットは、物理的な現金といったものが存在せず、また、発行銀行も存在しない。つまり政府や銀行などの中央管理者がいないから、国際決済システムや金融市場からの締め出しを迂回する方法として暗号資産が使えるということを意味する。その点からいうと、キューバやベネズエラなどにとっては都合が良い。
2021年1月1日に「金融の秩序化(Ordenamiento Monetario)」に基づき二重通貨制度を解消したキューバは、外貨や非兌換ペソの現金が不足している。人々は両替のために長蛇を作っても、必要な現金を手に入れられないことも少なくない。これに対する解消策にも暗号通貨がなれる可能性もある。
キューバではビトレメサス(Bitremesas)というビットコインベースの送金プラットフォームも昨今人気を集めていると言う。それは暗号資産で取引や送金をしながらも、現金を受け取りたい人のために用意されたサービスで、時として最大25%の手数料を中間業者に支払う必要があるものの、それでも魅力を感じるという。暗号資産の知識のない島の人々も慣れ親しんだ現金に変換され「配達」してもらうことができるからだ。
暗号通貨を用いた取引をする場合、当局の認可を受ける必要がある。なおこの利用は「社会経済的な目的」でのみ利用が認められる。また、BCCが許可した場合を除き、国営機関、政治・大衆・社会組織、その他の機関は、仮想資産およびそのサービスを、商業的、貨幣的、金銭的取引または金銭的義務を満たすために使用しないように管理・監督される予定だ。
サイバースペースにおける取引には各種リスクも伴う。そのリスクとは資産を盗まれたり、詐欺にあうと言うものだ。また、犯罪に巻き込まれたり、ボラティリティー(変動率)の高さから資産評価が一瞬にして変わってしまうことだってあるだろう。だから官報ではそれらのリスクを指摘しているし、「キューバにおける暗号通貨の利用に関する新たな措置についてBCCは、暗号通貨に関連する犯罪行為について責任を負わない」と記載した。
今回の決定は4月のキューバ共産党大会で、経済的苦境から抜け出すために暗号資産の活用について諸提案が提出されていた内容が推敲され、現実かした状態だ。
なお、その検討が始まった当時、すでにキューバでは暗号資産を匂わせるマルチ商法詐欺が相次いでいた。「新しい資源としての暗号資産」への投資を騙して奨励し、顧客が初期資金を投入し、一定期間後に利益が戻ってくるという、ねずみ講によく似た手法がこの国では流行っていた。それらの詐欺について大統領は「投資のねずみ講」を「キューバ政府が推進あるいは承認しているものではない」と当時も述べている。共産党(PCC)は「これらの国際企業は、ソーシャルネットワークやその他のプラットフォーム上の誤解を招くような広告を通じて、洗練された投資の可能性を提供することを特徴としている」と説明し、「明白なリスクを伴わずに、迅速かつ容易に」大きな利益を約束しているのがその特徴だと語っている。BCCも島に住むキューバ人に対し、「マルチレベルまたはピラミッド」タイプの民間エージェントとのオペレーションには関与しないよう警告している。また同時にMind Capital、Mirror Trading、Arbistar、Trust Investing、QubitLife/ QubitTech、X-Toroなどの事業を「危険」と表現している。キューバ政府はこの種のデジタル資産の証券仲介、投資顧問、投資管理サービスを行う企業の承認はしておらず、その推進者やメンバーに対して、国内で活動するためのライセンスを持っていないことも警告していた。
そのようなリスクから国民や企業を守ること、社会経済的な利益を理由にBCCは、「商業取引における特定の仮想資産の使用」について許可を与える責任を負い「国内での金融、外国為替、回収・決済活動に関連する取引について、仮想資産サービスプロバイダーを認可する」ようにしたと発表している。
ラテンアメリカにおける暗号通貨の利用は加速しており、エル・サルバドルのブケレ政権は8月23日、同国に200台のビットコイン対応のATMと、暗号通貨と現金の交換が可能な場所を50箇所設置したことを発表している。ベネズエラもまたその利用を先日表明したばかりだ。(こちらのエル・サルバドルの記事はこちら、ベネズエラはこちらを参照)
キューバで利用されているのはビットコイン、イーサリアム、ライトコイン、USDTだという。個人的にもキューバで暗号通貨が使えるようになればうれしく感じる。と言うのも、渡航の度、その国のアート作品を購入し帰ってきているし、可能であればそれらの作品を日本にいながらにして購入したいと考えるからだ。
参考資料:
1. Regula el Banco Central de Cuba empleo de criptomonedas en el territorio nacional
2. Nuevas medidas para el uso de criptomonedas en Cuba
3. Banco Central de Cuba alerta sobre estafas de empresas inversoras en criptomonedas
4. キューバの変革:二重通貨制度廃止のインフレ
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