ペルー大統領選2021:勝者はペドロ・カスティージョ

やっときた。この日がついにきた。誰よりも今日と言う日を待ち望んでいたのは、ペルーでえんぴつ党を支持していた国民、そして候補者ペドロ・カスティージョ(Pedro Castillo)自身だろう。6月6日に行われた決選投票も気づけばすで1ヵ月半ほど経過し、私自身も風化しそうになったほどだ。

全国選挙審査委員会(JNE)は7月19日ついにペドロ・カスティージョを大統領選の決選投票の勝者とし、2021年から2026年までのペルーの大統領とすることを宣言した。発表はFacebookを用いてペルー時間19日19時から生中継された。

 

ペドロ・カスティージョは19時の発表を受け、19時30分からAvenida 9 de Diciembre 301(旧Paseo Colón)にあるPerú Libreオフィスで勝利宣言を行っている。

 

ケイコ・フジモリ(Keiko Fujimori)やフエルサ・ポプラル(Fuerza Popular)による証拠無き選挙不正の主張は党派色の強いメディアやフェイクニュースに助けられ、特にカスティージョが圧倒的な支持を得ていた農村部で何万票もの票の再集計や破棄の可能性を検証する事態を引き起こした。これはペルーの不安定化と、国民の2極化を招いたのは、皆が知るところだろう。この間ケイコの大統領就任を望むモンテシノス(Vladimiro Montesinos)の陰謀も明るみになり、今はむしろ牢獄にいる彼とケイコとの関係、さらには今年の選挙での資金洗浄をも疑われるというしっぺ返しをくらっている。捜査担当は、ケイコの標的、彼女のマネーロンダリング事案を扱っているホセ・ドミンゴ・ペレス(José Domingo Pérez)検察官がアサインされるというプレゼントまで加わった。彼はケイコによる過去の不正選挙について30年10ヶ月の判決を要求している。検察官がこの新規事案を捜査することがきまったことを受けケイコはTwitterで「彼の執着心と名声を得るための熱心さはもう十分だ。彼の偏見が私が20年以上にわたって協力してきたこの捜査を歪めることのないよう、検察庁などに彼をこの新しい事件から除外するよう求める」と述べている。でもそれもそろそろ選挙結果が正式に発表されるだろうと本記事を準備していた7月6日のこと。2週間も経てば状況が変わっているらしいことは容易に想定できた。

間延びし過ぎて記憶が薄れてきたモンテシノスの今回の画策について今一度確認しておこう。今回の選挙戦でも彼は存在感を示した(詳細はこちらの記事参照)。旧態依然の選挙手法に従った彼が画策したことといえば選挙裁判所である全国選挙審査会(JNE)の判事の買収だった。これはケイコの敗北が見えてきたタイミングでのことであり、上述の証拠なき選挙不正を受け入れさせようとするものだった。この陰謀はいつもながらにブラディジャマーダ(Vladillamada、モンテシーノスの電話)を通じて明らかになっていて、この会話は彼が勾留されているカラオ海軍基地(Base Naval del Callao)内最高警備刑務所(CEREC)から行われた。3名(3台)の電話が少なくとも利用されたがその1台はルイス・トレス(Luis Torres Morales)のものだということがわかっている。彼自身は2020年6月にCOVID-19の犠牲者としてこの世をさったが、娘のクリス・トレス(Chris Torres)がモンテシノスの弁護士だった父親の電話を貸与していた。もう1台はミルワード・ザパナ・イバラ(Milward Zapana Ibarra)退役軍人のもの。彼はモケグア州イロの出身、最後は内務省情報局に所属していた。3台目の電話は現役軍人フランク・トレス・コルネホ(Franck Torres Cornejo)のもので、携帯電話のWhatsappのアカウント写真で裏付けが取れている。ブラディジャマーダを通じ、モンテシノスは退役軍人ペドロ・レハス(Pedro Rejas)以外にも、判事ルイス・カルロス・アルセ(Luis Carlos Arce)との仲介役となる予定だった弁護士ギジェルモ・センドン(Guillermo Sendón)と通話したこともわかっている。

なお6月10日の会話はこちらでも紹介した通りだが、22日に米国務省ネッド・プライス(Ned Price)報道官が「ペルーの選挙は公正で模範的なもの」だと述べる直前にも、モンテシノスは自らの考えこそが逆転勝利を掴むため唯一の手段であり、それを提案したにもかかわらずフジモリスタたちからレスがないと苛立ちを見せた。そして(選挙に負ければ)アルベルト・フジモリは刑務所から出れず、ケイコも議員としてのキャリアを終えるだろうと付け加えた。なお、彼が提案した方法とは買収に加え、CIAの力を用いた選挙工作も含まれていた。追加で公開された音声も以下の通り共有しておく。

なおJNEの判事を辞任したルイス・アルセは受動的贈収賄の疑いで、モンテシノス、レハス、センドンの3人は能動的贈収賄の容疑で捜査されている。

https://twitter.com/salvajedigital/status/1408453218158485506

なお、ケイコ陣営はあれほどモンテシーノスと距離をとっている、彼を嫌いと言っているにもかかわらず、彼女が大統領になるにはモンテシーノスの力が必要だったことは分析でわかっている。5月30日にアレキパで行われた大統領選討論会での演説内容もモンテシノスが「討論会のための戦略的サプライズ」と題した文書を起草したことがわかっているのだ。

 

 

 

カスティージョがJNEから大統領として当選したことを発表されたことについて書く予定だったが、モンテシノスについて書きすぎた。ドラマチックだから仕方ない、とは言えである。まず彼の歓喜の言葉を聞いてほしい。

 

7月28日の大統領就任式まで時間がない。それを見据えてカスティージョは自らが大統領になることを信じ着々と準備を行ってた。例えば、7月15日経済顧問であるペドロ・フランケ(Pedro Francke)、エルナンド・セバジョス(Hernando Cevallos)とともにリマにある在ペルー中国人民共和国のリャン・ユー(Liang Yu)大使を訪問した。目的はCOVID-19対策としてのワクチン確保だ。ペルーは世界中でも致死率が高いことで知られ、人民の命の保護はペルー経済の安定化と成長にとって重要なファクターだと考えていることにもよる。なおペドロ・フランケは経済相を務めるとみられている。その他政権入りが噂されているのは、メシアス・ゲバラ(Mesías Guevara)とヌエボ・ペルー(Nuevo Perú)のリーダーであるベロニカ・メンドーサ(Verónika Mendoza)だ。閣僚会議の議長として噂されているメシアス・ゲバラはそもそもそんな話はきていないとしながらも、現職であるカハマルカ州知事を全うしたいと言っており、ベロニカ・メンドーサもカスティージョとそんな話をしたことはないと言っている。一方テクニカルチームのヘルナンド・セバロス(Hernando Cevallos)が保健大臣になることは発表されている。要人が決まってないこともあり、元経済大臣のアロンソ・セグラ(Alonso Segura)など党派にとらわれない政治家や専門家は個別にカスティージョにアプローチしているという。

決選投票結果が正式に発表されるまでの間、カスティージョはクスコで開催された集会を通じ地方知事、30の市長、ペルー医師会、医療技術者大学の学長から次期大統領として認められている。これらは今後の運営で必要な支持だった。

 

6月15日の選挙管理委員であるONPEによる得票数の公式発表でカスティージョは44,058票の差をつけてケイコに勝利した。一方のフジモリズモは、カスティージョが多く票を獲得した投票所を無効にするよう、数百件の嘆願書を提出していた。JNEはそれを1ヶ月かけて処理し、7月12日には4人判事の審査と決議の発表を終えていた。フエルサ・ポプラルとその支持者たちが主張しているような、署名の偽造、投票所のメンバーのなりすまし、投票集計表を記入するための共謀はなく、すべての申し立ては、第一審、第二審で根拠のないものとして却下されていた。

それでも納得しないフジモリスモは7月14日午後暴徒化し、警察と衝突した。それらはジャーナリストに暴行を加え、フランシスコ・サガスティ現大統領の2人の大臣が所有する公用車に石を投げつけて破壊行為を繰り返した。この暴徒は、現職大統領が選挙の監査を要求していないことに対する不満が表れたものだ。彼らの理論でいうとサガスティがカスティージョに味方しているということらしい。

本日をもってカスティージョは正式にペルーの次期大統領としての行動を取ることとなる。今度こそ誰もが認めざるを得ない「勝利」であり、心底支持者が喜べる「勝利」となろう。政権交代まで時間がない。迅速なる移行とみんなが幸せに過ごせる社会形成に向けカスティージョに協力していくべきだろう。

カスティージョ、大統領当選おめでとうございます。支持者の皆さんもおめでとうございます。就任式は7月28日。

 

追伸
ケイコは「全国民や国際社会に約束した通り、選挙結果を受け入れる。法と憲法がそれを守るよう求めているからだ。」と本結果を受け入れるコメントを出した。ただし今後も抗議行動を続ける意向を示唆している。

 

参考資料:

1. Vladillamadas: Montesinos utilizó celulares de policías para comunicarse desde la Base Naval
2. Fiscalía abre nueva investigación preliminar a Keiko Fujimori por presunto lavado de activos
3. Operaciones “irregulares” del ‘Doc’ desde la Base Naval
4. Pedro Castillo se reunió con el embajador de la República Popular China en el Perú
5. Pedro Castillo teje una red de apoyos para gobernar Perú en un escenario adverso
6. La elección de Pedro Castillo en Perú: de la fragmentación a la polarización, ¿o quizás una reforma centrista?

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