ペルー:政権発足3週間での混乱

カスティージョは8月17日、外務大臣エクトル・べハル(Héctor Béjar Rivera)の辞任を受理した。7月28日政府が発足してから3週間でのことだ。

Comunicado Presidencia de L… by Agencia Andina

 

今回の辞任は昨年2月に「ペルーでのテロは海軍が始めたもので、それは歴史的に証明されている。また、センデロ・ルミノソ(Sendero Luminoso)は、CIAや諜報機関の仕事をしていることが多い」と言及しており、それが8月15日にテレビ番組「パノラマ」を通じて公表されたことによる。この発言については議会野党だけでなく、海軍の情報局長からも批判の声が上がっていた。カスティージョは火曜日の午後、この発言により生じた危機を評価するためにエクトルを政府宮殿に召集した。この発言は2020年11月24日、左翼団体「Emancipador Peru Group」とのバーチャル会議を通じ、同月行われたマヌエル・メリノ(Manuel Merino)政権に対する抗議活動への弾圧に関連して発言したものである。会議での発言では右翼過激派グループが行ったフアン・ベラスコ・アルバラド(Juan Velasco Alvarado)将軍(1968-1975年)とフランシスコ・モラレス・ベルムデス(Francisco Morales Bermúdez)将軍(1975-1980年)の政権への作戦、特にキューバ政府の利益に対するテロ行為を取り上げていた。

 

ウィキリークス(Wikileaks)によって暴かれた米国大使館の秘密文書によると、極右のテロ行為は少なくとも1974年には開始されており、1975年1月1日にフアン・ベラスコ将軍下で、陸軍大臣兼海軍総司令官に就任する直前のギジェルモ・ファウラ・ガイグ(Guillermo Faura Gaig)提督の邸宅の外で爆弾が爆発した。1977年7月22日にもキューバ船「リオ・ジョバボ(Río Jobabó )」がカジャオ港(puerto del Callao

)で爆発物し、同年10月9日にもキューバ船「リオ・ダムジ(Río Damují)」が襲撃された。ウィキリークスによって公開された米国務省向けハリー・W・シュロードマン(Harry W. Shlaudeman)の報告には「(リオ・ダムジ船の)爆発の原因を示す証拠はないが、(リオ・ジョバボ船の)沈没事件と同様に、海軍内の右翼組織の仕業である可能性がある」という内容が記されていた。これが事実であれば、この事件はペルー政府の内部および外部に影響を与える可能性があります」と記載されていた。シュロードマンは1977年当時にリマの米国大使だった。ちなみに同じ左翼団体は、CIAがセンデロ・ルミノソを組織したという説を今でも唱えているが、これについては真実と和解の委員会(Comisión de la Verdad y Reconciliación)の研究で誤りだと結論になっている。センデロ・ルミノソは、1965年と1967年に中華人民共和国で思想的・軍事的訓練を受けたアビマエル・グスマン・ライノソ( Abimael Guzmán Reinoso)が組織したものであると明らかになっている。

 

1980年から2000年にかけてテロとの戦い、現在はドラッグバレーとして知られるブラエム(VRAEM※)で部隊を展開し、ビクトル・キスペ・パロミノ(Víctor Quispe Palomino)の犯罪組織と戦っている海軍研究所(instituto naval)は、ベハルの発言を受け、声明で「これは、テロリストの犯罪と戦い、今も戦い続けている人々や、この残虐な行為の犠牲となった未亡人、孤児、遺族、そして200年の歴史を持つペルーを構成するすべての人々に対する侮辱である」し、「ペルー海軍は、国家鎮圧の歴史を歪めようとするこの種の声明を非難し、現行の法的枠組みの中でテロとの戦いを続けるという憲法上の使命を果たすことを再確認する」と述べた。

 

ベジャルは2020年発言の弁明として公務員ではない時に行ったものでだし、議会に召集されれば説明をすると述べるも、首相ギド・ベジド(Guido Bellido)はその発言に同意を示すことはなく、Twitterを通じ「閣僚理事会議長の立場から、軍隊に対する敬意と高い評価を再確認し、テロとの戦いと国家の平和のために彼らが行ってきた努力を認める」と宣言し、また「執行部のメンバーによるいくつかの発言を遺憾に思う」と述べた。また、ウォルター・アヤラ(Walter Ayala)国防大臣はベハル外相から「自身の言葉が文脈を無視して受け取られている」と言われたとしながらも、「私はペルー海軍を支持する」と政府の立場を明らかにし、外務大臣の表現には同意できないと述べた。

ちなみに外務省自体は「古い発言を編集し、文脈を無視したこの組織的なキャンペーンは、世論を混乱させ、外務大臣がペルー軍とペルー海軍を侮辱しているように見せかけることを目的としている。外務大臣は断固として否定している」と述べている。

 

CIA工作員が「革命政府」を妨害することを目的に軍の一部に潜入していただろうことについては、軍自体が過去非難している。また、ジャーナリストのアルフォンソ・バエラ(Alfonso Baella)も著書「El secuestro」(1975年)で、旧市民会館に海軍やアメリカ大使館と共同で運営していた盗聴ポストがあり、政府宮殿の固定電話を盗聴していたのではないかと言及している。ただ、それ以外の証拠は見つかっていない。

上述した真実と和解の委員会は1980年代の内戦を引き起こしたのはセンデロ・ルミノソに間違いはなく「この歴史的事実に疑問を持つことは許されない」し、その結論において、ペルー共産党―センデロ・ルミノソ(Partido Comunista del Perú-Sendero Luminoso:PCP-SL)がペルー国家に対して武装闘争を開始することを決定したことに原因があると考えると結論付けている。彼らの結論は、テロが始まった当初より左翼テロリストたちが「残虐な方法で行われた処刑、埋葬の禁止、都市での自動車爆弾の使用などの犯罪行為」を繰り返してきた事実、センデロ・ルミノソが「血の割当量を支払う(pagar la cuota de sangre)」(1982年)、「大量殺戮を誘発する(inducir genocidio)」(1985年)、「革命の勝利には100万人の死者が必要だ(el triunfo de la revolución costará un millón de muertos)」(1988年)などと宣言していた事による。

Perú Libreの党首バルディミル・セロン(Vladimir Cerrón)は自身のTwitterを通じベハルのような人間を外務大臣として見つけるのは難しいだろうことを語った。

 

外務省を誰が引き継ぐのかはわかっていない。マヌエル・ロドリゲス・クアドロス(Manuel Rodríguez Cuadros)の名前が取り沙汰されているものの、本人は否定している状態だ。

 

なお、ごたついているのはこの外務大臣の話だけではない。エネルギー・鉱山大臣イバン・メリノ(Iván Godofredo Merino Aguirre )がラフローレス地区のレストランで行ったとされるエボ・モラレス、ボリビアの国営石油団体Yacimientos Petrolíferos Fiscales Bolivianosの元社長オスカル・バリガとの密談(疑惑)について内容を議会で話すよう求められているし、カスティージョ自身も国家評議会を通じ答弁した。これはアルバ議長によって「国家の安定」について意思を表明するよう求められたことによる。当初より困難が予想されていた統領。重要な第1回目局面を政権発足から一ヶ月足らずで迎えている。今後どのように動くのか注視する必要もあるだろう。

Perú Libreもまた8月12日、国会のアルバ議長、及び3人の副議長の解任を求め多数派工作を開始している。セロンはまた、次期大統領選立候補への意欲を示した。

 

想像に難くなく、元外務省の発言に疑いがないものの、政権反対派のキャンペーンが辞任に追い込んだ形だ。

※アプリマック川、エネ川、マンタロ川の谷間、渓谷をEl Valle de los Ríos Apurímac, Ene y Mantaro、通称VRAEMと呼ぶ。土地柄政府の力やセキュリティが行き届かず、現在は麻薬生成の一台拠点となっている。大統領選挙前にはここで選挙に関連した虐殺事件が起きている。詳細はこちらから。

 

参考資料:

1. Vladimir Cerrón sobre Héctor Béjar: “Un canciller de su talla será difícil de encontrar”
2. Héctor Béjar genera crisis por declaraciones sobre origen del terrorismo en Perú
3. Transparencia considera “inaceptable” cuestionar la “verdad histórica” del terrorismo en Perú
4. Manuel Rodríguez Cuadros descarta que le hayan ofrecido ser ministro de Relaciones Exteriores
5. Presentan moción para que ministro de Energía y Minas informe sobre supuesta reunión con Evo Morales

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