ペルー大統領選2021:モンテシノスによる買収工作が明るみに

ペルーにおける大統領選挙の最終報告がなされていない中、ケイコ・フジモリサイドからドロっとした膿が出てきた。残念ながら想定内な出来事だ。

元法務大臣のフェルナンド・オリベラ(Luis Fernando Olivera Vega )は木曜日の午後、収監中のウラジミロ・モンテシノス(Vladimiro Lenin Ilich Montesinos Torres)が全国選挙新議員会(JNE)の審査員を買収する計画だったことを明かした。モンテシノスと退役軍人のペドロ・レハス(Pedro Rejas Tataje)の会話、ペドロ・レハスと弁護士のギジェルモ・センドン(Guillermo Sendon Guerra)との会話が証拠として公表された。内容はいたって明確で、Fuerza Popularが求めたPerú Libre候補の票を無効にする訴えに対して有利な判決を下すよう金を使って依頼しろと言うものだった。

 

当初ケイコがカスティージョの得票数を上回っていたものの、雲行きが怪しく、9日夜に開票率が100%となった時点ではペドロ・カスティージョの得票率がケイコのそれよりも約6.6万票ほど上回っていた。正当法で対処しても負けそうな時にどうしたら良いのか、のモンテシノス流の解がこの視聴覚資料からは見て取れる。(選挙結果の推移はこちらを参照)

大々的に発表されているわけではないから気づいている人は少ないかもしれないが、全国選挙審査委員会(JNE)は投票に関する異議申し立て期限を6月9日から延ばしていた。それゆえ9日以降も何かにつけてケイコ陣営は、票の不確かさを訴え続けてきた。実際の金の授受に関しては現時点では詳細情報は出てきてないから不明だが、少なからず権力者からの依頼は決選投票の結果開示に影響を与えていると考えられる。(ここでも9日以降クレームを受け付けていることに触れていたが、理由がわかってすっきりした気分。)と言うのも、JNE新議員の一人ルイス・アルセ(Luis Carlos Arce Córdova)はFuerza Popularに寄っていて審議会による当選者決定を遅らせてきたとも過去批判されている。なおルイス・アルセは6月24日、審議員資格停止となり新たにビクトル・ロドリゲス(Víctor Raúl Rodríguez Monteza)がアサインされている。

 

今回公開された資料を時間とともに追っていこう。

6月10日 5時49分 p.m.
電話会談:モンテシノスとペドロ・レハス
モンテシノスはJNEの裁判官3名と関係を持つギジェルモ・センドンの連絡先を伝え、JNE3名の買収を提案。依頼にあたってはセンドンの力が必要。

 

6月10日 5時53分 p.m.
電話会談:ペドロ・レハスとセンドン
センドンへの対面でのミーティングを依頼。場所はラ・モリーナ(La Molina)のオヴォロ・デ・ラ・フォンタナ(Óvalo de la Fontana)。

 

6月10日 7時 p.m.
対面でのミーティング:ペドロ・レハスとセンドン
今からセンドンへ何ができるかを相談。センドンによる助言は以下の通り。
Fuerza Popularが実施した802の投票所の無効化申請は時期を逸している。そのような方法ではなく票自体がデタラメだったことを主張、それを認めさせる必要があるとした。ルイス・アルセと会話した限りにおいては、ケイコが起こした訴訟に対し判事に有利に動いてもらうには一人につき1パロ※必要で、会長以外の3名票との交換となる。なお、これはカスティージョが圧倒的な支持を得た地域の約20万票を無効にすることを目的とする。

※音声に「300万ドル(Tres millones de dólares)」と言っているが、1パロ300万ドルなのか、3人で300万ドルなのかの解釈は報道によって異なる。teleSUR(英語版)には一人300万ドルとの記載あり。EL PAISは100万ドル。

 

6月23日 4時30分 p.m.
電話会談:モンテシノスとペドロ・レハス
再度会談。なぜなら、23日にアルセがJNE判事を辞することを発表したこと、さらにFuerza Popularが審議申し立てをしている10件の審査が23日に行われる予定だったからだ。全ての審議が終わればなすすべがない。頼れるのはセンドンしかいないと、再度彼と会話することを提案。

 

6月25日 11:41 a.m.
センドンはオリベラからの暴露を受け、木曜の夜自身のFacebookを通じレハスとの接触はあったものの、そもそも相手が本気だったかすら疑問だと持論を述べた。なぜなら「既に金の用意はできている」などといった緊迫したコメントがリハスからなかったことによる。また、アルセは本会談には無関係だとした。

 

カジャオ海軍基地内にある最重要犯罪者を収監するために刑務所に収監されている人間は、家族や弁護士とのみしか会話が許されていない。それなのにモンテシノスがかつての部下、ペドロ・レハスと通話できていることにも問題がある。この手の会話を公の場でするとも考えづらい。そのことを思うと刑務所スタッフの関与や固定電話の利用についても入念に確認しなくてはならないとしている。最高セキュリティ刑務所センター(Centro de Reclusión de Máxima Seguridad:CEREC)はモンテシノスは6月10日と23日に電話番号も含めて正式に身元を確認した上パートナーに電話をかける許可を与えたと明らかにした。

海軍と国立刑務所研究所に発表された海軍基地の出来事については以下の通り。

 

ケイコの直接の指示でペドロ・レハスたちがこのような行動をとったのか、それとも忖度したのかは現時点でわかっていない。でも彼女を支持している人たちが、彼女の為にもやった事は確かだ。このようなことが繰り返されているから、フジモリズモへの共感有無は置いておいても、彼女による謝罪も素直に聞き入れることはできないし、いまいち各発言に説得力を感じない。人権の尊重を含む民主主義のルールを守れない人々が、選挙公約を守ることができるのだろうか、とまで思ってしまうほどだ。

候補者が打ち出していた民主主義、国民の意思を大切にはどこに行ってしまったのか。でも非難されるべきはFuerza Popularだけでない。公平であるべきJNEの判事もまたこのようなスキャンダルに関与していることだって相当の問題だ。さらに、汚職体質にある社会もまた非難・改善されるべきことである。今回のスキャンダルはFuerza Popularに関するものであるが、Perú Libreは、決してこのようなことをしないよう今一度身を引き締めるべきだろう。このような他国の事象を通じて、我々日本のあり方を疑ってみることだって必要なのかもしれない。

 

JNEの本会議は5人のメンバーで構成されている。メンバーは最高検察庁、共和国最高裁判所の本会議場、リマの弁護士協会、私立大学法学部と公立大学法学部から各々1名ずつが選ばれる。ペルー最高裁判所の判事であるホルヘ・ルイス・サラス・アレナス(Jorge Luis Salas Arenas)判事が議長を務め、公共省庁官ルイス・アルセ、国立大学José Faustino Sánchez Carriónの法学部長ホビアン・サンヒネス、私立Inca Garcilaso de la Vega大学学部長ホルヘ・ロドリゲス・ペレスが具体的な名前だ。(6月23日時点)

なお、このスキャンダルを受け、Fuerza Popularの選挙スポークスマンであるミゲル・トレスは敵によって企てられた偽装工作だとし、これを否定し、一方のJNEのホルヘ・サラス会長は、フェルナンド・オリベラが公開した録音について入念に調査を行うよう司法長官室に公式文書を送付している。混迷に混迷を極めているペルーの次期大統領は一体どちらになるのだろうか。大統領就任式はペルー独立200周年となる7月28日を予定している。

 

Appendix的にはなるがモンテシノスについても簡単に述べておこう。彼によるこの手の工作は実は初めてではない。2000年、アルベルト・フジモリ(Alberto Kenya Fujimori Inomoto)が三選を果たした際にも、モンテシノスはPerú Posibleのアルベルト・クーリ(Alberto Kouri)を買収した。それはペルー国家情報局(Servicio de Inteligencia Nacional:SIN)長官だった時にモンテシノス自らが作成したVladivideo が明るみになったことで公に知られることとなる。このビデオ・コレクションにはモンテシノスが政治家や権力を持つ民間企業のリーダー、マスメディアや地方自治体などに賄賂を送っているところが記録されていて、彼が所有するビーチハウスに隠されていた。2000年の下院議員への買収では、15,000ドルを渡しているところが映っている。この事件をきっかけにパパ・フジモリ政権は終焉を迎えた。

 

モンテシノスの汚職についてはこちらも参照に。

 

次から次へと湧いてくるよなモンテシノスの陰謀とお金については、下記記事も参照のこと。いつかまとめようとも思うけど、何よりも企てたものが多すぎて、思うように行くはずもない。
Las cuentas en el extranjero – Montesinos y los millones pendientes

 

参考資料:

1. Presidente del JNE resuelve suspender al fiscal supremo Luis Arce para convocar a accesitario
2. Un vídeo muestra cómo el ‘número dos’ de Fujimori compra a un diputado de la oposición
3. ‘Vladillamadas’: Las claves de las grabaciones y un recuento de lo ocurrido
4. Fujimori Clan’s Political Operator Plots Against Pedro Castillo
5. El regreso del gran conspirador de Perú: Vladimiro Montesinos urde un complot electoral contra Castillo

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