米国でエクアドル移民やその家族を支援する法律事務所「1800migrante.com」は9月17日、エクアドル人による非合法な米国入国と、そこで動く資金との関係について発表した。その額は少なく見積もっても13億4,486万ドルに及ぶ。
税関・国境警備局(Aduanas y Protección Fronteriza:CBP)によると2020年10月から2021年8月の過去11ヶ月で「拘留、除名、強制退去させられた(エクアドル)移民(Detained Expelled or Deported)」の数が過去最大の89,644人だった。これは彼らが「発見」「出会ってきた」人々の総量であり、米国への秘密裏な入国を成功させた人々、カリブ海ルートであるバハマ経由で入国した者、米国国境まで辿り着けなかった人間の数は含まない。
1800migrante.comによると、米国へのイレギュラーな旅行の場合、1人につき最低でも15,000ドルが必要で、1年弱で89,644人が逮捕されていることを思うと、89,644人の移民 × 一人当たり15,000ドルの合計13億4,486万ドルが動いたこととなる。これらの金はコヨーテ(Coyote)と呼ばれる密入国斡旋業者やポン引き業者などに支払われる。越境には15,000ドルもの大金が必要となるから、このビジネスには土地や動産を担保とした貸金業者なども介在してくることとなる。国際的な移民の密輸は数百万ドル規模とされ、エクアドルやメキシコの複数のカルテルや組織的な犯罪グループが関与し、管理している。またビジネスにはコヨーテはそのテリトリーを急速に拡大していった。メキシコから「エル・ノルテ(El Norte、合衆国のこと)」への不法移民は古くからあったが、1970年代後半になるとメキシコを経由し南米からコカインが密輸されるようになり、それに携わる麻薬マフィアやカルテルがサイドビジネスとして密入国事業に介入するようになる。このビジネスの真相を紐解くことは難しい。それは単に犯罪組織が加担しているのみならず、そのネットワークの末端にはネポティズム(nepotism)と呼ばれる縁故主義が介在してくるからだ。借金をして無事入国できたものも、米国に渡れれば安泰ということはなく、職を経て得られた賃金の多くは借金返済に充てられることとなる。なお、コヨーテ同士のネットワークもあり、特定地域を特定コヨーテが担当し、それ以降は別のコヨーテが手引きするなどと言ったことも起きている。
エクアドルからアメリカへの非正規ルートの旅は、高額なる支払い以外にも、メキシコの砂漠を通過する際に大きなリスクを伴う。麻薬カルテルの抗争に巻き込まれルコとは珍しくないし、消息がわからなくなったり、折角送り出した家族と何らかの形で関係が切れてしまうこともあるからだ。それでもエル・ノルテを目指すのはやはり経済的な魅力によるものだとされている。
アメリカ・テキサス州の砂漠でフアン・パブロ・コンデマイタ・グアヤン(Juan Pablo Condemaita Guayan)が失踪している。アンバト州(cantón Ambato)キサピンチャ教区(parroquia Quisapincha)に住むトゥングラワ族出身の30歳だ。国際的な人身売買ネットワークを通じて親戚のいるニューヨークを目指していた。教区では工芸品を作っていたが厳しい経済状況に負け、顧客を失い、わずかに残った資金で年老いた両親とともに生きていくことは難しいと感じていた。エクアドルを出て3ヶ月も経っているのに、彼がどこにいるのかわからない。6月7日に米国へ入国できたものの、拘束されてメキシコに送還された。その翌日にもう一度米国を目指すと言っていたが、その日から所在がわからない。フアン・パブロ・コンデマイタは、2021年に入ってから19人目(同団体の独自の統計に基づく)の行方不明者だ。
9月1日EL COMERCIO紙はここ数時間出来事としてエクアドル人非正規移民3名の死亡を告げた。ハスミン・レマ(Jazmín Lema)はクエンカ出身の21歳、教師になることを夢見ていた。大学受験の準備をしていたが経済危機の影響で国を離れることになった。3歳の娘と一緒だった。それはコヨーテが子供を連れて旅をすれば入国しやすいと言った事による。コヨーテは砂漠ではなく道を歩いて国境越えをすることになると伝えるも、実際には娘や移民のグループと一緒に、長時間、猛暑の中、砂漠を歩くこととなった。熱中症の影響なのか、突然ハスミンは気を失った。案内人の男が彼女を見捨てたから彼女は一人で死んでった。アズアイ州ポウテ出身の24歳カルロス・カルデロン(Carlos Calderón)は3日間歩き続けた。途中アメリカの地では牛のいる池の水を飲んだ。疲れ果てたかればチョコレートを食べるも、そこから気分が悪くなり気絶し痙攣し、国境の州であるテキサス州のカリゾ・スプリング砂漠で亡くなった。ここでも同行していた人身売買業者は彼を見捨てた。ビセンテ・ラバンダ(Vicente Lavanda)はメキシコとアメリカを隔てるリオ・グランデ川に落ち8月18日以来行方不明になっていた。他の移民と一緒にブイで運ばれていたものの、そのブイがひっくり返り、急流の中に投げ出された。遺体捜査により彼は見つかった。家には4歳と7歳の未成年者が残された。
被害者の家族は彼らの遺体の返還を求めている。その金額はカルロスの場合で約1万5千米ドル必要だ。カルロスの家族は16,000米ドルの借金を銀行からし、彼を送り出した。密入国計画は彼らの借金返済を膨らませたのみならず、大切な家族をも失わせた。国境での死亡者や失踪者の数は日に日に増え、1月1日から8月27日の間に35人の死亡者と35人の行方不明者が出ている。つまり上述の3名のような状況が他の35家族でも起きている。
2018年11月29日、当時のメキシコ大統領エンリケ・ペーニャ・ニエト(Enrique Peña Nieto)政権は2019年からエクアドル人がビザなしでメキシコに入国できるようにした。その結果、より安価でアクセスしやすい「メキシコルート」の利用が密入国で取られるようになった。その結果としてエクアドル人が組織的な犯罪ネットワークに捕らえられ、麻薬密売や強制失踪などの状況下で、誘拐、拷問、恐喝、殺人、レイプなどの被害に遭うことが急増した。そう語るのは、1800migrante.comの共同設立者であるエクアドル人のウィリアム・ムリージョ(William Murillo)だ。
2021年9月4日から、32ヶ月ぶりにメキシコへの渡航にはビザが必要となる。これはメキシコに入ったまま、戻らない人間が続出した事による。ビザの発券規定はこの危険な旅をより高額なものとなる。この政策がエクアドルからの密入国を減らす手段となるかは、今後分析結果として現れてくることだろう。
ガエル・ガルシア・ベルナルのトランプの壁に関するブラックジョークはこちらから。
参考資料:
1. 焦点:高度化する米メキシコ密入国、リストバンドで越境者管理
2. Dos migrantes ecuatorianos fallecidos y otro desaparecido en la travesía a Estados Unidos
3. ‘Debían pagar los viáticos al coyote para que se hospede en hoteles confortables’, cuenta familiar de uno de los cinco migrantes desaparecidos en la ruta Bahamas-Estados Unidos
4. Viajeros a México, con la esperanza de obtener la visa
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