ベネズエラ、10月1日付CBDCとデノミを発表

ベネズエラ中央銀行(Banco Central de Venezuela:BCV)は1日、急激なインフレーションにより価値が失われてしまった通貨ボリバルと、その代わりに米ドルが広く使われるようになっていることを受け策を講じる。具体的には10月1日にデノミネーションを行いゼロを6個取る。ハイパーインフレーションは商品の金額を天文学級にしてしまっていて、街中でも金額を言及するにあたっては「数百万」という呼び方はしておらず「数千」という言葉を使っている。デノミネーションにより通貨ボリバルで表現されているものは100万(1,000,000)で割った数字となる。BVCによると1月から5月までの累積インフレ率は264.8%となっていて、各年の累積インフレ率も2020年は2,959.8%、2019年は9,585.5%だった。

https://twitter.com/BCV_ORG_VE/status/1423278912465817606

 

ベネズエラでは、13年間で3回目のデノミネーションを行うこととなる。故ウゴ・チャベス(Hugo Rafael Chávez Frías)元大統領時代(1999-2013年)の2008年に通貨から3つのゼロを削除し、現大統領ニコラス・マドゥロ(Nicolás Maduro Moros)も2018年8月に5つのゼロを削除した。今回のデノミネーションで6個ゼロを取ることから、合計14個のゼロがボリバルから取り除かれることとなる。フレディ・ニャニェス(Freddy Alfred Nazareth Ñáñez Contreras)通信・情報相によると、デノミネーションに合わせて5、10、20、50、100ボリバルの5種類の新紙幣と1コインを投入される。

 

ベネズエラではスーパーインフレーションもあり現金が不足している。銀行には最後尾が見えないほどの長蛇の列ができているのが日常で、それゆえにボリバルはドルに取って代わられ、事実上の通貨となっていた。

今回の新通貨制度導入について専門家は「インフレ率の低下」や「国内総生産の増加」をもたらすような実質的な経済指標の発表がないことを考えると、経済の奇跡的回復を期待することはできない」と言う。現在ベネズエラでは史上最悪の経済危機に陥っていて、すでに8年連続で不況状態だ。

 

デノミネーションとともに政府は新通貨制度「デジタル・ボリバル(Bolívar Digital)」の導入についても発表をしている。今年3月にマドゥーロが匂わせたサプライズそのものだが、中央銀行デジタル通貨(CBDC)としての扱いだ。CBDCは国の経済を近代化するためのマドゥロの計画の一環で、3月にも政府は同通貨の開発に取り組んでいること、ベネズエラの金融システムが年内には完全にデジタル化されることを述べていた。またマドゥーロには2020年の時点ですでに77%のデジタル化レベルに達成していることも投じ言及している。BVCは、デジタル・ボリバルの導入を、物理的に表現されたボリバルの発行に影響を与えるものではなく「経済を表現するものとしてのボリバルの強さと参照を回復することを目的としたプロセスの中で」共存するものであると示している。また、基準となる為替レートは、ベネズエラの為替市場システムによって決定され、個人や企業が銀行機関の為替ビューローを通じて行う外国為替取引に基づいて算出されるとした。

 

ベネズエラにおいては暗号通貨ペトロ(Petro)が導入されている。ペトロはベネズエラの石油埋蔵量に裏付けられているため、天然資源や政府の不換紙幣に由来する価値ではなく、数学の法則に基づく価値を持つビットコインやその他の暗号通貨の理念を破るものとして、さらには世界初の国家支援型暗号通貨ということで、世界からも注目されていた。反体制派の暗号通貨クリエーター ガブリエル・ヒメネス(Gabriel Jiménez)がハイパーインフレに打ち勝つと同時に、同国の憎むべき社会主義政府に秘密裏に復讐するチャンスだと考え気合を入れて作ったものだった。しかし、国による最善の努力と裏腹に現地の人々に全く使われていないと言う事実がある。2020年末約800万人の公務員(希望者)に、クリスマスボーナスとして1人半ペトロ(約30円)が支払われ、今年からは税金の支払いもペトロでできるようになっていることを考えると、認知度は少しずつ上がっていると想定はされる。ただ、ペトロに法定通貨としての地位がないことから使われづらいと指摘している専門家が多くいる。今回のデジタル・ボリバルは一方でCBDCとなることから扱いは異なる。作成者のヒメネスは「当時は世間知らずだったし、ペトロが政府によって政治的な武器として悪用されているのを見て、今でも心が痛んでいる」と語り、最終的には逮捕や処罰を逃れるために亡命を余儀なくされたと語っている。ちなみに、ペトロの導入もマドゥーロが2018年に行ったデノミネーションのタイミングで販売された。

 

デジタル・ボリバルは、SMSベースの交換システムを利用して、ユーザー間の支払いや送金を容易にするという。ハイパーインフレに直面している国にとって、中央集権的なデジタル通貨は、現金発行問題の一時的な解決策となる可能性があると専門家は言う。また、デジタルトークンによる腐敗防止に期待を寄せる人間もいる。

ベネズエラ政府は、国の通貨がデジタル化され、電子決済手段で一般的に使用されるようになることで、経済の取引コストが削減され、国民と通貨記号との結びつきが促進され、日常的な取引における通貨の近代的なビジョンが構築されると説明した。また、ベネズエラ政府およびBCVは、南米諸国に対する違法な経済封鎖に直面しながらも、ベネズエラ経済の回復を促進するために、通貨主権を保護・保証し続けるとの声明を発表している。

 

なお、ペトロの流通は全くと言ってないが、ベネズエラ・ボリバルで支払われる暗号通貨の取引が急増していることは暗号取引プラットフォーム「LocalBitcoins」のデータで明らかになっている。アナリストによるとベネズエラのクリプトトレーダーは世界で最も活発に活動しており、ピアツーピア(P2P)のドルベースのクリプトトレードに関しては、アメリカやロシアのクリプトトレーダーに近い位置にいる。バイナンス(Binance)のスポークスマンによると、バイナンスのピアツーピア・プラットフォームでのボリバルの運用額は5月以降75%上昇しており、5月初めにビットコイン価格が暴落して以来、取引量が増加している中南米の国はベネズエラだけとなっている。また、マラカイボ、バレンシアといったベネズエラの大都市部における露天商ではデジタルコイン支払いに対応しているところも出てきていて、いわゆる伝統的な実店舗にもその傾向は広がっていると言う。

ただ、これらの暗号通貨を利用できるベネズエラ人は限られており、それらに手を出す余裕があるのは、主にエリートや中産階級の上層部の人々だという。ベネズエラの多くの地域では、インターネットの接続環境も悪く、停電なども発生することから気軽にコイン取引にアクセスとは言えないことにもよる。なお、ベネズエラ人が選ぶコインは主にビットコイン、イーサ、ダッシュ、エオスだと言う。

 

上述の通りデジタルコインを用いた取引は送金手数料の圧縮などに役立ち、例えば国外にいる家族から国内にいる家族への送金に柔軟性を与える。これは今年6月に世界で初めてビットコインを法定通貨としたエル・サルバドル大統領ナジブ・ブケレ(Nayib Armando Bukele Ortez)も同じことを言っている(詳細はこちら)。エル・サルバドルもまた、海外からの送金に頼った経済で有名だ。

 

参考資料:

  1. Venezuelans try to beat hyperinflation with cryptocurrency revolution
  2. Venezuela is set to launch its government-backed digital currency in October as the bolivar gets a makeover
  3. Banco Central de Venezuela anunció nueva reconversión monetaria la cual entrará en vigor a partir de octubre
  4. As Venezuela’s economy regresses, crypto fills the gaps
  5. Delcy Rodríguez: Gobierno apuesta por el bolívar digital
  6. BCV anuncia nuevo cono monetario a partir del 1° de octubre que suprime seis ceros (6) a la moneda nacional
  7. Venezuela eliminará seis ceros a su moneda y anuncia nuevos billetes
  8. Venezuela anuncia tercera reconversión de la era chavista y elimina seis ceros a su moneda
  9. Enter the ‘petro’: Venezuela to launch oil-backed cryptocurrency
10. Venezuela’s Maduro Says He’s Planning a Digital Currency ‘Surprise’
11. Venezuela to Create Decentralized Stock Exchange on Ethereum
12. Have Cryptocurrencies Really Helped Venezuela Sidestep US Sanctions?
13. Venezuela’s New Digital Currency: Economic Gamble or Criminal Scam?
14.【和訳】New York Times 『プログラマーと独裁者』

 
 
 

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